『チームふたり』
吉野万里子/著 宮尾和孝/絵
学習研究社
2007.10

版元語録:ぼくは,卓球部の部長。小学生最後の大会をひかえ,市のベスト8に残りたいと思っていた。しかしダブルスの相手は後輩だった。

たんぽぽ:働くお母さんは、今たくさんいるので、専業主婦の母親が働くことと、貧しさがつながるかなと、ちょっと思いました。それから、チームメイトの靴を心配して、子どもが自分のお小遣い出すかなっーて。

マタタビ:小学3年生に読めるのかなと思ったら、2日で読んできた子が2人いたので、字の大きさ、読みやすさの点から、確かに中学年から読める作品だと思います。ただしリアル感の問題はいろいろあるかなと思いました。小学校のクラブは週で1時間程度ですから、ここで描かれているクラブは、特別クラブと言われているものでしょうか。でも、作者が伝えたいことは、読み慣れていない子にも伝わっていました。ストーリーや人物どうしの関係が整理されていると思います。うーん、最後の、靴を買ってあげてほしいとお金を届けるところはやりすぎかなとは思いましたが。女子が抱えている問題については、どうして女子の中で話し合わなかったのかなと思いました。そういった点で、確かに細かいところを見るとどうなのかなと思うところもありますが、作者が「チームふたり」という言葉にこめて届けたいと思った気持ちは、子どもに届いたと思います。分量もこのくらいのものならば、最後まで集中して読めると思います。子どもたちが、こんなふうになったらいいなとか、こんなことを考えながら生きていくのが大事なのかなと思える本だと思います。

メリーさん:楽しく読みました。キャラクターの中では、お母さんが意外でおもしろかったです。中学年向けの読み物は、低学年の絵本、高学年の読み物と違い、読者の集中力が続く時間が限られているので、どうやったら読者を楽しませることができるかといつも考えます。おもしろくて、キャラクターが立っていて、しかも無理のない設定というのはとてもむずかしい。マンガなら多少の矛盾や破綻があっても、キャラクターに力があれば読めてしまいますが。この本は、きちんと人間を描こうとしていて、おもしろくしようとしているのがわかります。ただ、キャラクターの数はしぼってもよかったかも。表紙の絵がとてもいいので、目にとまると思います。

ハリネズミ:この作家は、文章、とくに会話にリズムがあっていいなと思いました。ただ内容的には、中学年くらい対象だと文章量が限られるので、そのなかでまとめるのは難しいとは思うけど、本のおもしろさが、ゲームのおもしろさやマンガのおもしろさに勝てるように、もう少しがんばってほしいな。最近はマンガを映像化してそれをまたノベライズしたような感じの作品が多くて、これもそんな感じがします。本ならではの世界を味わえるような作品がなかなか出てこない。この作品は今年の課題図書ですけど、キャラもステレオタイプだし、リアリティも弱い。いろんな人間を描こうとしてる努力はわかるんです。でも、7時に帰ってくるお母さんがお弁当屋の「残り物」をもらってきたり(お弁当屋さんって、普通もっと遅くまで開いてるから7時に残り物なんかもらえないんじゃないかな)、これほどまじめなお父さんが毎晩酒飲んでクビになったり(このお父さんのキャラだったら、翌朝の勤務があるのにそう毎晩お酒は飲まないでしょう)、純が自分の小遣いで大地に靴を買ってほしいと言いにきたり(大地が嫌がるはずだけどな)……えっ、そんな設定や展開でいいの? と思ってしまいました。感想文を書けるポイントはいくつもあると思いますが、子どもはこれを読んでちゃんと深く考えられるんでしょうか? それとも、中学年くらいが対象なら、これでいいんでしょうか? 私も小学生のころは、リアリティがそれほどきっちりしていない作品をおもしろく読んでいたのを思い出すと、これでいいのかな、とも思うし。その辺が、よくわかりませんでした。

ミラボー:『ゴールライン』とくらべると、家族でいつも行く宿があって、そこで卓球をやっていたのが、卓球に打ち込むきっかけになっているというのは、納得できます。たまたま荻村伊智朗の生涯を書いた『ピンポンさん』(城島充著/講談社)を読んでいて、卓球の試合の様子の描写を読み比べてしまいました。『チームふたり』は、子どもが読むにはこんなものかなと思いました。後輩との組み合わせで悩んだり、家庭のゴタゴタがあって苦しんだりしながら、最後には希望を持たせている点がいいと思います。高学年の課題図書なんですか? ちょっとそれは合わないような気がします。

