『徳利長屋の怪〜名探偵夢水清志郎事件ノート外伝』
はやみねかおる/著 村田四郎/絵 
講談社青い鳥文庫
1999.11

<版元語録>花見客の見守るなかで予告どおりに盗みを成功させた怪盗九印の正体をつきとめ、れーちの話の謎をあっさり解いた清志郎左右衛門が、幕府軍と新政府軍の戦から江戸を守るために、すごいことを考えた。江戸城を消す…。そんなことができるのだろうか。勝海舟や西郷隆盛を相手に名探偵の頭脳がさえる。名探偵夢水清志郎事件ノート外伝・大江戸編下巻、はじまりはじまり。面白すぎる。

オカリナ:私はこの本、読みはじめたはいいけど、途中で放棄しちゃった。で、これじゃイカン! ともう一度チャレンジするために買ったのよ。なのに、時間ぎれになってしまった。これ、オビによると55万部だって! すごいわね。そんなに売れているとは知らなかった。登場人物はステレオタイプだし、言葉づかいがヘンだと思う人もいるかもしれないけど、文章のリズムはいいと思う。翻訳の人って自分もふくめてだけど、なかなかここまでできないから、文体について、とてもいい勉強になった。でも、やっぱりご都合主義だし、どうしてもついていけないとこはあるな。だけど、そんなに子どもに読まれてるっていうのなら、こういうのもアリでいいと思う。

ウンポコ:どうしてここまで売れてるんだろって考えてみたんだけど、ぼくは、文体の勝利だと思うな。ところどころ作者のモノローグがはさみこまれてるんだけど、これがイイ。テレビの「ちびまる子ちゃん」といっしょでさ、ポッポッと別の視点からのおしゃべりみたいなものが出てくると、親しみやすいし。これが子どもにウケているんじゃない? 著者紹介によるとこの人、現役の学校の先生でしょ。だから、今の子どもが何をおもしろがるか、ちゃんと知ってるんだな。推理に破綻があるのなんか知っちゃいねえ、これがオモシロイんだってなもんで。まあウォンバットさんの言葉を借りれば「毒にも薬にもならない」かもしれないけど、でも、おもしろければ、こういうのもいいんじゃない? エンタテイメントとして楽しむ気軽さってのも、またいいもんだと思うよ。

ウォンバット:私は、いいもんだとは思えなかった。「これが今、人気のある本だよ」と言われれば、なるほどという感じ。だけど、時代考証がめちゃくちゃなのを、はじめに豪語しちゃってるのが、どうもねえ・・・。「たまに、あれ? と思うようなことが書いてあるかもしれませんが、『まっ、いいか!』と、大きな心でみのがしてください」と、この本の「まえがき」にあたる「なかがきの続き」でいってるんだけど、こういうのって許されるものなの? 私、以前に某歴史雑誌の編集部でアルバイトしていたことがあって、そこでキョーレツな歴史オタクをいっぱい見てしまったから、感覚がちとヘンになってるとこがあるんだけど、これで通ってしまう世界があることに、まず驚いた。歴史を専門にしてる人が読んだら、怒ると思うよ。だって「時代考証のにがてな作者より」となっているのよ。だったら、わざわざ時代モノに手を出さなくてもいいのに。この人、別
に江戸時代を書きたかったわけではないのね、きっと。現代ではないどこかの場所を舞台にしたい、でも1から自分で世界を創造するのはカッタルイから、江戸時代にしとこってだけみたい。カップラーメンのCMで、永瀬正敏が歴史的名場面に登場してラーメン食べるっていうのあるけど、あれを思い出した。時代は雰囲気だけって感じ。歴史を知っててくずして描くのならいいけど、きちんと知らないのに、知ってることだけを適当に使うのは無責任だし、ルーズすぎると思う。まあこういう作品に誠意を求めるのが、おかしいのかもしれないけど。文体も、子どもには魅力的なのかもしれないけど、私は嫌だな。俗っぽいんだもん。「どうも、亜衣(あい)です」っていわれてもねえ・・・困る。エヘヘっとなっちゃう。それに語り手の亜衣は三つ子の設定で、妹の名前は「真衣(まい)」と「美衣(みい)」、お母さんは「羽衣(うい)」ということなんだけど、こういうセンス、私はおもしろいと思えない。

ウンポコ:えっ? なになに?

