『どうなっちゃってるの!? クレメンタイン』
サラ・ペニーパッカー/著 マーラ・フレイジー/絵 前沢明枝/訳
ほるぷ出版
2008.05
原題:CLEMENTINE by Sara Pennypacker and Marla Frazee, 2006

版元語録:「先生は集中しなさいってしかるけど、あたしはいつだって集中してるの」元気いっぱいの女の子クレメンタインが活躍する楽しい物語。

みっけ:この本は、読んでいて楽しかったです。この本がいいのは、主人公がかなりハチャメチャをやって、友達の髪の毛を切っちゃったりするんだけれど、相手もそれをすごく嫌がっているとか、一方的に被害を受けていると感じているっていうわけではないところだと思います。傍から見たらクレメンタインの方がすごいことをやるんだけれど、かといって、友達のマーガレットから完全に浮いているわけでなく、ちゃんとふたりで楽しく過ごしているっていうところが、読んでいて気持ちがいいんですね。お父さんやお母さんも、困ったなあと思っているところがないわけではないんだけれど、でも、クレメンタインと上手につきあっていく。たとえば、真夜中の鳩撃退大作戦を始めたり。しかも、クレメンタインがいつも用事を頼まれているおばさんのところにいったことから鳩問題が無事解決、なんていう展開もうまくできているし。そこがいいなあって思いました。前にこの会でジャック・ガントスの『ぼく、カギをのんじゃった!』を取り上げたことがあって、あのときに、たとえばADHDとかLDとか診断をつけてしまうことの持つマイナス面が話題になりました。あのとき私は、でも、クラス担任としては……というようなことを考えていて、診断をつけたり、薬を使ったりするのもある程度必要なんじゃないかな、と思ったりしたのですが、このクレメンタインを読んで、そのあたりのことを改めて考えさせられました。こういうふうに、みんなと接点を保ちながらごく自然に成長できるのならば、診断とか薬に頼らなくてもいいのかな……というふうに。一斉授業を粛々と進めようとする先生にとって、この子は明らかにお荷物になるんだろうけれど……。それと、この本は、外からは集中力がないと見られているクレメンタインが、実は本人の理屈で言えば集中しているんだ、ということや、周りにどう思われようとかまわないようなことをしているように見えて、ちゃんと親のことなんかを気にしているんだ、というあたりがちゃんと書かれていて、クレメンタインの気持ちがとてもよくわかる。それがよかったです。クレメンタインが、自分があまりにもトラブルを起こすものだから、家族にやっかいばらいされるんだと思いこみ……という展開で最後の最後まで冷や冷やさせて、でも実は大はずれでハッピーエンドというのも、いい読後感につながっているのでしょうね。始めから終わりまで、ケラケラ笑って読みました。おもしろかったです。

ハリネズミ:私もこれは、今回の3冊の中でいちばんおもしろかった。『グレッグのダメ日記』はおんなじように書かれているんだけど、翻訳がちょっと。これは、前沢さんの翻訳がはまっていて、楽しいし、おもしろいし、子どもが読んでも愉快でしょうね。短いお話の中に一人一人の特徴もよく出ています。たとえば、きれい好きのマーガレットは、トイレにすわりこんですねている時でも、お尻の下にペーパータオルを何枚も重ねてる。そういう部分が、おかしいと同時に、その人物を端的にあらわしてもいて、うまい。クレメンタインはおおまじめなのに、まわりの大人と噛み合なくて事件を引き起こしてしまうんだけど、読者が主人公に共感できるように、ちゃんと書いてある。だから、「問題児だけど理解してあげなくちゃ」じゃなくて、愛すべき存在としてうかびあがってくるんですね。クレメンタインの観察力の鋭さも随所に表現されてます。「校長先生は、『おこらないようにがまんしてるけど、そろそろげんかいです』っていうちょうしでいった」(p20)とか「ママのねているところは、あまいシナモンロールのにおいがするんだ。パパのねているところは、まつぼっくりのにおい」(p59)とか。両親は、この子のおかげで大変な思いもしてるんでしょうけど、ちゃんとこの子の個性を評価して、この子も両親を信頼している。そこもいいですね。それに、あちこちにユーモアがあるのが最高。楽しいし、翻訳もいい。現代の「ラモーナ」(ベバリイ・クリアリー著 松岡享子訳 学習研究社)じゃないかな。しかも、「ラモーナ」より短くて、今の子には読みやすい。中学年くらいにお薦めできる本が少ないなかで、これはお薦めです。

小麦:このところ学校と合わない子どもの話が続いていて、ちょっと食傷気味だったんですけど、クレメンタインはのびのびと明るくて、楽しんで読めました。訳文が、クレメンタインのキャラクターにぴったり寄り添っていて、とてもよかった。小学生の語彙で、さらに、いかにもクレメンタインみたいな子が使いそうな言葉がちゃんと使われています。P12の「そのとき顔を見たら、目のあたりがキュッってちぢこまって、『あとちょっとで泣きます』っていう目になっていた」とか、P65の「とがった物を消すには、丸っぽい物を見るしかない」とか、うまいなーと思う箇所がたくさんありました。クレメンタインも、私にはそれほど困った子には思えなくて、ごく普通のことを普通にやっているのに、なんで大人はわからないの?って困惑する感じが愉快で楽しかったです。先生のスカーフの卵のしみをじっと見て、ペリカンみたいに見えるのを発見したり……こんなこと、私も子どもの頃よくしてました。

げた:私もみなさんがおっしゃっているようなことを思いながら読みました。挿絵もいいなと思いました。内容にぴったり合っていて、イメージを与えてくれてますよね。「ラモーナ」に似ているなと私も思いました。「ラモーナ」が最初に出てきた頃より、日本とアメリカの生活様式が似通ってきて、日本の子どもたちも、違和感なく読めるんじゃないかな。

愁童:日本の作家も、「子どもだって絶望する」なんて書いてないで、クレメンタインとかグレッグみたいな、自由闊達な子どもを書いてほしいな。去年楽しい体験があったんです。水を引いてる田んぼに、2年生の子たち2人が飛び込んで遊んでるんですよ。子どもって、そういうところがあるんですよね。大人は、それができる環境を与えてやりたいですよね。

メリーさん:この3冊の中では『クレメンタイン』が一番おもしろかったです。とりたてて大きな事件は起こらないけれど、ストーリーの展開がいいし、主人公と彼女をとりまく友達と家族がとてもいい。あっという間に読んでしまいました。クレメンタインのような子どもは、大人やほかの子どもたちからすると、一見、どうしてああいう行動をしているのか理解しがたいんでしょうけど、本人としては、きちんとつじつまがあって、彼女なりの考え方にしたがって動いている、っていうことがよくわかる。彼女の頭の中の種明かしを見ているみたいでした。弟をかわいがる(?)ところは、おなかをかかえて笑いました。著者紹介も凝っていてよかったです。

ジーナ:おもしろかったです。ユーモアの質がよいというのか、気持ちのいい笑いでした。この子は日本の学校に入っていたら、もしかすると「他動」だとか「ADHD」だとかいわれるような子かもしれないんですけど、両親はこの子の感性をしっかりと受けとめて、この子を無条件で認めていますよね。だから、子どもがのびのびと安心していられる。それがとてもすてきだと思いました。

愁童:訳文が軽快で、ぴったりだよね。うまいね。

(「子どもの本で言いたい放題」2008年9月の記録)