ケンタウロスのポロス

ピウミーニ著 ケンタウロスのポロス
『ケンタウロスのポロス』
原題:FOLO, IL CENTAURO by Roberto Piumini, 2015
ロベルト・ピウミーニ/作 長野徹/訳 佐竹美保/絵
岩波書店
2018.05

<版元語録>舞台は古代ギリシア。若いケンタウロスのポロスは英雄ヘラクレスに出会い、英知を得るための旅に出た。ヘラクレスやアマゾン族に育てられた少女イリーネらの助けをかりて、ポロスは試練をつぎつぎに乗り越えるが、そのころ故郷では悪がはびこりつつあり……。イタリアの言葉の魔術師、ピウミーニによる「行きて帰りし物語」。

しじみ71個分:残念ながら手に入らず、途中まで図書館で読んで終わってしまいました。しかし、最初を読んだだけでも本当に格調高い翻訳で、お話自体もとてもおもしろくて、途中までになってしまったのは残念でした。これも、挿絵がついていますが、絵が気になることはまったくなく、逆に引き込まれるようでした。お話は素直に頭に入って来て読めました。

花散里:登場人物が多かったので、最初は「おもな登場人物」の紹介を何度も開いては確認していたのですが、読んでいったら気にならずどんどん読み進めました。小学校の図書館で「ギリシャ神話の本はありますか?」とよく聞かれたのですが、その「ギリシャ神話」が好きな子どもたちにこの本を薦めたかったです。善人と悪人がわかってしまうのはそれほど気になりませんでした。空想上の生き物ケンタウロス、神様と人間、半神半人と登場人物が不思議な話で、図書館に入れたら、特に男の子たちがおもしろがって読むんじゃないかなと思いました。

アカシア:私もとてもおもしろかった。男の子が旅に出て様々な研鑽を積んで、賢くなって帰ってくる、という定型ではあるけど、物語としてよくできていると思いました。ギリシア神話をある程度知っていると、ゼウスとかアルテミスとかヘラクレスなどなじみの神様が出てくるのに加えて、オリジナルなキャラクターが出てくる、そのバランスがおもしろい。欧米の子どもたちだと、そんな楽しみ方もあると思います。日本の、ギリシア神話を知らない子どもたちは、カタカナ名前が多すぎると思うかもしれないけどね。冒頭がケンタウロスの走っている場面で、最後も、違うシチュエーションではあるけど、やっぱりケンタウロスが走っている場面。そういうところも、おもしろいなと思いました。佐竹さんの絵もとてもいいですね。最後のところは、異類婚姻譚ですよね。上橋さんの『孤笛のかなた』(理論社/新潮文庫)を外国に紹介しようとしたとき、「西洋の人は、人間が非人間になることを選択するという結末は受け入れられないんじゃないか」と言われたんです。でも、これも、人間がケンタウロスになる道を選んでるじゃないですか。女の子が勇気をもってそういう道を選択するのも、『孤笛のかなた』と同じですね。

カピバラ:神話に出てくる神々は、荒くれ者だったり、怪力だったりと単純な性格づけで表されるけれど、ポロスは粗野で熱しやすく冷めやすいというケンタウロスのなかにあって、思慮深く深みのある人物像として描かれているところにまず惹きつけられます。数々の試練にあいながらどうやって生き延びるか、このポロスにぴったりくっついて先が知りたいという思いでページをめくりました。佐竹さんの絵もとても合っていて、大自然の中にケンタウロスを小さく描いているのがいいと思いました。「行きて帰りし物語」と書いてありますが、一昔前に多かった児童文学のように懐かしい感じもあり、久しぶりに読み始めたら止まらない読書ができました。

マリンゴ:すごくおもしろかったです。1つ1つの章がびっくりするほど短いのだけれど、それがとてもよくまとまっていて、次の話が魅力的に展開するので、小学校の“朝読”などにも向いているのではないでしょうか。わたしは、ときどきギリシャ神話をもう1度ちゃんと勉強しなきゃ、っていう病気にかかることがあるんですけど(笑)、この本はギリシャ神話を一味違う切り口から紹介してくれていて、勉強ではなく楽しく読めます。絵は、まるで原書に添えられているイラストのように、世界観に合っていますね。あと、地図があってよかった! キリキアからドドナってこんなに距離があるのか!とか、細い海峡ってこんな感じなのかとか、地図のおかげでよくわかりました。

