カテゴリー: おすすめの児童書

カモのきょうだい クリとゴマ

『カモのきょうだいクリとゴマ』表紙
『カモのきょうだい クリとゴマ』
なかがわちひろ/作
アリス館
2011.08


『カモのきょうだい クリとゴマ』をおすすめします。

わたしが犬の散歩に行く近くの公園には、カモがいます。夏にいるカモは1種類。カルガモです。冬は他のカモもいっぱいいますが、くちばしの先が黄色いのでカルガモは見分けがつきます。春にはポンポン玉くらいの大きさのひなが、母ガモの後について泳いだり、少し大きくなって池の周りの地面をつっついている姿も見ることができます。

この本の主人公は、そのカルガモ。ある日、著者のお子さんが、カルガモの卵を持ち帰りました。激しい雨で水浸しになった巣を母ガモが放棄し、残った卵をカラスがつついているのを見るに見かねて、拾ってきたのです。その6つの卵から無事に孵化したのが、クリとゴマです。著者の家族は、野鳥を育てていいものかと迷いながら、でも一人前のカルガモに育て上げることを目標にして、べたべたせずにクリとゴマに愛情を注いでいきます。

卵からひながかえる様子、2羽が初めてミミズを見た時の驚き、だんだん水になじんでいく様子、雷雨を経験した時の慌てぶり、2羽の性格の差など、細かい観察による描写にはユーモアがあり、読ませる力があります。絵も文も著者がかき、それに著者の家族の手になる写真がついているので、リアリティも半端ではありません。

クリとゴマは、写真を見ても本当にかわいいのですが、この本は、そのかわいさを「売り」にしてはいません。世話が大変なこと、糞がとてつもなく臭いことなどもきちんと描写されているので、読んでいるうちに命とつきあうことのおもしろさ、楽しさ、そして難しさがおのずとわかってくるのがすごいところ。そう、世の中、かわいいだけのものなんてつまらないですもの。

やがてクリとゴマが成長すると、著者は2羽を自然に帰します。しかも簡単には戻ってこられないようなところへ。でも、それで一件落着したわけではなく、まだまだ「親」の苦労は続くのですが。

楽しく読める、優れた科学読み物です。

(「子とともにゆう&ゆう」2013年2月号掲載)

キーワード:鳥(カモ)、ノンフィクション、自然

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カタカタカタ〜おばあちゃんのたからもの

『カタカタカタ』表紙
『カタカタカタ〜おばあちゃんのたからもの』
リン・シャオペイ/作 宝迫典子/訳
ほるぷ出版
2018.08


『カタカタカタ〜おばあちゃんのたからもの』をおすすめします。

台湾の絵本。女の子のおばあちゃんは、足踏みミシンでいろいろなものを作ってくれる。ある日、女の子の劇の衣装を作っているときにミシンが故障してしまった。修理屋が来ても直せない。でも、おばあちゃんは夜遅くまでかかって手縫いで衣装を間に合わせてくれた。「ほんとうに すごいのは カタカタカタじゃなくて、おばあちゃんだったのね」という言葉がいい。

壊れたミシンは、やがてパパがテーブルにリフォームしてくれた。壊れたら捨てるのではなく、別の物に作り替えてまた使うというストーリーの流れもいい。

ユニークな絵で、おばあちゃんと女の子の温かい交流を伝える。翻訳もリズミカルでわかりやすい。

(産経新聞「産経児童出版文化賞・翻訳絵本賞」選評 2019年5月5日掲載)

キーワード:おばあちゃん、ミシン、台湾、絵本

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バッタロボットのぼうけん

『バッタロボットのぼうけん』表紙
『バッタロボットのぼうけん』
まつおかたつひで/作
ポプラ社
2018.06


『バッタロボットのぼうけん』をおすすめします。

主人公は犬の子どもたちで、バッタ型のロボットに乗って冒険に出かけるという設定。このロボットが、子どもの持つ知識の範囲内でなるほどと思えるように工夫されているのが楽しい。

ボルネオ、オーストラリア、ニュージーランドの陸地と海と川にすむ虫や動物たちが、生き生きと描かれ、吹き出しの中に簡単な説明も付されている。

ファンタジーの要素も取り入れた知識絵本だが、その土地に生息する動物をリアルに、主人公の犬たちをイラスト風に描くことによって、子どもが混乱しないよう配慮がされている。さらに最後の場面がストーリーに奥行きをもたせ、そこからもう一つの想像がふくらむよう工夫されている。

(産経新聞「産経児童出版文化賞・美術賞」選評 2019年5月5日掲載)

キーワード:ロボット、自然、絵本、動物

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なっちゃんのなつ

『なっちゃんのなつ』表紙
『なっちゃんのなつ』
伊藤比呂美/文 片山健/絵
福音館書店
2019.06


『なっちゃんのなつ』をおすすめします。

なっちゃんという女の子が、河原や野原を歩いて、クズのつる、ひまわり、アオサギ、セイタカアワダチソウ、サルビア、オシロイバナ、雷雨、ガマの穂、ハンミョウなどの自然の生きものや現象に触れあいながら、夏を感じていく絵本。

夏独特の旺盛なエネルギーを感じさせる要素も多いが、セミの死骸、お盆のお墓参り、お供え流しなど、死や、あの世とのつながりを思わせる要素も入っている。

写実的ではないが、動植物の特徴をよく観察して活かしている絵がいい。会えなかった友だちと最後に会って一緒に遊ぶという流れも納得できる。

おもて表紙と裏表紙のつながりにも読者の想像力がふくらむ。

(産経新聞「産経児童出版文化賞・美術賞選評」2020年5月5日掲載)

キーワード:夏、自然、生と死

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マンマルさん

『マンマルさん』表紙
『マンマルさん』
マック・バーネット/文 ジョン・クラッセン/絵 長谷川義史/訳
クレヨンハウス
2019.05


『マンマルさん』をおすすめします。

抽象的な図形マンマルさんが、シカクさん、サンカクさんとかくれんぼをする絵本。黒いキャラクターが暗い洞穴に入ると、そこには正体不明のものがいるという設定なので、いささか怖いのだが、訳者のユーモラスでリズミカルな関西弁がその不気味さを中和している。真っ暗闇の中での黒いキャラクターの気持ちを、目の動きだけで表現している絵もいい。

マンマルさんは、ぞっとして洞穴からあわてて逃げ出したけれど、あれはいい者だったかもしれないと思い直す。そして、「さあ いっしょに め つぶってみ。どんなん みえる?」と、読者にも想像を促す。哲学的な絵本とも言えるが、子どもは子どもなりにおもしろさを味わえる。

(産経新聞「産経児童出版文化賞・翻訳絵本賞選評」2020年5月5日掲載)

キーワード:洞穴、形、謎、哲学、絵本

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ゆきのひ

『ゆきのひ』表紙
『ゆきのひ』
エズラ・ジャック・キーツ/作 木島始/訳
偕成社
1969


『ゆきのひ』をおすすめします。

朝起きると外は雪。ピーターは赤いマントを着て外ヘ出ると、足跡をつけたり、枝から雪を落としたり、雪だるまを作ったり、雪の山を滑り降りたり、ひとりで楽しく遊ぶ。原書刊行は1962年。アフリカ系の子どもを主人公にした絵本がまだ少ない時代に出され、時を超えて読者を獲得している。コラージュを主とした絵のデザインや色づかいは、今でも新鮮ですばらしい。(幼児から)

(朝日新聞「子どもの本棚・冬休み特集」2019年11月30日掲載)

キーワード:雪、遊び、アフリカ系、絵本

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3人のママと3つのおべんとう

『3人のママと3つのおべんとう』表紙
『3人のママと3つのおべんとう』
クク・チスン/作 斎藤真理子/訳
ブロンズ新社
2020.01


『3人のママと3つのおべんとう』をおすすめします。

理想のお母さん像を勝手に作って、うちのお母さんはちっともそれらしくないな、と思ってる人はいませんか? でもね、お母さんだっていろいろなんです。韓国からやってきたこの絵本に描かれている3人のママは、仕事も性格も家庭環境もまったく違います。子どものお弁当の支度だってそれぞれ。あわてて買いに走るママだっています。それでも、3人とも忙しい毎日のなかで子どものことを気にかけています。だから、お弁当をもって野原に遠足に出かけた子どもたちは、それぞれのママに、それぞれの方法で春の息吹をとどけてあげるのですね。読者の心の中にも春の色が広がります。それにしても、パパの存在が見えないのは、日本と同じということでしょうか? (5歳から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2020年3月28日掲載)

キーワード:母、弁当、多様性、遠足、春、絵本

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りんご だんだん

『りんごだんだん』表紙
『りんご だんだん』
小川忠博/写真・文
あすなろ書房
2020.02


『りんご だんだん』をおすすめします。

最初は、ぴかぴかでつやつやの赤いリンゴの写真。「りんご つるつる」という言葉がついています。かぶりついたら、おいしそうなリンゴです。そのリンゴが、少しずつ少しずつ変わっていきます。しわしわになり、ぱんぱんになり、ぐんにゃりしたかと思うと、くしゃくしゃしたり、ねばねばしたり、だんだんに無残とも言える姿に。そのうちに、あら、虫もわいてくる。

