月: 2007年10月

2007年10月 テーマ:いたずらっこ、にくまれっこの短いお話

日付 2007年10月25日
参加者 ウグイス、ペロ、愁童、ネズ、mari777、みっけ、うさこ、げた、アカシア、ケロ
テーマ いたずらっこ、にくまれっこの短いお話

読んだ本:

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頭のうちどころが悪かった熊の話

げた:この本は、今、人気の本なんです。うちの図書館も、気づいたら予約がいっぱいになってて、びっくり! 最初1冊しか購入していなかったのですが、あわてて3冊追加購入しました。うちの図書館では、分類は「児童書」にしたんですけど、実は今、ちょっとまずかったかもと思ってまして……。圧倒的に、子どもよりも、大人に読まれているんですよね。予約をしている人も、ほとんどが大人。で、僕もざーっと読んでみたんですけど、やっぱり子どもの本ではないですね。YAでもキツイかも。一般書かな。書評でとりあげられたこともあって、今は予約がいっぱいなので、しばらくはこのまま行きますが、一段落したらYA棚か一般書に移そうかと思案中。お話はおもしろいけど、やっぱり児童書としては扱えないので……。僕は、7編のうち「頭のうちどころが悪かった熊の話」「いただきます」「ヘビの恩返し」あたりが、特におもしろかったな。「頭のうちどころの悪かった熊の話」の最後、熊のセリフで、そういえばレディベアをお嫁さんにしたとき、友だちの月の輪熊に「どこか頭のうちどころを悪くしたか」ってたずねられたけど、あれはどういう意味だったんだろうなんていうところ、ニヤッとしちゃった。

うさこ:私は、大人のための寓話だなと思いました。読み終わってから、ふと「こういうお話が読みたいときって、どんなときだろう?」って考えたんです。さみしいときかなあとか、なにか特別なときかなあとか。もやもやしてるときに読むのもいいかと思いますね。読後感もそれなりにおもしろいし、読んだ後、スーッとして、ミント味のキャンディをなめたみたいな感じも。読んだときどきで、感想も変わりそうです。例えば、88ページの終わりから2行目、「自由なたましいに縄がかけられないことを父さんは知っていた」というフレーズは、気持ちに何かかかえているときに読むと、「そうだよな〜」と共感して読めるけど、フツウの気分のときに読むと「大げさな…」と感じるかもね。

ケロ:やっぱり、大人に向けた寓話かな。寓話っていっても、イソップなんかとは、だいぶ違いますよね。私は「いただきます」が、とくに好き。7編が、1冊の最後になって、まとまりを見せるという構成もおもしろかったな。

アカシア:私も図書館で借りようと思ったら、たいへんな順番待ちになってて借りられず、買って読みました。やっぱり、子どもには難しいかも……。この本、子ども向けの本ではないですね。たとえば「りっぱな牡鹿」なんかは、子どもにはわからないんじゃない?「ないものねだりのカラス」は、ちょっと宮沢賢治の「よだかの星」に似たテイストがあるんだけど、こういうのって、子どもにはどうかなぁ? いや、こういうお話って、大人でも、好きな人は好きだと思うんだけど、でも、普遍的でだれにでも愛されるっていうのとはちょっとタイプがちがうかも。理論社のYA路線のうまさもあるよね。ちょっとひねってあって、メッセージもあって、っていう……。

みっけ:私も図書館では借りられず、買って読みました。うーん。おもしろかったのは、おもしろかったんだけれど。とても奇妙な味わい。どちらかというと、さみしいような、やさしいような、ふしぎな雰囲気で、たしかに、子どもにはちょっと難しいかも。読んでると、なんかこう、「カクッ」とくるようなところがあって、人生いろいろあるという大人にすればおもしろいところなんだと思うけれど、書いてあることだけを追って読む子どもには、通じにくいかもしれない。決して嫌いな本ではないし、読んで損したとも思わないけど、でも、子ども向けの本ではないような気がします。初出の雑誌から見ても、もともと子どもに向けて書いたのではなくて、子どもの周辺にいる人に向けて書いたようだし。

mari777:国語の教科書関係の仕事をしているので、短編を読むときは「教科書に載せられるかな?」と、ついつい考えながら読んでいます。今回も、やっぱりそういうことを考えながら読みました。教科書に掲載する作品って「おもしろかった」で終わってしまうものはあまり向いてない。いろいろな読み方のできる作品のほうが、教材としてはとりあげやすいんです。表題作の「頭のうちどころが悪かった熊の話」と、「池の中の王様」は、内容としてまとまっていて長さも適当だし、コミュニケーション不全についてのメッセージとしても読めるかな、案外、小中学校ではなくて高校の教科書に載せたらどうだろう、などと思いましたが、やっぱりちょっときついかな。高校生も含め、子どもが楽しく読む、という類の本ではない、という気がしました。でも、表紙の絵がかわいくて、ちょっとおしゃれな感じで、こういうのも人気の秘密なのかな。

