『だれかののぞむもの』 (こそあどの森の物語7)

岡田淳/著
理論社
2005.02

版元語録:こそあどの森のみんなに,バーバさんから長い手紙が届きました。「フー」という名前のふしぎな生き物がいるらしいのです。

愁童:先月の2作と作品の構造が似ていて、またか、という感じで読んだ。他人が望むとおりにかわっていくことなんてつまらないよという、作者のメッセージは分かるけど、作品としては物足りなかった。『魔空の森へックスウッド』もそうだけど、舞台装置は面白いけど、役者が芝居をしていないドラマを見せられているような気分になってしまう。

紙魚:『オオカミ族の少年』の舞台は、まるで実在の森のような湿度や匂いが伝わる、いわばリアリズムの森の延長上にひろがるファンタジーの森。それにくらべて、この物語の舞台は、作者がつくった箱庭的な森。中学年くらいの人たちが安心して歩きまわれるのではないかと思います。他人が望むままに変じていくフーという存在を見せられて、読者は自分自身におきかえて考えてみるという作業もできそうです。そうしたメッセージ性をそそぎこむ、作家の思いのようなものを感じられてよかったです。こうした低年齢の人たち向けの童話って、このところ書く人が少ないので、応援したい。

アカシア:この巻だけを読むと、物足りない感じというか、よくわからないところがあるかもしれませんね。スミレさんとギーコさんがキスする場面なんかも、それぞれの登場人物がもつ背景がもっとわかったほうが、面白さが増しますよね。1巻目を読むと、それぞれの人物の特徴づけとか、物語世界の背景がよくわかります。でも、この巻だけ読んでも、謎でひっぱっていきながら物語の面白さでも読ませるという、そのブレンドの具合が心地よいと私は思いました。挿絵は、岡田さんがご自分で描いているのですが、これは、どうなんでしょう?

紙魚:背景は丹念に描きこんであるのに、キャラクターは単純な線。かなり変わっていますよね。

アカシア:ほかの人の挿絵でも読んでみたいな。かなり違う絵になるかもしれませんよ。これはシリーズの7巻目ですけど、どれもそれなりにひっぱっていく力があるので、ずっと続けて読んでいく子どもたちも多いんじゃないかな。小学校中学年くらいの人が読む本は少ないし。

紙魚:今回の話って観念的ですよね。でもこれまでの巻で、ある程度具体的な説明が積み重ねられているので、作者も安心して観念的になれるのかもしれません。

うさこ:初めて読みましたが、面白かったです。読んでいる途中、居心地のいい空間にいられました。争いや戦いなどが起こらない、いわゆるユートピア的な場所とユニークな登場人物、おもしろいカップリングで、しずしずとつづっている物語。少しも嫌な気持ちがせず、「心地よさ」という余韻を残してくれました。。香草のことなど、大人向けのテイストが入っているんだけど、変にメルヘン的でもなく、小学生向きということを強く意識したものでもなく、作家が自分だけの世界で遊んでいるわけでもなく、そこが読み手に心地よいのかもしれないと思いました。最後読み終わったら、予定調和的だとは思いましたが、このシリーズを読んでいる人はそれがよいのではないでしょうか。晴れた日に、外で読むのもいい。タビトの口調がまるで日本の武士のようで、イラストの雰囲気とギャップがありました。イラストは「上手な絵」という枠には入らないと思うけど、自分の描こうとしている世界をきちんと読者に伝えようとしている、「誠実な絵」だと思いました。

アカシア:タビトの言い方は、テレビで時代劇見てる子どもには、この人はほかとは違うしゃべり方だって、すぐわかりますよね。

紙魚:中学年くらいの読者には、ちょうどいいのでは? 私は全体をとおして、適度な不親切さを感じました。前半では、森の住人たちがそれぞれ、会うはずのない人に出会うという独立したエピソードが続き、バーバからの手紙が届くところではじめて、それらのエピソードが束ねられていく。前半で何もかも明るみにしないで、ゆっくりと読者の想像力を泳がせてくれるところが、よかったです。ふつうの言葉をつかい、やたらと飛躍することもない。むやみに凝ってないところがいいんですね。

トチ:初めて読んだのですが、登場人物が老若男女それにトマトあり、ポットありと工夫されていて、きっと子どもは楽しんで読むだろうなと思いました。初めてこのシリーズを、しかも途中の巻から読む私にとっては、ちょっとお説教くさい話が続いている感じがしたのですが、ほかの巻もそうなのでしょうか? こういうものって、テレビの連続ドラマのように、登場人物が一度しっかりと読者の心のなかに入りこんでしまうと、次からは「あのひと、どんなことしてるのかな?」という興味で、どんどん読みすすめることができ、また次の巻、また次の巻ということになるんでしょうね。ですから、続刊のストーリーは、あまり大事ではなくなるのかも……と思ったりもしました。あんまりよく言えませんが。森ということに関しては、『オオカミ族の少年』のほうが戦わなければならない森であるのにくらべ、こっちは自分の世界を守ってくれる森。グリムの森ではなく、ぐりとぐらの森ですね。

アカシア:小学校の先生をしていた作家なので、子どもが何がわかって何がわかっていないという頃合いをちゃんと知ってるんですね。

(「子どもの本で言いたい放題」2005年11月の記録)