写真家が1年近くの間リンゴを粘り強く観察して記録した絵本。言葉はごく簡潔で、詳しい説明はないのですが、生きているものは、時間とともに否応なく変化していくこと、そして、それを糧にしてまた次の命が育っていくことなどが、リアルな写真から伝わってきます。(幼児から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2020年5月30日掲載)

キーワード:果物(リンゴ)、腐敗、虫、絵本

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コピーボーイ

『コピーボーイ』表紙
『コピーボーイ』
ヴィンス・ヴォーター/作 原田勝/訳
岩波書店
2020.03


『コピーボーイ』をおすすめします。

前作『ペーパーボーイ』から6年経ち17歳になったヴィクターは、地元の新聞社で雑用係(コピーボーイ)として働いている。人生の大先輩として慕っていたスピロさんが亡くなり、ヴィクターは生前からの約束を果たそうと決意する。それは、「ミシシッピ川の河口に遺灰をまくこと」。約束を実現するための独り旅の中で、ヴィクターは様々な人と出会い、恋もし、吃音とも折り合いをつけて、新たな道を切り開いていく。若い読者にも、困難を乗り越えて未来を信じる力を与えてくれる。(中学生から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2020年4月25日掲載)

キーワード:旅、恋、吃音、未来

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故郷の味は海をこえて〜『難民』として日本に生きる

『故郷の味は海をこえて』表紙
『故郷の味は海をこえて〜『難民』として日本に生きる』
安田菜津紀/著・写真
ポプラ社
2019.11


『故郷の味は海をこえて〜「難民」として日本に生きる』をおすすめします。

日本は難民受け入れ数がとても少ない。それでも、戦争や人権侵害によって命が危うくなり、日本に逃げて来る人はいる。その人たちを、同じ人間として迎えるにはどうすればいい? 著者は、シリア、ミャンマー、バングラデシュ、ネパール、カメルーンなどから逃げて来た人に会い、彼らの故郷の味をふるまってもらいながら、どうして日本にやって来たのか、どんな苦労があるのかなどを聞き出していく。子どもにも親しめる料理や飲み物を入り口にして、難民について考えることのできるノンフィクション。(小学校高学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2020年1月25日掲載)

キーワード:難民、多様性、食べ物、ノンフィクション

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フラミンゴボーイ

『フラミンゴボーイ』表紙
『フラミンゴボーイ』
マイケル・モーパーゴ/著 杉田七重/訳
小学館
2019.10


『フラミンゴボーイ』をおすすめします。

イギリスの青年ヴィンセントが旅先の南フランスで話を聞くという枠の中に、フラミンゴが大好きで動物と気持ちを通じ合えるロレンゾと、社会から排斥されてきたロマ人のケジアの物語がおさまっている。ナチスの脅威、戦争に翻弄される人間、差別、動物保護など様々なテーマを扱いながら、巧みなストーリー展開で読者をひきつけ、おもしろく読ませる。(小学校高学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚・冬休み特集」2019年11月30日掲載)

キーワード:動物、差別、戦争

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オオカミが来た朝

『オオカミが来た朝』表紙
『オオカミが来た朝』
ジュディス・クラーク/著 ふなとよし子/訳
福音館書店
2019.09


『オオカミが来た朝』をおすすめします。

オーストラリアのある一家4代の物語を、子どもをめぐるエピソードでつづっていく作品。一家にからめて語られるのは、不安や恐怖、認知症老人との触れあい、難読症の人や移民への差別、民族間の争い、家族との葛藤などだが、語り口にはユーモアと奥行きがあり、味わいながら読める。最初の物語の主人公ケニーが、最後の物語では曾孫の前に少年の姿で現れて「くじけるな」と呼びかけるのだが、その言葉は子どもたちみんなに向けた作者のメッセージにも思える。(中学生から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2019年10月26日掲載)

キーワード:家族、歴史、差別

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月の光を飲んだ少女

『月の光を飲んだ少女』表紙
『月の光を飲んだ少女』
ケリー・バーンヒル/著 佐藤見果夢/訳
評論社
2019.05


『月の光を飲んだ少女』をおすすめします。

魔法を扱いながら、現代にコミットする物語。舞台は中世的な異世界で、そこではシスター長イグナチアが恐怖と悲しみをもって、従順で信じやすい民を支配している。イグナチア配下の長老会は、魔女への生贄として毎年赤ん坊を1人ずつ森の中に捨てさせるのだが、ある年捨てられたルナは、善き魔女ザンに拾われて育ち、やがて恐怖の世界をひっくり返して新たな世界を作り出そうとする。協力するのは、自然の象徴とも思える沼坊主グラーク、竜のフィリアン、ついに出会えた生母、正直でやさしい若者アンテイン、自分の頭で考える勇敢なエサイン。おもしろく読めて、生と死、支配と被支配、魔法と自然の力などについて思いをめぐらせることができる。(中学生から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2019年8月31日掲載)

キーワード:魔法、竜、家族、生と死、自然

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漂流物

『漂流物』表紙
『漂流物』
デイヴィッド・ウィーズナー/作
BL出版
2007.05


『漂流物』をおすすめします。

ある日男の子が、浜辺に打ち上げられた水中カメラを拾う。入っていたフィルムを現像してもらうと、ぜんまい仕掛けの魚や、居間でくつろぐタコなど不思議な写真がいっぱい。知らない子が手に写真を持っている一枚も。それを虫眼鏡や顕微鏡で調べて、男の子はまたびっくり。様々な子どもたちがカメラを介してつながっていく文字なし絵本。自由にお話を想像できるのも楽しい.(小学校低学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚」(夏休み特集)2019年7月27日掲載)

キーワード:絵本、海、カメラ

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天才ルーシーの計算ちがい

『天才ルーシーの計算ちがい』表紙
『天才ルーシーの計算ちがい』
ステイシー・マカナルティ/著 田中奈津子/訳
講談社
2019.04


『天才ルーシーの計算ちがい』をおすすめします。

12歳のルーシーは雷に打たれて以来、どんな難問でも解ける数学の天才になった。ある日ルーシーは、親代わりの祖母から、ホームスクールを卒業して学校に行くように言われるのだが、極端な潔癖症だし変な癖もあるのでいじめを受け、すぐに学校が嫌になってしまう。そんなルーシーが、数学以外の世界でも自分の居場所を見つける物語。(小学校高学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2019年7月27日掲載)

キーワード:学校、いじめ、数学(算数)、居場所

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あしたはきっと

『あしたはきっと』表紙
『あしたはきっと』
原題:TOMORROW MOST LIKELY by Dave Eggers & Lane Smith
デイブ・エガーズ/文 レイン・スミス/絵 青山南/訳
BL出版
2019.06


『あしたはきっと』をおすすめします。

茶色い肌の子どもが主人公の「おやすみなさい」の絵本。「あしたはきっと」という言葉に続いて、子どもの日常を彩る青空や、おいしい食べ物や、だれかの歌声が出てきたかと思うと、だんだん想像がワイルドになって、クジラに乗ったり、「へんちくりんなやつ」を見つけたり、笛を吹きながらカタツムリを散歩させているおじさんに会ったりもする。今日がつらかった子どもにも、明日はきっと素敵なことや不思議なことがありそうと思わせてくれるのがいい。寝る前に読んでも、読んでもらっても、楽しいよ。(小学校低学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2019年6月29日掲載)

キーワード:絵本、想像

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嵐をしずめたネコの歌

『嵐をしずめたネコの歌』表紙
『嵐をしずめたネコの歌』
アントニア・バーバー/作 ニコラ・ベイリー/絵 おびかゆうこ/訳
徳間書店
2019.03


『嵐をしずめたネコの歌』をおすすめします。

イギリスのコーンウォール地方に伝わる伝説を基にした物語。大嵐が来て海が荒れ、漁師たちが船を出せずに村に食べるものがなくなったとき、年老いた漁師のトム・バーコックは飼い猫のモーザーと一緒に、命がけで海に出て行く。村人たちのために、なんとしても魚をとろうと決意したのだ。細かくていねいに描かれた絵がとてもいい。もともとは横書きの文章量の多い絵本だが、そのままの形では日本の子どもに読みにくいので、文字を縦書きにして絵童話風に仕立てている。(小学校中学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2019年5月25日掲載)

キーワード:海、ネコ、嵐、伝説、絵物語

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ひみつのビクビク

『ひみつのビクビク』表紙
『ひみつのビクビク』
フランチェスカ・サンナ/作 なかがわちひろ/訳
廣済堂あかつき
2019.04


『ひみつのビクビク』をおすすめします。

異国で暮らすことになった子どもの気持ちを、わかりやすく描いた絵本。不安や恐怖をビクビクという存在で表現している。主人公の少女は、本当に危険なことを避けてくれるビクビクを友だちだと思ってきた。でも言葉もわからない異文化の中に放り込まれると、ビクビクがどんどんふくらみ、少女の気持ちは急速に縮こまってしまう。今後は日本にもこのような子どもが増えてくるだろうと思うと、テーマがタイムリーで、子どもの立ち直る力にも目が向けられている。(5歳から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2019年4月27日掲載)

