月: 2006年5月

2006年05月 テーマ:謎

日付 2006年5月25日
参加者 トチ、紙魚、カーコ、げた、むう、ブラックペッパー、アカシア、ケロ、うさこ、たんぽぽ、愁童、アサギ、ウグイス、すあま
テーマ

読んだ本:

(さらに…)

Read More

ユリアン・プレス『ラクリッツ探偵団』

ラクリッツ探偵団〜イエロー・ドラゴンのなぞ

トチ:「タンタン」を思わせるクラシックな、ほのぼのと品のいい絵。特に表紙がすてき。内容は絵解きですが、大人の私は細かい絵をじっくり見ていく根気がなく、『あたまをひねろう』と別の意味で難しかった。ただ、子どもたちにはおもしろいでしょうね。それと、時間がたっぷりあるお年寄りにも向いているかもしれない。ただ残念だったのは、絵がメインで、ストーリーそのものはあんまりおもしろくなかったこと。本作りの意図がそこにはなかったんでしょうけど。

たんぽぽ:心に残るというより、「ミッケ」のような遊びの感覚で、子どもは親しみやすいと思う。

うさこ:こういう手法はありだな、と思いました。同じパターンだけれど、繰り返しのリズムがある。内容的にはワンパターン。でも、10歳くらいの子は、そのパターンが好きなんだろうな。あまり物語を読まない子は、こういうものから入っていくのでは、と思いました。絵の中で、わかりにくいところがありました。79ページの注射器がわからなかった。表紙の女の子の絵も、手と足が同じ方が出ていて、変。絵解きのお話なので、絵にもっと気をつかってほしいなと思いました。

紙魚:注射器は、たしかにわかりにくいですね。絵は、線が簡潔で、なかなかいいんですが。原書では、答えは文章を読まないとわからないようになっているのですが、せっかく探しても「本当にこれでいいのかな?」と迷う人がいそうなので、答えの部分の絵を切り抜いて、ひと目でわかるようにしてあります。

うさこ:問題があって、ページを開いて「正解はズバリ」という言い方で、原書も統一されているのですか?

紙魚:原書は、問題の文章、答えの文章というようにはっきり分かれていないんです。文章でそのままずらずらと書かれているだけ。でも、例えば読者を「青い鳥文庫」の読者くらいと想定すると、きちんと分かれていないとわかりづらいかなと思って、そのような構成にしました。「ズバリ」というのも、ここからが答えですと、はっきりと明示するためです。

うさこ:全部の答えをつなげていくと、読み終わった後、全体でもなにか種明かしのような、答えがあるのかなと思って書き出していったけど、なかった。私の考えすぎですね。

紙魚:あー、そうだったらまたおもしろいんですよね。もともと、文章から謎を解くのではなくて、絵から答えをさがすというスタイルなので、一つのストーリーとしてつながりを持たせるのは難しいのかもしれません。でも、次に期待したい! とはいえ、ゆるやかにつながっているので、あまり出来がよくないからといって、問題を1問はずすということもできません。そのあたりは、やるせないですね。

ケロ:もっと謎解きかと思ったけど、絵さがしなんですよね、全体的に。その中で、ちょっと気になったのは、絵の中の活字。原書はどうだったのかな。p17で鍵穴から部屋の中をのぞくとき、日本語の活字がまず目にぱっと入ってくるので、すぐに答えがわかってしまう。絵の中に活字があると、そこから目に入ってしまうので、登場人物がすぐにわからないのはおかしいという感じになってしまっている。

紙魚:原書は、描き文字で絵の中にとけ込んでしまっていて、むしろ文字だかなんだかわからない感じ。どのくらいの難易度にしようか、ずいぶん迷いましたが、これだけの文章量と問題数があって、解けない問題が続くより、すぐに答えがわかる問題が続く方がいいかなあと思って、活字にしました。

むう:私も、絵の中の活字って最初に目に飛びこんでくるから、簡単すぎるよなあと思いました。それと、お話として厚みがないのが残念。ほとんどくり返しみたいになって飽きてきちゃいました。後ろにわざわざ登場人物紹介があるんだけど、なるほど、そういう子なんだなあ、と思わせるところまで書けていないから、その点も不満でした。

げた:絵解きのレベルにくらべ、文章が多いような気がします。読書対象年齢がはっきりしないと思いました。ストーリーは盛り上がりがなく平板な感じで、図書館での複本購入はちょっと難しいかな……

ウグイス:持ったときの本の大きさ、手ごろな厚み、カジュアルな感じにまず好感をもちました。ふつうのお話の本じゃなく、おもしろそうだなという雰囲気を作っているのはいいですね。探偵ものの児童書はいろいろあり、謎解き自体は凝っていなくてもキャラクターやストーリーがおもしろいというものが多いですね。これは、ストーリーに入り込んでいくほど、深い内容ではないのね。しっかり文章を読んだ上で謎を解くというより、さっと読んで絵の中を探す、という形。子どもに次々ページをめくらせるという意味ではクイズ本的な作りにしたのは、成功していますね。

