『ブループリント』
シャルロッテ・ケルナー/著 鈴木仁子/訳
講談社
2000.09
原題:BLUEPRINT by Charlotte Kerner, 1999

版元語録:不治の病に冒されたピアニストのイーリスは、自分の才能を永遠のものとするため、クローンの娘スーリイを生む。親子であって双子でもある二人の蜜月はやがて去り、スーリイはコピーではない自前の生を求めはじめる-。

アカシア:ドイツ人は、クローンの問題が好きなのかしら? これも、『パーフェクトコピー』もドイツの作品ですよね。設定はおもしろかったんだけど、娘と母親というだけでも思春期は大変だと思うのに、娘が母親のクローンという設定だから、なおさら大変。しかもドイツ人だから、感覚的に反応しあうというより、議論しちゃう。読んでて息苦しくなっちゃった。言葉でぐいぐいつめていこうという作者のエネルギーに感心はしましたが、やや食傷気味。あなた=わたし、わたし=あなた、わたし=彼女=わたしたち、の関係がくり返し出てくるんだけど、「もうわかったからいい」という感じ。それから、エピローグに架空のデータを出してノンフィクションっぽくしてるのも、意図がよくわからなかった。しかも、この最後のほうに「クローン人間の数はふえているが、わたしたちの数をこえて暴走するようなことはけっしてないだろう。自分を複製する許可は、ドイツでは生殖可能人口の0.32パーセント内におさめることになっている。これは、一卵性双生児の自然出生率にあたる。自然が望んだ遺伝的多様性は崩れない」って書いてあるけど、これ単純に変ですよね。だって、自然の一卵性双生児とクローンを会わせたら倍の数になって自然の摂理を崩すわけだからさ。
名前は、母親がイーリスで娘がスーリイというのは、日本語で読んでるかぎり意図は伝わるんだから、わざわざアルファベットでIRIS、 SIRIとルビを振らなくてもいいのにね。
考える材料は提供してくれるけど、楽しい本というのじゃないですね。

愁童:僕はドイツ人の作品にしては、論理に整合性がないと思った。141pに「16歳なのに32歳のイーリスの人生を丸ごと受け継いでいた」とあるが、これは変だ。クローンといっても、細胞分裂をして成長していく事をきちんと書いているのに、16歳の少女に、32歳の女性の人生経験が、そっくりコピーされているという設定にするなら、その根拠もきちんと書いて欲しい。クローン=コピーみたいな思い込みに足をすくわれているような気がした。クローンと一卵性双生児を比較するというのもよくわからない。双生児なら同じ時間を並列に成長していくわけだけど、この作品では親子として、全く異なった直列的な時間を生きているわけだから、似て非なる部分にきちんと目を向けて、そこを書き込んでくれないと、クローンだから何でもありみたいな雑な感じを受けてしまう。

:クローンとして生まれた子が、親に反発していくという設定の作品は、初めてでした。憎しみや苦しさばかりが突き刺さって物語として楽しめなかった。息苦しかった。

すあま:今回の本を読むまで、クローンというのは親子のイメージだったのですが、双子を作るという感じなんですね。この本では、親子だけど双子でもある、という新しい設定なので、最後はどうなるのかということが知りたい一心で読みました。でも、作者はクローンを肯定していないから、主人公は苦しむばかりで楽しく生きられなかったのだと思う。57p「メディクローン」「エゴクローン」は、一般的な考え方なのか知りたい。メディクローンでも、結局はエゴクローンということにならないのか。この本も、「クローンをどう考えるか」というテーマではなく、子どもの心の成長にスポットを当てた方が、もっと興味深かったと思う。出版年を考えると、まずは「クローン」という問題を読者に突きつけるだけで終わっても仕方ないとは思うけど。

ケロ:現状として、「クローンが、是か非かが問われている」中で、本の中でクローンの結末をどのように描くかというのは、とても難しいと思います。だって、「クローンを認めてしまう」と「クローンを肯定してしまう」ことになりますもんね。だから、クローンの主人公は、ハッピーエンドにさせられない。作者は、本の中で登場人物に悩ませるしかない。結末も、ここに持って行くしかないのではないでしょうか。