キーワード:不安、居場所、絵本

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夢見る人

『夢見る人』表紙
『夢見る人』
パム・ムニョス・ライアン/作 ピーター・シス/絵 原田勝/訳
岩波書店
2019.02


『夢見る人』をおすすめします。

南米のチリに暮らす少年ネフタリは、体は弱くても、空想することや詩を書くのが好き。自然の不思議に目を見張る慣性も持っている。でも、息子の体を鍛え、医者や実務家にしたい父親は、それが気に入らない。継母は、本を読んでくれたり、時には守ったりしてはくれても、夫に刃向かうことはしない。最初はなんとかして父親の愛情を得たいと思っていたネフタリだが、やがて自分が詩や文を書きためたノートを父親が燃やすのを目撃すると、心の自由を求めて故郷を離れ、自分の道を歩み始める。ノーベル賞を受けた詩人パブロ・ネルーダの少年時代を描いた物語。緑色で印刷された文章から情景が生き生きと立ち上がってくる。シスの挿絵もすばらしい。(中学生から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2019年3月30日掲載)


南米のチリに暮らす少年ネフタリは、夢見ることや詩を書くのが大好きで、自然の不思議に目を見張る感性も持っている。でもひ弱な息子の体を鍛え医者や実務家にしたい父親には、軟弱な役立たずとしか思えない。幼いネフタリはなんとかして父親の愛情を得ようとするが、先住民の人権を守ろうとするおじさんの影響もあり、やがて心の自由を求めて自分の道を歩み始める。ノーベル賞を受けた詩人パブロ・ネルーダの少年時代を描いた伝記的な物語。緑色で印刷された文章は情景を生き生きと伝え、挿し絵もすばらしい。

原作:アメリカ/12歳から/詩 夢 父親 チリ

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

 

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ゆかいな床井くん

『ゆかいな床井くん』表紙
『ゆかいな床井くん』
戸森しるこ/作 早川世詩男/画
講談社
2018.12


『ゆかいな床井(とこい)くん』をおすすめします。

6年生になった暦の隣には、人気者の床井君が座っている。小柄な床井君は下品な話もするけれど、背の高い暦を「デカ女」と呼ばずにうらやましいと言ってくれる。2人と、同じ暮らすにいる多様な子どもたちの1年間を描く短編集。楽しく読んでいくうちに、この2人と一緒に読者も「別の見方」ができるようになるかも。(小学校中学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2019年1月26日掲載)

キーワード:学校、差別、多様性、友情

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まめつぶこぞうパトゥフェ〜スペイン・カタルーニャのむかしばなし

『まめつぶこぞうパトゥフェ』表紙
『まめつぶこぞうパトゥフェ〜スペイン・カタルーニャのむかしばなし』
宇野和美/文 ささめやゆき/絵
BL出版
2018.10


『まめつぶこぞうパトゥフェ〜スペイン・カタルーニャのむかしばなし』をおすすめします。

パトゥフェは、豆粒くらい小さいけれど、なんでもやろうとする男の子。踏みつぶされないように「パタン パティン パトン」と歌ってみんなの注意を引きながら歩いていく。ところが、お父さんにお弁当を届けにいく途中、牛に食べられてしまったから、さあ大変。ゆかいで楽しい絵本。(幼児から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2018年12月29日掲載)

キーワード:絵本、スペイン、牛、昔話

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ふゆめがっしょうだん

『ふゆめがっしょうだん』表紙
『ふゆめがっしょうだん』
冨成忠夫、茂木透/写真 長新太/文
福音館書店
1990.01


『ふゆめがっしょうだん』をおすすめします。

冬の木の芽を、よく見てごらん。だれかの顔に似ているよ。笑っているみたいな顔もあるし、ちょっと怖い顔もあるけど、みんなで歌いながら春を待っているのかな? 自然ってゆかいで不思議。冬の散歩が楽しくなる写真絵本=幼児から

(朝日新聞「子どもの本棚」2018年11月24日掲載)

キーワード:冬、植物(樹木)、自然、ノンフィクション、絵本

 

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クリスマスのあかり〜チェコのイブのできごと

『クリスマスのあかり』表紙
『クリスマスのあかり〜チェコのイブのできごと』
レンカ・ロジノフスカー/作 出久根 育/絵 木村有子/訳
福音館書店
2018.10


『クリスマスのあかり〜チェコのイブのできごと』をおすすめします。

1年生のフランタは、ひとりでランプを持って教会に行き、あかりをもらって帰る途中、近所の貧しいおじいさんに会う。おじいさんが亡き妻のお墓に捧げようとした花束が盗まれたと知ったフランタは、なんとかしようと考えをめぐらせる。子どもの細やかな心の動きを伝える文章に、チェコ在住の画家のあたたかい絵がついている。(小学校低学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2018年11月24日掲載)


クリスマスイブに、1 年生の男の子フランタは手提げランプを持って、ひとりで教会に明かりをもらいに行く。そして帰る途中、近所の貧しいおじいさんが妻の墓に供えようと買った花束が盗まれたことを知り、なんとかしようと考える。トラブルもあるが、やさしい人びとにも出会い、フランタは、しょんぼりしていたおじいさんに花束をわたすことができた。幼い子どもの細やかな心の動きを伝える文章に、チェコ在住の画家のあたたかい絵がついた絵物語。

原作:チェコ/6歳から/クリスマス あかり プレゼント

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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おすすめ! 世界の子どもの本 2018

JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」
『おすすめ! 世界の子どもの本 2018』
さくまゆみこ・代田知子・神保和子・土居安子・福本友美子/編・著
JBBY
2018.12

JBBYが発行する翻訳児童書のブックレット


JBBYで毎年出すことになっている「おすすめ! 世界の子どもの本 2018」で取り上げた本をご紹介します。

このブックリストは、日本で紹介された世界各国からの翻訳児童書の中から、専門家グループが討議を重ねて、日本の子どもたちに読んでもらいたいすぐれた作品を選び、それぞれの書誌事項とともに、短い紹介文をつけています。オールカラーでA4変形版22頁の冊子です。

この年度の選書・執筆チームは、神保和子さん(司書)、福本友美子さん(翻訳家・研究者)、代田知子さん(埼玉県三芳町立図書館長)、土居安子さん(大阪国際児童文学振興財団理事)、それに私さくまゆみこ(翻訳家)です。

表紙の絵は、荒井真紀さんです。

すぐれた翻訳児童書の紹介のほかに、この号には、原田勝さんと母袋夏生さんのエッセイや、ジョン・キラカさんの絵入りメッセージなども掲載されています。

JBBY「おすすめ! 世界の子どもの本 2018』本文

 

<絵本>(50音順)

