月: 2014年5月

2014年05月 テーマ:昔の物語をよみがえらせる

 

日付 2014年05月29日
参加者 ハリネズミ、げた、ヤマネ、ルパン、すあま、レジーナ、プルメリア
テーマ 昔の物語をよみがえらせる

読んだ本:

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今昔物語集

ルパン:物語ごとにテイストがずいぶん違いますね。会話ばかりの章もあるし。子どもにはこういうほうがわかりやすいんでしょうか。

げた:令丈さんの言葉で語っていて、とっつきやすいですね。今の子どもたちには、伝わり易いんじゃないかな。『紫の結び』は、原典に忠実に再現しているけど、この『今昔物語』は令丈さんの作品になってる。この本に収められているお話の中では「瓜とふしぎな老人」が楽しめました。CGとかアニメでもおもしろく再現できそうですね。「羅生門の老婆」は、気味悪くて、小さな子どもにはわかりづらいかもしれないけど。

ルパン:『芋粥』のあとで、『まんじゅうこわい』を引き合いにだしているのはどうしてでしょう。ちょっと話が違うんじゃないかと思うんですが。

げた:私もそう思いました。言葉づかいは今の言葉で、とっつきやすい。

ハリネズミ:最近はストーリー中心の再話が流行っているようですね。外国のものだと、中には原文を参照しないで再話する人もいるみたいです。一時は、子どもの本の抄訳や超訳が批判されて、完訳で読みましょうと言われていたのにね。文学ってストーリーを追っただけじゃ本当の良さがわからないと思うんですよ。この本は、それとはまた違って、令丈節がしっかりできていて、そこがおもしろいんですね。

ヤマネ:日本の古典の現代語訳もさかんで、今度河出書房新社から「日本文学全集 全30巻」が刊行される(2014年11月刊行開始)ようです。そこでは『古事記』が池澤夏樹さん訳で、『源氏物語』が角田光代さん訳だそうです。古典を現代の作家によって今の人たちに読みやすいものとして受け継いでいく流れがあるんですね。この『今昔物語』は、世田谷区の図書館は所蔵が1館だけだったので、借りることができませんでした。公共図書館では、この本を入れるかどうか選書でゆれているのかもしれません。私は以前学校図書館で働いていたんですけど、子どもにはまず出会わせることが必要だと思うので、この試みには賛成したいです。古典はきっかけがないと、子どもたちはなかなか手に取らないから。出版社も、子どもに出会わせることを目的として出版したんでしょうか。

レジーナ:表紙に現代的な美男美女が描かれていますが、当時の美的基準は、今とは大分違うのでは? 「芋粥」の五位殿も、「もっさりしている」と悪口を言われていますけれど、そうした男性が、当時はもてたかもしれませんし。p9では、女性の容姿を、「スタイルがいい」とほめています。体のラインを隠す着物を着ているのに、スタイルも何もないのでは……?

プルメリア:昨年小学校5年生の担任をしました。私がこの本を子どもたちに紹介したら、歴史好きの男子がこの本を購入して読んでいました。古典にはあまり目が向かなかった子どもたちがこの作品を読み始めています。令丈さんの名前で興味を持ったことや表紙がかわいいとかも手にとる大きな理由かも。令丈さんの文はわかりやすく、目次にもまとまりがあり、一話一話の後に書かれている説明文もとってもよかったです。このシリーズは10巻ありますが、この作品がいちばんいいなと思いました。

ハリネズミ:令丈さんなりのまとめ方をしているところがいいですね。一話一話の後のあとがきで視野が広がるし、モデルはどんな人だったのかとか、ほかの作品へのつながりなどおまけの情報もあるので楽しい。ちゃらちゃらした会話がふんだんに出てくる話とそうでもない話があってトーンがいろいろですね。欲を言えば、もう少しトーンを統一してほしかったけど、古典への架け橋と思えばそれもいいのかも。学校図書館には、古典のシリーズが入っているんですか?

プルメリア:私が勤務している小学校の図書館には『21世紀によむ日本の古典』(ポプラ社)が入っています。

すあま:『今昔物語』は読みにくい話ではないので、ここまで今の会話風の文体にしないで、普通の現代語訳でも楽しめるのではないかな、と私は思いました。このシリーズでは、金原さんの『雨月物語』も、おもしろかったです。あまり手にとられない古典、知られていない古典の場合にはこういう工夫もありですけど…。時代を今に置き換えているんなら、こういう会話でもよいと思いますが、そうではないし、無理に言葉遣いを現代風に変える必要はないのでは? はやりの言い回しを使った場合、時間がたつとかえって古くさく感じてしまうこともあるし。

ルパン:わざわざ「メインストリート」に直さなくても、「大通り」の方がわかるのに。

げた:手に取りやすさはありますよ。内容も言葉も読みやすい。

ハリネズミ:「わらしべ長者」の話にはキャピキャピした会話が出てきませんね。

すあま:令丈さんの本が好きな子だと、令丈さんが書いているから、という理由で読むこともあるかも。

ハリネズミ:入り口になればいいですよね。

ルパン:今回読んだ3冊の本は、これが「令丈ヒロコ 著」、『紫の結び』が「萩原規子 訳」、『はじめての北欧神話』が「菱木晃子 文」となっていますが、文、著、訳はどう違うんでしょう?

