月: 2014年11月

シャイローがきた夏

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『シャイローがきた夏』

が出ました。

フィリス・レイノルズ・ネイラー作
岡本順挿絵
さくまゆみこ訳
あすなろ書房
2014.09

原題:SHILOH by Phyllis Reynolds Naylor, 1991

アメリカの田舎に住む少年がビーグル犬に出会い、最初に出会った場所の名前をもらってシャイローと名づけ、虐待している飼い主からなんとか救い出そうとする物語です。「夏」とタイトルについているのに、夏が終わった9月に出ました。少年とシャイローの間に通い合う気持ちが生き生きとフレッシュに表現されているのが気に入っています。

前は別の出版社から別のタイトルで出ていた作品ですが、新たに訳し直しました。

うちで飼っているのもビーグル犬なので、ずっと気になっていた作品です。ニューベリー賞を受賞しています。

3部作なので続編もあるのですが、3作とも映画になっていて、DVDで見ることができます。

Shilohdvd1
Shilohdvd2
Shilohdvd3

 


川かますの夏

ルパン:時代設定がよくわからず、なかなか話に入れませんでした。お城の中に住んでいて、伯爵もいるようなので昔なのかなあ、と思うとスクールバスが出てきたり。

アカシア:現代のものか一昔前のものかは、携帯電話が出てくるかどうかで判断できますね。これは、出てきませんよ。

ルパン:たまたまなんですけど、直前に『庭師が語るヴェルサイユ』(アラン・バラトン著 鳥取絹子訳 原書房)っていう本を読んだんです。ちょうどヴェルサイユ宮殿のなかに住んでいる庭師が書いた作品で。そのイメージがあったので、「お城に住んでいる子どもたち」の特別なおもしろさを期待してしまったら、ちょっとはずれました。ただ、お城の敷地のなかだけの生活で、男の子としか遊べない主人公が、「女の子の友だちがほしい」と思うあたりはよく描けているなあ、と思いました。ただ、この子のお父さんはとてもいい父親のようなのに、離婚後はまったく会いに来ないのはどうしてだろうという疑問は残りました。

アンヌ:私にとっては、残虐な場面が多い物語という感じで、読み返せませんでした。孔雀の足はとれてしまうし、川かますは無意味に殺される。川かますの神様とか言っているので、アイヌの神のように何かその命を送りだす儀式とか意味とかあるのかと思ったのだけれど、そんなこともない。まともな大人が、現実の中に出てこない。離婚して今はいないお父さんの思い出と、病気のゲゼルおばさんだけで。がんの描き方も、あとがきを読まない限り30年前の話だとは分からないので、ショックを感じる読者もいるのではないかと思いました。これが映画だと美しい景色を外から眺めて楽しめたかもしれないけれど、本だとその中を生きるような気がするので、気が滅入った物語でした。それから、ラッドとは何か、どんな魚なのか、すぐにわかるように、注を入れてほしかった。

ルパン:アンナは不治の病のおばさんに最後までお礼が言えないままで終わるんですよね。そこがほんとうに残念でした。アンナも残念だったはずなので、感情移入したということかもしれませんが。

パピルス:7年前に読んだのですが、内容を全く覚えていません。読んだ当時、よく理解できていなかったのだと思います。

レジーナ:先ほど残酷だという意見がありましたが、私はそうは思いませんでした。子どもには残酷な面があり、虫の脚をちぎることもあるし、取り返しのつかない瞬間を繰り返し、後悔を重ねながら生き物との距離感を学んでいくのだと思います。巨大な川かますは、母親の死、死の不可解さや不気味さを象徴しているのでしょうか。ダニエルが川かますと向き合う様子は、幼なじみの少女の目を通して描かれます。当事者にしかわからないことがある一方、当事者じゃないからこそ見えるものがあり、アンナの視点をとることで、それが見事に捉えられています。ダニエルやギゼラおばさんに対して何もできず、アンナは無力感を感じます。また女の子である自分は、母親には望まれていないのではないかと感じたり、離れて暮らす父親を恋しく思ったり、友人関係に悩んだりしながら、父親のお話に出てくる「バカルート人」のように振舞うのではなく、自分の頭で考えることを学びます。この本のテーマは、失われた子ども時代への追憶です。目をこらし、川底の川かますを見つめるかのように、2度と戻らない瞬間を切り取っています。「読者はこうした本も理解できる」と信じて書く作者には、子どもの持つ力への信頼があるのでしょうね。

プルメリア:渋谷区の図書館には残念ながら蔵書がありませんでした。
 
アカシア:いつも児童書を出している出版社ではないので、図書館の方がじっくり読んでから判断しようと思っているうちに、品切れになってしまったのかもしれませんね。内容ですが、私も残酷な話だとは思いませんでした。もっと残酷なシチュエーションにおかれている子どももいっぱいいるし、子どもそのものも残酷な面を持っていますからね。全体としては、私は子どもの心理がとてもうまく書けているし、この年齢ならではの、つらいけれどもきらきらと輝くような子どもたちのありようが描写されていて、すばらしい作品だと思いました。ただ、最初のほうは、登場人物の関係性がわからなくて、とまどいました。この子どもたちはきょうだいなのか、と思って読んでいたら、途中でどうも違うらしいとわかったり。子どもにすり寄らない、つまりお子様ランチ的ではないこういう作品は、訳すのが難しいですね。フランス在住の方のせいなのでしょうか、p60には乱暴な言葉使いのお母さんが「〜かしらん」と言ったりしています。まあ、その辺は編集がフォローしなくてはいけない部分だと思いますが。いい本を読んだという満足感がありました。