『あおのじかん』イザベル・シムレール/文・絵 石津ちひろ/訳 岩波書店(フランス)
『あさがくるまえに』ジョイス・シドマン/文 ベス・クロムス/絵 さくまゆみこ/訳 岩波書店(アメリカ)
『アームストロング:宙飛ぶネズミの大冒険』トーベン・クールマン/作 金原瑞人/訳 ブロンズ新社(スイス)
『うみべのまちで』ジョアン・シュウォーツ/文 シドニー・スミス/絵 いわじょうよしひと/訳 BL出版(カナダ・アメリカ)
『エンリケタ、えほんをつくる』リニエルス/作 宇野和美/訳 ほるぷ出版(アルゼンチン)
『おなじそらのしたで』ブリッタ・テッケントラップ/作・絵 木坂涼/訳 ひさかたチャイルド(イギリス)
『おばあちゃんとバスにのって』マット・デ・ラ・ペーニャ/作 クリスチャン・ロビンソン/絵 石津ちひろ 鈴木出版(アメリカ)
『ごちそうの木:タンザニアのむかしばなし』ジョン・キラカ/作 さくまゆみこ/訳 西村書店(スイス・タンザニア)
『この本をかくして』マーガレット・ワイルド/文 フレア・ブラックウッド/絵 アーサー・ビナード/訳 岩崎書店(オーストラリア)
『金剛山のトラ:韓国の昔話』クォン ジョンセン/再話 チョン スンガク/絵 かみやにじ/訳 福音館書店(日本・韓国)
『サイモンは、ねこである』ガリア・バーンスタイン/作 なかがわちひろ/訳 あすなろ書房(イギリス)
『詩ってなあに?』ミーシャ・アーチャー/作 石津ちひろ/訳 BL出版(アメリカ)
『すききらい、とんでいけ! もぐもぐマシーン』イローナ・ラメルティンク/文 リュシー・ジョルジェ/絵 野坂悦子/訳 西村書店(オランダ)
『ソーニャのめんどり』フィービー・ウォール/作 なかがわちひろ/訳 くもん出版(カナダ)
『空の王さま』ニコラ・デイビス/文 ローラ・カーリン/絵 さくまゆみこ/訳 BL出版
『ちっちゃいさん』イソール/作 宇野和美/訳 講談社(スペイン)
『ドライバーマイルズ』ジョン・バーニンガム/作 谷川俊太郎/訳 BL出版(イギリス)
『どれがいちばんすき?』ジェイムズ・スティーヴンソン/作 千葉茂樹/訳 岩波書店(アメリカ)
『なかないで、アーサー:てんごくにいったいぬのおはなし』エマ・チチェスター・クラーク/作・絵 こだまともこ/訳 徳間書店(イギリス)
『なずずこのっぺ?』カーソン・エリス/作 アーサー・ビナード/訳 フレーベル館(イギリス)
『人形の家にすんでいたネズミ一家のおはなし』マイケル・ボンド/文 エミリー・サットン/絵 早川敦子/訳 徳間書店(イギリス)
『ねむたいひとたち』M.B.ゴフスタイン/作 谷川俊太郎 あすなろ書房(アメリカ)
『ふしぎな銀の木:スリランカの昔話』シビル・ウェッタシンハ/再話・絵 松岡享子、市川雅子/訳 福音館書店(日本・スリランカ)
『ふたりはバレリーナ』バーバラ・マクリントック/作 福本友美子/訳 ほるぷ出版(アメリカ)
『へんてこたまご』エミリー・グラヴェット/作 福本友美子/訳 フレーベル館(イギリス)
『ぽちっとあかいおともだち』コーリン・アーヴェリス/文 フィオーナ・ウッドコック/絵 福本友美子/訳 少年写真新聞社(イギリス)
『本の子』オリヴァー・ジェファーズ、サム・ウィンストン/作 柴田元幸/訳 ポプラ社(イギリス)
『まめまめくん』デヴィッド・カリ/文 セバスチャン・ムーラン/絵 ふしみみさを/訳 あすなろ書房(カナダ)
『もしきみが月だったら』ローラ・パーディ・サラス/文 ジェイミー・キム/絵 木坂涼/訳 光村教育図書(アメリカ)
『森のおくから:むかし、カナダであったほんとうのはなし』レベッカ・ボンド/作 もりうちすみこ/訳 ゴブリン書房(アメリカ)
『ゆめみるじかんよ こどもたち』ティモシー・ナップマン/文 ヘレン・オクセンバリー/絵 石井睦美/訳 BL出版(イギリス)
『りゅうおうさまのたからもの』イチンノロブ・ガンバートル/文 バーサンスレン・ボロルマー/絵 津田紀子/訳 福音館書店(日本・モンゴル)

 

<読み物>(50音順)

『ありづかのフェルダ』オンドジェイ・セコラ/作・絵 関沢明子/訳 福音館書店(チェコ)
『アルバートさんと赤ちゃんアザラシ』ジュディス・カー/作・絵 三原泉/訳 徳間書店(イギリス)
『凍てつく海のむこうに』ルータ・セペティス/作 野沢佳織/訳 岩波書店(アメリカ)
『オオカミを森へ』キャサリン・ランデル/作 原田勝/訳 小峰書店(イギリス)
『カランポーのオオカミ王』ウィリアム・グリル/作 千葉茂樹/訳 岩波書店(イギリス)
『口ひげが世界をすくう?!』ザラ・ミヒャエラ・オルロフスキー/作 ミヒャエル・ローハー/絵 若松宣子/訳 岩波書店(オーストリア)
『紅のトキの空』ジル・ルイス/著 さくまゆみこ/訳 評論社(イギリス)
『こいぬとこねこのおかしな話』ヨゼフ・チャペック/作 木村有子/訳 岩波書店(チェコ)
『さよなら、スパイダーマン』アナベル・ピッチャー/著 中野怜奈/訳 偕成社(イギリス)
『ジョージと秘密のメリッサ』アレックス・ジーノ/作 島村浩子/訳 偕成社(アメリカ)
『世界を7で数えたら』ホリー・ゴールドバーグ・スローン/著 三辺律子/訳 小学館(アメリカ)
『太陽と月の大地』コンチャ・ロペス=ナルバエス/著 宇野和美/訳 福音館書店(スペイン)
『ダーウィンと旅して』ジャクリーン・ケリー/作 斎藤倫子/訳 ほるぷ出版(アメリカ)
『月からきたトウヤーヤ』蕭甘牛/作 君島久子/訳 岩波書店(中国)
『テオのふしぎなクリスマス』キャサリン・ランデル/文 エミリー・サットン/絵 越智典子/訳 ゴブリン書房(イギリス)
『テディが宝石を見つけるまで』パトリシア・マクラクラン/著 こだまともこ/訳 あすなろ書房(アメリカ)
『とびきりすてきなクリスマス』リー・キングマン/作 山内玲子/訳 岩波書店(アメリカ)
『ナンタケットの夜鳥』ジョーン・エイキン/作 こだまともこ/訳 冨山房(イギリス)
『パンツ・プロジェクト』キャット・クラーク/著 三辺律子/訳 あすなろ書房(イギリス)
『ペーパーボーイ』ヴィンス・ウォーター/作 原田勝/訳 岩波書店(アメリカ)
『ぼくたち負け組クラブ』アンドリュー・クレメンツ/著 田中奈津子/訳 講談社(アメリカ)
『ぼくとベルさん:友だちは発明王』フィリップ・ロイ/著 櫛田理絵/訳 PHP研究所(カナダ)
『ぼくはO・C・ダニエル』ウェスリー・キング/作 大西昧/訳 鈴木出版(アメリカ)
『ボノボとともに:密林の闇をこえて』エリオット・シュレーファー/作 ふなとよし子/訳 福音館書店(アメリカ)
『もうひとつのワンダー』R.J.パラシオ/作 中井はるの/訳 ほるぷ出版(アメリカ)
『モルモット・オルガの物語』マイケル・ボンド/作 いたやさとし/絵 おおつかのりこ/訳 PHP研究所(イギリス)
『レイン:雨を抱きしめて』アン・M・マーティン/著 西本かおる/訳 小峰書店(アメリカ)
『わたしがいどんだ戦い 1939年』キンバリー・ブルベイカー・ブラッドリー/作 大作道子/訳 評論社(アメリカ)
『わたしも水着をきてみたい』オーサ・ストルク/作 ヒッテ・スペー/絵 きただいえりこ/訳 さ・え・ら書房(スウェーデン)

 

<ノンフィクション>50音順

『いのちは贈りもの:ホロコーストを生きのびて』フランシーヌ・クリストフ/著 河野万里子/訳 岩崎書店(フランス)
『いろいろいっぱい:ちきゅうのさまざまないきもの』ニコラ・デイビス/文 エミリー・サットン/絵 越智典子/訳 ゴブリン書房(イギリス)
『語られなかったアメリカ史:オリバー・ストーンの告発1.2』オリバー・ストーン、ピーター・カズニック/著 スーザン・キャンベル・バートレッティ/編著 鳥見真生/訳あすなろ書房(アメリカ)
『ゴードン・パークス』キャロル・ボストン・ウェザーフォード/文 ジェイミー・クリストフ/絵 越前敏弥/訳 光村教育図書(アメリカ)
『サリバン先生とヘレン:ふたりの奇跡の4か月』デボラ・ホプキンソン/文 ラウル・コローン/絵 こだまともこ/訳 光村教育図書(アメリカ)
『サルってさいこう!』オーウェン・デイビー/作 越智典子/訳 偕成社(イギリス)
『しくみがまるわかり! 骨のビジュアル図鑑』ベン・モーガン、スティーブ・パーカー/著 太田てるみ/訳 岩崎書店(イギリス)
『すごいね! みんなの通学路』ローズマリー・マカーニー/文 西田佳子/ 訳 西村書店(カナダ)
『正義の声は消えない:反ナチス・白バラ抵抗運動の学生たち』ラッセル・フリードマン/著 渋谷弘子/訳 汐文社(アメリカ)
『庭のマロニエ:アンネ・フランクを見つめた木』ジェフ・ゴッテスフェルド/文 ピーター・マッカーティ/絵 松川真弓/訳 評論社(アメリカ)
『発明家になった女の子 マッティ』エミリー・アーノルド・マッカリー/作 宮坂宏美/訳 光村教育図書(アメリカ)
『走れ!! 機関車』ブライアン・フロッカ/作・絵 日暮雅通/訳 偕成社(アメリカ)
『ファニー:13歳の指揮官』ファニー・ベン=アミ/著 ガリラ・ロンフェデル・アミット/編 伏見操/訳 岩波書店(フランス)
『プーさんとであった日:世界でいちばんゆうめいなクマのほんとうにあったお話』リンジー・マティック/文 ソフィー・ブラッコール/絵 山口文生/訳 評論社(アメリカ)
『マララのまほうのえんぴつ』マララ・ユスフザイ/作 キャラスクエット/絵 木坂涼/訳 ポプラ社(アメリカ)
『みどりの町をつくろう:災害をのりこえて未来をめざす』アラン・ドラモンド/作 まつむらゆりこ/訳 福音館書店(アメリカ)
『耳の聞こえないメジャーリーガー ウィリアム・ホイ』ナンシー・チャーニン/文 ジェズ・ツヤ/絵 斉藤洋/訳 光村教育図書(アメリカ)
『もしも地球がひとつのリンゴだったら』デビッド・J・スミス/文 スティーブ・アダムス/絵 千葉茂樹/訳小峰書店(アメリカ)
『ラマダンのお月さま』ナイマ・B・ロバート/文 シーリーン・アドル/絵 前田君江/訳 解放出版社(イギリス)
『わたしたちのたねまき:たねをめぐるいのちたちのおはなし』キャスリン・O・ガルブレイス/作 ウェンディ・アンダスン・ハルパリン/絵 梨木香歩/訳 のら書店(アメリカ)

