『家なき鳥』
グロリア・ウィーラン/作 代田亜香子/訳
白水社
2001
原題:HOMELESS BIRD by Gloria Whelan, 2000(アメリカ)

オビ語録:全米図書賞受賞 貧しさゆえに13歳でお嫁に行ったインドの少女を待ち受ける思いがけない運命。よろこびと悲しみをキルトにつづり、けなげに生きるそのすがたは、読者に勇気と感動を呼びおこす

トチ:なによりテーマがおもしろいし、明るく、さわやかな感じがして、気持ちよく読めました。この明るさが『家なき鳥』のなによりの特徴だと思ったし、訳者後書きにもそう書いてある。角田光代さんが朝日新聞の書評で、この本の明るさは主人公の自尊心から来るものだといっていましたが、なるほどと思った。ただ、その明るさにある種の違和感を覚えたのも確か。時々、『大草原の小さな家』のローラが、インドに放り込まれたような感じさえして・・・インドの大地から立ち上ってくる匂いとか、湿気とか、熱気のようなものが、さわやかな風で吹き飛ばされてしまったような感じ。原文は、明るい散文詩のように書かれているのかしら。この本も、『炎の秘密』も、違う国の人が書いた異国の話。そういうものって、読むときにどうしても猜疑心を持ってしまうのよね。本当にその国のことが書けているの? なにかバイアスがかかっているんじゃないの? って。この本の場合、明るさがかえってマイナスになっているんじゃないのかな・・・っていう気がちょっとしました。

アカシア:明るさがマイナスっていうのは?

トチ:こんなに明るくていいの、ちょっと能天気なんじゃないの・・・と、ついつい疑ってしまうということ。

紙魚:私はその明るいのがいいなあと思いました。どんな厳しい状況でも、子どもは楽しいこと、幸せなこと、遊びをみつけていく。その希望があって、先へ読み進められました。それにしても、この『家なき鳥』と『炎の秘密』って、似てますよね。内容も重なるし、装丁の感じも共通するところがある。どちらも地味なつくりだけど、物語を読み進めさせる力がありました。あと、『家なき鳥』は刺繍だし、『炎の秘密』は服づくり。「手に職」って、人が自立していくにはとっても大切だなあと、しみじみ思いました。

:インドの貧しい物語って、『女盗賊プーラン』(プーラン・デヴィ作 武者圭子訳 草思社)などを読んでいたので、その印象が強かったの。この本では、お嫁にいった義理の父親がコンピュータのせいで仕事を失うという場面になって、やっと現在の話なのかと気づいて、びっくり。明るさについていえば、はぐらかされたような気もしたけれど、この子のもっている楽天的なところは愉快。2冊を比べれば『家なき鳥』のほうが好き。

アカシア:大地の匂いや温度、湿度など、わっとたちのぼってくるところはあったと思うの。ただ、たとえばp14「熱風にふかれて竹林がさらさら音をたてる」という部分があるんだけど、「さらさら」っていう日本語だとなんだかさわやかな感じがしちゃうのよね。この本は、インターネットの書評など見ると、リリカルな作品として評価されているんだけど、そのリリカルな部分が、翻訳でももう少し伝わってくるとよかったな。ところで、カースト制の中で上の階級のブラフマンは掃除も自分ではしちゃいけないなんて聞いてたけど、この子はなんでもやってますね。能天気ということでいえば、フィリピンのごみの山で生きているる子どもの映画を見ても思ったけど、逆に楽天的にしてないと生き抜いていけないんじゃないかな。ただ、けなげな少女が懸命に努力するとそのうちに報われて幸せになるという、昔ながらの「小公女」的な話というふうにもとれるわね。

:どちらかというと、私は『炎の秘密』の方が好きでした。私はキルトなど好きで、『家なき鳥』で、主人公の刺繍の描写が出てくると、わあ見てみたいなあと思いました。とても生き生きしたすてきな絵柄が刺繍されているんでしょうね。この少女、手に職があって、本当によかったですね。話は、悲惨な状況がずっと続きますが、少女の明るさとしたたかさには救われました。前に『ぼくら20世紀の子どもたち』というロシアのドキュメンタリー映画で、ホームレスの子どもたちにインタビューしてるのを見たんですが、少年たちは、明るくて元気なんですね。盗みなんかも平気でやるししたたかさも持ってて。何を支えに生きているのか、と考えたことを思い出しましたね。だから、このあっけらかんとした明るさは、違和感なく読めたんですが、義理のお母さんのいじめの場面や、ラージと結婚するところとか、女の人が意地悪なのに男の人がよく描かれていたりするのは、どっかで聞いたことがある物語だなあと思い、少し気になりました。

