木の葉:読み応えがありました。2人の逃亡を助けてくれるのは善人ばかりではないし、現代の考え方だと肯定できない人もいることにリアリティを感じました。黒人差別を扱った読み物では、主体的で向上心のある人物像が描かれることも多いですが、この本の主人公はそうではなく、境遇ゆえに、とくに最初の頃は無知で無力。いつまでも奴隷主をだんな様と言い続けるのが切なかったです。彼らを助けるさまざまな人の中では、川の男が心に残りました。とても苛烈ですが魅力的です。このところ日本でも多く翻訳されている黒人の苦難の物語を、アメリカの白人の子どもたちはどんな風に読むのか興味があります。というのは、日本の読者にとって、黒人差別の問題はホロコースト同様、ある意味では良心の呵責なく読むことができるからです。日本人がもっと取り組まねばならない日本の問題がある、ということでもあるのですが。それから、逃亡先としてのカナダという国について、もっと知りたくなりました。

ハル:それがもっとも悲しい部分なのかもしれませんが、主人公の少年が逃亡すること自体に消極的だったためか、劣悪な環境に私の気持ちが引っ張られすぎたからか、期待したほどハラハラドキドキはできませんでした。小説としてのおもしろさは、私にとっては満点じゃなかったです。木の葉さんもおっしゃっていましたが、白人の子や、いまの子たちが、どう読むのかなというのは、私も気になりました。

ルパン:私はとてもおもしろかったです。はじめ、サミュエルが、白人の所有者から逃げ出す意味が全然わかっていないところにイライラして、「ちゃんと言うこときいて!」とか「つべこべ言わずにハリソンについて行け」とか「なんでこの子を連れてくんだ!?」とか思いながら読んでいたんですけど、最後の最後で機転をきかせて、一緒にいたおとなたちも助かっちゃうところでは、「よーし!よくやった!」と、思わずガッツポーズでした。あと、せつなかったのは、白人のドレスを何枚も盗んで重ね着して逃げていく黒人女性が、「川の男」に、それを脱いで置いて行けと言われるのに脱ぎたくなくて、最後は川に流されてしまうところです。死と引き換えてでもきれいなドレスを着ていたかったのかな、と思うと・・・この女性も記録に名前が残っているんですよね。実在の人物とあるだけに、このあとどうなったかと思うと心が痛みます。

ネズミ:物語として楽しんで読みました。きっとカナデイにたどり着くのだろうと思って読み進めたのですが、途中で思いがけない展開があって、ドキドキしながら先を読まずにいられませんでした。当時のさまざまな事情が物語にとりこまれていますが、その一方で、予備知識がなくても楽しめる作品になっていると思います。ハリソンの冗談めかした口調など、登場人物の言葉づかいがていねいに訳され、物語としての豊かさを感じました。

花散里:表紙画から感じる重たい暗い印象が、読んでいてもずっと続いているような気がしました。顔を傷つけられたり、ろうそくの火に手をかざさせられたり、人としての尊厳を奪われ、まるで物や道具のように売り買いされ、家畜のようにこき使われた奴隷たちについて、現代の子どもたちはどのように読むのかと思いました。現在でも問題になっている黒人差別について、このような歴史的背景を知り、この本からも考えてもらえたらと思いました。川の男や、たくさんの服を着て香水をつけた女の人など、登場人物も印象的な人がいて、物語の厚みを感じましたが、「シゴーコーチョク」は子どもに意味がわかるのでしょうか。「あとがき」の字が小さくて大人に向けて書かれているのかと思いました。地下鉄道についてなどを知るためにも最後の地図は役立つと感じました。