西山:文体がおもしろいと思いました。例えば、以前ここでも読んだ『チポロ』(菅野雪虫著 講談社)はアイヌの神話はあくまでも素材で、ファンタジーを読んだという感触を得ます。けれども、これは、創作作品なのに神話を読んだという感触でした。ヘラクレスとか、「荒くれ」ぶりといい、そしてそのとんでもない展開が「・・・・・・した」「・・・・・・した」とぐいぐい進むのが、近代の小説的でない。あまり描写をしないせいでしょうか。ていねいに文体を分析したらおもしろそうだと思いました。

ネズミ:とてもよかったです。きびきびとした緊張感のある語りに惹きつけられました。ヘラクレスが襲ってきた男たちをいきなり殺してしまう場面など、ぎょっとしながら、どんどん先が読みたくなりました。ちょっと前に読んだのに内容をぜんぜん覚えていない本がときどきありますが、この本は途中でしばらく休んでも、前の内容をわすれていなくて、物語の力の強さを感じました。金の羊毛とかアマゾンとかをきっかけに、ギリシャ神話も読みたくなります。佐竹さんの絵はすばらしかったです。波乱万丈の物語のなかには、この辺でおもしろいことを出して読者を惹きつけようとばかりに山場が次々と用意されている作品がありますが、この物語は変化にもお話の必然が感じられて説得力がありました。

レジーナ:神話の登場人物を使いながら、それに負けない壮大な物語をつくりあげています。物語に勢いがあり、格調高い訳文です。神々もケンタウロスも人間くさくておもしろいですね。佐竹さんの絵は、楽しんで描いてるのが伝わってきました。賢者マウレテスのどことなくユーモラスな感じ、ポロスとネポスの戦いが、盾に映っているかのように丸く切りとられているのとか、魅力的な挿絵です。最後の場面は、ゼウスの視点で俯瞰しているかのように描かれています。このアングルで描こうと思ったのがすごいです!

さららん:よく知られているヘラクレスと、あまり知られていないポロスを最初に登場させるあたりに、作家の選択の巧みさを感じました。おなじみの神の名やふるまいで読者を惹きつけ、一方でポロスを主人公にさせたからこそ、自由にお話をつむげる。1つずつのエピソードで読者をはらはらさせながら大団円に向かっていく、お話創りが見事でした。一方で「神は、ひさしぶりに地上に降りる口実を見つけたことに満足していた」(p193)「ゼウスはこれまで、こんなに楽しい思いをしたことがなかった」(p195)という細かい表現を通して、ゼウスのいたずら心も十二分に伝わってくる。短い文章に、脇役としてのゼウス像もしっかり立ちあがってきます。ピウミーニを、無駄のない、ひきしまった翻訳で読むことができてよかったです。

すあま:ケンタウロスを主人公にしたというのがおもしろいと思います。ポロスが本当にギリシャ神話に登場するとわかり、もう一度読んでみようかと思いました。ポロスはケンタウロスというなじみのない存在ですが、馬扱いをされたり、様々な苦難を乗り越えていくところが共感を得られると思います。でも、「古事記」同様、やはり登場人物の名前が難しいですね。子ども時代の読書では、神話,伝説を好んで読む時期があるということなので、うまく手渡せるとよいと思います。挿絵については、一時期ファンタジーと言えば佐竹美保さん、という感じでしたが、この本ではまったく違うイメージで描かれ、しかも作品にとてもよく合っているのがすごいと思いました。ケンタウロスを大きく描いていないのも、読み手の想像を邪魔しないのでよいと思います。

さららん:裏表紙に、子ども時代のケンタウロスのポロスがいるのがかわいい。

須藤:これは佐竹さんによれば、ポロスとイリーネの子どものつもりだそうです。最後の場面の絵もすごい。ドローンで撮影しているみたいだと思いました。

西山:わあって女のケンタウロスの方に向かって行くところですよね。所詮ギリシャ神話って、女好きの神々の狼藉だらけだったよなとか思って、なんか笑ってしまいました。

アカシア:いかにもケンタウロスらしいし、あえて女の方を描いてないのもいいですね。

さららん:この左のほうのにじみは、ゼウスにも見えるけれど…。

カピバラ:あ、ほんと。顔のように見えますね。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アンヌ(メール参加):ケンタウロスは思慮深い生き物だと思い込んでいたので、少しびっくりしました。悪役が少々卑小で、あまりスケールが大きい話ではないのが残念でした。

