月: 2007年12月

2007年12月 テーマ:中学年の読み物

日付 2007年12月20日
参加者 みっけ、ネズ、アカシア、げた、ジーナ、サンシャイン、mari777、紙魚、小麦
テーマ 中学年の読み物

読んだ本:

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いとうひろし『あぶくアキラのあわの旅』

あぶくアキラのあわの旅

小麦:出だしの、体があわになってしまうところが強烈で、これは期待できるぞ!と思ったんだけど、そうでもなくて・・・。あぶく人間に関するディテールはすごくよくできていて、ひきこまれるんですよね。あわがはぜる時にパチパチ痛いとか、腕がとれる瞬間はすごく痛いんだけど、何事もなかったかのようにくっつくとか。でも、そんなあぶく人間の魅力に比べると、ストーリーの方は割とオーソドックスな冒険物語で、長い割にはちょっと物足りなかったです。アキラもあぶく人間なだけに割と受け身の主人公で、いまひとつ盛り上がれませんでした。

サンシャイン:話が散漫だという印象です。無理やりこのページ数にのばしたのかな。あまり楽しめなかった。下水に入っていくのは汚いと思ってしまったし。お話はいとうひろしさんの絵本と似たようなタッチですね。ドラドンを退治する所も、ちょっと無理があるような気がしました。

アカシア:個人的には、いとうさんの作品は、短いものの方が好きです。短いからこそおもしろい、という要素をもっている作家さんだと思っています。ユーモアは感じますけど、こういう作品はそれだけでは終えられない。地の部分や、サスペンスが立脚しているところがユーモアなので、どうもアンバランスで、しまらない感じがしてしまいました。254ページ、「そちらからははらへらしが〜」という箇所、「せっけんのうで」ではなく「あぶくのうで」では?

みっけ:クスクス笑えるおもしろいところがいっぱいあるんだけれど、冒険物語としてクライマックスに向かって盛りあがっていくという感じに今ひとつ欠ける感じがして。気に入った箇所は結構いろいろあったんだけれど、今のアカシアさんの話には、納得です。キャラクターとしてはモグラの「おおぶろしき」がかなり気に入りました。それに、本物の竜が実は気が弱かったり、ガマガエルのおばあさんが取り戻したがっていたお宝が、「あおがえるの皮で作った雨合羽」だというあたりも、なんとも脱力感があって、楽しかったです。

ジーナ:どうなるかと思って読み始めたんですけど、途中で失速してしまいました。ドラドンはもうどうでもいいやという気になってしまって。でも、うまいなと思ったのが、それぞれの登場人物の語り口。どの人物も、それらしい口調をつくりあげてあるのはさすが。こういうのは、日本の創作でなければなかなか出てこないおもしろさですね。あぶくアキラについていく気になれなかったのが残念です。

小麦:アキラって、わりと他力本願なんですよね。

ジーナ:三人称で書かれているのに、アキラの声を聞いているみたいに、アキラの細かな感情の動きが伝わってくるのも、うまいなと思いました。でも、全体となると、ストーリーの引っ張り方いまひとつなのかな。

mari777:私はおもしろく読みました。宝探し、鬼探しという古典的な設定と、現代的なキャラクターがうまくブレンドされていてよかった。アキラがヒーロータイプではなくて「だめ」なところも現代的ですよね。「はらへらし」なども、ひと癖ふた癖あって、必ずしも「善玉」ではないのに、最後には好きになってしまいました。男キャラがなさけなく、女キャラがおばあさんというのは、よくあるパターンなのかな、と思いました。

げた:私も楽しく読みました。姿をかえられて元に戻ろうと旅をする物語。その道連れのもぐらとふくろうというキャラクターがまたユニーク。それぞれ、一物腹にあって、まっすぐではないけれど、義理人情的に描かれていますよね。もしかして、すごく古い話なのかな。だから古い私には、おもしろかったのかもしれません。図書館で、2年前、「おすすめの本」にしたのだけれど、残念ながら期待したほど借りられていません。今回貸し出し回数を見て、がっかりしました。内容だけじゃなくて、アキラっていうネーミングも古い感じだからなあ。

(「子どもの本で言いたい放題」2007年12月の記録)


ジャンニ・ロダーリ『マルコとミルコの悪魔なんかこわくない!』

マルコとミルコの悪魔なんかこわくない!

