月: 2014年8月

『ネルソン・マンデラ』の紹介記事

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『ネルソン・マンデラ』

が紹介されました。

やまねこ翻訳クラブの三好美香さんが、「月刊児童文学翻訳」No.157(2014年6月号)で『ネルソン・マンデラ』を紹介してくださいました。

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●注目の本(邦訳絵本)●人種の融和を成し遂げた南アフリカの父
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『ネルソン・マンデラ』 カディール・ネルソン文・絵/さくまゆみこ訳
鈴木出版 定価1,900円(本体) 2014.02 38ページ ISBN 978-4790252771
"Nelson Mandela" by Kadir Nelson
HarperCollins Children's Books, 2013
 南アフリカの黒人が入植者に奪われたものは土地と自由。本書は、すべての国民に
自由を取り戻す闘いを続けたネルソン・マンデラの伝記絵本だ。
 ネルソン・マンデラはクヌ村で幸せな子ども時代を過ごした。9歳で父が亡くなり、
預けられた遠方の親戚のもとで、黒人が背負ってきた悲しい歴史を知る。そして、不
当な扱いを受ける黒人を守るために、より一層勉学に励み弁護士となるも、法律だけ
ではかなわぬことから、アパルトヘイト撤廃の活動へ身を投じる。抗議デモや集会を
組織する彼を政府は逮捕した。獄中生活は長く厳しいものだった。しかし、政府は国
際世論の非難を受けてアパルトヘイト撤廃へと方針を変え、投獄から27年を経てよう
やく彼を釈放した。そして彼は、全人種選挙で大統領に選ばれた。
 不屈の精神で非凡な人生を送ったネルソン・マンデラを、作者は平易な言葉と力強
い絵で描き出す。人物や背景に、太い線と艶を消した色を使うことで、絵はより本質
に迫り、時代色まで描写する。私が特に心を引かれたのは、冒頭の場面だ。クヌ村の
丘陵を、逆光と影の黒色を用いて描き、幸せな子ども時代が長く続かないことを予感
させる。次のページでは、父の死を語る文章と、厳しい表情で見つめ合う母子の絵で、
身を切るほどの悲しみを表す。父から受け継いだ民族の誇りと、「ゆうきを出すんだ
よ」と別れを告げた母の言葉が、彼の原点だと感じた。類いまれなる統率力と高潔な
人格をもって信念を貫き、彼は、「アマンドラ(力を)」の合言葉で民衆の心を1つ
にまとめ、大統領に選ばれた。人種差別のない社会への幕開けだ。作者は晴れ渡る空
を背にした彼を描き、天にいる先祖も国民も世界も南アフリカを祝福したと語る。そ
の青天には、この日を待たずに命を落とした多くの仲間やその家族も、先祖として描
かれているように思えた。
 読み終えて、表紙いっぱいに描かれたネルソン・マンデラの肖像画に見入った。そ
の背後にある彼の歴史。そして彼の視線の先に広がる未来。見つめられている私たち
は彼にとっての未来だ。その瞳が読者に真っすぐに問いかけてくる。人間は平等だ、
君は、差別を許さない勇気を持っているかと。長く読み継がれてほしい作品だ。
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【文・絵】カディール・ネルソン(Kadir Nelson):米国サンディエゴ在住。ニュー
ヨークのプラット・インスティテュートで学ぶ。絵本作家として、またイラストレー
ターとして、幅広く活躍。邦訳に、『わたしには夢がある』(マーティン・ルーサー
・キング・ジュニア文/さくまゆみこ訳/光村教育図書)、『ヘンリー・ブラウンの
誕生日』(エレン・レヴァイン文/千葉茂樹訳/鈴木出版)などがある。
【訳】さくまゆみこ:1947年、東京生まれ。青山学院女子短期大学教授。文化出版局、
冨山房で児童書編集に携わり、現在、翻訳家として多くの作品を手掛ける。最近の訳
書に『やくそく』(ニコラ・デイビス文/ローラ・カーリン絵/BL出版)、『海の
ひかり』(モリー・バング&ペニー・チザム作/評論社)、『ひとりでおとまりした
よるに』(フィリパ・ピアス文/ヘレン・クレイグ絵/徳間書店)などがある。
【参考】
▼カディール・ネルソン公式ウェブサイト
http://www.kadirnelson.com/
▼さくまゆみこ公式ウェブサイト
http://members.jcom.home.ne.jp/baobab-star/
▽さくまゆみこ訳書・著作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/ysakuma.htm
▽さくまゆみこインタビュー(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ysakuma.htm
                                (三好美香)



『奇跡の子』熊本子どもの本研究会から

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『奇跡の子』

の紹介を載せてくださいました。

ディック・キング=スミス 著
さくまゆみこ訳
講談社
2001.07

「熊本子どもの本研究会」の菊島紘子さんが、会報No.372(2014年8月6日発行)に『奇跡の子』について書いてくださいました。
私は大好きな本ですが、今は絶版になっているようです。

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「kisekinokokumamoto.pdf」をダウンロード

 


エリザベス・レアード『戦場のオレンジ』

戦場のオレンジ

『戦場のオレンジ』をおすすめします。

いい作品を書いているのはわかるけれど、なぜか心の奥底まで響かない作家がいます。私にとってエリザベス・レアードはそんな作家の一人でした。きっと読者である私との相性の問題なのでしょう。

なので今回も、この作品を取り上げようと即決したわけではありませんでした。でも、迷っているとき、雨宮処凜さんの「若い女性に戦争の現実味を伝えるには、服が汚れる、おしゃれが出来なくなると説明するのがいちばん響く」という言葉が目にとびこんできました。

爆撃される、殺されるというのは、今やバーチャル世界の出来事となり、実感が持てないのだと思います。服が汚れるなんていうのは、日常世界でも体験することなので、逆にリアリティをもって迫ってくるのでしょう。

それならと、今回はこの本を取り上げることにしました。これを読めば、もう少しリアルなイメージが持てるようになるかもしれないと思ったからです。

本書の舞台は内戦下のベイルートで、敵と味方の間にグリーンラインと呼ばれる境界線が走っています。主人公は10歳のアイーシャ。父親は外国に出稼ぎに行き、母親は家に爆弾が落ちてから行方不明で、アイーシャを頭に3人の子どもがおばあさんと暮らしています。そのおばあさんが生きていくのに必要な薬を手に入れるため、アイーシャはグリーンラインを越えて敵の領域まで侵入し、お医者さんを訪ねます。

物語の中には、このお医者さんをはじめ、やわらかい心を持った人たちが登場してきます。でも、戦争という状況は、そのやわらかい心がのびやかに息づくのを許してはくれません。そのあたりのことがとてもよく書かれています。

(「トーハン週報」Monthly YA 2014年8月11日号掲載)