マタタビ:中学年でもいいですよね。

ミラボー:前向きな、いい方向に話が進んでいくというのはいいけれど、深みはないですね。

ウグイス:この本も『ゴールライン』と同じように、本を読み慣れていない子どもに薦められるかな、と思って選びました。何といっても、外国ものより設定が身近で読みやすいという点がいいと思います。スポーツものといっても、ただ頑張って勝つというだけではなく、主人公が家庭内のことでも、女子部の問題でも、いろいろ周囲のことに気づきながら進んでいく様子が書かれていて、興味がもてると思います。ダブルスで組みたかった相手と組めなかった悔しさもよくわかるし、不本意なチームだったけれど、その子の良さもだんだんにわかって、最後にはいいチームに成長していくのも、わかりやすく納得できる。
あと、装丁がとてもよくて、おもしろそうだなと思わせるし、目次のデザインや、章の頭のピンポンのデザインもしゃれている。同年齢の子どもたちは、結構おもしろく読むんじゃないかな。ただ、皆さんがおっしゃったように、純が新しいシューズのお金を持ってくるというところは、そんなことをしても大地が喜ぶわけないとわかりそうなものなのに、と不自然に思いました。ところどころ問題はあるにしても、5年生のふつうの男の子をとりまくいろいろな問題をちりばめ、飽きさせずに先へ先へと読めるように書けているし、読後感も良いので、薦めたいと思います。

みっけ:さくさくと読めたのは読めたんですけれど、お母さんが専業主婦でお父さんがクビになって、というところで、え?と思ってしまって。あまりにも作り物めいているというか、なんというか……。それと、女子部のエピソードがいまひとつしっくりこなくて、とってつけたような感じがしました。さっきから皆さんのお話を伺いながら、この女子部のエピソードなしでは、ほんとうにこの話は成立しないのかなあ、と考えていたんですが……。年齢によって、書き込みすぎると対象とする読者層の力量を超えて、本来の読者層に届かなくなるということは理解できます。だから、この読者対象だと、それほど深みがあるという感じにならないのは致し方ないのかもしれない。そう思ったりもするのですが、やっぱり少し物足りない。それと、さっきさくさく読めた、と申し上げたんですけれど、唯一、三人称の「彼」にはひっかかりました。テレビでけっこう力作と思われるドラマのセリフに、太平洋戦争時の設定であるにもかかわらず、執事が若主人をさして「彼は」という台詞があったりするのを考えると、こういう本で使ってもおかしくないというのが今の流れなのかもしれないけれど……。30年くらい前までは、日本語で「彼、彼女」というと、たとえば恋愛関係にある相手を指すような、かなり思い入れのあるというか、特殊な言葉だったように記憶しています。それに、元来日本語では、三人称の人称代名詞をそれほど使わないという印象があります。誰かを指すときも、名前や人称代名詞を使わず、役割や役職といったもので代用することが多いように思うんです。「彼」といわれると、もったいをつけたというか、しゃっちょこばった感じになる。そういう印象があるので、子ども向けの本に「彼」が出てくると、あれ?と思ってしまう。こちらの感覚が古いのかもしれませんけれど……。

ジーナ:全体の構成とか、本づくりがいいと思いました。ちょっと納得できない部分もあるんですけど、主人公がパートナーの5年生の子のことや、お母さんの知らなかった部分を発見していくとか、今まで見えていなかったところが見えていくのがおもしろかったです。でも、文章がひっかかっちゃったんだなあ。59ページ7行目「『やった!』好物なので、大地は大声をあげた。」とあるんだけど、「やった!」で好物なのはわかるので、説明過多かな。ちょこんちょこんと、そういうところがありました。あと、小学生の子が、友だちに自分のお父さんのことを話すのに「おやじ」って言うのかな。ふざけて「父ちゃん」とかは聞くけど、「おやじ」って使いはじめるのはもうちょっと大きくなってからじゃないかな。

