『つかまえた』をおすすめします。

川でやっと大きな魚をつかまえた少年が、しばらくしてその魚が死にかけているのに気づき、今度はその魚を生かそうと奮闘する姿を描いた絵本。少年の心の動きや、少年と魚の命が呼応する様が生き生きと表現されている。

「手の中で ぬるぬる/にぎると ぐりぐり/いのちが あばれる」といった実感を伴う言葉と、ぐいぐい勢いよく描かれた絵とがあいまって、この少年と魚の命の輝きが伝わってくる。昔の子どもが日常の暮らしの中で体験したことを、今の子どもはすぐれた絵本でまず体験してみることも必要なのかもしれない。

生と死や命といったテーマを、抽象的な概念ではなく、子どもにも共感できる具体的なものとして提示しているのがすばらしい。

(産経新聞「産経児童出版文化賞:美術賞講評」2021年5月5日掲載)