すあま:原作を元にして創作したら「著」、原作をそのまま翻訳したり現代語訳にすれば「訳」、北欧神話の場合は複数の本を参考に書かれたので「文」なのではないでしょうか。

(「子どもの本で言いたい放題」2014年5月の記録)


紫の結び(一)

ルパン:古典をやさしく書くということにおいて、どんなところがポイントになるのか、今日はみなさんのご意見をうかがいたいと思って来ました。これは小学生向けなんでしょうか?

ハリネズミ:中学生じゃないですか。

ヤマネ:対象年齢は、出版社の表記だとヤングアダルト〜一般のようです。

ルパン:もともと知っている話だから読めたんだと思います。『源氏物語』をまったく知らない中高生が読んでもわかるのかなあ。実は、私は知っているといってもマンガで読んだんですよ。『あさきゆめみし』(大和和紀 講談社)。あれはよくできてました。これを読みながら、マンガの絵がうかんできちゃいました。ところで、この『紫の結び』の中では、歌の部分は現代語訳だけ書いてあるのですが、私としてはもとの和歌を書いてほしかったです。著者の萩原さんは古典に強いのかな。ご自分で原典を読んで歌も訳したのでしょうか。

一同:国文科出身の方ですからね。

レジーナ:マンガの『あさきゆめみし』は、源氏物語の大筋を知るには良いけど原典と異なる部分もあると、聞いたことがあります。一方『紫の結び』は、荻原さんが、原典になるべく忠実に語ろうとしている様子が感じられますし、読みやすい現代語になっています。源氏物語は、大学受験でも、これが読めれば他の古典は読みこなせると言われるほど難しいので、古文を学ぶ受験生が一読するのに最適の副読本になるのでは。注釈をなくしたのは画期的ですが、「上の局」「斎院」「わらわ病み」等、日常では耳にしない言葉を、子どもがどこまで理解できるか……。古典オタクの高校生・大学生ならばともかく、自ら進んで読んでもらうのは難しいかもしれません。

プルメリア:地元の渋谷区の図書館でこの作品を予約したところ1冊しか入ってなくて私はリストの3番目でした。残念ながら順番がきませんでした。

げた:以前、与謝野晶子の現代語訳を文庫版で読み始めたことがあったんですけど、すぐに諦めました。今回やっと読み通して楽しめる本に出会ったと思ったんだけど、これまでの本と同じくらいしかわからなかった。筋はなんとなくわかるんだけど。楽しい読み物として読むまでいかなかったな。読まされているという感じがあってね。和歌が訳しか掲載されていないんだけど、元歌があった方がいいな。感じがつかめるから。

ヤマネ:まずパッと見て装丁がいいなと思いました。美しい本。おそらくこの本を一番手に取るのは、大人の女性ではないかと思います。もしかしたら古典好きの子は手に取るかもしれませんが…。『源氏物語』は、実はこれまで読み通せたことがないので、ようやく読み通せるかもしれないと期待しているところです。和歌を省いているところについては、止まらずに読めるのでスムーズに進むと思いました。和歌のところで立ち止まって想像するのも楽しみの一つではあるんですけど。

すあま:『源氏物語』は、日本人として読むべきだと思っていて、これまでもいろいろな人の現代語訳を読んでみたけれどなかなか読みきれず、今度こそ…と思ったけど、やはり今ひとつ話に乗り切れませんでした。これは紫の上を中心にして、読みやすくなるように再編しているのが特徴だけど、結局この話自体がおもしろくないのではないかと思ってしまいました。光源氏にしても、マザコン、ロリコンで、行動が共感できないし…。登場人物に共感したり、光源氏をかっこいいと思えればおもしろいけれど。全体的に不幸な人や満たされない人ばかり出てくる印象があります。すでにあるけど、マンガにして登場人物を美しく描いた方がおもしろく読めるのではないかと思いました。もちろん荻原さんの作品が好きな人は読むと思います。

ルパン:光源氏って、あんまりおもしろくない男ですよね。美人が好きで、若いのが好きで、ステレオタイプすぎる。

ハリネズミ:勝手気ままに楽しんでいた光源氏が晩年にしっぺ返しを受けていく。そこがおもしろいんじゃないですか。年をとって真剣に悩み、深みが出てくる。実はね、私はある時田辺聖子さんが源氏物語について講演なさっているCD(新潮CD 講演)を聞いて、全体像をつかんだんですよ。30枚以上のCDを、少しずつ家事をしながら聞いたんです。でも最初の方だけだと、女たらしが出てくるだけで女性が読むと反発を感じるだけなのは、よくわかります。

すあま:講演のCDでしょうか?