サンシャイン:ロダーリは、『猫とともに去りぬ』に続いて2冊目。おもしろく読めました。とんかちを使って、世の中をぶっこわし、うまくおさめちゃうというのは、子どもたちはおもしろく読むんだろうな。笑えるからいいんじゃないかなという感じです。

げた:私はね、小さい子どもが金槌ふりまわしているというのに抵抗があったので、初めからおもしろいという気持ちになれなかったんですよ。7つのお話もとりわけ奇抜なお話というわけでもなかったしね。訳者あとがきに、音のおもしろさについても書かれているけれど、「マル」の響きについても、日本語だとそこまで感じられない。赤ずきんちゃんの話をこわがるというのがオチなのだけれど、今ひとつ、そのおもしろさも感じられない。挿絵も平面的な感じで、好きじゃないな。

mari777:私もです。世界に入れませんでした。『猫とともに〜』も読んで、表題作はおもしろかったんだけど、それ以外は合わなかった。この作品もそうなんですけど、登場人物に葛藤がないんですよね。楽しいのかもしれないけど、悩んだりしない。訳は読みやすくてうまいなと思いました。

ジーナ:私は楽しめました。荒唐無稽で、ありえない展開の話だというのが最初から見えるので、フィクションとして、今回はどんなやつをやっつけるのだろうと、楽しんで読めました。金槌をふりまわすのと、それがブーメランみたいに戻ってくるというのがばかばかしいのだけれど、こういう本もあっていいかなと思います。ユーモアってすごく難しくて、笑うところが国によってだいぶ違いますよね。現地で楽しく読まれていても、日本に持ってくると、ちっともおもしろくないということがよくある。これは、イタリアの子のほうがもっと楽しめるのだろうけれど、日本でも通じると思いました。一つ気づいたのは、人の名前がたくさん出てきますよね。イタリア人の名前は、日本の子には聞きなれず、おぼえにくいものもあるので、ひびきのおもしろさもあるのだろうけれど、チョイ役の登場人物については少し削ったほうが、日本の子どもに読みやすかったかなと思います。

みっけ:そうなんですよね。ブーメラン金槌っていうのは、かなりきついですが、割合さくさく読めました。影とか襞とか、そいういうのではなくて、荒唐無稽な展開を楽しむというお話ですよね。第3話の、双子が赤ちゃんのお守りをしているうちに、赤ちゃんを喜ばそうと食器を割りはじめるんだけれど、その行動も実はお母さんには読まれていた、という展開なんか、かなり気に入りました。荒唐無稽な部分と、親にちゃんと見ていてもらっているという子どもの安心感と、両方があって、子どもは楽しめるんじゃないかな。あと第7話の、謎の潜水艦が実は自分には釣れもしない魚を手に入れるために金持ちが雇ったものだったという荒唐無稽さも、第1話の、強盗が双子の策略にまんまと乗せられてみんなの嫌っていた品々を持たされるあたりも、なんというかほんわりしてて、ばかばかしくていいですね。この人は『チポリーノの冒険』でもそうだけれど、からっとした感じがしますね。

mari777:ロダーリの作品は、短編集『猫とともに去りぬ』が同じ訳者で光文社の古典新訳文庫に入っています。あと、もう絶版かもしれませんが、図書館で『ロダーリのゆかいなお話』という5巻本を見ました。タイトルどおり、荒唐無稽な「ゆかいなお話」満載の短編集です。

