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おふろだいすき

松岡享子文 林明子絵『おふろだいすき』
『おふろだいすき』
松岡享子/作 林明子/絵
福音館書店
1982.04

『おふろだいすき』をおすすめします。

寒くなると、おふろがうれしいですね。しかも、このおふろには不思議がいっぱい。もわもわの湯気の中から、カメやらペンギンやらカバやら、なんとクジラまで出てきます。想像がふくらむ絵本です。最後におふろから上がって、お母さんが差し出すタオルにくるまれる男の子が、ほっかほかでなんとも幸せそう。

(朝日新聞「子どもの本棚」2016年11月26日掲載 *テーマ「ぬくもり」)


今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150!

『10代のためのYAブックガイド150!』
『今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150!』
金原瑞人&ひこ・田中/監修
ポプラ社
2015.11

『今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150!』

近頃の中高生はあまり本を読まないという。小学生は、読書推進ボランティアが読み聞かせをしたり、ブックトークをしたり、朝読なども盛んだったりするので、まだ読むのだが、中高生になるとほかに面白いことも、塾や部活など忙しいことも出てくるから、本なんか読んでらんないということらしい。

それに町の本屋さんに行っても、近頃は味のある本はあまり置いてない。まして児童書などは少しでもあればいいほうだ。私の近所でも、駅前の本屋さんがつぶれてしまった。というわけで、本は中高生の目になかなか触れなくなってもきている。この年齢だと、学校の先生がおすすめする本への猜疑心も強いだろう。だからこそ当コラムを役立ててもらうといいとは私も思っているのだが、たまには1冊ずつのおすすめじゃなくて、たくさんのおすすめの中から選びたいと思う生徒もいるだろう。

そこで、今回はこのブックガイド。中は (1)10代の「今」を感じる本 (2)社会を知る、未来を考える本 (3)見知らぬ世界を旅する本 (4)言葉をまるごと味わう本 (5)現実を見つめる本、と5つの章に分かれている。そして各章が、たとえば1章だったら、「学校のリアル」「部活へGO!」「自分って何者?」「友情、恋、冒険、青春!」なんていうふうにまた分類されているので、自分が気に入ったジャンルで本をさがしやすい。執筆者は、評論家、書店員、作家(森絵都、佐藤多佳子、那須田淳も書いている)、研究者、司書、編集者など25人。それぞれの人が気に入った作品について、おすすめのポイントを熱っぽく語っているのがうれしい。

ちょっと時間ができたけど、何を読んでいいかわからないな、という人たちは、ぜひこれをパラパラとめくってみてほしい。軽妙なエンタメから重厚な社会派までよりどりみどりだ。

(「トーハン週報」Monthly YA 2016年4月11日号掲載)


戦場

亀山亮『戦場』
『戦場』
亀山亮/著
晶文社
2015.01

『戦場』をおすすめします。

「戦場カメラマン」と呼ばれる人たちも、いろいろです。生と死の間をかいくぐる体験を積んでいるうちに刹那的になる人もいれば、逆に哲学的になる人もいます。その体験をくぐり抜けて自分のやりたいことを見つける人もいるし、その体験を売り物にしてバラエティ番組で稼ぐ人もいます。

本書は、そんな戦場カメラマンの一人であり、戦場で片目を失った著者が、「若い頭と心」で見聞きした戦場と、戦争にさらされた人たちを写真と文章で描いています。取り上げられているのは最初がパレスチナで、あとは主にアフリカの国々。恐怖やとまどい、迷いや悩みも書かれているので、若い読者たちも、身近なものとして読めるかもしれません。

多くの戦場カメラマンたちは、日本ののんびりした日常と、戦場の緊迫感の間でとまどい、どちらが本当の現実か考えたりいらだったりし始めます。そのあたりも、あえて整理せず迷うままに書かれているのがリアルです。それと同時にこの著者は、戦争は憎しみや差別が引き起こすものというより、経済・政治のシステムが引き起こすものではないかということに気づいています。たとえばこんな文章。「爆撃で人が死ねば死ぬほど莫大な利益を得てほくそ笑む人間たちが存在する。巨大な経済システムがうごめいて、知らないあいだに人々は殺す側と殺される側に隔てられていく」。

そう、戦争をとめようと思ったら、「戦争をさせている力」について考えてみることが必要なんですね。この国の政治家が言っていることを鵜呑みにしていたのでは、ますます戦争に近づいていきます。総理大臣が唱える「積極的平和主義」にちょっとでも疑問を持った人には、特におすすめです。

(「トーハン週報」Monthly YA 2015年4月13日号掲載)