ベアトリーチェ・ソリナス ドンギ 『ジュリエッタ荘の幽霊』
『ジュリエッタ荘の幽霊』
原題:IL FANTASMA DEL VILLINO by Beatrice Solinas Donghi,1992
ベアトリーチェ・ソリナス・ドンギ/作 エマヌエーラ・ブッソラーティ/絵 長野徹/訳
小峰書店
2005.07

オビ語録:忘れられないあの夏… 第二次世界大戦末期、母親の田舎に疎開していたリッリ。北イタリアの小さな村でみつけた秘密と友情。

エーデルワイス:ユダヤ人の女の子をかくまって、それを他に知られないようにするというストーリーで、主人公ほか子どもたちはすべてを知らされていませんが、リッリの母親もよくわかっているし、村全体がパルチザンをかくまっているという設定。イタリアでもこのようなナチスへの抵抗運動があったのか、と勉強になりました。とても引きつけられて読んだ。いい作品でした。

ケロ:これは、過去の戦争の話ですね。でも、日本と違う事情のある中での戦争ということで、日本の戦争の話には嫌気のさしているような子でも、結構新鮮に読めるのではないでしょうか。ただ、パルチザンとドイツ軍の関係がちょっとわかりにくかったり、陸続きに国境があるということもわかりにくいかも知れない。まわりのおとなたちも、こわいと思っていた人が実はパルチザンをかくまっていたり、勇気ある行動をとっていたことがわかるなど、信頼できるいい人として描かれているので、安心して読むことができるますね。

ミッケ:この本をイタリア人の子が読んだら、自分たちが住んでいるところで起こったことでもあるし、ナチスと一緒に戦争を起こしてさっさと降伏しただけじゃなくて、イタリア人だってパルチザンとして抵抗もしていたし、このおじいさんみたいな反骨の人もいたんだ、ということがあらためてわかるから、とても楽しめると思う。ただ、日本の子はイタリアの歴史を知らないから、そのあたりで、ちょっと距離があるかなと思いました。そうはいっても、この子がしゃべっちゃうんじゃないかとか、ハラハラするところもあるし、主人公にとっては見えていないさまざまな謎もあるしで、おもしろく読ませる本だと思います。主人公の女の子の一人称で書かれているにしては、ちょっと堅めかなとも思ったけれど、昔の話だということを考えれば、やむを得ないかな。子どもを一人かくまっていて、その子どもを隠すために、もう一人の子どもを家に通わせるというあたりは、うまいことを考えるなあと、感心しました。イタリアの子に向けてイタリアのおとなが書いた、心のこもった作品という感じがします。

げた(メール参加):タイトルから受けた最初の印象と内容の深刻さのギャップがおもしろいと思いました。時間的には短い間の出来事なので、分量的には少々あっけない感じもしました。

アカシア:イタリアが降伏したころのドイツにはイタリアに侵攻する余裕などなかっただろうと思っていたので、意外な事実を知らされましたね。ほんとうに幽霊はいるのだろうか、という謎が仕掛けてあって、おもしろく読めます。ユダヤ人に対する迫害は、日本の子どもたちもよく知っていると思いますが、パルチザンについては、本文の中で、もう少し補ったらさらにわかるようになったと思います。みんないい人だったということがわかる終わり方も、ホッとできていいですね。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年12月の記録)