愁童:短い作品だけど、おもしろかった。坂東さんは、非常識を自信をもって書いてる。読者を惹きこむよね。とんちんかんなイメージに読者をひきずりこむ力がすごい。お話としてはナンセンスで、まぁ、どってことないんだよ。でもそれが、逡巡なしにぽーんと出てくるから、なんなんだ?! と思うけど、これだけ自信をもって書かれちゃうと、読んでるほうが「スイマセン!」っていっちゃうね。有無をいわさない迫力がある。ものすごい力強さ。

ウンポコ:坂東さんは、寺村輝夫さんの弟子なんだけど、それを背景に感じてしまった。寺村さんの幼年童話のおもしろさを、ぴたっと受け継いでるね。それは、木にたとえれば、枝も葉もなく、幹だけで進んでいくっていう感じ。この作品も、寺村さんがいちばん喜びそうなパターン。本づくりも、うまくいってるね。ぼくも、32Qの文字の本ずいぶん作ったから、思い入れのある分野なんだよ。こういうタイプの本がではじめた1968〜1969年頃には、非難ゴウゴウだったんだ。サイコロ本なんていわれてさ。

ひるね:えっ? サイコロ?

ウンポコ:ほら、文字が大きくて、サイコロみたいだって。文字が少なくても、話が通じるようなすばやい話の展開が必要なんだ。その点この作品は、この造本にぴったりの、スピーディな展開になってる。でも、タイトルは、あれっ? と思った。だって、お月さまはクリーニング屋に行くわけだろ。ちょっと合わないんじゃない? このタイトルは。

ねむりねずみ:おもしろくて、けらけら笑っちゃった。迫力あるナンセンス。絵もあってるよね。このヘンテコな感じに。こういうもの、あんまり読んだことがなかったから、もっと読んでみたいと思ったわ。

モモンガ:今回は時間がなくて、とてもこの本までは読めないわと思ってたけど、思いがけず、幼年童話でよかった。すぐ読めた。こういう話、好き。おもしろかった。「なんで?」とか、言っちゃいけない世界なのよね。そこがおもしろい。こういうことって、タツオくらいの年齢の子どもが、いちばんよくわかるんじゃないかしら。とくにおもしろかったのは、「お月さまは、ごろりとカウンターに体をくっつけていった。『夜までに、いそいでおねがいしたいの』」っていうとこ。 このクリーニング屋、カネダ・ドライっていう、おかしな名前のお店なんだけど、この名前のおかしさが活きてないと思った。月にもどったお月さまに「カネダ・ドライ」って文字がすけてみえるとか、そういうオチを期待していたんだけど。それとか、自動販売機を食べちゃったお月さまは、空の上で煙草吸ってるとかね。

一同:わっはっは(笑)

モモンガ:でも、全体としては、とても楽しく読みました。

オカリナ:さーっと読んで、ああおもしろい、はいっOK! って感じだった。ナンセンスでこれだけおもしろいものを書けるんだから、重厚なおどろおどろしい大人ものばかりじゃなくて、こういう作品も、もっと書いてほしいな。

ウンポコ:でも、今、幼年童話って、売れないんだよな。ひところにくらべて、売り上げは、がっくりなの。

ウォンバット:おもしろかったけど、言うことがみつからないなあ。読んで「あ、そう」って感じ。ナンセンスって、うまくいってない作品だと、「あ、そう」とはならないのよ。つっこみどころばっかりみたいになっちゃって。その点、この作品はそうはなってないから、とてもうまくいってるんだと思う。絵も、いいよね。お話にあってる。私がとくに好きだったのはp21の絵。

ひるね:私も、気にいったわ。子どもが読んだら、コワイと思うところも、あるんじゃないかしら。子どもにすりよってないところがイイ。モモンガさんとは反対の感想なんだけど、サービス精神のなさが気にいったの! これは、1987年の作品だから、ちょっと前のものだけど、今もとても人気があるのよ。家の近所の図書館でもよく読まれてる。その図書館は旧式だから、スタンプをみれば、何人読んでるかわかっちゃうの。幼年童話って、他のものとは全然違うジャンルなのよね。そして、絵本と物語の橋渡しとなる、とても大事な分野だと思う。基本的にアイディアの勝負なの。SFとか、ショートショートみたいな部分がある。書くほうにとっても、おもしろい分野だと思うわ。幼年童話って外国にもあるの?

オカリナ:あるんじゃない。I Can Read Booksとか、あるものね。

ウンポコ:擬音語・擬態語って作者のセンスがあらわれるとこだよね。とくに擬態語は造語できるしね。クリーニングがすんだお月さまが出てくるところ、「なかから、へにょり」ってなってるんだけど、うまい! と思った。オリジナリティがあるし、よく感じも出てる。手垢のついたような擬態語を平気で使うような作家もいるけどさ、困るんだよね。そういうの。寺村さんは、そのへん、ものすごく神経を使って、よく考える作家だから、その教えをしっかり受けついでるなーと思った。

モモンガ:ちょっとブラック入ってるよね。子どもってくそまじめだから、このブラックはわからないかも。最後、1000円返してもらえなかったことを、気に病んじゃう子もいそう。これ、そうとう自信もって書いてるでしょ。だから、惹きこまれちゃうのよね。これが、もし陳腐だったら、破綻してるね。

愁童:読むほうは、さらさらっと読んじゃうけど、作者はとてもよく考えてると思うんだよ。クリーニング屋のおやじも、いい味出してるよなあ。ふつう、お月さまが来店したら、うろたえそうなもんだけど、平然と「いらっしゃい」なんていってる。子どもにすりよらず、自信をもって書いてると思うね、ぼくも。作品としては、1000円返さないとこがいい。

ひるね:そこは、議論になるところよね。1000円って、子どもにとっては、たいへんなお金だし。ファンタジーって、どこか不思議な場所に行って、もどってきたらマツボックリを手にもってたとか、おみやげをもって帰ることが多いけど、これは、その逆パターンかもね。もって帰るんじゃなくて、もってかれちゃうの。

ウンポコ:お月さまが、「おまえを食べちゃうぞ」っていうのもおもしろいよな。

ひるね:シュールよねぇ。でも、子どもの中には、「これは嘘だよね。お話なんだよね」っていう子もいるでしょ。そういう子には、なんて説明するの?

ウンポコ:ナンセンスは、企画を通すのがたいへんなんだよ。えらい人のなかには、ナンセンスを解さない人もいるからね。こういうのって、感想文が書きにくい本だしね。

ひるね:1000円返してほしかったでーす、とか?

ウンポコ:お月さまが、悪いと思いまーす、とかさ。だから、読書感想文の課題図書には、入りにくいんだよなぁ。こういう作品は。

(2000年10月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)