ウグイス:この本、興味があったのよね〜。まず、タイトルがおもしろいでしょ。それに、小泉今日子が書評でとりあげてから、スゴイ人気になってるみたいだったし。それで、期待して読んだんだけど、人間のもっている、いろいろな、ままならない感情をうまく表現してるなあと思いました。部分的には、そういう感情あるあるって思うんだけど、1つ1つの点がつながって1本の線となったときに、一体どうなっているのか、よくわからなくなる。そういうことから考えると、子ども向きではなくて、大人向きですね。といっても、子どもが笑いそうなところもあるのよね。子どもの本としておもしろいかなと思ったのは、「池の中の王様」で、オタマジャクシの「ハテ?」が、おばあさんに「顔、洗って、きちんとしといで」って、いわれるところとか、「りっぱな牡鹿」で、アライグマがげんなりやつれて、目のまわりが茶色になってしまった、なーんていうところ。大人より子どものほうが、こういうのをおもしろがると思うの。だから、子どもを意識して書けば、それはそれでおもしろいものになったんじゃないかという気もする。

みっけ:なんか、最後がなんとなく尻切れトンボというか、よくわからないで終わっちゃうのが多いんですよね。

ウグイス:最後に、「あっ、そういうことか!」って思うこともあるんだけど、いや、でもやっぱり違うかもっていう気もしてきたり……ほんとによくわからない。こう、煙にまかれる感じ……。

みっけ:そう、そう、煙にまかれるの!

ウグイス・みっけ・アカシア:そして、それをわかってて、わざとやってるって感じ!

みっけ:ラストは、読者にぽーんって預けちゃう感じ。

ウグイス:あと、この本、動物の短編集だけど、この動物だからこの話っていう必然性はあんまりないのよね。あ、ヘビの話は例外で、これはヘビならではのお話だけど。その他は、あんまり動物の生態とは関係がなくて、例えばクマの話は、別にクマである必要はなく、キツネでもいいというような感じ。だから、動物の話というよりは、動物の皮をかぶった人間の話なんでしょうね。

こだま:ふふふ。「とくにこの本が」、ということではないんだけど、わけのわからない本を、書評なんかで「おもしろい」っていうと、なんとなーくおしゃれに見えるっていうこと、あるわね。

ウグイス:ともあれ、大人に「おもしろい、おもしろい」と言われて売れるっていうのも、それはそれで、結構なことだと思うわぁ。

(「子どもの本で言いたい放題」2007年10月の記録)


マチルダばあやといたずらきょうだい

愁童:ちょっと個人的な感慨になっちゃうんだけど、久しぶりに同人誌時代の若い頃のこだまさんと、おしゃべりしているような雰囲気を感じながら楽しく読んじゃいました。幼児語の翻訳なんか、なかなか秀逸だと思いました。原作の持つかなりハチャメチャな雰囲気と訳者の体質がうまくマッチしていて楽しい翻訳本になってますよね。

mari777:懐かしい感じのテイストが好き。昔の岩波書店の翻訳シリーズを読んでいるような感じ。7つのおけいこの構成がミステリ仕立てだな、と思いながら読んでいたら、この作家、ミステリ作家だったんですね。書きなれているという印象で、安心して読めました。ただ、せっかくなら魔法ではなくて知恵とか気持ちの持ち方で解決していってほしかったなと思うようなところもあります。最後に約束どおり、ばあやが子どもたちを離れていく、というストーリー展開は、予想がついたけれどもほろり。装丁も懐かしい感じがしていいなと思いました。

みっけ:子どもに媚びていない感じがあちこちにあって、おもしろかったです。たとえば、7ページで、「あんまりたくさんいたので、名前はいちいち書かないことにします。……ぜんぶで何人いるか、足し算してくださいね。」なんていうところには、おっと、こうきたか!という感じでした。それでいて、いかにもおばあちゃんが話してくれている雰囲気が出ていて、そのあたりが絶妙でした。語り手のおばあちゃんのたたずまいまで想像できてしまう訳文だと思いました。きっと、とても礼儀正しくてきちんとした人だけど、それでいて、いたずらっぽく目がきらっと光っているような人なんじゃないかなあ。読み始めてからしばらくのあいだは、子どもたちが何か悪さをするたびに大騒ぎになって、でも、マチルダばあやにSOSを出すと一件落着!みたいな感じで話が進んでいきます。心のどこかで「大丈夫なのかなあ」とちょっと腑に落ちない感じもしました。ところがそのまま読み進めたら、最後の一回になって、子どもたちの悪さでひどい目にあった人たちが勢揃いして、子どもたちがたいへん怖い思いをする。この展開には感心しました。妙に救済したりしていないところが、いいなあと思います。どことなく意地悪というか、ぴりっとした隠し味が聞いている。ただ、大おばさんにイバンジェリンがもらわれていく話は、これでいいのかな、と思いましたけど。あと、アーディゾー二の挿絵は、もうそれだけで古き良き時代に連れ戻してくれる感じで、いいですね。