エーデルワイス(メール参加):ケンタウロスのポロスを主人公にした物語で、嫌みなくすっきりとおもしろく読めました。最後にイリーナと結ばれるところに好感が持てました。『絵物語 古事記』にも出てきますが、大事な時に心と体を清める「みそぎ」は古代から西洋東洋共通なのが興味深いですね。佐竹美保さんの挿絵は、とても合っていました。

(2018年10月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)

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ケンタウロスのポロス

しじみ71個分:残念ながら手に入らず、途中まで図書館で読んで終わってしまいました。しかし、最初を読んだだけでも本当に格調高い翻訳で、お話自体もとてもおもしろくて、途中までになってしまったのは残念でした。これも、挿絵がついていますが、絵が気になることはまったくなく、逆に引き込まれるようでした。お話は素直に頭に入って来て読めました。

花散里:登場人物が多かったので、最初は「おもな登場人物」の紹介を何度も開いては確認していたのですが、読んでいったら気にならずどんどん読み進めました。小学校の図書館で「ギリシャ神話の本はありますか?」とよく聞かれたのですが、その「ギリシャ神話」が好きな子どもたちにこの本を薦めたかったです。善人と悪人がわかってしまうのはそれほど気になりませんでした。空想上の生き物ケンタウロス、神様と人間、半神半人と登場人物が不思議な話で、図書館に入れたら、特に男の子たちがおもしろがって読むんじゃないかなと思いました。

アカシア:私もとてもおもしろかった。男の子が旅に出て様々な研鑽を積んで、賢くなって帰ってくる、という定型ではあるけど、物語としてよくできていると思いました。ギリシア神話をある程度知っていると、ゼウスとかアルテミスとかヘラクレスなどなじみの神様が出てくるのに加えて、オリジナルなキャラクターが出てくる、そのバランスがおもしろい。欧米の子どもたちだと、そんな楽しみ方もあると思います。日本の、ギリシア神話を知らない子どもたちは、カタカナ名前が多すぎると思うかもしれないけどね。冒頭がケンタウロスの走っている場面で、最後も、違うシチュエーションではあるけど、やっぱりケンタウロスが走っている場面。そういうところも、おもしろいなと思いました。佐竹さんの絵もとてもいいですね。最後のところは、異類婚姻譚ですよね。上橋さんの『孤笛のかなた』(理論社/新潮文庫)を外国に紹介しようとしたとき、「西洋の人は、人間が非人間になることを選択するという結末は受け入れられないんじゃないか」と言われたんです。でも、これも、人間がケンタウロスになる道を選んでるじゃないですか。女の子が勇気をもってそういう道を選択するのも、『孤笛のかなた』と同じですね。

カピバラ:神話に出てくる神々は、荒くれ者だったり、怪力だったりと単純な性格づけで表されるけれど、ポロスは粗野で熱しやすく冷めやすいというケンタウロスのなかにあって、思慮深く深みのある人物像として描かれているところにまず惹きつけられます。数々の試練にあいながらどうやって生き延びるか、このポロスにぴったりくっついて先が知りたいという思いでページをめくりました。佐竹さんの絵もとても合っていて、大自然の中にケンタウロスを小さく描いているのがいいと思いました。「行きて帰りし物語」と書いてありますが、一昔前に多かった児童文学のように懐かしい感じもあり、久しぶりに読み始めたら止まらない読書ができました。

マリンゴ:すごくおもしろかったです。1つ1つの章がびっくりするほど短いのだけれど、それがとてもよくまとまっていて、次の話が魅力的に展開するので、小学校の“朝読”などにも向いているのではないでしょうか。わたしは、ときどきギリシャ神話をもう1度ちゃんと勉強しなきゃ、っていう病気にかかることがあるんですけど(笑)、この本はギリシャ神話を一味違う切り口から紹介してくれていて、勉強ではなく楽しく読めます。絵は、まるで原書に添えられているイラストのように、世界観に合っていますね。あと、地図があってよかった! キリキアからドドナってこんなに距離があるのか!とか、細い海峡ってこんな感じなのかとか、地図のおかげでよくわかりました。

西山:文体がおもしろいと思いました。例えば、以前ここでも読んだ『チポロ』(菅野雪虫著 講談社)はアイヌの神話はあくまでも素材で、ファンタジーを読んだという感触を得ます。けれども、これは、創作作品なのに神話を読んだという感触でした。ヘラクレスとか、「荒くれ」ぶりといい、そしてそのとんでもない展開が「・・・・・・した」「・・・・・・した」とぐいぐい進むのが、近代の小説的でない。あまり描写をしないせいでしょうか。ていねいに文体を分析したらおもしろそうだと思いました。