カピバラ:タイトルから、きっと最後は光が見えるのだろうと予測できたのですが、それでもやはりハラハラどきどきの連続で、帯に書いてあるとおりまさに「一気読みの逃亡劇」でした。非常に過酷な状況が描かれていますが、主人公サミュエルの子どもらしい見方や考え方がときにほほえましく感じられるのに救われました。情景描写が細やかなので臨場感がありますが、すべてサミュエルの目を通して描かれているのが良かったと思います。たとえば、p165真ん中あたり、「頭の上には、大きな鉄製のランプが天井からさがっていた。思わず、黒いクモがあおむけになって、足の一本一本に白いロウソクをもっているところを思いうかべた」。情景がとてもよくわかると思います。
印象に残った描写が随所にありましたが、中でも、p113で川を渡してくれた男が語ったことです。「老人と旅をしたことがある」というんですね。8歳の時、年寄りの黒人と鎖でつながれて歩かされた。「その老人は、おれたちをつないでる鉄の鎖をもちあげて、その重さができるだけおれにかからないようにしてくれた」という部分です。ハリソンはぶっきら棒でサミュエルに優しい言葉などかけはしないけれど、この老人と同じ気持ちを持っていることを暗示していると感じられ、印象に残りました。だからこそ、ハリソンがおじいちゃんだと気づくところは感動しました。地下鉄道を扱った物語は今までもいくつか翻訳されており、私もそういったものを読んで初めてその歴史的事実を知りましたが、まだまだ数は少ないので、この本が翻訳されたことはとても良かったと思います。今またBlack Lives Matterで日本でも関心を寄せる人が増えてきたので、子どもたちにも知ってほしいと思います。一般文学では、奴隷制度を扱う場合にどうしても事実を知らせるという意味で残忍な描写を描くことが多いですが、児童文学は、奴隷制度に抵抗する活動として「地下鉄道」にかかわる人々の勇気や人間愛を描いて、過酷な運命や差別を乗り越える力を伝えようとすると思います。それが大人から子どもへのメッセージになっていると思います。

まめじか:サミュエルは物音に驚いて急に逃げだすような臆病な子で、絶対に川に入らないと言い張るなど、強情な面もあります。そんなふつうの、等身大の姿が描かれているのがよかったです。農場の狭い世界で育ち、トウモロコシ畑より先には行ったことのなかったサミュエルは、「わしらのもんはなにひとつない」「池という池、魚という魚はぜんぶ白人のもんだし、連中は、わしらのもってるもんはなんであれ取りつくそうとする」というハリソンのせりふに集約されるような状況で、自分の人生を取りもどすための旅に出ます。命がけの逃避行のあいだ、深い悲しみの中にあって現実と幻の境がつかなくなったテイラー夫人やグリーン・マードクなど、いろんな人に出会います。決して善意で動いているような人たちだけじゃないし、黒人谷で暮らす人々も、中には助けてくれる人もいれば、見捨てる人もいる。サミュエルは人に会うたびに、信用できるかを判断し、その過程で人を見る目が養われ、最後には知恵を働かせて危機を脱する。そこに説得力がありました。

ハリネズミ:アメリカの国内だとまだ奴隷所有者に雇われた追っ手に捕まる可能性があるので、別の国であるカナダに逃げるのですね。では、カナダが過去に人種差別のまったくない国だったかというと、そんなことはなくて、先住民に対する差別はずいぶんあったと聞いています。アメリカやカナダには、Black History Monthという黒人の歴史を学ぶための月があって、アフリカ系の人たちが連行されてきたことや、社会の中で果たしてきた役割を、学校などでも勉強するんですね(あとで調べたら、今はイギリス、アイルランド、オランダなどでも同様の月間があるようです)。そういう際には、このような本も使って、白人でもアジア系でもみんなアフリカ系の人たちのことを学び、多様な見方を身につけていくんですね。そしてそういうところから、たとえばローラ・インガルス・ワイルダー賞という名前も、白人の歴史しか見ていなかった作家の名前を冠しているのはまずいんじゃないかという意見が出てきて「児童文学遺産賞」に変わったりする。一方、社会を変えていくための様々な工夫が、日本ではとても少ないので、女性差別にしてもなかなか変わらないんじゃないかなと思います。この本で何を日本の子どもに伝えるか、という点で言うと、いちばんはカピバラさんもおっしゃっていたように、「地下鉄道」のことかと思います。実際に鉄道があったわけではなく奴隷を逃がすための人間のネットワークですが、この「地下鉄道」にかかわったいちばん有名な人はアフリカ系のハリエット・タブマンという女性で、「車掌」(案内人)になって、多くの奴隷の逃亡を手助けしました。タブマンは20ドル札の絵柄になることがオバマ政権で決まっていたのですが、トランプがストップさせ、今はまたバイデンが実行しようとしているようです。タブマンは黒人ですが、白人も先住民も逮捕覚悟でこの「地下鉄道」の担い手になっていたのです。中には金儲けになるからと考えた人もいるのでしょうが、それにしても見つかれば重罪になるわけですよね。そうした危険にもかかわらず、人間を人間として扱わないのはおかしいと考える人たちがいたことを知るのは、日本のこどもにとっても希望になると思います。斎藤さんの訳もいいし、ずっとこの子の視点から旅路を追っていくのがとてもいいと思いました。希望はなかなか見えてきませんが、「光」という言葉があるのでそれを頼りに読み進めることができると思います。