アカシア:この本は昔から知ってたんですけど、上流階級の子どもの話だし、とてもイギリス的な乳母の話なので、今の日本では受け入れられないだろうな、と考えていたんです。でも、今回この本を読んで、あまり古いという感じがしませんでした。逆に、古い部分よりもおもしろい部分がきわだつ訳になっていて、ああ、こういうふうにすればこの作品も原題に生きてくるんだな、と思いました。訳者の力ですね。舌足らずの子どものセリフも、ちょっと考えると意味がわかるようになっていて、うまいですね。

みっけ:ラストは、出っ歯が落ちて、それが宝箱になって、そこから出てくるおもちゃに夢中になっていると、マチルダばあやがいなくなっているという展開で、なんというか、肩すかしを食らったような不思議な終わり方ですよね。

愁童:マチルダばあやを、単なる雇い人として描くのじゃなくて子どもたちに君臨する動かし難い大人として書いているのがいいな、なんて思いました。

アカシア:ばあやは、メアリー・ポピンズと同じで、ずっと不機嫌な顔をしている。厳格なイギリスの乳母の典型ですよね。ただね、下層の子が身代わりになって嫌なおばさんの養子になり、それでめでたしめでたしなんていうところには、作者の階級意識があらわれているかも。

うさこ:ある日突然どこかからやってきた人の物語は、またある日いずこへか帰っていくというお約束があるのだけど、このお話はどういう展開で結末を迎えるのかなと楽しみでした。「1つめのおけいこ」の章の流れが各章のおけいこのある規則性を示しているのかなと思ったけど、どの章もちがうかたちでいたずらと「おけいこが終わりました」でまとめられている。どの章も「…でも歯はでっ歯でした」の表現が妙にインパクトがあるなと思ったら、最後のとっておきのごほうびとうまく結びついて楽しかった。

ウグイス:以前は、G社が出していた世界の童話シリーズの中の1冊。このシリーズの中では、この『ふしぎなマチルダばあや』だけが他と比べて古めかしい印象があったので、正直言って今さら新訳?と思ったんですけど、読んで見ると古めかしさより軽快な楽しさが感じられておもしろかった。原文もそうなんでしょうけど、翻訳もとても丁寧で上品な言葉使い。そういう言葉使いなのに実はとてもおかしなことを言っている、というのがこの本のおもしろさだと思う。旧版は、明らかに3〜4年生を対象にした作りでしたが、この装丁や字の大きさを見るともっと年齢が上の子をターゲットに作ったのかな? 内容的には3、4年生に読んでほしいんだけど。

ペロ:この装丁は、原書とだいたい同じ。この原書、天地155ミリ×左右110ミリと、小ぶりでかわいい! 今の子どもたちは、読める子と読めない子との差が大きくて3〜4年生でも読める子はどんどん読むし、5年生でも、読めない子は低中学年向きの本も読むのがたいへんという話だから、読者対象をどのくらいに設定するかっていうのは、なかなか難しい問題だと思います。

げた:子どもたちのいたずらの内容など、よく考えてみれば、とんでもない話ですよね。ロバに女の子の洋服を着せて身代わりにするなんて、ドタバタ劇になっちゃうような話ですよ。描き方によっては、とっても下品な感じになるんだけど、それがちゃんと上品な仕上がりになっているのがすごいなと思いました。アーディゾーニの挿絵の効果もありますよね。

ネズ:大人の本でも新訳ものが続々と出てきていて、旧訳と読みくらべてみると楽しいですよね。特に子どもの本は、その時代の子どもや児童文学に対する考え方があらわれてくるのでおもしろい。それから、アカシアさんの話にもあったけれど、この本にかぎらずこういう古い作品は、どこかに差別的な物の見方などがちらちら現れたりするので、訳すのに神経を使いますね。

(「子どもの本で言いたい放題」2007年10月の記録)


いたずらおばあさん

ウグイス:たかどのさんは幼年ものがうまい作家で、子どもにもたいへん人気があり、よく読まれてます。タイトルや表紙がまずおもしろそうで、ユーモラス。内容も明るいユーモアが感じられ、安心して読めるわね。登場人物のネーミングがおもしろい。エラババ、ヒョコルさんなど名前を聞いただけで、子どもはおもしろがります。翻訳ものだと、ネーミングのおもしろさは伝わりにくけど、日本の創作だとこれが味わえてうれしい。おばあさんたちのいたずらは、ちょっと嫌なやつをへこませるという悪気のないものばかりで、後くされがなく、ハハッと笑って終われるところがいいですね。主人公は68歳と84歳のおばあさんなんだけど、そんな歳になっても子どもの部分があるというのを垣間見る感じで、おもしろかった。

