『サンタ・クロースからの手紙』
J.R.R.トールキン/作 ベイリー・トールキン/編 瀬田貞二/訳
評論社
1979
原題:THE FATHER CHRISTMAS LETTERS by J.R.R.Tolkien, 1976(イギリス)

<版元語録>サンタ・クロースになりすましたトールキンが、20年以上にわたり子どもたちに贈り続けたクリスマス・レター。サンタ・クロースの北極での暮らしぶり、愛すべきまぬけな白熊のことなどをユーモラスに報告。トールキン自筆のファンタジックな水彩画を収めた、美しいクリスマス絵本。

紙魚:前回、『川の上で』(ヘルマン・シュルツ作 渡辺広佐訳 徳間書店)を読んで、参加者みんなが「物語の力」ついて考えたんですよね。今回は「物語の力」、しかも『川の上で』の設定にならって、お父さんが語る物語をテーマにしようということになりました。父が語る姿というと、私は真っ先にこのトールキンの『サンタ・クロースへ手紙』がうかびます。トールキンのこの絵本は、わくわく楽しい読物ではないけれど、物語のまっさらな力が感じられて大好きです。壮大な物語というわけでもないし、絵本かと思って手にとっても本のつくりがあまり親切じゃないので内容がつかみにくい、トールキンが好きな人ならば楽しめる、というような本なんですけど、クリスマスも近くなると、つい手にとってしまいます。最近ファンタジーというと、大勢の人が読み、たくさん売れて、映画化されたりして大きなプロジェクトになっていくものが目立ちますが、物語の始まりって、本当に少数の身近な人に語られたのがスタートなんだなと、この本を開くとあらためて感じられるんです。大勢を意識して書いたわけでないのに、世界を作りこみ、ビジュアルも一枚一枚眺めていくと、物語がうかびあがってくるものばかり。小さな文字の書きこみなども丹念に読んでいくと、はっとさせられます。

ウェンディ:トールキンを知ってから、子どもにこういう話をしていたのだという興味で読みました。瀬田さんの『お父さんのラッパばなし』もそうだけど、この頃のお父さんて、元気だったのね。語る余裕がお父さんにあるということに、まず驚きます。トールキン好きの大人の目で読んでしまったので、31年のところの世界恐慌とか、37年のものとか、へんなとこが気になってしまった。子どもには、どう伝わるんでしょうね。トールキンの家族の実際の状況とか、資料と照らし合わせて読んだら、もっとおもしろいだろうな。

愁童:ぼくはね、見開きごとに封筒がついている版を読んだことがあるんですよ。これも文字が小さくて読みにくいけど、そっちは古いからもっと読みにくかった。その頃は、日本でもサンタクロースとかクリスマスとかに、今とはちがうイメージを抱いていたんだろうな。

トチ:この出版社は、趣味的で読みにくいつくりの本が多いわね。

オカリナ:いちばんいいなと思ったのは、サンタクロースという夢を子どもにあたえようと思っているトールキンお父さんの姿ですね。サンタクロースって、子どもの想像力を豊かにする大きな役目をもってると思うんだけど、お父さんが一所懸命その夢の世界を子どもに手渡そうとしている姿勢に感動しましたね。素朴だけどトールキン自筆の絵もいいし。

:しゃれた感じと思った。大人として読むと、『指輪物語』や『ホビットの冒険』などの世界がどういうふうに作られていったかがわかって、おもしろい。ただ、全編をとおして、わかりにくいところがある。サンタクロースをいわゆるステレオタイプ的イメージで描くのではなく、かなり具体的な描写や生活感を描いているので、サンタクロースがいるというリアルなイメージが持てます。資料的に価値がありますね。

オイラ:これはなんだろうと思ったけど、後書きを読んでなるほど思った。本にすべき原稿ではなく、資料として出されたものなんですね。トールキンは、非常に物語のあるお父さんだということを感じた。娘が小さいときに、ぼくもサンタクロースのまねをしたことがあるんですよ。枕もとにプレゼントは「玄関のところにある」ってメモがあって、そこにいくと「引き出しのところにある」というメモ、引き出しのところにいくと・・・、なんてね。自分の子育てのときを思い出したな。もう1度、父親をやりなおしたいという思いにかられた。

ねむりねずみ:これは子どもの本じゃないなって思って読まなかったんだけど、今回はじめて読みました。たしかドリトル先生は最初戦場から手紙を送るスタイルで書かれたのだと思いますが、これにもそれと共通の、身近な人に贈るプライベートなもの独特の温かさがあって、いいなあと思った。絵も上手ではないけど、楽しい。工夫してある。北極が折れちゃったり、オーロラが花火だったり、そういうアイディアに感心した。書いている本人も楽しかったんじゃないかな。

トチ:一般の子ども向けではないけど、一般の子ども向けの作品に発展していきそうな力を感じましたね。やっぱり、作家魂といえるようなエネルギーがある。子どもにしてみれば、1年ごとに手紙をもらうわけだから、テレビの「あの人は今」みたいに、あのシロクマがどうしているかというのもわかって、わくわくしたでしょうね。ただ、邦訳版の本をつくるうえでは、もう少し編集上の工夫が必要だったんじゃないかしら。

ねむりねずみ:字面も、横書きの1行が長くて読みにくい。

オカリナ:原書どおりの装本でページ数も同じにしようと思って、各ページに小さい文字をいっぱい入れちゃったんでしょうね。でも、たとえばトールキンの家族の写真を入れるなどの工夫ができれば、大人向けの資料的価値もふえるし、もう少し親しみやすい本になったんじゃないかな。

オイラ:こんなの読むなんて、トールキン家の子どもたちは頭よかったんだね、きっと。

ウェンディ:わからないところはお父さんに読んでもらうといいと書いてあったりしますよ。

紙魚:子どもに「読んで」なんて言われると、トールキンもどきどきして、うれしかったでしょうね。

すあま:子どもたちが書いた手紙も読みたかったな。あと、トールキンは絵がうまいんだなあと思った。こういう本の形になれば一度に全部読みとおせるけど、次のクリスマスまでの1年は子どもにとっては長い。子どもたちは毎年の手紙をどのように読んでいたんでしょうね。

(2001年11月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)