 

 

 

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犬が来る病院〜命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと

大塚敦子『犬が来る病院』
『犬が来る病院〜命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと』
大塚敦子/著
KADOKAWA
2016.11


『犬が来る病院〜命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと』をおすすめします。

聖路加国際病院の小児病棟の子どもたちを3年半にわたって取材したドキュメンタリー。日本で初めて小児病棟にセラピー犬を受け入れたこの病院で、犬の訪問活動をどうやって始めたのか、子どもたちの反応はどうだったのか、子どもたちが豊かな時間を過ごすための配慮がどう行われていたか、多くのスタッフがどう連携してトータルケアをめざしたのか、などについて述べられている。4人の子どもたちとその家族が、それぞれ病に直面して歩んだ軌跡も感動的。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<ノンフィクション>掲載)

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お金さえあればいい?〜子どもと考える経済のはなし

浜矩子『お金さえあればいい?』
『お金さえあればいい?〜子どもと考える経済のはなし』
浜矩子/著 高畠純/絵
クレヨンハウス
2016.03


『お金さえあればいい?〜子どもと考える経済のはなし』をおすすめします。

とてもわかりやすい文章と、ユーモアたっぷりのイラストで、お金や経済について学ぶ本。お金はなんのためにあるの? 経済とは本来どんなものなの? 今の日本経済に警鐘を鳴らす著者は、本当の経済は人と人が出会う場をつくるもので、そこからは幸せが生まれてこなくてはいけないという。利益ばかりを追い求めるような偽の経済活動を賢く見ぬいて、お金にふりまわされないで幸せになるためには、どうしたらいいか。それを本書は伝えている。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<ノンフィクション>掲載)

キーワード:経済、社会、お金、しあわせ

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世界中からいただきます!

中山茂大文 阪口克写真『世界中からいただきます!』
『世界中からいただきます!』
中山茂大/文 坂口克/写真
偕成社
2016.11


『世界中からいただきます!』をおすすめします。

世界各地の普通の家に居候して、家族の素顔や、いつもの暮らしを見せてもらい、普通の食事を食べさせてもらう。そんなふうにして集めたモンゴル、カンボジア、タイ、ハンガリー、イエメン、モロッコなど14カ国の17家族の生き方が、食を中心に写真とともに紹介されている。楽しいレイアウトのおかげで、日本の読者にも親しみやすく読みやすくなっている。コラムでは、世界の主食や屋台やトイレ、日本から持って行って喜ばれたお土産なども紹介されている。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<ノンフィクション>掲載)

キーワード:ごはん、台所、料理、異文化理解

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干したから・・・

森枝卓士/写真・文『干したから・・・』
『干したから・・・』
森枝卓士/写真・文
フレーベル館
2016.03


『干したから・・・』をおすすめします。

食をテーマとするカメラマンがつくった写真絵本。世界各地で見つけた乾燥食品を写真で示しながら、干すことによる食品の変化や、干すことの意味や目的を、わかりやすく説いている。野菜や果物や魚や肉や乳製品は、干すと水分がぬけて腐りにくくなり保存がきくようになるのだが、その点に子どもが興味をもてるよう伝え方が工夫されている。めざし、梅干しなど乾燥食品を使った日本の典型的な食事や、野菜の簡単な干し方も紹介されている。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<ノンフィクション>掲載)

キーワード:食べ物、干物、自然、知恵

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わたり鳥

鈴木まもる『わたり鳥』
『わたり鳥』
鈴木まもる/作・絵
童心社
2017.03


『わたり鳥』をおすすめします。

世界の渡り鳥113種の旅を描いたノンフィクション絵本。なぜ長距離を移動するのか、どんなルートがあるのか、どんなところにどんな巣をつくるのか、渡りの途中でどんな危険に遭遇するのか、何をたよりに移動するのか、などを、子どもにもわかる文章と興味深い絵で説明している。巻末には、本書に登場する渡り鳥44種それぞれの大きさや姿、巣の大きさ、卵の色や形、渡りのルート、繁殖地と冬期滞在地などを紹介する一覧と、「世界のわたり鳥地図」も掲載している。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<ノンフィクション>掲載)

キーワード:渡り鳥、生き物、環境

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神隠しの教室

山本悦子『神隠しの教室』
『神隠しの教室』
山本悦子/作 丸山ゆき/絵
童心社
2016.10


『神隠しの教室』をおすすめします。

ある日、5人の子どもたちが学校で行方不明になる。5人とは、いじめを受けていた加奈、ガイジンといわれているブラジル人のバネッサ、虐待されているみはる、情緒不安定の母親にネグレクトされている聖哉、そして単身赴任の父親と2年も会っていない亮太。みんな「どこかへ行ってしまいたい」と思っていた子どもたちだ。この子たちは、戻ってこられるのか? 戻るには何が必要なのか? 読者は謎にひかれて読み進むうちに、現代日本の子どもをとりまく社会にも目を向けることになる。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<読みもの>掲載)

キーワード:いじめ、ネグレクト、ミステリー、学校

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日小見不思議草紙

藤重ヒカル著 飯野和好絵『日小見不思議草紙』
『日小見不思議草紙』
藤重ひかる/作 飯野和好/絵
偕成社
2016.09


『日小見不思議草紙(ひおみふしぎぞうし)』をおすすめします。

江戸時代を舞台にした5篇のファンタジー短編集。不思議な刀のおかげで鼻にタンポポが咲き、相手が笑ってしまうので戦わずして勝てる侍の話、野原で出会った不思議な女の子にすばらしい絵の具をもらって出世する絵描きの話、クマの助けを借りて一夜にして堰堤を築く話など、どれも短いなりにまとまりがよく、おもしろく読める。それぞれの短編の前後に江戸時代と現代を結びつける仕掛けもあり、虚実の境がわざとあいまいになっている。ユーモラスな味わいを支えている挿絵もいい。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<読みもの>掲載)

キーワード:ファンタジー、江戸時代、変身

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春くんのいる家

岩瀬成子『春くんのいる家』
『春くんのいる家』
岩瀬成子/作 坪谷令子/絵
文溪堂
2017.05


『春くんのいる家』をおすすめします。

新しい家族の形をテーマにしたフィクション。日向は、両親が離婚した後、母と一緒に祖父母の家で暮らしているが、そこに、従兄の春も加わって一緒に暮らすことになった。春は、父親が病死し母親が再婚した結果、跡取りとして祖父母の養子になったのだ。新たな5人家族は、最初はぎくしゃくしていて、感情も行き違う。しかし、春が子ネコを拾ってきたことなどをきっかけに、徐々に、みんなが寄り添い合い、新たなまとまりを作り出していく。その様子を感受性豊かな日向の一人称で描いている。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<読みもの>掲載)

キーワード:家族、友だち、ネコ

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猫魔ヶ岳の妖怪

八百板洋子文 斎藤隆夫絵『猫魔ヶ岳の妖怪』
『猫魔ヶ岳の妖怪』
八百板洋子/再話 斎藤隆夫/絵
福音館書店
2017.03


『猫魔ヶ岳の妖怪』をおすすめします。

この絵本には、福島県各地に伝わる伝説「猫魔ヶ岳の妖怪」「天にのぼった若者」「大杉とむすめ」「おいなりさまの田んぼ」の4話が入っている。原発事故前の福島は、自然豊かなとても美しい土地だった。ここに収められた伝説からもそうした地域の背景がうかがわれ、人間と動物や自然の結びつき、人間には計り知れない自然の力などが感じられる。再話は、ブルガリアと日本の民話の研究者・翻訳者。絵も、伝説の雰囲気をよく伝えている。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<絵本>掲載)

キーワード:昔話、福島

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こうさぎとほしのどうくつ

わたりむつこ/作 でくねいく/絵『こうさぎとほしのどうくつ』
『こうさぎとほしのどうくつ』
わたりむつこ/作 でくねいく/絵
のら書店
2016.07


『こうさぎとほしのどうくつ』をおすすめします。

4匹の子ウサギのきょうだいが、嵐を逃れるために洞窟に入りこみ、となりの子ウサギたちとも出会って、洞窟の中を探検する。そのうち、ランタンを落とし、真っ暗な中で子ウサギたちは洞窟の中の大広間にすべり落ちてしまう。ところがその大広間の天井には、星のような光がまたたいていて、子ウサギたちを洞窟の出口へと案内してくれた。最後は家にもどって一安心。子ウサギたちの驚き、不安、安堵、幸福感など心のうちを、顔の表情や変化に富む背景の色でうまく表現している。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<絵本>掲載)

