『駆けぬけて、テッサ!』
K.M.ペイトン/著 山内智恵子/訳
徳間書店
2003
原題:BLIND BEAUTY by K.M. Peyton, 1999

オビ語録:炎の激しさで一頭の馬を愛しぬいた少女の青春。/カーネギー賞・ガーディアン賞ダブル受賞作家の意欲作。

愁童:おもしろかったです。でも、『運命の馬ダークリング』(掛川恭子/訳 岩波書店)とよく似た設定で、ちょっと同工異曲かなって感じも……。テッサが良くかけていて、共感して読みました。ただ、他の人にあまり筆を割いていないので、義父は悪い人、テッサの周りはいい人、みたいな単純な図式になってしまって、水戸黄門的安心感で読めるんだけど、やや物足りない感じもありました。

:おもしろくて、ノンストップでした。最近「シービスケット」という競馬馬の映画を観たし、ハルウララの人気のこともあったせいか、、競馬界の物語としてもおもしろく読めました。日本とイギリスでは競馬に対する思い入れが違うんだなあと思いました。テッサは手におえない女の子だけど、そこに至るまでのところがあまり伝わってこなかったのは、愁童さんがいわれたように親の書き方が弱かったからからなのかな。物語の真ん中でテッサが義父を刺すという展開はショックだった。義父が最後まで嫌われ者の嫌な奴に描かれているのは、作者が馬をとっても愛していて、こういう人はよほど許せないのでしょうね。テッサとピエロの関係がとても良いし、ピエロが魅力的でした。

すあま:ペイトンの本は好きで一通り読んでいます。どれも馬と気性の激しい女の子が出てくる成長物語なんですね。楽しく読みましたが、同工異曲という感がなくもない。馬の世界とそこで生きる人々の魅力なんでしょうね。これまでの本と比べると、テッサがあまり成長したとは感じられなかった。この作家の作品の主人公はエゴが強い場合が多いのだけれど、テッサにはあまり共感ができなかった。ペイトンはドラマ作りがとてもうまくて波乱万丈なのだけれど、この作品ではテッサの気持ちの変化があまり感じられなくて。

アカシア:私はすごくおもしろかった。登場人物も、テッサの義父を除けば、それほどステレオタイプだとは思わなかった。わたしが何に気持ちを寄せて読んだかというと、ピエロになんです。相棒のポニーがいなくなったり、独り放置されたりというときのピエロの気持ちが、ひしひしと伝わってくる。人間と同じような感じ方ではないということも、ちゃんと書かれている。『運命の馬ダークリング』より馬の気持ちが良くかけていて、作者の馬への深い思いもよくわかった。原題のBlind Beautyも、Black Beautyを下敷きにしてるわけだから、馬が主人公の物語なんでしょうね。

愁童:前の作品では主人公が時代に風穴をあけるように積極的に社会に挑んでいく女性として描かれていて、そのきっかけが馬だったんだけど、これは、歪んじゃった女の子が立ち直っていくきっかけが馬なんだよね。その違いが出てくるのかもしれませんね。ピエロを、見てくれの悪い馬として描きながら、読者の共感をこれだけ誘う作者の筆力はすごいなって思いました。

むう:ペイトンは、「フランバース屋敷の人々」のシリーズ(岩波書店)も愛読していましたし、今回の宿題の3冊の中ではいちばんおもしろくて、駆り立てられるような気分で読みました。すごい迫力でしたね。でも、袖の内容紹介に「刃物を手に」とあるのを読んじゃったせいで、ずうっと、「ええ、いつ刃物が出てくるんだろう。どうなっちゃうんだろう」ってはらはらして、息苦しくて……。児童文学だからひどい終わり方はしないだろうなあ、というのだけが頼みの綱という感じでした。でも、テッサが自分で周りの人たちにはじかれるようにはじかれるように、嫌われるように嫌われるように動いていくあたりはとてもよくわかったし、説得力があると思いました。夢中にさせるだけのうまさがあって、迫力があって、堪能した!という感じです。
でも、読み終わってちょっと引いて見てみると、最後のレースに勝つところは出来すぎかな?とも思う。ラブストーリーがあるあたりを見ても、ペイトンって実はかなり古典的なのかな、と思いました。馬に関することがたくさん出てくるんだけれど、それが説明に終わっていない。読者に読ませちゃうところがすごい。まあ、強いていえば夢物語という気がしなくもない。だって、かなりお金のかかる目の手術もうまくいって、グランドナショナルにも勝っちゃうんだから、ちょっとやりすぎかな。でも、ほんとうに力のある作者で、ピエロの目から見た書き方もよかったです。

カーコ:ぐいぐいと読ませる力がすごいですね。圧倒されました。テッサとピエロの二つの筋で、ひっぱっていくんですね。競馬のシーンも、息づかいや匂いまで伝わってくる感じ。迫力があって読み応えがありました。日本の作家も頑張ってほしいなあ。テッサが両親を、そのような人としてそれぞれに認めていくところも、成長がうまく描かれていますね。

むう:テッサはかなり小さいときから、家庭が安定していなくて無理やり自立せざるを得なくなっているんですよね。夫婦げんかから逃げるようにして馬屋で過ごしたり。だから、途中で出てくる母との突き放したような付き合い方も、十分納得がいきますね。

愁童:厩舎の中の人たちを、もうちょっと膨らませればいいのにねえ。出てくる人たちは十分に魅力的なはずなんだけど。でもテッサとピエロが良くかけているからいいのかな。

むう:最後のレース後のピエロの描写がとてもうまい。ピエロは自分が大レースに勝ったこともわかってないし、何がどうなっているのかもわかっていない。でも、自分にひどいことをしたためしのない人たちに囲まれているから、これで大丈夫なんだろうと感じているっていうのが、なんかすとんとこっちの心に落ちました。人間は大騒ぎしているけれど、実は馬ってこうなんだろうなって。途中のピエロが一頭だけ野ざらしで牧場に放置されるところもですが、こういうのを読むと、人間と関わる動物のある種の無力さとか、動物を飼う側の人間の責任なんかも考えさせられますね。

(「子どもの本で言いたい放題」2004年3月の記録)