『かりんちゃんと十五人のおひなさま』
なかがわちひろ/作
偕成社
2009

版元語録:ひな人形たちは、守り子のかりんにだけ、自分たちの本当の姿を見せてくれました。小さなおひなさまたちが活躍する楽しいファンタジー。

ショコラ:先日ある町の図書館で、小学生対象の「おひな様」のブックトークをしたときに、この本を紹介しました。集まったのが男の子8人で大変だったんだけど。『りかさん』(梨木香歩著 新潮文庫)よりも中学年向けなのでこの本を選んだんです。ブックトークでは、七段飾りの紹介の後にこの本を紹介しました。15人の人形の性格がそれぞれ出ているし、「ことわざ」もいいなと思いました。でも、1年生に「ことわざ」を紹介したところ、どれもわからないものばかりでした。物語を読んでいけば理解できるのかな。

カワセミ:ことわざは学校では教えないの?

ショコラ:自分で調べてみようというスタンスの教科書が多いですね。5年生の学級で聞いても、知らないものが多くて、ちょっとむずかしいようでした。かりんちゃんが持っているおひな様をはじめ、いろいろなおひな様の種類などが紹介されているのは、とてもわかりやすかったです。友だち3人の人間関係なども最近よくある話だなと思いました。かりんちゃんのお母さんが手作りのおかしを作る場面はあたたかく、五人ばやしの絵もすごくかわいかったです。子どもが読んで楽しい本だなと思いました。

カワセミ:3人の女の子が、今の読者と同じような子なので、親しみがもてるのがいいですね。おひな様っていうのは、日本の伝統的な行事の中でもなじみのあるものだと思うんですね。自分の家になくても、保育園や学校で大きな段飾りは見ることが多いし、子どもたちは、人形の着物や道具にも興味を持っているので、そういうものをとりあげているのがとてもいい。おひな様を飾る意味、子どもの成長を願うとか、身代わりになって守ってくれるということとか、自分のお母さんやおばあさんからの願いが受け継がれていくものだというのも示していますね。ただ3月だから飾るというのではなくて、行事の深い意味を伝えようとしているところがいいなと思いました。子どもだから、おひな様を比べて、大きいほうがいいとか、豪華なほうがいいとか、あれちょっとぼろいねとか言ってしまうんだけど、おひな様のファンタジーの世界とかかわることで、受け継がれている思いを感じられるようになっていくのが自然に書いてあって、よかったと思います。これも挿絵がいっぱいあって、おひな様ようすがよくわかった。
私も子どものころ、おひな様を箱から出して飾ったり、しまったりするのが楽しかった思い出があるし、一人一人性格が違うような感じはよくわかるので、おもしろかった。おひな様は昔の人だから、難しいことわざを言うのもうなずけます。読者の子どもには難しくて意味がわからないものもあると思うけど、どんどん出てくるから、「また言った」みたいな楽しさもあると思うんですね。その時はわからなくても、興味を持つ子がいるでしょうね。ユーモラスに言うので、楽しめると思う。こういう身近な話は、子どもたちに薦めやすいですね。男の子の反応はいかがでしたか?

ショコラ:ブックトークでは、笛がなくなることを話題にしたり、「15人とはだれでしょう?」をクイズのようにしました。ことわざが、雛人形の言葉として文の中に入ってくるのもいいなと思いました。5年生のクラスの子に紹介したところ、女の子がすぐに読んで、「女の子の関係が自分たちに似てる」と言ってました。

カワセミ:おひな様の出てくる話としては、『菜緒のふしぎ物語』(竹内もと代著 アリス館)っていうのもあります。主人公の女の子が、ひいおばあちゃんの住む古い家で不思議なものたちに出会うというファンタジーで、おひな様は一部にしか出てこないんだけど、この季節に紹介できますね。

ハリネズミ:『三月ひなのつき』(石井桃子著 福音館書店)っていうのもあるわよね。私はすーっと読んだんですけど、3冊比べてみると、この本は、おひな様のいわれとか、ことわざの説明など目配りがしてあるし、貧しいおひな様でも心がこもっていればいい、悪口を言うと気分が悪くなる、など、教育的にも配慮されてる。ただ、感受性の強い子は、作者が子どもたちに教えようとする意識を感じて、うっとうしくなるかもしれませんね。冒頭と最後にグレイのページがあり、それぞれ「はじまりのまえに」と「おしまいのあとで」となっていて、まだ箱の中にいるおひな様の様子が描かれている。これも、うまい。ただ、「はじまりのまえに」っていうところに、「かりんちゃんも、ずいぶんむつかしいご本が読めるようになったのねえ……と、小桜は、ぼんやりつぶやきました」って書いてあります。これ、いいのかな。まだ、ひいおばあさんのものだったことしかおひな様は知らないわけでしょ? 夢だからいいのかな。

カワセミ:おひな様が長い長い夢を見ていたのは、かりんちゃんの夢を見てたってことなんでしょうね。

ハリネズミ:おばあちゃんが、かりんちゃんにあげようと思ってたから、かりんちゃんの夢を見てたってこと? それから、おひめ様に「けれど、ここでおこることの半分は、かりんちゃんの夢。あとの半分は、わたくしたち、ひなの夢」って言わせてますけど、そこもうまいですね。

ショコラ:感想文が書きやすい作品ですね。
ハリネズミ:よい子はすぐに感想を書けますよね。欲を言えば、まとまりすぎて突き抜けるところがない。私は大人として読んでおもしろかったんですけど、そんなに教育的な配慮ばかりしなくてもいいんじゃないかな。その方が、もっとスケールの大きい話になるのかも。

カワセミ:6年生くらいになると、教育的な意図を感じるかも。

ハリネズミ:かりんちゃんたちは何年生なのかな。書いてありませんよね。

ショコラ:絵を見ると中学年っぽく見えませんか。

カワセミ:何年生って限定しないのもいいのかもね。

ハリネズミ:お人形って、そんなに動けないじゃないですか。前に読んだ『帰ってきた船乗り人形』(ルーマー・ゴッデン著 徳間書店)は、自分では動けないってなってたけど、これはどんどん動いちゃうから、おもむきが違うわよね。ユーモアっていう意味では、『ふしぎなロシア人形バーバ』の最初の物語がいちばんおもしろいですね。

(「子どもの本で言いたい放題」2009年3月の記録)