キーワード:ウサギ、友だち、冒険

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手おけのふくろう

ひらののぶあき文 あべ弘士絵『手おけのふくろう』
『手おけのふくろう』
ひらののぶあき/文 あべ弘士/絵
福音館書店
2017.06


『手おけのふくろう』をおすすめします。

桜の木のうろで子育てをしていたフクロウ夫婦は、ある年その桜の木が倒れていたので次の場所を探すが見つからない。ついに民家の軒下に下げてあった手桶を巣にすることにした。父さんフクロウは、雨や雪の時は翼を広げて巣を守り、ひながかえると獲物をつかまえて運び、ハクビシンを体当たりで撃退する。やがて3羽のひなが無事に巣立ち、一家は森に帰っていく。民家のおじいさんもあたたかく見守る。著者は鳥の生態に詳しく、フクロウの子育てのようすがとてもリアルだし、絵もいい。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<絵本>掲載)

キーワード:自然、親子、フクロウ

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あめがふるふる

田島征三『あめがふるふる』
『あめがふるふる』
田島征三
フレーベル館
2017.05

キーワード:雨の日、冒険、思いやり


『あめがふるふる』をおすすめします。

雨の日に、ふたりだけで留守番をしている兄のネノと妹のキフは、窓の外をながめていると、フキの葉の傘をさしたカエル、たくさんの巨大なオタマジャクシ、くるくる回るカタツムリ、踊っている木や草や野菜などが次々にあらわれる。そして魚に誘われて向こうの世界にとびこんだ兄妹は、困っている小さな動物たちを笹舟をたくさん作って、のせていく。やがてお母さんが帰ってきて、子どもたちは現実に戻る。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<絵本>掲載)

キーワード:雨の日、冒険、思いやり

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部長会議はじまります

吉野万理子『部長会議はじまります』
『部長会議はじまります』
吉野万理子/著
朝日学生新聞社
2019.02


『部長会議始まります』をおすすめします。

物語は、こんな校内アナウンスで始まる。「四時から、臨時の部長会議を始めます。文化部の部長のみなさんは、大講堂に集まってください」。ここは、私立の詠章学園の中等部。

第一部(部長会機はじまります)は、文化部の部長会議で、美術部が文化祭のために作ったジオラマにだれかがいたずらした事件をめぐって展開する。怒っている美術部の部長、怪しげな部活だと思われて悩んでいるオカルト研究部部長、いろいろなことに自信のない園芸部部長、ミス・パーフェクトと言われる華道部部長、恋をしている理科部部長。会議は紛糾する。犯人はだれなのか? いじめがからんでいるのか? それとも恨みか?

第二部(部長会議は終わらない)は、運動部の部長会議。第二体育室が取り壊されることになり、そこを使っていた部の活動を保証するため、運動場やグラウンドの使用を譲り合わなくてはいけなくなる。はじめのうちはほとんどの部長が、自分の部が損にならないように立ち回ろうとするが、だんだんに解決策を見出していく。卓球部、バスケ部、バレー部、和太鼓部、サッカー部、野球部の各部長に、パラスポーツをやりたいと言う人工関節の生徒もからんで、意外な展開に。

章ごとに語り手が変わるので、それぞれの登場人物についても、「他人はこう見ている」のと「自分はこう思っている」との落差がわかり、立体的に見えて来る。また他人にはうかがい知れない悩みを各人が抱えていることもわかってくる。人は見かけとは違うのだ。

楽しく読めて、読んだ後、まわりの人たちにちょっぴりやさしくなれる学園物語。

(トーハン週報「Monthly YA」2019年4月8日号掲載)

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木でつくろう手でつくろう

遠藤敏明『木でつくろう手でつくろう』
『木でつくろう手でつくろう』
遠藤敏明/著
小峰書店
2012.11


『木でつくろう手でつくろう』をおすすめします。

原発事故以来、「ふるさと」という歌が流行っています。福島には美しい場所がたくさんあり、私の友人をふくめ有機農業で頑張っていた人もたくさんいました。私自身はあまりにも情緒に流れる気がして「ふるさと」はうたいませんが、「うさぎ追いしかの山」や「小鮒釣りしかの川」が放射性物質という毒に穢されてしまったという事実からは、これからも目を背けないでいようと思います。尖閣諸島や竹島は日本の領土だと主張するのもけっこうですが、それよりずっと広い範囲の「領土」を私たちは原発事故で失ってしまったのではないでしょうか。

と、そんなことを思いつつ年が明けたので、同じことをもっとポジティブな視点から考えようと思い、今回はこの本を推薦することにしました。

この本で語られているのは「木」です。木材の知識や、簡単にできる木工もいろいろ紹介されています。でも、スウェーデンで暮らした体験をもつ著者は、木だけではなくいろいろな素材に愛情を注ぎ、理解し、時間をかけてそれと対話しながら何かをつくりあげる、という生き方そのものが大切なのだと語りかけてきます。手作りのものにかける時間は、能率や効率という視点から見れば無駄かもしれません。それに、そんなふうにしてつくったものは、GNPやGDPには貢献しないかもしれません。けれど、と私は思うのです。さまざまな電化製品やファストフードをはじめ便利漬けになってしまっている私たちは今、もう一度自然のものの「手触り」や自分で工夫してつくる力を取り戻す必要があるのではないかと。

(「トーハン週報」Monthly YA 2013年2月号掲載)

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石の巨人〜ミケランジェロのダビデ像

ジェーン・サトクリフ文 ジョン・シェリー絵『石の巨人〜ミケランジェロのダビデ像』
『石の巨人〜ミケランジェロのダビデ像』
ジェーン・サトクリフ/文 ジョン・シェリー/絵 なかがわちひろ/訳
小峰書店
2013.09


『石の巨人〜ミケランジェロのダビデ像』をおすすめします。

今回取り上げるのは、ミケランジェロを主人公にした絵本です。

ミケランジェロのダビデ像は、あちこちにレプリカがあるので、見たことがある方も多いでしょう。2012年には島根県奥出雲町にもレプリカが設置され、「裸はけしからん。パンツをはかせろ」と言い出す人も出て話題になりましたね。

この絵本は、フィレンツェの街にはクリーム色の大きな大理石が40年も置きっぱなりにされていたこと、この石を使ってダビデ像をつくることを依頼された何人かの彫刻家が、断ったり途中で彫るのを辞めてしまったことなど、前史をまず語っています。

やがて(実際は1501年)とうとうこの仕事を引き受けたミケランジェロは、周りに木の囲いを張りめぐらせて秘密裏に仕事を進めるのですが、彼には石の中に埋もれている形が早くから見えていたようです。それから実際に彫像ができて広場前に設置されるまでの苦労が絵と文章であらわされています。

ルビがふってあるので、小学生から読めますが、若い人が読んでもなかなかおもしろい。天才ミケランジェロの人となりや、この石像が生まれたいきさつがわかります。

文章を書いたサトクリフはアメリカ人で、この絵本で初めて日本の読者にお目見えしました。イギリス人であるシェリーの絵は、『ジャックと豆の木』(福音館書店)や、「チャーリー・ボーンの冒険」シリーズの挿絵でもおなじみの、あたたかくて楽しい雰囲気をもっているのですが、ダビデ像だけは大変リアルに描いてあります。ミケランジェロへのオマージュとい意味もこめられているのでしょうか。

(「トーハン週報」Monthly YA 2013年12月9・16日合併号掲載)

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あたしが乗った列車は進む

ポール・モーシャー『あたしが乗った列車は進む』
『あたしが乗った列車は進む』
ポール・モーシャー/作 代田亜香子/訳
鈴木出版
2018.06


『あたしが乗った列車は進む』をおすすめします。

少女が一人、長距離列車に乗っている。壊れた腕時計をはめ、「ライダー(乗客)」というカードを首からぶら下げて。隣にすわっているのはドロシア。親戚でも友だちでもない。少女がちゃんと目的地につけるように見張っているのだ。少女は、『太陽はかがやいている』という題の小さな本をお守りのように持っているけれど、自分は太陽とは縁遠い存在だと思っている。少女は、助けはいらないし自力でなんとかしようと気を張っているが、自分が人から傷つけられるような弱い人間だということにむかついてもいる。

物語は、少女がこれまでのことを回想する過去の流れと、列車の中で出会った人々との交流を描く現在の流れの、両方で進んで行く。回想場面には、ドラッグ中毒の母親、ニコチン中毒の祖母などが登場し、ネグレクトされた少女が、愛をほとんど感じられない暮らしをしてきたことがわかってくる。そのせいで少女は自己肯定感を持てず、ウソもつくし万引きもする。少女は、知っている身内をすべて失って、会ったこともない大おじさんの住むシカゴに向かう途中なのだ。