ネズ:すらすらおもしろく読みました。落語を読んでいるみたいで。翻訳もなんとか日本語でも言葉遊びの面白さを伝えようと訳者が努力しているのが伝わってきました。おなかをかかえて笑ったかというと、そこまではいかなかったけれど。私もげたさんとおなじで、子どもが金槌を持っているというのが気になって……。イタリアの人が読むと、金槌になにか意味があるのかな? 最後の「かなづち坊やたち」というお母さんの台詞がけっこう好きなので、タイトルも「かなづちぼうや」とかにしたら、「アンパンマン」みたいにキャラクターの設定ができて、金槌も気にならなかったのかも。イラストも、本文にぴったりあっていて好きです。

アカシア:私もイラストはこれでいいと思いました。上のほうはパラパラ漫画になってるのよ。これは、いろんなところから集めてきた短編なのよね。

ネズ:そうか! だから統一がとれてないような気がするのね。

(「子どもの本で言いたい放題」2007年12月の記録)


アン・ホワイトヘッド・ナグダ『ひげねずみくんへ』

ひげねずみくんへ

みっけ:ネットには、けっこうおもしろいと出ていたのですが、私は今ひとつピンときませんでした。後の方で、主人公の女の子がクッキーをつかって年下のクラスの子たちをひきつけていくところから関係がほぐれてくるのは、なるほどなと思いましたが、今ひとつこちらに迫ってこなかった。

ネズ:上級生と下級生が手紙を交換して、それによって国語の勉強をするというアイディアはおもしろいと思いました。主人公の4年生が手紙を出す相手がサウジアラビアからの移民という設定ですけど、上級生が一方的に下級生を指導するのではなく、後半になってサウジアラビアのことも学んでいくという姿勢も出てきたので、良かったと思いました。「移民の子」が、最近は日本でもめずらしくなくなり、小学校でも昔と違った問題が出てきたり、いろいろな取り組みをする学校が増えてきたんでしょうね。それがこの本を出版した動機でしょうか。
ただ、設定が非常にわかりにくく、最初の部分を何度も読みなおしました。4年生の子がネズミになって2年生の子に手紙を書き、2年生の子がそのネズミ宛に返事を出すんだけれど、4年生の子の名前、ネズミの名前、2年生の子の名前、さらに4年生の子の友だちが考えたネズミの名前、その手紙を受けとった2年生の子の名前……と、いろんな名前がごちゃごちゃになって、わけがわからなくなる。こういう作品の場合、原文になくても最初に設定がわかるように書いておくべきだと思いました。それから、とかくこういうテーマのものにありがちだけれど、移民の子の祖国について触れていても、アメリカと対等の国という意識というか、敬意が感じられない。どうしても、アメリカより劣った国から来た、かわいそうな子に親切にしてあげるという、保護者的な意識が鼻についてしまって……。
それから、翻訳がこなれていなくて、本にする前の段階という感じ。英語と日本語はまったく違った言語だから、国語としての英語の授業をそのまま日本語にしても、読者は混乱してしまうのでは? 手紙の書き方だって違うし。21ページのように、「スミアは虫のしみだから……」なんて言葉がポンと出てくるし、ラットとマウスが出てくるけれど、その違いを説明してもいない。「ペンパル」なんて言葉もいきなり出てくるし。いちばん違和感があったのが、挿絵。なんで絵のなかに英語が書いてあるのかしら? 最初は、原書の絵をそのまま使ったと思っていたけど。訳者の問題というより、編集者の問題かも……。

アカシア:最初の導入がもたもたしていて魅力的じゃないし、設定もわかりにくかったですね。小さい子どもの本って、最初でかなりひきつけないと読んでもらえないのに。19ページには「わたしの生徒は〜」と唐突に出てきますが、この子は教えているのかなと誤解してしまいました。「わたしの文通相手は」くらいにしないと、手紙を出した相手の2年生のことをさしているとは、すぐにわかりません。物語が自然に生まれたというより、わざと作っているという感じもあります。主人公は文通相手がスペリングも不十分だし文章も書けないという裏に事情があると察していいはずなのに、30ページに「サミーラにきらわれてしまった。〜」という表現が出てくるのも不自然。人物像にも厚みがなくて、スーザンといういかにも嫌みな優等生が出てくるのはステレオタイプ。日本でどうしてこの本を出すのかが、わかりませんでした。後半、ジェニーが工夫をしてコミュニケーションをとろうとする部分はいいと思いましたが、前半はいただけない。全体として不完全な本を読まされている感じがぬぐえませんでrした。