アサギ:薄くて軽く、読みやすい所は良かったと思います。ただ、絵解きなのに、ちょっと易しすぎるという印象がありましたね。私みたいに謎解きが下手な人間でもすぐわかっちゃったから。話も単調で、途中で飽きてきてしまった。でも、対象年齢が低いなら、これでいいかもしれないので、実際にどういう子が読むのか、知りたいですね。

カーコ:この手の本としての本作りに徹しているのがよかったです。表紙の虫めがねとか、レイアウトとか、子どもが最大限楽しめるように作ってありますよね。文章も全体に読みやすいし、きちんとしていると思いました。「ラクリッツ」と言うと、日本の子にはただの固有名詞に聞こえてしまうけれど、ドイツでは独特の味が連想されて、おもしろみがあるんでしょうね。そんなにおいしいものだとは思えないけれど、ドイツの子は好きなのかしら? 本のタイトルにするくらいに。

すあま:最初見たとき、ハンス・ユルゲン・プレスの『くろて団は名探偵』(佑学社)という今は絶版になっている本の第2弾かと思ったら、息子さんの作品でした。絵や雰囲気が似ていますね。お父さんの作品も同じような絵解き推理物語ですが、おもしろさではお父さんの方が勝っているように思います。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年5月の記録)


ジョージ・シャノン『あたまをひねろう!』

あたまをひねろう!

トチ:子ども向けなのに、答えが分からないものばかりで悔しい! 『ラクリッツ探偵団』のほうは絵解きですけど、こちらは文字通り頭をひねらなくちゃいけないものばかりですね。子ども向けのクイズというと言葉遊びのようなものが多いような気がするけれど、こうやって頭をひねる練習っていいですね。子どもだけじゃなくて、頭が固くなった大人にもぜひすすめたい一冊です。作者がストーリーテリングをしている人だけあって、さすが面白い話ばかり集めていると思いました。なぞかけのおもしろさと、昔話のおもしろさが融けあって、すばらしい本になっています。そのうえストーリーテリングのうまい訳者が訳しているから、ページを開くと作者と訳者の声が聞こえてくるような気がして楽しかった。ピーター・シスの絵のすばらしさは、いまさら言うまでもないことだし……

紙魚:もともとシスの絵が好きなのと、内容的にもおもしろかったので、原書を見て前から気になっていた本です。晶文社から出るというのが意外ですよね。原書はモノクロのイラストであっさりしていましたが、2色にすることによって、みちがえるようにきれいで楽しい本になっていると思います。2色×1色の構成も折ごとにうまくいっていて、経済的に考えられていますよね。品がよくてしかも小気味よい感じがすてきです。これや『ラクリッツ探偵団』のような、謎解き本は小さい頃好きだったので、大人になった今でもときめきます。どちらも対象年齢は同じくらいの本ですが、書店や図書館の同じ棚にはなかなか並ばなさそうなのは残念。内容的にも、ユーモアある気持ちのよい謎解き具合でおもしろかったです。文と絵、そして造本が見事で、とっても楽しい本でした。

カーコ:わが子に「おもしろいよ、読んでごらん」と手渡すとプレッシャーをあたえるので、それとなく部屋に置いておいたら、まず高校生の長男が気づいてページをめくり、はまりました。小6の次男は、「何かおもしろい本なーい?」と来たので渡したら、声に出してその場で読みはじめ、「お母さんわかる?」といちいちきいてきて、答えがわかるたびに「頭いいねー」って。3冊とも同じように読み、あとから、家族や友達に話しては「なんでかわかる?」とたずねていました。友だち同士何人か集まって、「ふーん」と楽しめる本ですね。音にしたとき、心地よく頭に入ってくるように訳されているんだな、と感心しました。2番目のたねあかし「五、十」は、あんまりだと思いましたが。絵も本当にきれい。本づくりがとてもいいですね。

げた:さがしものの絵本というのはたくさん出ていて食傷気味ですが、なぞなぞ話みたいなものは出ていないので珍しいと思って、図書館にも何冊か入れました。話はおもしろいと思いました。再話した民話がそうなっていたんでしょうけど、「条件をあらかじめ提示してくれないと答えられないなあ」と思うものもありました。

むう:絵がなんとも魅力的でした。甘ったるくなくて、味がある。パズルというのはかなり理系的なところもあって、パズルは人間の本能だという記号学者の本も出ているくらいだけれど、こういう昔からの言い伝えのなぞなぞを集めた本を見ると、なんというか、納得してしまうところがあります。子どもはとにかく、大人の目でいうと、そういう意味でも各地の話を集めてきた本というのは興味深いですね。1の雪だるまはよくわからなかったというか、肩すかしを食らった気がしたのですが、あとにいくほどマジになってむきになって、最後のほうは数学の本や哲学の本ともかなり重なる気がしました。いわゆる論理学系ですけれど。最後の船の話は、アン・ファインがこの謎を取り上げて短編を書いていて、そっちもなかなかおもしろかったです。でも、答えがないと言われると、ちょっとほかとレベルが違うから、あれ?という気がしますね。