でも現在の流れの中では、旅の間に少女は少しずつ変わっていく。軽食カウンターで働くニール、ドーナツをくれたり一緒にクロスワードパズルを楽しんだりするカルロス、ギンズバーグの詩集『吠える』を貸してくれる少年テンダーチャンクス、そしてじつは思慮のあるドロシアたちとの出会いが、少女に本来のかがやきを取り戻させてくれるのだ。少女は、「あたしは、自分で選んだふうにしかならない」と思えるようになり、これからの自分に希望をもちはじめる。最後のほうで、自分の存在を否定しようとする自分を映している鏡を壊す場面は、象徴的だ。

自分をなかなか好きになれない年頃の子どもたちにすすめたい。

(「トーハン週報」Monthly YA  2018年10月8日号掲載)

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おわりの雪

ユベール・マンガレリ『おわりの雪』
『おわりの雪』 白水uブックス

ユベール・マンガレリ/著 田久保麻理/訳
白水社
2013.05


『おわりの雪』をおすすめします。

夏なのに雪? といぶかしむ方もおいでかもしれません。そう、暑いさなかに冬の本を読むのは、なかなかいいのです。想像力のおかげで少しは涼しくなったりして。

主人公の少年の父親は病気で寝たきりになっており、一家三人は、その父親の年金を頼りにくらしています。母親は、夜になるといつもこっそり出かけていきます。少年も、養老院で老人たちの散歩の介助をして少しばかりのお金をもらっています。時には、子ネコや老犬を「始末してほしい」と頼まれることもあります。つまりこの少年はまだ長い年月を生きてはいないのに、もう死のすぐそばにいるのです。

孤独な少年には、ほしいものがひとつだけあります。それは、古道具屋で売っているトビ。自由に空を飛び回れる翼を持ったトビのそばに腰をおろして、少年は時間を過ごします。そして、想像の中でつくりあげた話を父親にして聞かせるのです。

これは明るい元気な物語ではなく、暗い静かな物語で、少年の周囲にも白い雪や冬枯れた風景が広がっています。父親が死を迎えるということはあるにせよ、外側で大きな事件が起こるわけではありません。でも、すぐれた描写によって、その瞬間その瞬間を「生きている」この繊細な少年の思いが、とてもリアルに読む者にも伝わってくるのです。そういう力をもった文章、そして翻訳です。

著者のユベール・マンガレリは、おとなの本と子どもの本のボーダーにあるような作品を書いているフランスの作家です。

(「トーハン週報」Monthly YA 2013年8月12日号掲載)

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チャーシューの月

村中李衣『チャーシューの月』
『チャーシューの月』
村中李衣/作 佐藤真紀子/絵
小峰書店
2013.01


『チャーシューの月』をおすすめします。

私がつきあっている子ども学科の学生は、保育士の資格を得るために、いろいろな施設にも実習に出かけていきます。知的障碍者の施設や母子生活支援施設や児童養護施設に行くことになった学生たちは、最初は不安を抱えています。「対応できるのか」「暗い場所なんじゃないか」「手に負えないことが起こるんじゃないか」という心配をしているのです。でも実際に行ってみると、90%以上の学生が、生きることを基本を考えさせられるような大変いい体験をさせてもらい、顔つきもしっかりして帰ってきます。「楽しかった」と言う学生もたくさんいます。

でも、そういうところでの暮らしを内側から書いた作品はそう多くはありません。この作品の舞台は、あけぼの園という児童養護施設。ここで暮らして中学生になったばかりの美香が、物語の語り手です。ある日、そこに六歳の明希(あき)がやってきます。明希の父親も母親も生きているのですが、娘を育てることができないのです。

物語は美香と明希を中心に、まわりの子どもたち、職員たち、親たちを描いていきます。すてきなのは、子どもたちがハンデのある環境にもかかわらず、自分を大事にして成長していくこと。美香は最初、明希をふくめ他者をうざったいとしか思っていないのですが、やがて他者に手をさしのべるようになっていきます。もう一つすてきなのは、親をふくめだれかを悪者にしたりしないこと。作者は、おとなも変われるはずと思っているのかもしれません。

(「トーハン週報」Monthly YA  2013年4月8日号掲載)

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<子どもが素敵>

チャーシューの月って何でしょう? いったいどういうこと? 不思議に思う人もいるかもしれませんが、読んでいるうちにどんな心もようを表しているかわかってきます。

舞台はあけぼの園という児童養護施設。ここで暮らして中学生になったばかりの美香が、物語の語り手です。ある日、6歳の明希(あき)が、お父さんに連れられてあけぼの園にやってきます。明希は何か失敗するとすぐに「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返しますが、その一方、何でも写真に撮ったように記憶できるという特技ももっています。

美香は、優等生ではありません。いらいらしたり、むかついたり、突っ張ったりしています。「わたしたちに小さい子への思いやりをもてなんていってもムリな話だ。わたしたちが小さかったとき、いったいだれが思いやりをくれたっていうんだろ」と、反発もします。そりゃそうですよね。

美香は、最初は新入りの明希をうざったいと思います。でも、美香はよく見ているのです。それでいざというときは心配になって、どうしても「思いやって」しまうのです。美香より2歳年上の信也も同じです。つらい思いをしてきた体験があるからこその「思いやり」なのかもしれません。

施設の職員たちは、ダルマ園長を含めみんな善人面をするわけではなく、子どもたちにしょっちゅう悪態をつかれながら、そしておそらく限界を超えないことを自分に命じながら、公平に子どもたちを愛しています。でも、子どものほうでは「たった一人のわたしを見て」「たった一人のぼくを愛して」と叫んでいるのでしょう。そんな中で美香は自分を捨てることなく、場面場面で何かを自分で選び取って、成長していきます。そして、両親の間で引き裂かれていた明希も、本能的にでしょうか、母親に引き取られるのを拒否し、父親が迎えにくるまで待っていることを選び取ります。

地元の児童養護施設で、子どもたちと絵本の読み合いをしながら、さまざまな子どもの心もようと出会ってきた著者ならではの、熱い作品です。

(「子とともにゆう&ゆう」2013年3月号掲載)

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現代語で読む たけくらべ

現代語で読むたけくらべ
『現代語で読む たけくらべ』
樋口一葉/著 山口照美/現代語訳
理論社
2012.08


『現代語で読む たけくらべ』をおすすめします。

「廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お齒ぐろ溝に燈火うつる三階の騒ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行來にはかり知られぬ全盛をうらなひて・・・・・・」

思い返してみれば、私も原文で『たけくらべ』を読んだことがある。注釈付きの本だった。大門というのは吉原の門のことだとか、お歯黒どぶというのは、遊女が逃げないように遊郭のまわりにつくられたどぶだ、というような注が下の方に入っていた。原文をそのまま読んだだけでは意味がよくわからないので、目を原文から注へ、注から原文へと行ったり来たりさせながら読んだ。でも、そういう読み方ではなんとか意味を理解するのが精一杯で、文学作品として楽しむというところまではいかなかったのをおぼえている。

私は古典の現代語訳はもともとあまり好きではないのだが、今回本書を読んで、これもありだな、と思った。その昔原文を読んだときよりは、よほどおもしろく読めたからだ。

「ここから表通りを回っていけば、吉原遊郭の大門にある見返り柳までは遠い。しかし、吉原を囲む真っ黒などぶ川には、芸者を揚げて騒ぐ三階の灯りが手に取るように映っている。人力車の行き来はひっきりなしで、はかりしれないほどの吉原の繁盛ぶりが想像できる」というのが、本書の現代語訳。

ただ「訳者」も後書きで述べているように、原文のリズムや響きを味わうためには、本書を読んだ後でもいいから、ぜひ原文のほうにも触れてもらいたい。動画サイトにも朗読があるのだから。

(「トーハン週報」Monthly YA  2012年12月10・17日合併号掲載)

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ダーウィンと出会った夏

ジャクリーン・ケリー『ダーウィンと出会った夏』
『ダーウィンと出会った夏』
ジャクリーン・ケリー/作 斎藤倫子/訳
ほるぷ出版
2011.07


『ダーウィンと出会った夏』をおすすめします。

舞台は1899年のテキサス。今とは違って、女の子が思い切って好きなことができる時代ではありません。11歳のコーリー(キャルパーニア)は、兄3人、弟3人のまん中にはさまれた唯一の女の子。同じ屋根の下には、古い小屋(かつての奴隷小屋)で実験三昧の日々を送る祖父も住んでいます。

親たちは、女の子は刺繡や料理がちゃんとできるようになって、年頃になれば社交界にデビューしなくてはならないと言いますが、コーリーの思いは別のところにあります。変わり者の祖父は、「実験室」で蒸留酒をつくろうとしていただけでなく、しょっちゅう自然の中へ出かけていき、ついてきた孫娘に、目に触れる生き物についていろいろな話をしてくれます。おかげでコーリーは博物学に興味しんしんなのです。