ウォンバット:だから、お母さんがwe で子どもたちが、I my me なの。

ウンポコ:えっ? そういうことだったの?! はじめて知った。

ウォンバット:だけど、これ三つ子の必然性って全然ないのよ。だって、真衣と美衣はたいして働いてない。シリーズだから、前の巻では活躍したのかな? あとね、絵も好きじゃない。名探偵夢水清志郎がキタナすぎる。黒眼鏡っておかしくない? 容姿が汚くてぐうたらだけど、実は頭がキレるっていうヒーロー像も古くさいよ。格好がよくないけどいい仕事をするというのは、男の憧れの一種なんだろうけど。ほら「美味しんぼ」の山岡士郎みたいなヤツ。今、これがウケてる理由というのは、文体ではなくて、「子どもは謎ときが好きだから」じゃないかと思うな。「名探偵コナン」なんて、ものすごい人気じゃない? あれは、あなどれないよ。ロシア語が出てきたりなんかして、すごく高度な内容でびっくりしちゃった。

愁童:いやあ「名探偵コナン」は、なかなかやるんだよ。この本の謎解きと比べたら、かなり本格的だもの。ぼくは、この本の魅力は謎解きではないと思う。

ウンポコ:うんうん。

愁童:「江戸城を消す」なんていうから、どんなすごいことをするのかと思ったら、ただ絵を書いて回転させるだけなんて、あまりにお粗末な子どもだましの方法じゃねぇか。謎解きに魅力はないよ。昔の講談本なんかと比べて、ほんとにお粗末だよね。この程度のものしかないなんて、今の子どもは不幸だと思う。せっかく活字を読むのなら、「名探偵コナン」以上のものを読んでほしいと思う。やっぱり文体じゃないの? この本の魅力はさ。なんていうかなあ、オタクっぽくないというのかな。エンタティメントを幅広く考えれば、こういうのもアリかなと思うよ。『冬のおはなし』を読むのなら、だんぜんこっちを読むほうがいいと思う。

モモンガ:この本の位置づけの問題よね。漫画を読むのと同じ感覚で、軽いノリで読める楽しい本として、それはそれでいいと思う。私はNHKの「お江戸でござる」を思い出した。江戸のシチュエーションを使ったコメディだけど、あれの子ども版という感じ。あの番組、すごく人気があるのよ。

ウンポコ:あれって、まったく無責任なんだよ。

モモンガ:でも、それはそれでいいんじゃない? 深い感動はないんだけど、ちょっとこう気軽に読めておもしろいじゃんって感じのもので。今の子どものテンポにあってると思う。だから私、否定はしない。今の読まれ方というのは、きっと友達同士で「もう読んだ?」とか、「これ、おもしろいよ」なんていいながら、貸し借りしたりしてるんだと思うけど、そういうところから入っていって、これをとっかかりに文学の道に進んでいく子が出てくるといいなと思うから。それはそれで、いいことだと思わない?

ひるね:私もそう思う。個人的には好きよ、この本。内容はともかく、こういう読まれ方をするって現象はうれしい。前に氷室冴子の『なんて素敵にジャパネスク』(集英社)にハマったことがあるんだけど、これもなかなかおもしろかった。王朝ものなんだけどね。あと赤川次郎とかね、そういうのと同じだと思う。でもその反面、違う本でこのくらい読まれるのがあればいいとも思う。だってね、日本の子どもが赤川次郎を読んでるあいだに、イギリスの子たちが読んでるのは、ロアルド・ダールよ。そう考えると、日本の子どもたちはかわいそうだと思うわ。

ウンポコ:本にはそれぞれ、いろいろな役割があっていい。今の子どもたちってさ、実は楽しくないんだと思うんだよ。明るい未来なんて感じないでしょ。この本は無責任に軽く読めて、楽しい気持ちになれるんじゃないの? きっと心を通わせられるんだと思う。

ひるね:勝海舟なんかを笑いとばしちゃうのは、小気味いいと思うわ。

モモンガ:教科書に出てくるような人を、おちょくっておもしろがるのって子どもは好きよね。前にダウンタウンの番組で時代劇の格好してギャグをやるのがあったけど、うちの子、大好きだったもの。

ひるね:青い鳥文庫だからね、これでいいのよ。『ハリー・ポッターと賢者の石』も青い鳥で出すべきだったんじゃないの? もっといい訳で。

(2000年04月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)