アンヌ:読み始めた時はサミュエルたちがカナダを目指しているとは気付かず、暗闇の中を行くような逃避行だと感じて読むのがつらく、何度か本を置きました。川の男に会って「自由黒人」という言葉を知り希望を持て、そこからは一気読みでした。黒人谷で病床のハリソンの枕元でベルが「沈黙は永遠の眠りを招く・・・だから、あたしは家のなかをたくさんの言葉で一杯にするの」と言う。このp235のベルの言葉は、言霊で命を結び付けようとするようで、好きな場面です。そして、そんな瀕死の時でもハリソンがサミュエルに祖父と名のらないほうがつらくなくていいと思い込んでいることに、とても悲しい思いがしました。読み終ってから地図があるのはよかったと思いました。表紙の絵は、原書では三日月と身をよじる少年の絵だったけれど、日本語版は満月と影絵で、なんとなく希望を感じられて、いい表紙だと思いました。

はこべ:最初は頼りない主人公が、逃避行をつづけるうちに成長していく様子と、史実に基づく重みが2本の柱になっている力強い物語で、一気に読んでしまいました。冒頭の、主の息子が主人公を残酷な目にあわせる場面にあるように、観念的ではなく、すべて細かい描写で綴っていく手法が効果的で、素晴らしいですね。特に、川の男。こういう人物を創り上げる作家はすごいと思ったら、実在の人物なんですね。主人公たちを救う活動に協力しながら、銃をつきつけて相対する未亡人も、実際にモデルがいたのではないかしら。克明な描写で登場人物の背景や心の内まで浮かびあがらせているのは、優れた翻訳の力があってこそだと思います。たしかに描かれている事実は暗いものだけれど、子どもの目で語られているので理解されないということはないし、暗いから、難しいからとためらわずに、ぜひ子どもたちに薦めていただきたい本だと思います。

コアラ:地下鉄道のことは、この本で初めて知りました。多くの人がサミュエルとハリソンを助けてくれますが、相手が本当に味方なのか、裏切られるんじゃないかという状況が、サミュエルの側に立って書かれています。ハリソンでさえ、途中で、訳のわからないうわごとみたいなことを言うんですよね。何を信じたらいいかわからない状況に放り込まれた感じで読みました。印象的だったのが、p169で、ハリソンが「紙に書いたものが嫌いだ」と言って、牧師が書いた自分たちの物語を破って捨てたこと。善意が相手に喜ばれるとは限らないことがよくわかったし、それほどハリソンがつらい思いをしてきたということが、読んでいてつらかったです。p266の4行目では「あのときのぼくはカナダのことを考えようとしていた」という文章が出てきます。あ、助かったんだな、助かった後でそのときのことを振り返った文章なんだな、と思いました。それで、そのあとの場面でつかまった時も、どんな風にこの絶体絶命の危機を乗り越えるんだろうと期待して読むことができました。「あのときのぼくは〜」のような文章は、けっこう大事だと思います。あと、花散里さんと同じように、私も「あとがき」の文字が小さいと思いました。地下鉄道という言葉は「あとがき」にしか出てこないんですよね。この文字の小ささだと、本文を読み終わった子どもが「あとがき」まで読むのかな、とちょっと残念でした。暗い感じの物語だけど、日本の子どもたちにも知ってほしいと思いました。

