たんぽぽ:教訓的かなと思いました。男の子ふたりのシチュエーションを逆にして書いたら、おもしろいのではないかと思いました。

オカリナ:『れいぞうこのなつやすみ』を「ふざけている」と評する先生方は、こういう本ならいいとおっしゃるのでしょうか。「物質的に豊かなことが幸せではない」ということを、子どもに教えようとしている本ですよね。意図も見え見えだし、筋の先も見えていて、私は文学とはいえないと思いました。犬のピュンピュンは、ターザンごっこをするフライに抱えられたり、高い木の枝にのせられたりしても楽しんでいるとありますが、ぬいぐるみならともかく、生きた犬ならありえない。ビリーもいい子すぎて、フライみたいな嫌な子に会っても、最初から全面的に受け入れる。人生のある一面だけを強調してご都合主義的にお話をつくっているので、こういう作品を読んでも、子どもが将来豊かな人生を送れるようにはならないと思います。まるで道徳の教科書みたいです。

プルメリア:道徳的といえば道徳的ですが、道徳の教科書はもっとおもしろくないので、子どもたちにはこういう本を読んでほしいと思います。わがままで自己中心的な人が多い世の中でもあるので、この本を読んで人との出会いを感じてほしい。主人公をはじめとして、登場人物の名前がおもしろい。場面ごとに出てくる犬のしぐさもかわいいので、ほのぼのとした雰囲気を味わってもらいたいです。クラスにおいたら、男の子たちが読んでいました。子どもたちが大好きなお菓子の描写などは、わくわくしながら読み進めると思います。

ダンテス:何ごとも大げさに書いてあるということだと思います。ちょっと先が見えてしまいますね。楽しめたかどうかというと……極端に、大げさに書いて、教訓的なことも入れようとしたということでしょう。おとなは、先が見えてしまっておもしろくないけど、子どもはそんなことはないのかな。

三酉:道徳の教科書はもっとひどいと聞くと、そうなのかとも思いますが、翻訳までしなくてもいいのではないかと。何ともストレート過ぎる。もうひとひねり欲しいです。

ゆーご:『れいぞうこのなつやすみ』のあとに読んだので、おとなしめの挿絵に物足りなさを感じてしまって。描写のわりに、絵にお菓子が足りないかも。『チョコレート工場の秘密』(ロアルド・ダール/著 評論社)くらいのインパクトがあればいいのに。どこかで読んだことがありそうな話だけど、子どもは物につられやすいし、まして物があふれている時代だから、このような話は必要なんだと思います。

優李:大人の本読みにはつまらないと感じるのかもしれないですが、子どもはお菓子やロボットが大好きなので、そういうところにひかれると思います。ただ、ストーリーがあまりに類型的なので……。絵もクラシックをねらっているのかもしれないけど、あまり魅力的でないように思います。お金持ちの子どもも、あれでは、ちっともうらやましくない。もう少しかっこよく描いてほしかったです。

三酉:子どもは、お菓子の絵と、ストーリーを切り離して受け止めているのかな。

オカリナ:C.S.ルイスは「子どもの本の書き方三つ」(『オンリー・コネクト2所収 岩波書店』の中で、子どもが好きなものを持ち出せばいいというものではないと述べています。私も「お菓子を出せばいい」というもんじゃないと思うけど。

ジラフ:この本のおもしろさ、おもしろくなさ、ということもありますが、イギリスやヨーロッパにでかけると、若い人が、とてもつつましい生活をしているのを目の当たりにします。日本人がどれほど豊かで、ものにあふれた生活をしているかを、つくづく思い知らされます。その意味で、イギリスにはそうした価値観というか、伝統的に古いものを大事にすることを尊ぶ素地があるからこそ、逆に、こういうお話が書けるのかな、と思いました。ただ、この本そのものは、正直、それほど楽しめませんでしたけど。

メリーさん:物より友情の方が大切だという、よくあるストーリーで、物語自体に目新しさはありませんでした。彼らの名前の訳語も、「ナンデモモッテルさん」でおもしろいことはおもしろいのですが、もうひとひねりしてあったらいいのになと思いました。

タビラコ:子どもが好きで読むというのは、わかるような気がしますけれど、作者の意図は違うところにあるような気がしますね。結局、作者は何を書きたかったのかな? 私は、子どものうちはどんな本でも、ともかく大量に読んでほしいと思っているほうだけれど、その場その場のおもしろさだけで、口あたりのいいものばかり読んでいる子どもは、もうひとつレベルが上の本は読めなくなって、結局本嫌いになってしまうと、ずいぶん昔、ムーシカ文庫をやっていらした、いぬいとみこさんに聞いたことがあります。

シア:夏休みのせいか、いつもと違って図書館で手に入りにくかったのですが、読みやすい本でした。この本は外国のものでありながら、やけに親近感を持てるなと思ったら、やはり画家は日本人でした。イラストの芸がこまかいので、しかけ探しなどが楽しめるのではないかと思いました。ストーリーはいい意味でのマンネリで、子どもにはいいのではないでしょうか。作者は『チョコレート工場の秘密』が好きだったのかなと思うような展開です。わがままなフライにもずっと優しく接していたビリーが、飼い犬のピュンピュンを売ってほしいといわれたときに初めて怒るんですが、そういうふうに、いいことと悪いことをきちんと描いているところなどもいいと思います。わがままな子どもが多い中、我慢ということを教えるためにこういう本はオススメなのではないかと思いました。こちらが驚くほどのわかりやすさがないと、通じない子もいますので……。

オカリナ:どうやら教育関係の方たちはみんな、この作品を薦めたいと思われているようですね。

すあま:王子様、王女様が主人公の、こんな話がありましたよね。何不自由ない生活だけど、友だちがいないというような。それが、現代になって、お金持ちにおきかえられたというような物語。王子様であれば、食事が豪華なくらいでもぜいたくな感じが出るかもしれないけれど、この本のように今の世の中におきかえると、あまりに多くのものがごちゃごちゃ出てくるので、読んでいてくたびれてしまいました。これでもかこれでもか、という感じですが、情報量の多い映像に慣れている今の子には、これくらいじゃないとだめなのでしょうか。「なんでももってる」描写に疲れて、おもしろくなかったです。数の大きさで表現するとか、もう少し別の描き方にした方がわかりやすいのでは? 結末もあっけない感じで、もう少し続きがあってもよかったかなと思いました。

オカリナ:道徳の教科書のかわりにこの本を小学生に読ませても、お菓子のところだけに夢中になったり、この本に出てくる大金持ちと自分は違うと思ったりするんじゃないかな。そうだとすると、教育的な効果すら期待できないのでは?

タビラコ:お菓子やロボットの描写だけおぼえているんじゃないかしら?

(「子どもの本で言いたい放題」2010年9月の記録)