モモンガ:さっと読めておもしろかった。コメントするような要素はあんまりないんだけど。アラビア風の設定とか、異国情緒たっぷりのところが魅力的。すばらしいものをつくっても、上には上があったっていうのがいいよね。同じように芸術の世界を描いたロベルト・ピウミーニの『光草(ストラリスコ)』(長野徹訳 小峰書店)を思い出した。権力に対する飽くなき欲望もよく描かれている。大人があとから意味をくっつける必要はない作品。

ウォンバット:私は、絢爛豪華な庭のようすに、宝箱をみせられたような、美しいものを見せてもらったっていう喜びが感じられて、好きな作品でした。今回の4冊は、私にとって読むこと自体が修行のような苦しい本が多かったから、この本で、久しぶりにわくわくする読書の楽しみを思い出したわ。

:日本語版は、読者の対象年齢を低く設定してるでしょ。本のつくりが。この本のテーマは、飽くなき芸術への探求心が最後には勝つっていう美学だと思うんだけど、そういことを小学生に理解できるかっていうことに疑問を感じました。作者自身はどういうことを意図したんだろう? 美か権力か、どちらをとることが人間にとって幸せなんだろうね。ジズベルトの作品は『アドリア海の奇跡』(宇野和美訳 徳間書店)も読んだけど、おもしろかった。ちょっと難をあげれば、私にはこの庭の良さがわからなかった。絢爛豪華すぎて、すばらしいものがごちゃごちゃとありすぎちゃって。秘密の画策にしても、種明かしされたら、ガクッと拍子ぬけしちゃう。それから翻訳の問題だけど、希代の詩人が自分のことを「ぼく」っていうのもそぐわない感じ。

ウォンバット:私は、古風な表現もおごそかな感じを加えるスパイスで、わざと使ってるのかと思ったから、別に嫌じゃなかったな。

:まあ、徳間書店らしい本よね。あとフェミニストの立場から言わせてもらえば、女をとっかえひっかえ慰みものにするなんて、「それはないでしょう」と言いたい。

ねねこ:私は、寓話的な意味で、おもしろかった。美味しい一品料理をいただいたような、美しい手工芸品のようなうれしさがある。でも、この世界が理解できるのは、やっぱり中学生以上かなあ。小学生を読者対象とするのは、ちょっと無理があるように思う。それと、すばらしいといわれている詩が、私にはいいとは思えなくて、がっかりした。予言者のお伴の男の子ハシブが活きてないのは残念だったし、結末もちょっと肩すかしというか、もうひとつ工夫が足りない感じがした。庭園そのものを一つの罠にしてしまうとか、いろいろおもしろくできそうなのに惜しいね。全体としては、アラビアの雰囲気を楽しむ、よくできたファンタジーという感じ。

オカリナ:よかったんだけど、私も特別言うことないなあ。期待はずれの超大作2作と比べると、この作品は「佳作」って感じ。こうなるだろうなと思ったことが、その通りちゃんとおさまる安心感がある。あと、西洋の庭は日本の庭とは空間を生かすか、埋めるかという点で根本的にちがうのね。

ウォンバット:やっぱりガウディの国スペインの作品だから、庭のイメージがまた独特なのかも。

ひるね:私も庭の描写には、わくわくした。あれもある、これもあるって贅をつくした庭を想像したりするのって好きなの。お人形遊びのような喜びってあるじゃない。

ウォンバット:そうそう!

ひるね:この作品は、たしかに「佳作」だと思うな。一番おもしろいなと思ったのは、スペインではこういう作品を児童文学として、子どもに手渡すんだなあということ。芸術を中心にすえた作品て、児童文学にはあんまりないでしょ。芸術至上主義の国民性なのかしら。この本『光草』みたいな装丁にしたら、もっとよかったかも。

愁童:『光草』のほうが、こういう場所で話題にするにはおもしろいよね。『イスカンダルと伝説の庭園』は、定石にはまったおもしろさで、ひっかかりがないから、なにを話題にしていいか、困っちゃうな。一休さんみたいな、ひとつの知恵比べの話でしょう。おもしろいけど、とりたててわーわー議論できる本ではないと思うな。

(2000年02月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)