ブラックペッパー:とっても楽しい本。先に3を読んでいて、答えは難しいということがわかっていたので、あんまり考えこむことなく楽しく読めました。私も、カーコさんの次男さんと同じように、もうどれも「あったまイイ!」「りこうだわぁ」と思いながら読みました。どのページも絵がとってもきれいで、すみずみまで楽しめる本ですよね。「たねあかし」という言葉も好き。とくにお気に入りは、10の「さいごのねがい」。この圧倒的な感じは、ババーン! って効果音がきこえてくるようだった。いっしょに死んでほしいという言い方もおもしろい。「いっしょに死んでください」とか言ってしまいそうだけど、「死んでほしい」っていうところがいいよね。最後の問題の答えがないというところも好きです。ほんとは、むうさんみたいにピンとくるものがあれば、もっといい読者になれたと思いますが……。教訓的でないところもいいですね。

アカシア:ピーター・シスの絵にほれぼれとしながら読んだんですが、本当に原本より数段いいですね。訳も、昔話を聞いているみたいに、語っている人の声が聞こえてくるようです。実際の昔話が土台になっていると思いますが、その土台の昔話の方も読みたくなります。ていねいにつくられたきれいな本ですけど、今の子どもたちは小さくて薄い本を持ちたがりますよね。持って歩くには、『ラクリッツ〜』みたいな形の方が人気が出るのかな。

ケロ:はじめは謎解きのくりかえしの本だな、という印象で読んでいたんですが、作者はこの本で、すばらしい編集作業をしているということがわかってきました。様々な国に伝わる、いわゆるとんち話の「謎の部分」を抽出して、おもしろく再構成しているんですよね。こういうふうにまとめてしっくりくる形にするのは、すごい。絵のおかげでもありますね。そして、日本語版になったときでもさらにすごいということで、その積み重ねの見事さに感心しました。ルビが適当にないのも、いい感じでした。表4の絵と帯の文章が連動しているところまで作り込まれているようで、きめ細かい仕事だと感心しました。

うさこ:絵も好きで、すてきな本だなあと思いました。いつかこういうのが作れたらなあと思った1冊でした。謎かけは、ストレートな答えあり、とんちがきいてるものあり、「ええっ、これが答え? やられたなあ」と思うものありと、いろいろバラエティがありました。謎かけに真っ向勝負!的に真剣に読んでいくと、答えに肩すかしをくらわされて、出題者の作者がむこう側でへへへと笑っているような感じがします。タイトルどおり、ほんとに頭をふにゃふにゃにして読むことが、この本を楽しむコツかな。絵の見せ方、本の作り方が、原本よりずっといい。「あたまをひねろう」というタイトルづけや、「たねあかし」「10歳以上のみんな」など、言葉のひとつひとつの使い方もよかったと思います。

たんぽぽ:きれいな本で、手元におきたい本。雪だるまの話など、最初答えがわかりませんでしたが、ミルクのところで、納得。だんだん頭がほぐれてきました。私は1巻のほうが、わかりやすいかなと思いました。原典に当たりたいと思ってくれる子が出てきたらいいなと思います。

愁童:今の子どもの状況を考えると、いい本が出たなって思いました。ちゃんと言葉に向き合わないと謎も解けないって、すごく大事なことをゲーム感覚でさりげなく伝えているところがいいですね。「あたまをひねる」なんて言葉、今の子どもたちにとっては死語だろうけど。でも、大人が使ってきた言葉をこういう形できちんと伝えようという姿勢が感じられて、この翻訳、とても気分がよかったです。

アサギ:私は、もともとミステリーを読むときもせっかちで、半分くらい読むと、最後の方を読んじゃうくらい。謎解きももともと下手な方なので、たねあかしをふくめてひとつのお話として読みました。そう思って読んだので、楽しめました。シスの絵っていい。人気があるだけのことはありますね。ただね、雪だるまの話は納得しにくい。

たんぽぽ:途中で読むのをやめたいと思わなかった。だんだんはまっていきます。

むう:いろいろな場所のなぞなぞを集めてきたのに、印象が散漫じゃないことに感心しました。なんというか、昔話をひとつ読んだよ、という感じかな。それがよかった。

ウグイス:「世界のなぞかけ昔話」全3巻の原題は、”Story to Solve”“More Stories to Solve” “Still More Stories to Solve”ですね。 邦訳1巻目は『どうしてかわかる?』、2巻目は『あたまをひねろう!』、3巻目は『やっとわかったぞ!』で、1ではちょっとむずかしくても、2で頭をひねるこつをつかみ、3では頭がほぐれやすくなって解けるようになる、という段階をふんでいく感じを出しています。ただおもしろく読むだけではなく、子どもたちに頭をつかって考えてもらいたい、という意図があるんですね。作者が裏で「フフフ、解けたかい?」と言っている感じがあって、読者は作者に挑戦するような気分で読めると思います。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年5月の記録)