ミラボー:言う子もいるかな。

ジーナ:あと、最後が試合の途中で終わるから、成功しちゃったという嘘っぽさがありませんよね。最後がひらかれているのがよかったです。

ピョン吉(編集担当者):この作家さんは、『秋の大三角』(新潮社)で石田衣良氏が審査する新潮社エンターテインメント新人賞を受賞されました。児童書は初めてだったのですが、ご本人がずっとされてきた卓球を舞台に、友情や家族など、「ふたり」という組み合わせを描きたい、というところから始まっています。主人公と後輩の純、女子部の部長と副部長、父と母。うまくいく「ふたり」もあれば、平行線の「ふたり」もある。いずれにしても、努力を重ねたり、一方のことを思いやったりする気持ちがとても重要なのだと思います。その辺が、うまく伝わるといいなあと思いますね。先ほども出ましたが、スポーツ物をおもしろく描くときにスポーツシーンをどれくらいの割合入れるかという話ですが、ここでは、卓球をしていない子も楽しく読んでもらえるように調整した経緯があります。一部、ネットで「この作者はあまり卓球のことを知らないのでは?」などと言われてしまったようですが(笑)、そんなことはありません。でも、スポーツの上達の過程で、出来なかったことが出来るようになるというのは、読者にとって「快感」だと思うので、その辺は大切にしていきたいですね。

ジーナ:ラケットを見にいって、プレースタイルを探るというのは、へーと思いました。

ピョン吉:画家の方も卓球経験者で、細かいところまで目配りをしてもらいました。目次や中ページは、デザイナーさんもアイデアを出してくれたんですね。「『チームふたり』チーム」という感じで、本作りもおもしろかったです。

マタタビ:この本は、家の人と家族について話し合える本だなと思ったんです。家庭での読書の意義という点で考えると、家族にこんなことが起こったらどうする? とか、ストーリーにリアル感がないゆえに一種の抽象性みたいなところあって、かえって自分の問題として話がしやすいかもしれない。子どもたちで完結している物語ではなく家族の問題をからませることで、家族で読める可能性をもった本になったのでは。だれでも手にとって読めるという分量もいいと思います。

たんぽぽ:誠実なお父さんは、報われてほしい……。どんな形でも、特に小学生には、なんか納得できる、心におさまる、終わり方であったらいいなと思います。

ピョン吉:最近の児童文学では、「パーフェクトペアレンツ」という像がかなりくずれているので、これはまっとうな方の親かなと思いましたが。酒気帯びで自主的に辞めるというのも、実際の事例があったんですね。

ハリネズミ:そういう事例はもちろんあるでしょうが、事件があったときにこれほどまじめに対応しようとするお父さんが、クビになった同僚を心配するあまり毎晩酒浸りになり、その結果朝の検査で不合格になるなんていうのは、どうなんでしょう? 同じキャラとは思えない。私の中ではイメージが乖離しちゃってます。

マタタビ:大人はリアリティを読みますが、子どもたちは、筋とか流れを見ていくことが多いと思います。ある意味の抽象性というのも、どの子にも多少あてはまるといった共感性があるというのが強いですね。

ハリネズミ:小学校中学年のあまり本が好きじゃない男の子には、学校では何を薦めるんですか?

マタタビ:科学読み物ですかね。福音館書店の「どきどき自然シリーズ」とか。科学の秘密をわかっていくのは楽しい。「学校の怪談」とか「怪談レストラン」とかは、薦めなくても読んでいますから。本が好きな子は、少し部分的に読み聞かせたり、紹介すると「トガリやまのぼうけん」シリーズ(いわむらかずお作/理論社)や岩波おはなしの本なんかを読み始めていますよ。

たんぽぽ:「黒ねこサンゴロウ」シリーズ(竹下文子著/偕成社)や、岡田淳さんの本なんかを薦めると、もっと、読みたいと言ってくれたりします。

マタタビ:4年生は「パスワード」シリーズ(松原秀行作/講談社)やはやみねかおるの「名探偵夢水清志郎」シリーズ(講談社)、令丈ヒロ子さんの作品などを夢中になって読んでます。あと、やはりハリーポッターは絶大な人気ですね。

うさこ:これでいいのだろうかと思いつつ、作家さんの書く底力に疑問を感じるところもあって、みなさんがおっしゃるそのままが私の感想でもあります。でも、この作品で評価できるところは、ふつうの子を主人公にして、作品にしようとした点だと思いました。『チームふたり』というタイトルを最初見たとき、「劇団ひとり」のような、ちょっと皮肉ったタイトルづけ? おちゃらけているの? と思ったんですが、読み始めると、ストーリーはまじめに展開。出てくる子は、いずれも親や先生が理想とするようないい子ばかりで破綻がないので、読者はどこに共感してくれるのかなと思います。文章では、三人称の「彼は」が気になりましたね。

紙魚:最後に、読んでいない私が言えることなのですが、今回の選書3冊が並んでいたら、装丁で読みたくなるのは、ぜったいに『チームふたり』です!

(「子どもの本で言いたい放題」2008年4月の記録)