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『ヴォドニークの水の館』表紙

ヴォドニークの水の館 〜チェコのむかしばなし

『ヴォドニークの水の館』をおすすめします。

チェコ語の翻訳者が再話し、スロバキア在住の画家が絵をつけた昔話絵本。貧しさに希望を失って川に身を投げようとした娘が水の魔物ヴォドニークにさらわれ、水中の館を掃除することになる。娘はやがて、館にたくさんあるつぼの中に溺れた人たちの魂がとらわれていることに気づき、その魂をすべて解放し、自分も逃げて地上にもどる。女の子の冒険物語としても楽しめるし、緑色でカッパにも似たヴォドニークが不思議で、いろいろ工夫のある幻想的な絵もすばらしい。
小学校低学年から

(朝日新聞「子どもの本棚」2021年4月24日掲載)

チェコ語の翻訳者が再話し、スロバキア在住の画家が絵をつけた昔話絵本。貧しさのあまり身投げしようとした娘が、ヴォドニークという水の魔物にさらわれて水中の館で働かされる。娘はやがて館を脱出し、囚われていた他の魂も解放して生の世界に帰っていく。生と死と再生の物語ともとれるこの絵本では、窓からのぞく娘の目の前を魚が泳いでいる表紙がまず読者の目を引くが、絵は場面展開の仕方も周到に考えられ、娘の姿も、水中の館にいるときは静、行動を起こして陸に上がるときは動と、描き分けられている。
視点や色彩の変化の付け方、チェコらしい刺繍の服やつぼの模様といった細部にも十分に目配りがされ、昔話の世界を見事に伝えている。

(産経児童出版文化賞/美術賞選評 産経新聞2022年05月05日掲載)

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エミリー・ロッダ『ローワンと白い魔物』さくまゆみこ訳

ローワンと白い魔物

オーストラリアのファンタジー。ローワン・シリーズの5作目です。リンの谷はいつまでも白い雪にとざされ、おまけに山の上からは白い魔物が這い出てきます。食料がなくなり、村人たちは山をおりて避難する羽目になってしまいました。なんとかして冬を終わらせて春をもたらそうと、またローワンが活躍します。今度はノリス、シャーラン、ジールと一緒の冒険です。
(絵:佐竹美保さん 装丁:丸尾靖子さん 編集:山浦真一さん+佐近忠弘さん)

◇◇◇

〈訳者あとがき〉

お待たせいたしました。ローワン・シリーズの五巻目の日本語版をお届けします。

このシリーズは、熱心に読んでくださる方が多く、「次の巻を早く翻訳して」というお便りもたくさんいただきました。ありがたいことです。この巻にも、そうしたロッダ・ファンの期待を裏切らないおもしろさがいっぱいつまっています。

今回は、まだオーストラリアで原書が出る前の校正刷りを入手して訳し始めました。第一段階の翻訳原稿がちょうど出来上がったころ、オーストラリアで出版された本を見てびっくり。表紙のイメージが前の四巻とはがらっと変わっていたのです。でも、日本語版は相変わらず佐竹美保さんのすばらしい絵がついているので、シリーズのイメージはそのままで楽しんでいただけると思います。先日韓国でもこのシリーズの一巻目『ローワンと魔法の地図』が出版されましたが、この韓国版にも、佐竹さんの表紙絵や挿絵がそっくり使われています。

それにしても、エミリー・ロッダという作家は、本当にじょうずなストーリー・テラーだと思います。どの巻も、読者をぐんぐん引っぱっていき、最後にはまたどんでん返しを用意しているという構成には、わたしも感心させられっぱなしです。

エミリー・ロッダのホームページに、作品を書くためのヒントがのっていました。創作に対する作者の考え方の一端がわかるように思うので、ちょっと紹介しておきましょう。

・書きつづけましょう。
・自分が知っているタイプの人や場所について書いてみるのがいいでしょう。
・自分が物語の世界の中で実際に生きているつもりになりましょう。そして、どう感じるのか、何が見えるのか、何が聞こえるのかを描写しましょう。そうすれば読む人も、物語の世界の中に入りこむことができます。
・読書も役に立ちますが、自分自身のスタイルをみがけばみがくほど、書いたものはよくなります。
・書くことを楽しみましょう!

ご自分もきっと楽しんで書いていらっしゃるのでしょう。わたしも楽しんで翻訳をしました。

さて、ローワン・シリーズはこのあとまだ続くのでしょうか? もっと続けて読みたいとわたしも思いますが、今のところはまだ未定のようです。とりあえず次は犬たちを主人公にしたエミリー・ロッダ作品をご紹介したいと思っています。これも、愉快な作品なので、楽しみにしていてくださいね。

二〇〇三年七月一〇日

さくまゆみこ