『おわりの雪』をおすすめします。

夏なのに雪? といぶかしむ方もおいでかもしれません。そう、暑いさなかに冬の本を読むのは、なかなかいいのです。想像力のおかげで少しは涼しくなったりして。

主人公の少年の父親は病気で寝たきりになっており、一家三人は、その父親の年金を頼りにくらしています。母親は、夜になるといつもこっそり出かけていきます。少年も、養老院で老人たちの散歩の介助をして少しばかりのお金をもらっています。時には、子ネコや老犬を「始末してほしい」と頼まれることもあります。つまりこの少年はまだ長い年月を生きてはいないのに、もう死のすぐそばにいるのです。

孤独な少年には、ほしいものがひとつだけあります。それは、古道具屋で売っているトビ。自由に空を飛び回れる翼を持ったトビのそばに腰をおろして、少年は時間を過ごします。そして、想像の中でつくりあげた話を父親にして聞かせるのです。

これは明るい元気な物語ではなく、暗い静かな物語で、少年の周囲にも白い雪や冬枯れた風景が広がっています。父親が死を迎えるということはあるにせよ、外側で大きな事件が起こるわけではありません。でも、すぐれた描写によって、その瞬間その瞬間を「生きている」この繊細な少年の思いが、とてもリアルに読む者にも伝わってくるのです。そういう力をもった文章、そして翻訳です。

著者のユベール・マンガレリは、おとなの本と子どもの本のボーダーにあるような作品を書いているフランスの作家です。

(「トーハン週報」Monthly YA 2013年8月12日号掲載)