みんな:ストーリー自体、「クローンを認めてしまうと、こんなに大変なことになっちゃいますよ」という流れになってしまうんだよね。

むう:なんかしんどい本でした。この子、ものすごく突っ張ってるんですよね。中ほどでも、「ふつう」のみなさん、どうしてわたしを怖がるの?みたいな文章があって、いかにも自分は違うのよというとんがった感じがするし、お母さんの葬式のときには、自分を作り出した博士につばを吐きかけるし、最後の芸術作品だって、とっても攻撃的。なんかつんけん、つんけんしているのばかり見せられて、げんなりしちゃった。
最近、自分のペットが死んで、かわいがっていたペットのクローンを作ったという話がありましたよね。その延長として、自分の子どもが死んで、その死が受け入れられずに子どものクローンを作るというケースが考えられるんだろうけれど、それだって十分エゴイスティック。そもそもクローンを作ることがエゴイスティックなんだろうな。けど、このお母さんにはそれよりもっとすごいエゴを感じちゃった。自分の才能を愛して、自分を永遠にしたくてクローンを作っちゃうみたいな感じでしょ。そもそも動機がとんでもなくゆがんでるし、まあほんとうに嫌な人。そのクローンだから、この子も猛烈に自我が強い。それでもってお母さんとの関係がゆがんでるから、性格がどんどんとんがって攻撃的になる。しんどい人間同士が正面からぶつかるのにつきあわせられるから、読んでいる方はひたすら疲れる。設定からしてゆがんでいるから、楽しくなりようがないんだよね。そのうえ、どうしてもクローンでない母と娘の間にも存在する葛藤が重なってくるから、もうひたすら重い。母と娘の間の葛藤をクローンという題材をかりて語ったというわけでもなさそうだし……。あと、この子が親から離れようとして、乳母さんの息子のところに転がり込むでしょ。それはそうするしかなかったんだろうとも思う。でもね、そこから親のところへいったり来たりしてて、別に独立して自活するわけでもない。結構勝手な子なんだよね。とにかく主人公が魅力的じゃなかった。

アカシア:登場人物にもう少し感情移入できるようになってれば、もう少し違ったのにね。

むう:なにしろこの子、怒ってばかりだから。そりゃあ、つらさはよくわかる。わかるけど、もっと切ない部分も見えないと、読む方はうんざりして、ついていけなくなっちゃう。乳母さんの息子さんとの場面は感じがいいと思ったけれど……。

ハマグリ:児童文学の中では「自分とは何なのか」「自分は何になりたいのか」という自分探しをして成長していくものが多いのに、この話は、最初から「自分とは何か」がわかった上でストーリーが進んでいくのがおもしろいと思った。娘の中に自分を見る、あるいは母親の中に将来の姿を見る、というのは、普通の親子関係にもあって、ひじょうにデリケートな部分だと思うけど、クローンだから全部同じということで、そのデリケートな部分が何から何まで極端に描かれるので、読んでいて苦しくなってきた。母親も、おばあちゃんとうまくいってなくて、おばあちゃんにしてみれば、娘の育て方を間違えたわけでしょ。それを今度は娘と孫でもう一度見せつけられるところが、ぞっとするほどイヤだった。それから、音楽というものが何の助けにもなっていないのは残念。乳母とその息子の存在は、唯一人間的なものを感じさせるので、この二人とのつながりから何か見いだしたりするのかとも思ったが、そういうこともなく救いがない。最後まで化けもので終わるのが残念だった。

愁童:遺伝ですべてが決まるわけじゃないんだから、環境によって違ってくるというところをもっとふくらませて書いてくれればもっと良かった。

ケロ:「もし、クローンが存在したらどうなるのか」という部分がおもしろいのに、そこの想像力が貧困だと思った。母と子の確執のところ、母の恋人になりすますところなどは、おもしろかったので、いっそのこと、ホラーにしちゃったら、おもしろかったと思う。でも、そうはいかないまじめな作者なんでしょうね。あと、疑問だったのは、母親は、病気で死ぬ運命にある。だから、クローンを作ったはずだけれど、クローンの娘も同じ原因で死ぬ危険性は大きいはず。その部分について、実行に移す前に、母親があまり逡巡していないのがふしぎだった。

すあま:最後に、実は母親もおばあちゃんのクローンだったということになっていたら、おもしろかったかも…?

(「子どもの本で言いたい放題」2005年1月の記録)