エーデルワイス:サミュエルが、賢い機転の利くような子ではなく、逃亡に引きずられるようについていくような、好奇心と少年らしい危うさがあり、そこが好きです。そして最後の最後でみんなを救うところが素敵。購入した本には「史実に基づいた・・・」とあるようですが、図書館の本には帯がないので、あとがきを読むまでそのことはわからない。地図は最後でよかったのか、最初にあった方がよかったのか、疑問に思いました。サミュエルが追い詰められる、不安な心境の表現に、p12に「ぼくはのどがつまるような気がした。まるで、大きなヘビがのどに巻きついたみたいだ」とありますが、この表現は度々出てくるので、いかに厳しい逃亡かわかります。ハリソンはサミュエルの母親の合図の毛糸玉を見て逃げることを決意するのですが、果てしない距離を、人から人へと繋いで運ばれてきたことを想像すると、すごいネットワークだと思います。またカナダまでの逃亡ルートがわかっていて底力みたいなものを感じました。

マリンゴ: 教育をあまり受けず、常に威圧されながら育った黒人の少年の、いつも怯えて追われているような、自由とは何かを考えたこともないような感じが、とてもよく伝わってきました。人に恵まれて、裏切られることがないので、逃亡劇としては順調だけれど、ハリソンが病気になったり、白人のパトロールが来たり、最後の最後、船に乗る前にクライマックスがあったり、山場が作られているので、ハラハラしながら一気に読めました。どうでもいいことをしゃべり倒している白人の行商人など、キャラクターがそれぞれ立っているので、物語がより魅力的に思えます。地図を見たい!と思ったら最後に用意してくれていたのもありがたいです。

しじみ21個分:大変に重厚で、読み応えがある作品でした。アメリカの作家が主にはアメリカの子に向けて自国の歴史について書いているのだろうと想像したのですが、今のブラック・ライブズ・マターを考える上で必ずアメリカ国民として知ってなければいけないことなのではないかと強く感じました。私は察しが悪くて、なんでハリソンが足手まといになるサミュエルを連れて逃げるのか、全然わからなかったのですが、あとで謎解きがあって、「あー!」と思いました。私も川の男の印象はとても強くて、ドレスにこだわって駄々をこねるヘイティの乗る舟を足で川にけり戻してしまうシビアさに、逃げる方も支援をする方も命懸けだったということを感じるとともに、彼がサミュエルに伝えた言葉が最後にサミュエルを鼓舞し、みんなを救ったという結末に結実してさらに印象深くなりました。逃避行の間、サミュエルとハリソンが暗い中でずっと息をひそめ、身を隠していなければならなかったつらさは想像を絶します。でも、逃げおおせて最後に「ヒャッホー」と終始気難しかったハリソンが歓声を上げて、青い空を見上げている場面には大きな解放感があり、とても読後感が気持ちよかったです。黒人奴隷の歴史の事実は、おそらくもっと陰惨で、家畜よりもかんたんに殺されていたのかもしれません。その過酷な事実を日本の子どもがどこまで感じ取れるかというのが肝だと思いましたが、歴史を知るということは非常に重要だと思います。あとは、これも察しが悪かったのですが、「カナデイ」が「カナダ」だとはじめはわからなかったし、レバノン川がどこなのかとずっと気になっていました。後半で突然、カナデイはカナダとして文章の中で通用し始めたところには少し違和感がありました。また、シゴーコーチョクというようにハリソンの喋りは、カタカナで傍点が、どういうなまりや言い間違いがあってこうなっているのか、元の英語がわからないので気になってモヤモヤしました。

さららん:自分が黒人の歴史をどのくらい理解し、自分のものとして捉えているかが、この本を読んで問われますね。BLMの報道を見るときの目が変わり、その意味でも読むべき1冊でした。主人公たちの状況はとても過酷です。命を失うことになっても、人間として生きてほしいとの思いから、老人ハリソンは大きな賭けに出たのですが、その怒ったような口調にも、サミュエルへの深い愛情を感じました。それは優れた訳だからこそですね。船を漕いで渡してくれた男は冷酷な一面を見せますが、同時にサミュエルにとても大事な教訓を与え、人間の複雑さを感じさせる魅力的な脇役でした。モデルがいたと聞いて、納得しました。最後に、サミュエルの機転を認めたカナダ国境の警察官の粋な計らいも忘れられません。