ネズミ:とてもよかったです。きびきびとした緊張感のある語りに惹きつけられました。ヘラクレスが襲ってきた男たちをいきなり殺してしまう場面など、ぎょっとしながら、どんどん先が読みたくなりました。ちょっと前に読んだのに内容をぜんぜん覚えていない本がときどきありますが、この本は途中でしばらく休んでも、前の内容をわすれていなくて、物語の力の強さを感じました。金の羊毛とかアマゾンとかをきっかけに、ギリシャ神話も読みたくなります。佐竹さんの絵はすばらしかったです。波乱万丈の物語のなかには、この辺でおもしろいことを出して読者を惹きつけようとばかりに山場が次々と用意されている作品がありますが、この物語は変化にもお話の必然が感じられて説得力がありました。

レジーナ:神話の登場人物を使いながら、それに負けない壮大な物語をつくりあげています。物語に勢いがあり、格調高い訳文です。神々もケンタウロスも人間くさくておもしろいですね。佐竹さんの絵は、楽しんで描いてるのが伝わってきました。賢者マウレテスのどことなくユーモラスな感じ、ポロスとネポスの戦いが、盾に映っているかのように丸く切りとられているのとか、魅力的な挿絵です。最後の場面は、ゼウスの視点で俯瞰しているかのように描かれています。このアングルで描こうと思ったのがすごいです!

さららん:よく知られているヘラクレスと、あまり知られていないポロスを最初に登場させるあたりに、作家の選択の巧みさを感じました。おなじみの神の名やふるまいで読者を惹きつけ、一方でポロスを主人公にさせたからこそ、自由にお話をつむげる。1つずつのエピソードで読者をはらはらさせながら大団円に向かっていく、お話創りが見事でした。一方で「神は、ひさしぶりに地上に降りる口実を見つけたことに満足していた」(p193)「ゼウスはこれまで、こんなに楽しい思いをしたことがなかった」(p195)という細かい表現を通して、ゼウスのいたずら心も十二分に伝わってくる。短い文章に、脇役としてのゼウス像もしっかり立ちあがってきます。ピウミーニを、無駄のない、ひきしまった翻訳で読むことができてよかったです。

すあま:ケンタウロスを主人公にしたというのがおもしろいと思います。ポロスが本当にギリシャ神話に登場するとわかり、もう一度読んでみようかと思いました。ポロスはケンタウロスというなじみのない存在ですが、馬扱いをされたり、様々な苦難を乗り越えていくところが共感を得られると思います。でも、「古事記」同様、やはり登場人物の名前が難しいですね。子ども時代の読書では、神話,伝説を好んで読む時期があるということなので、うまく手渡せるとよいと思います。挿絵については、一時期ファンタジーと言えば佐竹美保さん、という感じでしたが、この本ではまったく違うイメージで描かれ、しかも作品にとてもよく合っているのがすごいと思いました。ケンタウロスを大きく描いていないのも、読み手の想像を邪魔しないのでよいと思います。

さららん:裏表紙に、子ども時代のケンタウロスのポロスがいるのがかわいい。

須藤:これは佐竹さんによれば、ポロスとイリーネの子どものつもりだそうです。最後の場面の絵もすごい。ドローンで撮影しているみたいだと思いました。

西山:わあって女のケンタウロスの方に向かって行くところですよね。所詮ギリシャ神話って、女好きの神々の狼藉だらけだったよなとか思って、なんか笑ってしまいました。

アカシア:いかにもケンタウロスらしいし、あえて女の方を描いてないのもいいですね。

さららん:この左のほうのにじみは、ゼウスにも見えるけれど…。

カピバラ:あ、ほんと。顔のように見えますね。

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アンヌ(メール参加):ケンタウロスは思慮深い生き物だと思い込んでいたので、少しびっくりしました。悪役が少々卑小で、あまりスケールが大きい話ではないのが残念でした。

エーデルワイス(メール参加):ケンタウロスのポロスを主人公にした物語で、嫌みなくすっきりとおもしろく読めました。最後にイリーナと結ばれるところに好感が持てました。『絵物語 古事記』にも出てきますが、大事な時に心と体を清める「みそぎ」は古代から西洋東洋共通なのが興味深いですね。佐竹美保さんの挿絵は、とても合っていました。