サンシャイン:こういう作品は、あんまり日本語に訳す意味がないかもしれません。ニューカマーズが苦労してアメリカの偉大な文化に包まれて英語ができるようになるという、アメリカ礼賛の物語。うちの子も、ESLにお世話になったので、そういうこともあったねとは読めるけど、日本の子どもが読んでもあまりピンとこないでしょう。アメリカで子どもを育てている日本人が対象の本でしょうか。翻訳者もそういった経験があるのかもしれません。37ページにカギ括弧がぬけているところがありましたね。福音館の本ですが。

ネズ:アメリカと日本では、読まれ方がまったく違うでしょうね。

げた:そうか……。確かに、出だしがわかりにくかったんですね。ただ、今回読んでみて、読後感としては、幸せそうな子どもたちや周りのあたたかい大人たち。それぞれ穏やかでやさしいお友達の顔がうかんできてよかったなと思いました。だから、以前図書館の選書で目を通した時より、案外いいかなと思ったんですね。2年生と4年生の文通による国語教育というのもおもしろいと思うし。子どもたちが、自分たちにもこういう機会があったらいいかなと思えるかもしれない。でも、今、皆さんのお話をきいて、確かに問題があるかもしれないと思ったところです。

mari777:予想通りの展開だけれど、私はわりとおもしろく読みました。小学校国語の「書くこと」の分野で、目的をもって書くということが重視されているということもあって、「なりきり作文」って、日本でも最近はよく行われている学習活動なんです。高学年の子どもと低学年の子どもが文通するという活動も、最近の日本の国語教育では、わりとありがち。あまり新味は感じません。この年ごろの子でもによくある、ちょっと背のびしたいような気分や、学校の課題に対してちょっとひいちゃうような、しらけた気分は、よく書けていたと思います。ただ、ラストはありきたり。教訓的な感じで残念。

ジーナ:私も、中途半端な感じを持ちました。さっきもどなたかおっしゃったけれど、日本でも日本語がぜんぜんわからない外国の子どもが入ってくるという状況はよくあるから、テーマはよいと思ったんですけど、学校のようすが日本とすごく違うでしょ? 下級生と文通はあるかなと思ったけれど、手紙が来なかったときに、教室に行ったり、クッキーを持ってきていきなり食べちゃったり。日本の子は、いいなあと思って読むのか、違和感を持つのか、わかりませんでした。あと、絵ですけど、サウジアラビアの子どもに見えないと思いました。私が知っているアフガニスタンやモロッコ出身のイスラム教徒の家の女の子は、ズボンをはいて、肌をむきだしにしないようにしているので。

ネズ:難しいですよね、小さな子どもの本は。文化や、教育のしかたや、様々な面でギャップが大きいから、訳すときにどれくらいつけたしたらいいか、いつも考えなくては。この本の場合、「文」、「文章」「行」が混在していたり、罫線という意味で「行」と書いているのかなと思ったり……。大きく意味がわかればいいという考えなのかもしれないけれど、ちょっと大雑把だなと思います。

ジーナ:「形容詞は助ける言葉」というのも、わかりにくい。編集の人が、注意しそうなものですけど。

ネズ:71ページで、先生が『スチュアート・リトル』のことを、「これは、ファンタジーです」って生徒に説明しているけれど、読者にわかるのかしら? ねずみレターのことをファンタジーと言ってるんだと思うかもしれない。それに、この本は翻訳が出ているんですから、邦題を書いておいたほうが親切です。

ジーナ:まあ、わからないところは、わからないなりに、子どもは読んじゃうんでしょうけれどね。

ネズ:43ページの「今朝はサミーラがはっぱの〜」って文章なんて、読点がまったくないのよね。

(「子どもの本で言いたい放題」2007年12月の記録)