ペロ:おもしろく読みました。痛快ですね〜。24ページで、ヒョコルさんがはじめて若返るとき、「50歳くらいになれば、もうじゅうぶんなのではありませんか?」ってエラババ先生に言ったら、エラババ先生の返事がふるってる! 「もういちど子どもになって、思いっきり遊べるっていうときに、さかあがりひとつやれない中年のおばさんになって、それでじゅうぶんだなんて、こころざしが低すぎて、ばちがあたりますよ!」だって。楽しい! いろんないたずらもおもしろかったのですが、1箇所、音楽祭のところはちょっと無理があると思いました。発表会のときは、ピアノを習い始めたばかりの子でも、暗譜して弾くものだと思うし、ましてゲゲノキ先生は音楽の先生ですから……。でも、このお話は、そういうことにこだわってちゃダメなのよね。

愁童:おもしろく読みました。エラババ先生みたいなユーモラスなネーミングの登場人物の設定なんか、読者の子供達に素直に受け入れられそうでうまいなって思いました。ただ、最後の行政批判みたいな箇所は、ちょっとウザイかなと……。

ネズ:私も、たかどのさんは幼年童話がとてもうまいと思う。この作品も、すらすら読めて、ゲラゲラ笑えて、子どもたちに人気がある理由がよくわかります。登場人物のネーミングもおもしろい。最後の章については、私も愁童さんとおなじで、ちょっと理屈っぽくなったかなと思ったけれど、こういう章をおしまいに持ってきたことで物語がうまくまとまったとも言えるのでは? おばあさんを書いたもので、私が大傑作だと思っているのが、以前に学研で出たミラ・ローベの『リンゴの木の上のおばあさん』。物語のなかのキャラクターとしてのおばあさんと、現実のおばあさんを書きわけていて胸を打たれますが、この作品にはそれほどの奥行きや深みはないわね。でも、そこまで望むのは望みすぎかしら?

mari777:発想が斬新で、おばあさんが二人とも生き生きしています。二人のおばあさんのキャラクターがきちんと書き分けてあるのもよかった。

みっけ:楽しく読みました。いたずらの仕方やいたずらを仕掛ける相手が、いかにも子どもたちの共感を呼びそうで、おもしろかったです。子どもって、いばっている大人が大嫌いだから。でも、最後の章だけは、ちょっとこなれてない感じというか、お説教くさいような気がして、もう少し違う形で終わったらよかったのになあ、と思いました。

アカシア:たかどのさんの本は、やっぱりこのくらいの長さのものがおもしろいわね。ユーモアたっぷりで笑えるし。いやな大人がいても子どもはなかなかやっつけることができないけど、この作品だと正体はおばあさんだから、懲らしめることができるんですよね。そこも痛快。最後の話も、読んでる子どもは痛快なんじゃないかな。リアリティを言い出すときりがないけど、この作品はそういう種類のものじゃないから、私は楽しく読みました。

うさこ:たかどのさんは幼年童話ものがうまい作家さん。日本語で日本人が読むものとして書いてますけど、ユーモアのセンスや発想が、どこか遠くて近い外国の人が書いているような感覚で、とても楽しく読めました。おばあさんたちの茶目っ気たっぷりのユーモアがとてもおもしろかった。人物名はじめ、その他に音や音の響きを有効につかって表現しているところがたくさんありました。会話文のおかしさを地の文でフォローして、さらにおもしろくさせたり細部まできちんと書きたい作家さんだと思います。うまへたな絵もこの物語に合ってますよね。続刊が出てないのはなぜでしょう?

げた:洋服を重ね着すると、重ね着した服の数だけ若返られるなんて、大人が読んでもおもしろいと思います。どちらかというと大人の発想なのかという気もしますね。「若返り変身願望」は大人のものですもんね。「夢見る少女の会」のおばさんたちの言動なんかも、子どもにはピンとこないんじゃないでしょうかね。挿し絵はちょっと古めかしいかな。エラちゃんは子どもに変身しても、しもぶくれ顔は変わってませんね。そこがおもしろいといえばおもしろいんですけど。

愁童:おばあさんたちが子どもに変身した場面に、『まあちゃんのながいかみ』(福音館書店)にあったような子どもの目線が生きていると、もっと説得力が出たんじゃないかなって思いました。

ネズ:おばあちゃんにもどったときは、もう少しおばあちゃんらしく、腰が痛いだの、目がしょぼしょぼするだの書いたらどうだったのかしら?

(「子どもの本で言いたい放題」2007年10月の記録)