(2018年10月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)

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ケンタウロスのポロス

ピウミーニ著 ケンタウロスのポロス
『ケンタウロスのポロス』
原題:FOLO, IL CENTAURO by Roberto Piumini, 2015
ロベルト・ピウミーニ/作 長野徹/訳 佐竹美保/絵
岩波書店
2018.05

しじみ71個分:残念ながら手に入らず、途中まで図書館で読んで終わってしまいました。しかし、最初を読んだだけでも本当に格調高い翻訳で、お話自体もとてもおもしろくて、途中までになってしまったのは残念でした。これも、挿絵がついていますが、絵が気になることはまったくなく、逆に引き込まれるようでした。お話は素直に頭に入って来て読めました。

花散里:登場人物が多かったので、最初は「おもな登場人物」の紹介を何度も開いては確認していたのですが、読んでいったら気にならずどんどん読み進めました。小学校の図書館で「ギリシャ神話の本はありますか?」とよく聞かれたのですが、その「ギリシャ神話」が好きな子どもたちにこの本を薦めたかったです。善人と悪人がわかってしまうのはそれほど気になりませんでした。空想上の生き物ケンタウロス、神様と人間、半神半人と登場人物が不思議な話で、図書館に入れたら、特に男の子たちがおもしろがって読むんじゃないかなと思いました。

アカシア:私もとてもおもしろかった。男の子が旅に出て様々な研鑽を積んで、賢くなって帰ってくる、という定型ではあるけど、物語としてよくできていると思いました。ギリシア神話をある程度知っていると、ゼウスとかアルテミスとかヘラクレスなどなじみの神様が出てくるのに加えて、オリジナルなキャラクターが出てくる、そのバランスがおもしろい。欧米の子どもたちだと、そんな楽しみ方もあると思います。日本の、ギリシア神話を知らない子どもたちは、カタカナ名前が多すぎると思うかもしれないけどね。冒頭がケンタウロスの走っている場面で、最後も、違うシチュエーションではあるけど、やっぱりケンタウロスが走っている場面。そういうところも、おもしろいなと思いました。佐竹さんの絵もとてもいいですね。最後のところは、異類婚姻譚ですよね。上橋さんの『孤笛のかなた』(理論社/新潮文庫)を外国に紹介しようとしたとき、「西洋の人は、人間が非人間になることを選択するという結末は受け入れられないんじゃないか」と言われたんです。でも、これも、人間がケンタウロスになる道を選んでるじゃないですか。女の子が勇気をもってそういう道を選択するのも、『孤笛のかなた』と同じですね。

カピバラ:神話に出てくる神々は、荒くれ者だったり、怪力だったりと単純な性格づけで表されるけれど、ポロスは粗野で熱しやすく冷めやすいというケンタウロスのなかにあって、思慮深く深みのある人物像として描かれているところにまず惹きつけられます。数々の試練にあいながらどうやって生き延びるか、このポロスにぴったりくっついて先が知りたいという思いでページをめくりました。佐竹さんの絵もとても合っていて、大自然の中にケンタウロスを小さく描いているのがいいと思いました。「行きて帰りし物語」と書いてありますが、一昔前に多かった児童文学のように懐かしい感じもあり、久しぶりに読み始めたら止まらない読書ができました。

マリンゴ:すごくおもしろかったです。1つ1つの章がびっくりするほど短いのだけれど、それがとてもよくまとまっていて、次の話が魅力的に展開するので、小学校の“朝読”などにも向いているのではないでしょうか。わたしは、ときどきギリシャ神話をもう1度ちゃんと勉強しなきゃ、っていう病気にかかることがあるんですけど(笑)、この本はギリシャ神話を一味違う切り口から紹介してくれていて、勉強ではなく楽しく読めます。絵は、まるで原書に添えられているイラストのように、世界観に合っていますね。あと、地図があってよかった! キリキアからドドナってこんなに距離があるのか!とか、細い海峡ってこんな感じなのかとか、地図のおかげでよくわかりました。

西山:文体がおもしろいと思いました。例えば、以前ここでも読んだ『チポロ』(菅野雪虫著 講談社)はアイヌの神話はあくまでも素材で、ファンタジーを読んだという感触を得ます。けれども、これは、創作作品なのに神話を読んだという感触でした。ヘラクレスとか、「荒くれ」ぶりといい、そしてそのとんでもない展開が「・・・・・・した」「・・・・・・した」とぐいぐい進むのが、近代の小説的でない。あまり描写をしないせいでしょうか。ていねいに文体を分析したらおもしろそうだと思いました。

