ハマグリ:まず発想がおもしろいですよね。子どもは小さいころ1冊の本を繰返し読んで、自分も主人公と一緒に物語の世界に入り込むということがあるけれど、それとは逆に本の中の主人公が、それを読んでくれた読者のその後を知りたいと思う、というところが斬新で、いいなと思います。桃さんの人生という枠の中に他の人の人生がからめてあるので、構成は複雑だけれど、おもしろく読めると思います。ただ、本の主人公が知りたがった読者のその後の姿に、少し違和感がありました。継母が、実子ではない子に対する気持ちや本当の親への微妙な対抗心など、大人でなければわからない感情が多々出てくるんですね。子どもの読者にとって、どうなんでしょう? わからないことはないけど、おもしろくはないのでは? よく知られた絵本が出てくるし、物語の設定も子どもには入りやすいのに、気持ちの描写のところは急に大人っぽくなる。そんなに大人になったところまでたどらなくても、もう少し子ども時代に近い、中学生くらいの将来の姿のほうが子どもにはおもしろいと思います。山本容子さんの絵もよかったので、それが残念。

コーネリア:子どもの本なんですが、主人公がおばさんというのがユニーク。設定が面白いですね。本の続きを読むのではなく、本を読んでいた読者の続きが知りたい、というちょっとひねった発想はとてもいいのですが、物語があまりおもしろくない。はじめの方は、設定がおもしろいので、どうなるのかなあと読み進められますが、設定が発展しなくて、後半はパターンにはめようとしているゆえに、物語がおもしろくなくなっているきらいがあると思いました。家庭環境については、大人目線ではないかという意見がありましたが、子どもは意外とわかるんじゃないかと思いますう。でも、それがおもしろいかどうかは、疑問を感じるところ。山本容子さんの絵は、すてきでしたが、この絵も、大人好みなのかしら?

プルメリア:物語の主人公が出てくるのがおもしろいと思いました。主人公たちが会いたがった子どもが成長してからの大人の生活や大人の女性の感情は、子どもにはわかりにくいでしょうが、子どもはドロドロした大人の世界を取り入れたドラマも好きなので、本やテレビを通して、子どもがそういう感情も学んでいくのでは? 各章の冒頭にある手紙が、だんだんと明るい文章になっていくのがいいです。主人公桃さんの挿絵も最後になるにつれて明るい表情になっていく。登場してくる主人公に重ねて子どものときに読んだ本を思い出しました。

サンザシ:私も発想はおもしろいなと思ました。はだかの王様やオオカミや幽霊が本から出て来てうろうろしてるところを想像すると笑っちゃいますよね。ただ、主人公が読んでくれた人を探すという要素と、その後のいろいろな家庭の問題が、ややちぐはぐになっている印象を受けました。主人公が読者だった子どもを捜す、という点に集中すれば、中学年向きのもっとおもしろい作品ができあがったような気がするんだけどな。

あかざ:みなさんがおっしゃるように、本の登場人物が読者を探したいと思うというアイデアは、とてもおもしろいと思いました。私も子どものとき、本を閉じているときは、本の中の人たちは何をしているのだろうと真剣に考えていました。本を閉じているときは別の物語が進行していて、開いたときに初めて、よく知っている物語がまた始まると思ってたわけね。そういう発想を逆転させたというところが、すばらしいと思いました。ただ、そういう子どもが喜びそうなアイデアで始まった話がたどりついた先は、大人の人間関係のごたごたやらなんやらで、子どもは退屈してしまうのでは? それに登場人物が探したい子どもがその本を読んだのは何年も何年も前だから、探しあてた、大人になった子どもたちの話は、アクションではなくて説明になっている。だから、よけいに退屈なんじゃないかしら。アイデアはおもしろいけれど、構成に大きな問題のある作品だと思います。小学生向けのようでもあるし、『食堂かたつむり』(小川糸著 ポプラ社)のように、癒されたい願望の大人が読む本のようでもある。どんな読者に向けて書いた本なのかしら? もしかして、子どもが本を読んだときからさほどたたない時点で、登場人物が読者探しを始めれば、もっと子どもたちにも楽しめる本になったのでは? きわめて個人的な感想ですけれど、本のなかからメタボのはだかの王さまが出てくるというの、感覚的にノーでした! なんで『はだかの王さま』なの?

ハマグリ:絵柄としておもしろいんじゃないですか?

みっけ:p49ページに、父がはだかの王様に見えて……という言葉があるから、とってつけたみたいだとしても、一応理由はあるんだと思いますけど。

ハマグリ:作者は、本の中の主人公のことを書きたかったというより、大人の後日談を書きたかったのではないでしょうか。

コーネリア:どちらも書きたかったのでは?