ハリネズミ:連続講演で、途中で冗談なんかも入るので、楽しくてわかりやすいんです。この本の歌のところですけど、やっぱり私も訳だけでなく、カッコつきでもいいからオリジナルの歌があったほうがいいと思いました。リズムや言葉のもつ力のようなものは、訳だけだと伝わりませんからね。たとえばp223ですけど、直訳風なので「たいそうかわいい」感じがなかなか伝わりませんね。そういう意味では歌だけでも原文があると、雰囲気がもっとわかるんじゃないかな。これから角田光代さんの現代語訳も出るとのことですが、そちらは歌はどうなっているのかしらね。

すあま:人物相関図があるとわかりやすいんだけど。

ハリネズミ:書ききれないのでは? 『北欧神話』でもそう思ったけど。

(「子どもの本で言いたい放題」2014年5月の記録)


はじめての北欧神話

げた:北欧に伝わる神々のお話ですね。世界に何もなかったときから、神様が生まれて、神様が鬼になったり動物になったり、そのあげく、世界中が焼きつくされ台地が海に沈んでしまい何もなくなってしまう。けれど、最後は大地がよみがえり、今生きてる人々の先祖が登場し、次々と新しいいのちを生み育てていった。今いる自分たちは生まれ残ったすばらしい人間の子孫なんだという、誇りを持ってもらい、楽しく読んでもらえるようなお話になっている。神様が突然タカになったり、ヘビになったり、ビジュアル性があるので、アニメーションになったらおもしろいんじゃないかな。テレビも本も無かった昔から、語り伝えで、伝わってきたんじゃないかな。当時は大きな娯楽の一つとしてあったんでしょうね。北欧の子どもは、この本にのっているようなお話を常識として知っているのかな。日本の神話は民族主義的で、楽しむところまでいかない気がするけど。

ハリネズミ:私たちが子どもの頃は、日本の神話は国家神道と結びついているというので教えるのをためらっていた人たちがたくさんいました。でも今は、右翼の出版社だけでなく、普通の出版社が、特に古事記はお話としておもしろいんじゃないかというんで、出版しています。松谷みよ子さんが再話した『日本の神話』(のら書店)もあるし、竹中淑子さんと根岸貴子さんが再話した『はじめての古事記』(徳間書店)や、こぐま社の『子どもに語る日本の神話』もあります。絵本も、舟崎克彦さんが再話して太田大八さんが絵をつけたものなど、いろいろ出ています。

げた:こんな感じで楽しめるならいいですね。

ハリネズミ:2年前に出た『はじめての古事記』は、スズキコージさんの絵がいいんです。

ヤマネ:北欧神話は、これまで岩波少年文庫で出ているものなど高学年のものしか見たことがなかったんです。ちゃんと評価しようと思ったらそういうのと比較しないと分からないところもあるので、難しいほうも読んでくればよかったですね。しかし低・中学年向けに出されたということで、ふりがながふってあるし字が大きめで、読みやすかったです。神様とはいえ、いたずらや争いがあり、人間と変わらないところに子どもたちも興味をもって読めるのではないでしょうか。出てくる登場人物がカタカナの名前ばかりで、覚えづらい点はありました。

ハリネズミ:登場人物リストがあった方がいいのかな。菱木さんは、ラグナロクを「ほろびの日」、ユグドラシルを「宇宙樹」、アースガルズを「神の国」というふうにずいぶんわかりやすく言い換えています。ブリージンガメンも「首かざり」としていますけど、そう言えばアラン・ガーナーの作品に『ブリジンガメンの魔法の宝石』(芦川長三郎訳 評論社)というのがありましたね。あれも北欧神話が下敷きになってたのかな。それと、菱木さんは本文でも、ただ神様の名前をぽんと出すのではなく「みのりの女神フレイヤ」とか、「海の神ニョルズ」とか、「いたずらもののロキ」「うつくしい光の神バルドル」などとちょっとした説明をつけて書いています。ずいぶんと工夫されているので、私はとても読みやすかったです。