でもコーリーが自分らしい生き方を貫くのは、今よりずっと難しいことでした。各章の冒頭にはダーウィンの『種の起源』からの文章の抜粋があって、悩んでいるコーリーの背中を押してくれているようです。

祖父ばかりでなく、兄弟たちそれぞれのエピソードにもユーモアがあり、楽しく読めます。コーリーが祖父の話を聞いてどんどん科学的な見方を獲得していく過程も、リアルに書かれています。祖父がしてくれる話は単なる知識ではなく、人生体験に基づく味わい深い物語になっています。自然科学の分野ではあっても、こういう物語から入れば子どもたちは大いに興味をもつようになり、理科離れも食い止められるのではないでしょうか。

(「トーハン週報」Monthly YA  2011年10月14日号掲載)

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さがしています

『さがしています』アーサー・ビナード/作 岡倉禎志/写真
『さがしています』
アーサー・ビナード/作 岡倉禎志/写真
童心社
2012.07


『さがしています』をおすすめします。

昨年の3月11日以降、子どもの本の作家たちからも、いろいろな作品が生まれてきました。でも、出版された作品の中に、世界に向けて推薦できるものは、なかなかありませんでした。もう少し心の中で熟成する時間が必要なのかもしれないなあ、と思っていたとき、この絵本にめぐりあいました。

この絵本でとりあげているのは、福島ではなく広島です。主人公は、広島平和記念資料館に所蔵されている品々です。でも、この品々が言葉を語りだすと、福島が見えてきます。そして、広島や長崎がまだ終わっていないことも、私たちが、この先どんな未来を創らなければならないのかも。

アルミの弁当箱、理髪店の時計、軍手、鉄瓶、眼鏡・・・・・・。そのうちのいくつかは、私も平和記念資料館で見た記憶があります。でも、ビナードさんは見ただけで終わらせず、物たちが発する声なき声に耳を傾け、想像し、考え、悩み、物たちと私たちをつなぐ詩を書いて、その物たちの背後にいる人たちの息づかいや、あのときピカドンによって断ち切られた生のぬくもりを、みごとに浮かび上がらせました。それだけではありません。ビナードさん独特の日本語の表現がいいのです。普通の平板な日本語とはひと味違うからこそ、右から左にするすると消えていかないで、読む人の胸に残ります。

私は、若い人たちを教える立場になって以来、絵本や児童文学で何ができるかを考えてきました。この絵本には、その答えの一つがあるのではないかと、いま思っています。

(「トーハン週報」Monthly YA  2012年10月8日号掲載)

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声めぐり

『声めぐり』齋藤陽道著
『声めぐり』
齋藤陽道/著
晶文社
2018.07


『声めぐり』をおすすめします。

思わず引き込まれて、ところどころ立ち止まって考えながらも、私は一気に最後まで読みました。著者は写真家であり、障害者プロレスのレスラーです。

最初に、耳がよく聞こえず、補聴器をつけての発音訓練に明け暮れていた幼い頃の辛い日々が語られますが、その後、ろう学校に入って手話が使えるようになり、著者は「音声言語ができてこそ一人前だという呪い」から解放されます。

「ろう学校の生活は、本当に楽しかった。もし、家の近くにろう学校がなかったらと思うと恐ろしくなる。何に対しても『早く終われ』と願うばかりだった過去。何に対しても終わりを一刻も早くと願う気持ちは、やがて自分の命を断つことに向けられていただろう。それはとてもリアルに想像できる未来だった」。

もう少し先には、手話についての、こんなすてきな文章もあります。

「行き交う人々の直線的な動きと比べると、手話の動きはまるくて球体的なので、とても目立つ。手話を見ようとして意識をそこに向けるとき、ひしめきあう雑踏が消えて、ともだちという存在一点へと収斂していく」。

著者は、しだいに手話だけでなく、体感できるものを「声」として捉えるようになります。写真も声だし、障害者プロレスも、相手とのコミュニケーションの手立てとしての声なのです。音声言語だけでなく、じつに多様な「声」が存在することが、読者にも伝わってきます。

それにしても本書の言葉は、一つ一つが心に響きます。それは、著者が本当に言いたいことを、自分の表現で語っているからなのでしょう。表面的な言葉ではなく、かといって斜に構えた言葉でもなく、統合された一つの身体からまっすぐに出てくる言葉が、ここにはあります。今、そのような言葉を発したり書いたりする人は少なくなり、出来合いの言葉を借りて語る人が多くなってきたことを思うと、本書の存在はとても貴重です。

(「トーハン週報」 Monthly YA 2018年12月10日号掲載)

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フラダン

『フラダン』表紙
『フラダン』
古内一絵/著
小峰書店
2016.09


『フラダン』をおすすめします。

男子高校生の主人公が、強引な勧誘を受けてしぶしぶのぞいてみたフラダンス愛好会は、なんと女子ばかり。
と、そこへ個性バラバラなほかの男子3人も入ってきて、「フラガールズ甲子園」に向けた特訓が始まってしまう。
笑いながらぐんぐん読める青春小説だが、福島を舞台に、多様な人々とのふれ合いや原発事故のその後をめぐる状況も描かれていて、味わいが深い。

(朝日新聞「子どもの本棚」2018年7月28日掲載)

笑いながら読める青春小説だが、福島の原発事故をめぐる状況や、多様な人々とのぶつかりあいや交流なども書かれていて味わいが深い。工業高校に通う辻本穣(ゆたか)は、水泳部をやめたとたん「フラダンス愛好会」に強引に勧誘される。しぶしぶ行ってみると、女子ばかり。ところが、シンガポールからのイケメン転校生、オッサンタイプの柔道部員、父親が東電社員である軟弱男子も加入してくる。穣は男子チームを率いることになり、最初は嫌々だが、だんだんおもしろさもわかってきて、真剣になっていく。

(「おすすめ! 日本の子どもの本2018」<読みもの>掲載)

キーワード:フラダンス、青春、震災、福島

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はなびのひ

たしろちさと作『はなびのひ』佼成出版社
『はなびのひ』
たしろちさと/作・絵
佼成出版社
2018.06


『はなびのひ』をおすすめします。

子ダヌキのぽんきちは、今夜は花火職人の父親がでかい花火をあげるというので、朝からそわそわ。そのうち母親から、父親に握り飯を届けてくれと言われて、ぽんきちは勇んで出かける。その後ろから、もう花火が始まるのかと勘違いした、ご近所さんがぞろぞろ。動物たちで描く江戸の花火大会の絵本。

(朝日新聞「子どもの本棚」2018年7月28日掲載)

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ドリーム・プロジェクト

濱野京子著『ドリーム・プロジェクト』PHP研究所
『ドリーム・プロジェクト』
濱野京子/著
PHP研究所
2018.05


『ドリーム・プロジェクト』をおすすめします。

同居した祖父が寂しそうなのに気づいた中2の拓真は、友だちの知恵と協力も借りて、かつて祖父が住んでいた山間の家を地域の集会所にしようと、クラウドファンディングで古家の修理費を集めることに。

果たしてお金は集まるのか? どきどきしながら楽しく読めて、社会参加の仕方についても考えられる作品。

(朝日新聞「子どもの本棚」2018年6月30日掲載)

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青い月の石

トンケ・ドラフト作 西村由実訳『青い月の石』岩波少年文庫
『青い月の石』
トンケ・ドラフト/作 西村由実/訳
岩波書店(岩波少年文庫)
2018.02


『青い月の石』をおすすめします。

伝承遊び歌から始まる冒険物語。

少年ヨーストは、青い月の石を手に入れようと、いじめっ子のヤンと一緒に地下世界の王を追っていく。その途中で出会うイアン王子は、父王が地下世界の王と交わした約束を果たしにいくところだ。

3人は、地下世界の王の末娘ヒヤシンタに助けてもらい、それぞれの任務を遂行して無事に戻ってくるのだが、タブーをおかしたイアン王子は、最愛のヒヤシンタのことを忘れてしまう。そこで今度は少女フリーチェも加わり、王子に記憶を取り戻させるための次の冒険が始まる。

オランダ屈指のストーリーテラーが伝承物語のモチーフをふんだんに使い、豊かなイメージで現実とファンタジーの間に橋を架けた作品。

(朝日新聞「子どもの本棚」2018年5月26日掲載)


伝承遊び歌で始まり、ぐんぐんひっぱっていく冒険物語。祖母と暮らすいじめられっ子のヨーストは、青い月の石を手に入れようと、地下世界の王マホッヘルチェを追っていく。途中で出会ったイアン王子とたどりついた地底の国で難問をつきつけられるが、マホッヘルチェの娘ヒヤシンタが助けてくれる。ようやく地上に戻ると、タブーを侵したせいで愛するヒヤシンタのことを忘れたイアン王子に記憶を取り戻させるため、次の冒険が始まる。昔話のモチーフを使い、現実とファンタジーの間に橋をかけた作品。2020 年JBBY 賞受賞作。

原作:オランダ/10歳から/石 冒険 地下世界 タブー

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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