ネズミ:とてもよかったです。きびきびとした緊張感のある語りに惹きつけられました。ヘラクレスが襲ってきた男たちをいきなり殺してしまう場面など、ぎょっとしながら、どんどん先が読みたくなりました。ちょっと前に読んだのに内容をぜんぜん覚えていない本がときどきありますが、この本は途中でしばらく休んでも、前の内容をわすれていなくて、物語の力の強さを感じました。金の羊毛とかアマゾンとかをきっかけに、ギリシャ神話も読みたくなります。佐竹さんの絵はすばらしかったです。波乱万丈の物語のなかには、この辺でおもしろいことを出して読者を惹きつけようとばかりに山場が次々と用意されている作品がありますが、この物語は変化にもお話の必然が感じられて説得力がありました。

レジーナ:神話の登場人物を使いながら、それに負けない壮大な物語をつくりあげています。物語に勢いがあり、格調高い訳文です。神々もケンタウロスも人間くさくておもしろいですね。佐竹さんの絵は、楽しんで描いてるのが伝わってきました。賢者マウレテスのどことなくユーモラスな感じ、ポロスとネポスの戦いが、盾に映っているかのように丸く切りとられているのとか、魅力的な挿絵です。最後の場面は、ゼウスの視点で俯瞰しているかのように描かれています。このアングルで描こうと思ったのがすごいです!

さららん:よく知られているヘラクレスと、あまり知られていないポロスを最初に登場させるあたりに、作家の選択の巧みさを感じました。おなじみの神の名やふるまいで読者を惹きつけ、一方でポロスを主人公にさせたからこそ、自由にお話をつむげる。1つずつのエピソードで読者をはらはらさせながら大団円に向かっていく、お話創りが見事でした。一方で「神は、ひさしぶりに地上に降りる口実を見つけたことに満足していた」(p193)「ゼウスはこれまで、こんなに楽しい思いをしたことがなかった」(p195)という細かい表現を通して、ゼウスのいたずら心も十二分に伝わってくる。短い文章に、脇役としてのゼウス像もしっかり立ちあがってきます。ピウミーニを、無駄のない、ひきしまった翻訳で読むことができてよかったです。

すあま:ケンタウロスを主人公にしたというのがおもしろいと思います。ポロスが本当にギリシャ神話に登場するとわかり、もう一度読んでみようかと思いました。ポロスはケンタウロスというなじみのない存在ですが、馬扱いをされたり、様々な苦難を乗り越えていくところが共感を得られると思います。でも、「古事記」同様、やはり登場人物の名前が難しいですね。子ども時代の読書では、神話,伝説を好んで読む時期があるということなので、うまく手渡せるとよいと思います。挿絵については、一時期ファンタジーと言えば佐竹美保さん、という感じでしたが、この本ではまったく違うイメージで描かれ、しかも作品にとてもよく合っているのがすごいと思いました。ケンタウロスを大きく描いていないのも、読み手の想像を邪魔しないのでよいと思います。

さららん:裏表紙に、子ども時代のケンタウロスのポロスがいるのがかわいい。

須藤:これは佐竹さんによれば、ポロスとイリーネの子どものつもりだそうです。最後の場面の絵もすごい。ドローンで撮影しているみたいだと思いました。

西山:わあって女のケンタウロスの方に向かって行くところですよね。所詮ギリシャ神話って、女好きの神々の狼藉だらけだったよなとか思って、なんか笑ってしまいました。

アカシア:いかにもケンタウロスらしいし、あえて女の方を描いてないのもいいですね。

さららん:この左のほうのにじみは、ゼウスにも見えるけれど…。

カピバラ:あ、ほんと。顔のように見えますね。

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アンヌ(メール参加):ケンタウロスは思慮深い生き物だと思い込んでいたので、少しびっくりしました。悪役が少々卑小で、あまりスケールが大きい話ではないのが残念でした。

エーデルワイス(メール参加):ケンタウロスのポロスを主人公にした物語で、嫌みなくすっきりとおもしろく読めました。最後にイリーナと結ばれるところに好感が持てました。『絵物語 古事記』にも出てきますが、大事な時に心と体を清める「みそぎ」は古代から西洋東洋共通なのが興味深いですね。佐竹美保さんの挿絵は、とても合っていました。

(2018年10月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)

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