レジーナ:読みやすい文体で、北欧神話の魅力が伝わってきました。太陽がなくなって、世界が滅びるというのは、北欧ならではの世界観ですね。主役の神々の敗北があらかじめ定められた神話は、ほかにあまりないのでは。C・S・ルイスは、上級生にこき使われた辛いパブリックスクール時代、北欧神話が支えになったそうです。運命を知りつつ、最後まで誇り高く雄々しく振舞う姿に、惹きつけられたのでしょうか。横暴な巨人に抵抗する神々に、自分の姿を重ねていたのですね。J・R・R・トールキンは、北欧神話を下敷きにファンタジー世界を創造しました。今回の作品は、北欧神話の重厚な世界を映す挿絵であれば、もっとよかったです。しかしルイスも、自分の読んだ北欧神話の挿絵はよくなかったが、それでも心惹かれたと語っているので、物語としての力を持つ神話を語るのに、挿絵はあまり問題にならないのかもしれません。ゲームや映画をきっかけに北欧神話に興味を持つ子どもは、結構いるのではないでしょうか。北欧神話を探していた中学生に、K・クロスリイ-ホランドの『北欧神話物語』(山室静・米原まり子訳 青土社)をすすめたことが何回かあります。

ハリネズミ:私は神話を読むのが好きなので「エッダ」や「サガ」も読んでおもしろいと思ったんですけど、原典のままだと流れやつながりがよくわからない。この本は、菱木さんがまとまりをつけて読みやすくしているので、流れもつかめていいと思いました。北欧のことや北欧神話のこともよくわかったうえで、言葉をかみくだいているのがわかって安心できます。

ルパン:まだちゃんと読んでいないんですけど、おもしろかったです。ぱらぱらと見たなかで、カワウソに化けて殺されちゃう家族のお話があったんですが、なにも悪いことしていないのに、かわいそうだと思いました。神話とか名作とかを低学年向けに書くのはむずかしいと思うのですが、これはたいへんよくできていると思います。

プルメリア:岩波書店の『北欧神話』(P.コラム作 尾崎義訳 岩波少年文庫)とは、違う感じ。寒い場所にもかかわらず神様がダイナミックで迫力があります。登場人物の性格がはっきりしていてわかりやすい。いろいろな神々や巨人族、小人族などが次から次へと登場してくるのでおもしろさがありますが、読み進めるとだんだんいたずらもののロキ以外はわからなくなりました。登場人物の紹介があると読みやすかったかなと思います。素敵な表紙で、男の子はゲーム感覚で読むのではないかと思いました。

すあま:北欧神話やギリシア神話は一般教養として知っていないといけないものだと思うので、読みやすい本があるのはよいと思います。ただ、小学校中学年向けの本だと思うけれど、登場人物の名前が難しいので、キャラクター紹介のようなものがあるとわかりやすくなるのでは? 小人族、巨人族などが出てくるので、『指輪物語』(トールキン著 瀬田貞二ほか訳 評論社)の好きな子に薦められます。巻末に北欧神話の本の紹介があるので、興味を持った子は、そこからさらに読み進めることができるのではないでしょうか。

ハリネズミ:ただ置いておいても子どもは手に取らないかもしれないので、手渡す人が重要ですね。

すあま:教科書にも昔話や神話が出てくるので、出版も増えているのかな。古典だけでなく、文豪の作品なども読みやすい本が出てくるとよいと思います。

ハリネズミ:夏目漱石を、ストーリー中心に書き換えるとか?

すあま:書き換えるっていうより、芥川龍之介の短編などを手に取りやすい形で出してくれたらいいな、と。太宰治の作品も、最近ではマンガ風のイラストを表紙にしたのがありますよ。

ハリネズミ:そこまで軽くしなくても、文豪は文豪でいいんじゃないの。

(「子どもの本で言いたい放題」2014年5月の記録)


村山純子『さわるめいろ』

さわるめいろ

『さわるめいろ』をおすすめします。

目の不自由な子どももそうでない子どもも、一緒に楽しめる絵本。

いくつかの出版社から出ている「てんじつきさわるえほん」の1冊で、シリーズのほかの絵本はロングセラー絵本の点訳化だが、本書は内容もオリジナル。市販の点字絵本はこれまで、印刷・製本上のさまざまな問題から、かなり高額な値段をつけざるをえず、だれもが買えるようなものとはなっていなかった。

今回のこのシリーズは、平成14年から出版社、印刷会社、作家、画家、デザイナー、点訳ボランティア、研究者などが定期的に集まって話し合いを重ねたなかから生まれたもので、絵に重ねて樹脂インクで盛り上げ印刷をし、蛇腹式の製本を取り入れてコストを抑えている。

本書は、日本の伝統模様などを使い、そこに樹脂の点々をのせているが、実際に目の見える子と不自由な子が一緒に遊ぶと、見える子が教わるという場合も多い。

このような試みが今後も続いていくことを願いたい。

(「第61回産経児童出版文化賞大賞 選評」産経新聞 2014年5月5日掲載)