みっけ:発想がいいという皆さんの意見には大賛成です。すごくおもしろい。それに、はだかの王様やオオカミが出てきてと、ちょっとはちゃめちゃな予感がしてわくわくしたんだけれど、それが尻すぼみになってる。発想の勢いそのままにぐいぐいと話を転がしていけばよかったんじゃないかと思います。それが、実は大人になってから振り返るとこうなっていて、みたいなことを後半で説明してしまう。理に落ちるというか、2時間ドラマの最後の断崖絶壁場面みたいな説明になっていて、がっかりでした。もっとユーモラスなお話にできたはずなのに、なんかウェットなんですよね。子どもってこんなにウェットじゃないですよ。それがとってもいや。やっぱりみなさんがおっしゃるみたいに、最初は子どもに寄り添っていた目線が、後半で大人目線になってしまっているんでしょうね。

コーネリア:そういうアイデアをもう少しいかすと、もっとよかったですね。

サンザシ:これはYAではないんですよね? YAなら、はだかの王様じゃなくて、もっと違う本が取り上げられるんでしょうね。

みっけ:最初のお話だったと思うんだけれど、王様が探している子どもだけでなく、お母さんも出てきたりして、ちゃんとつじつまを合わせてある。それに、最後のお話では図書館員の桃さんの息子まで出てくるじゃないですか。全体がウェットなものだから、そういう工夫もわざとらしく感じられてしまいました。

チェーホフ:愛にあふれた作品だと思います。『牡丹さんの不思議な毎日』(あかね書房)など今までの作品の中では、牡丹さんという大人ではなく「牡丹さんの子ども」の視点で描かれていたりしましたが、本作は大人の視点で描かれていて、新しい試みだと感じました。全体としてはよかった。とても面白かったです。

メリーさん:物語の登場人物のキャラクターと、現実のキャラクターがとてもよく描かれているなと思いました。本の世界と現実の世界をうまくリンクさせていて、おもしろく読みました。人が本を選ぶように、本も人を選ぶ……本との出会いは、人と人との出会いに似ているなと改めて感じました。物語が進むにつれて、桃さんも次第に元気になっていく。それが各章の冒頭の手紙に現れていて、だんだん長くなっていくという設定もいいなと思いました。ただ、これを子どもが読んでわかるかというと、この本も人を選ぶのではないかと思います。本がある程度好きな大人である自分がこれを読むと、本との出会いの不思議さ、大切さがよくわかります。けれど、子どもはどこまで共感できるのか。個人的には「本の話が出てくる」本は大好きですが、子どもたちに読書の楽しみを伝えるには、「本がいいよ」と本の中で言うのではなく、物語そのもののおもしろさで伝えるのがいいのではないかと思いました。

優李:本の主人公が「読んでくれた人を探す」というのは、ミステリー仕立てでおもしろいと思いました。本が好きな高学年の女子何人かに「モニター」になってもらっての感想は、「表紙の絵がいい」「色も楽しそう」「ロボのキャラクターが好き」「桃さんがもう少し若くてお姉さんでもよかった」「最後の章のところは、わかりづらかった」などなど。絵本や物語を題材にした設定なので、中学年の子にも広げていけるものになっていればもっとよかったなあ、と残念です。

コーネリア:文字の大きさは小さい?

優李:文字の大きさは、ものすごく小さくなければ、みなあまり気にしませんが、3,4年生以降に習う字については全部「ルビ」がほしいですね。高学年でも本がそんなに得意じゃない子にとっては「ルビなし漢字の本」は苦手ですし、高学年向きのよい本も「ルビあり」なら中学年以下の児童にも薦められます。

うさこ:本や図書館が大好きな人だからこそ、この発想がでてきたのかなというのが第一印象です。桃さんや出てくる大人がどことなく不器用なところがとてもよかったな。現実は、子どもだけでなく、大人も迷いながら生きていてうまくいかないことが多い。子どもの読者にそういうところはちゃんと伝わったのではないかと思います。絵本の主人公が捜している子たちがみな、家庭に事情があったという設定だけど、その「事情」がもう少しバラエティに富んでいてもよかったのかなと思いました。山本容子さんの表紙、挿し絵は悪くないけど、読者の子どもにどれだけ受け入れられるのでしょうか。

優李:本好きの6年女子は「かわいい」と言ってました。

あかざ:子どもって、小さい物がたくさん描かれてる絵が好きですよね。

(「子どもの本で言いたい放題」2011年1月の記録)