すあま:だれがいい人か悪い人かわからないため、最後まで読み終わらないと安心して眠れない、という感じでした。地下鉄道など、物語の背景についての知識があった上で読んだ方がいいのかな、と思ったけれど、逆にこの物語を読むことによって知ることができればそれでよいとも思いました。主人公が泣いてばかりでだめだったのが、次第に生き抜く力をつけ成長していくのがよかったです。お母さんについては、だんだんと何があったかわかってくるようになっていますが、だいぶ想像で補わなければならないので、もう少し明らかにしてほしかったと思います。最後は、後から回想する形であっさりした感じでした。ずっと重苦しいので、読むのはちょっとつらかったです。もう少しユーモアがあってもよかったかな。

サークルK:図書館に本が届いたのが当日だったため内容についての細かな個所はパスさせていただきますが、人種差別ということから、最近の映画で『ドリーム』(原題: Hidden Figures マーゴット・リー シェタリー/原作:邦訳『ドリーム〜NASAを支えた名もなき計算手たち』 山北めぐみ/訳 ハーパーコリンズ・ジャパン)というNASAで優秀な仕事をした黒人女性の実話を思い出しました。また、作中の「地下鉄道」という奴隷たちを逃すための秘密の手段についても、マーガレット・アトウッドの『侍女の物語』(斎藤英治/訳 ハヤカワepi文庫)の続編『誓願』(鴻巣友季子/訳 早川書房)に登場する「地下の逃亡路」を思い出し、『彼方の光』に描かれる実話が大人向けのフィクションにもつながっていくことを実感しました。これを児童図書として読む子どもたちの想像力を深く刺激して問題意識を持つきっかけになるのだろうな、とみなさんの感想を伺って思いました。

カピバラ:p180の「ボンネットをかぶると、つばが大きくて、目の前の小さな丸いすきま――大皿くらいの大きさだった――のほかにはなにも見えなかった」ですが、小さな丸い隙間なのに大皿ぐらいというのがよくわかりませんでした。

はこべ:顔の周囲をぐるっとおおうくらいつばが大きいボンネットだと、そういう状態になるんじゃないかな。

ハリネズミ:目の前が大皿の大きさくらいしかあいてないということなんじゃないかな。

カピバラ:「小さな」「すきま」だともっと小さいんじゃないかと思うのにどうして大皿?と思ったんです。

ハリネズミ:先日のイベントでは、翻訳者の斎藤さんが、この本での黒人の人たちの会話は、南部の黒人言葉でふつうの英語とは違うのでどう訳すか悩んだけれど、カナダをカナデイと言っているところだけはそのまま残したとおっしゃっていました。さっき、地図が前にあったらいいか後ろにあったらいいかという話が出ましたが、地図が前にあったらカナダまで行けるのがわかってしまうので、後ろでいいのだと思います。それから地下鉄道で逃げた人で、子連れというのはめずらしいようです。

ルパン:今、テレビ番組でアイヌを侮辱する発言があったということが問題になっていますが・・・「あ、イヌ」というダジャレを言った芸人だけでなく、番組を作るスタッフとか、テレビ局の人が誰もアイヌの歴史を知らなかったというところに問題を感じます。アイヌの人たちがそう言われて差別を受け続けてきたという事実を誰か1人でも知っている人はいなかったのかな、と。私は子どものときに『コタンの口笛』(石森延男/著 東都書房など)という本を読んでそのことを知りました。その時は意味がわかっていなかったけれど、ずいぶんあとに、大人になってから気がつきました。あの本を読んでいなかったら私もこういうことに鈍感になっていたかもしれない。児童書の役割って、そういうところにもあるのかな、と思います。ですから私はこの本は文庫の子どもたちに読んでもらいたいと思います。

ハリネズミ:『コタンの口笛』はよく読まれて映画にもなったと思いますが、批判もあります。今ならアイヌの人が書いた作品も読めるといいですね。BLMについては、アフリカ系の多くの作家が書いていますが、ピアソルは白人の作家です。だから白人の子どもたちにも読みやすいということも、もしかしたらあるのかもしれません。

エーデルワイス:逃亡中の食べ物の話はリアリティがあります。列車で逃亡したら、トイレにも行きたくなると思いますが、それは出てきませんね。大人の本だったらその辺も書くのでしょうか。私たち東北人は震災の時トイレで苦労したので。

(2021年03月のオンラインによる「子どもの本で言いたい放題」より)