『魔女からの贈り物』
ジェニー・ニモ/作 ポール・ハワード/絵 佐藤見果夢/訳
評論社
2000.02
原題:THE WITCHE'S TEARS by Jenny Nimmo, 1996(イギリス)

<版元語録>吹雪のあれくるう夜、貧しいテオの家に黒ずくめの不気味なおばあさんがやってきた。その時から、なんだか妙なことばかりおこるような気がして…。魔女が流した涙は水晶に変わる―?!魔女と幸運の黒ネコとテオ一家の吹雪の夜のすてきなファンタジー。

モモンガ:対象年齢ということを考えると、今回の5冊の中では、この本がいちばん3〜4年生にぴったり。怖い話好きの子によさそうな本。でも、こういう場で言うべきことがあんまりないな。結末に期待を持たせてるわりには、思ったほど盛り上がらなかったし。でも、現実的な妹と、魔女の存在を信じている男の子のやりとりは、とてもおもしろかったし、時計がカチコチいう音を効果的に使っていて、うまいなと思う。雰囲気を楽しむ、軽く読めるお話っていうことでいいんじゃない? では次、推薦者の愁童さんどうぞ。

愁童:そういわれると、ちょっと照れるな。『ハリーポッターと賢者の石』(J.K.ローリング著 松岡佑子訳 静山社)を読んで、魔法の世界が、あまりにアニメチックというか、おもしろいけど軽っぽいので、最近の他のイギリス人の書くものはどうかなということがあったのと、日本人の書くものとの違いは何かな、と思ったんだよね。それは、生活感覚に根ざしてるかどうかってことじゃないかと思うんだけど。まあそんなわけで、ちょっと考えてみたくなったわけだ。魔女について。この本を読んで、やっぱりnative の子どもの心の根っこには、今でも生きた魔女が、ちゃんと存在してるんだなと思ったね。この本が、作品として特別優れているというわけじゃないんだけどさ。でも、今回読んでよかったなと思うのは、たとえば、始まりをちょっと読んでみると、「たまらなく寒い日でした。息がこおるほど風が冷たく、空をまっ黒な雲が、野生の馬の形にちぎれて、流れていきます。」となってるんだけど、もうこの3行だけで醸し出されるものがあるでしょ。磨きぬかれた、とてもいい文章だと思う。『冬のおはなし』とくらべたら、それはもう全然違う。書き手の姿勢、skill、執念……そういったものをひっくるめた作家修行の結実の高さを感じるね。強烈な印象はないけど、でも上質な物語だと思う。

ウォンバット:同感。うまいと思う。その場面場面の雰囲気がとてもよく伝わってくる。でも、私も、とくに言いたいことはないなあ。おもしろいけど、どうってことない。魔女とか、そういう恐ろしくて不思議なものの涙が水晶に変わるというのも、どこかでそういうお話を見たような気がして、新鮮味はないし。

ウンポコ:そう? この本が5冊の中でとびぬけてよかったよ。登場人物の形象化が、とてもよくできている。ちょっとずつしか書いてないけど、人物像がとてもよくわかる。物語性も、一級品だね。あえて難点をあげるとしたら、本づくり。イラストの製版にバラつきがあるのが、どうも気になって。きれいに出ているところもあるけど、線がとんじゃってるところがある。ほら(と、ぱらぱら本をめくる)31ページとかさ、50ページ。

ウォンバット:ほんと。章の最初のページのイラストが、とくにひどいみたい。

ウンポコ:それから、改行が少なくて、息苦しいね。原文がそうなのかもしれないけど、3〜4年生向けだし、ちょっと考えたほうがよかったと思う。もうひとついいたいのは、タイトル。これ、原題はThe Witch’s Tears でしょ。『魔女の贈り物』とするより、原題どおり『魔女の涙』のほうがよかった。

モモンガ:そういえば『わすれられないおくりもの』(スーザン・バーレイ作  小川仁央訳 評論社)っていうのも、あったわね。

オカリナ:私も、タイトルは原題をいかしたほうがよかったと思う。「贈り物」だと、それだけで魔女が「いい人」って最初からわかっちゃうから。あと「オークじいさん」が出てくるんだけど、日本語で「オークじいさん」といってしまうと、ニュアンスが伝わらないでしょ。「オークじいさん」も「魔女」も、伝統的な妖怪のたぐいで、super natural な存在。そして、お互い疎ましく思ってて・・・ということが前提としてあるんだと思うけどね。でも、全体的には、ちゃんとできてるいいお話だと思う。

ひるね:うまい作者よね。好感のもてる作品が多いけど、ちょっとパンチが足りないって印象。『おおかみウルフは名コック』(安藤紀子訳 デイヴィド・ウィン・ミルフォード絵 偕成社)も、そんな感じだった。だけど、この本はよかった! まず、土に根ざした魔女の存在がよく描けているでしょ。現実と幻想のはざまにある魔女を、とてもうまく表現してると思う。子どものすぐ近くにいる、あやしい存在というのかしら。日本の作家が魔女を描くと、日常とかけはなれたハイカラなものとして描くことが多いでしょ。だから、あやしさ、こわさが感じられない。山婆でさえハイカラな魔女みたいに書いちゃうことがあるわけだから。坂東真砂子の『死国』(マガジンハウス)などは、土に根ざした世界だと思うけど、児童文学でもそういう世界を書いてもらいたい。それから、この作品はスリルがあるでしょ。やっぱり3〜4年生には、スリリングな話か、げらげら笑える話のどっちかでないと、ウケないと思うのね。ずいぶん前に、小さい子たちに読み聞かせしたことがあって、そのとき思ったことなんだけど、やっぱり大人と子どものうけとめ方はちがうでしょ。『たろうのおでかけ』(村山桂子作 堀内誠一絵 福音館書店)みたいな大人には単純な話でも、子どもは、「どうなっちゃうんだろう」って、すっごくハラハラしながら聞いているのね。

ウンポコ:五感を使って描いてるよね、この作者は。時計の「チクタクチクタク」という音とか、8章に出てくる「におい」。「洗濯して干してあるおばあさんの洋服から不思議なかおりがたちのぼってきて、台所のにおいを変えてしまいました。ほのかにオレンジマーマレードのかおりがしていた部屋の中は今、松林とせんじぐすりのようなにおいでいっぱいです」っていうところとかね。

モモンガ:私もその場面、うまいなーと思った! 描写が具体的で、イメージがくっきりと浮かんでくるよね。

ウンポコ:説明文と描写文の違いなんだよ。上手な人が書くと、描写文になるんだ。それから、魔女が泣くシーン。ネコのハラムとスカラムばあさんが再会するシーンで、「涙を流す」とは書いていなくて、「チリンチリンと音をたて、床の上にころがっていきます」となっているんだけどさ、本当にうまいよね。大体ぼくは、書き出しがつまんないと、読みたくないタチなの。この作品は、書き出しもイイね! 何か起こりそうだぞって予兆を感じさせる。非常に高く評価をしたい。パチパチパチ(拍手)。

オカリナ:なんだか今日は冴えてるわね。

ウンポコ:2か月休んじゃったから、リキはいってる。今日の俺は、ひとあじちがうぜ。

(2000年4月の「子どもの本で言いたい放題」記録)