イギリスの絵物語。フィリパ・ピアスが最後に残した原稿に、共通の孫をもつヘレン・クレイグ(ピアスの娘のサリーと、クレイグの息子のベンはパートナーで、間にナットとウィルという二人の息子がいます)が絵をつけました。本ができあがる前にピアスは亡くなってしまったのですが、文章にも、クレイグの絵にも、ピアスが愛した風景や人々がたくさん登場しています。
イギリスに行ったとき、近くのルーシー・ボストンの家までは訪ねていった(この時はもうボストンは亡くなっていて、息子のピーターさんとその妻ダイアンさんにお目にかかりました)のに、ピアスをお訪ねすることはしませんでした。ファンというだけでお訪ねするのはいかがなものか、と変な遠慮が働いてしまったのです。もともと私は、作家にサインをもらったり一緒に写真を撮ったりするのも苦手なほうです。
本書は、表紙の左下に出ている少年ティルが、行方不明になった犬(表紙のまん中に出ていますね)を、右下の不思議なおじいさんの助けを借り、野原の家に住む二人のおばあさんたち(ピアスとクレイグがモデルのようです)にも手伝ってもらって捜すというストーリーです。今はやりの、展開が早く刺激の多い作品とは違いますが、味わいの深い作品になっています。ピアスは、人間の心理をとてもじょうずに、しかもユーモアとあた たかさをこめて書く作家で、私が大好きな作家の一人です。編集者としてもかかわらせてもらいましたが、今度は翻訳者としてかかわったことになります。
(編集:上村令さん 装丁:森枝雄司さん)