ペガサス:昔の名作ものとパターンが一緒なのよね。貧しくて、継母にいじめられて辛い境遇、でも助けてくれる人もいて、最後はお金持ちのご婦人の援助を得て幸せになるという話。場所が違うから感じにくいけど、昔からのよくある話。でも、そういう物語っておもしろいから、スタイルとして確立されているのよね。私も、この子が明るくて、意地悪をされたお母さんに対しても、本当に憎むというのではなく、ちょっとでも親切な言葉をかけてもらえるとうれしいと思ったりする、子どもの素朴で健気なところがよく出ているところがいいと思った。今の日本の子どもたちは、逆恨みしたり、キレたりという部分が描かれることが多いじゃない! 表現については、マーカマラの描写で、枕をいくつもあわせたみたいにまるまるしていたというのが、子どもらしくてよかったな。

ブラックペッパー:私も、おもしろいことはおもしろかったんですけど、あんまり言うことはないっていう感じ・・・。ハッピーエンドでよかったねー、でも最後再婚するのは、つまるところ幸せとはそういうことかー、なんて思っちゃった。明るいし、能天気で、あっけらかんとしているところは、たしかに心地よいんだけど、実際は、初めて会った死にそうなだんなさんに、あんなふうにさっとやさしくできるのかな。私にはちょっと無理そう。

アカシア:それは環境が違うからじゃない。初めて会おうが病気だろうが、新しい家庭環境の中で生きていくしかないんだろうし、そう教えられてきてるんだろうからさ。

愁童:初めて会っても、相手に関心をもったりすることはあるんだと思うけどな。ぼくは自然に感じた。今回の3冊の中ではいちばんよかったですね。ホッとする読後感があった。最近の日本のものって、心のひだを掻き分けて顕微鏡で覗くみたいな、ややこしいのが多いじゃないですか。そういうのに比べるとホッとする。子どもに読ませる本て、波瀾万丈でハッピーエンドで単純なのが案外大事な要素じゃないかって、これ読んで改めて思いました。生きがいとかいうようなことじゃなくて、母親から教わった刺繍が生きていくバネになってるのも、ああ、いいなぁ、なんて思っちゃった。

:どうして女の人をしばる制度を男の人はつくるんだろうね。

アサギ:私はこの本、とっても好きでした。インドのことってあんまり知らないけど、まず、カルチャーショックという意味で、すごくおもしろかった。13歳で顔を知らずに結婚して、持参金がどうのこうのっていうのも、てっきり昔のことだと思ってたのね。途中で、現代のことだとわかって興味深かった。作品としても、明るさがいいなあと勇気づけられた。明るくて前向きに生きていく話って楽しい。翻訳も私は気にならなかったわ。結局『炎の秘密』もそうだけど、主人公が知的な要素に目覚めるっていう定石が昔からありますよね。『若草物語』とか『赤毛のアン』にしてもそう。女性の地位が低い国においては、そういう方向に向くのは自然。しかも、手に職、芸は身を助けるというのもリアリティがある。子どもが読んでも得るところがあると思う。文化が違えば、結婚というのも違ってくるはず。最後はハッピーエンドとはいっても、自分で愛した人との結婚だから、「なんだ結婚か」というお定まりとは違うと思う。p136でも、ラージが結婚を申し込んでも、仕事を続けたいからと主人公が迷う。「家がぴかぴかじゃなくても〜」っていうところも、新しいインドの行き方じゃないかしら。ただね、ラージが登場したとき、あまりにも描写がていねいだから、あっ、この人と結婚するんだって、私わかっちゃったのよ。それと、いじめるお義母さん。彼女に対して、弟のところにいってもうまくいっていないに違いないって思うところなんかもいい。彼女もひどいっていうより、気の毒って感じよね。

すあま:こういうのって、かわいそうな女の子として描くやり方もあるんだろうけど、主人公の描き方がからっとしているところが救われている。終わり方もハッピーエンド。本としては、図書館などでは、児童書としてではなく一般書として置くことを勧めているみたい。異文化だけれど、難しくないし、とても読みやすいのに。ヤングアダルトっぽい感じなのかな。

トチ:表紙の感じが大人っぽいからかしら。

ペガサス:小学校高学年くらいに向くものが少なくて、ヤングアダルトばかりになってしまうなかで、一見大人向きだけど、子どもも読めるっていうのはいいわよね。出版社が白水社だからということもあると思うけど、図書館で機械的に大人のほうに置かれるのは残念。

すあま:こういう本って、本屋さんとか図書館ではすぐに手にとりにくいから、書評とか紹介とかがないとね。

(2002年02月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)