(「子どもの本で言いたい放題」2014年11月の記録)


わからん薬学事始 1

アンヌ:最初は、題名から江戸時代の漢方薬の話かと思いました。漢方薬も出てきますが、主に生薬の話という設定はおもしろいだろうな、という期待を持って読みだしました。先が気になって、3巻とも読んでしまいました。表紙に薬草の絵とそれぞれの巻の物語の中に出てくる動物の絵が描いてあり、薬草辞典も付いているという装丁が素敵でした。ただ、気になったのが、マンガのような会話の言葉遣いです。75歳の下宿の管理人が 「じゃぞ」とか言っていて、さらに、2巻の中国人のセリフが「〜あるよ」となっていて、現代の作品でこれでいいのかと思いました。嵐のセリフもバンカラ風で気になりました。数々の謎が提示され、それが各巻ごとに解決されていきます。例えば、下宿の住人についての謎や、管理人やその家族についての謎とか。最終的には、新・気休め丸を作る過程の中で、草多の父親はどうなったのか?久寿理島とはなにか?という謎を解いていく仕組みなんだろうなと思いました。主人公に薬草や薬の原材料の声が聞こえる能力があるという設定に、なんとなくマンガの『もやしもん』(石川雅之作 講談社)を思い出しました。下宿の設定には『妖怪アパートの幽雅な日常』(香月日輪著 講談社)も。

レジーナ:都会に出てきた主人公が、個性的な仲間とともに下宿し、学校生活を送る物語はよくありますが、薬学というのがユニークですね。動物実験が苦手なために留年し続ける嵐など、登場人物の設定もおもしろかったです。草多が新しい環境で奮闘する中で、彼の出自や「気やすめ丸」をめぐる謎を少しずつ明かしていく手法も上手です。まはらさんの『鷹のように帆をあげて』『鉄のしぶきがはねる』『たまごを持つように』はどれもよくて、多くの人に読んでほしい作品ですが、本を読まない子どもが、なかなか手に取らないのが残念です。この本は表紙も洒落ていて、子どもの目にとまるようです。読みやすく、内容もしっかりしているので、この本をステッピングストーンとして、まはらさんの他の作品へと読み進めていってほしいですね。

プルメリア:書名を耳にしたとき時代物かと思いましたが、違いました。本の装丁が洒落ているなと思いました。また薬草の紹介も気に入りました。作品の内容が、イメージしていたこれまでのまはらさんの作品と違っていたので驚きました。テレビドラマのように展開しているような感じで読みました。次作も読みたいですが、3巻で完結なんですね。

アカシア:私はおもしろくずんずん読めたんです。でも、立ち止まって考えてみると、まはらさんはこれまで念入りに取材をして現場のリアリティを読者に伝えようとして作品を書いてきたように思うんです。これは、最初からファンタジーの要素が入り込んできているので、この読書会で以前とりあげた『鷹のように〜』とも『鉄のしぶき〜』とも、そこが違うように思いました。登場人物もステレオタイプで、漫画っぽい。リアリティを捨て、ドタバタ的なおもしろさも入れて、読者にサービスしているのかな。それとも、作家ご自身がちょっとリアリティから離れたいと思われたのでしょうか? 私はリアリティを追求するこれまでのまはらさんの作品がとても好きだったので、ちょっと拍子抜けでした。まあ、薬草についてはいろいろと調べられたと思いますが、こういう作品はほかの作家にも書けるように思うので、まはらさんにはリアリティを追求しつつおもしろいものを書いてもらえればうれしいというのが、正直な気持ちです。

ルパン:私は残念ながらおもしろいとは思えませんでした。リアルでもファンタジーでもなく、何もかもが中途半端に思えて。薬学の学校は『ハリー・ポッター』のホグワーツ魔法学校を思い出させるものの、そこまで書けていない感じでした。

(「子どもの本で言いたい放題」2014年11月の記録)


14歳、ぼくらの疾走〜マイクとチック

プルメリア:表紙を広げると1枚の絵になるつくりがよかったです。最初は淡々とした内容でしたが、読んでいくうちにひきつけられました。主人公は登場人物と関わりながら成長していく。作品全体に会話文が多いせいか、場面や状況がよく分かり心情に寄り添えるので気持ちに入っていけました。日本にありそうでない作品でした。登場人物の考え方が変わっていくのがいいですね。

レジーナ:同級生に「サイコ」と呼ばれる主人公は、クラスでも浮いた存在です。走り高跳びでかっこいい姿を見せられると思っていたのに、実際はそうではない。酔っ払って登校したり、車を盗んだり、チックは主人公以上にアウトサイダーです。ふたりは旅の間、さまざまな人に出会います。オーガニックのものを食べ本に詳しい大家族、浮浪児の少女、人里離れた沼地で暮らすおじいさん、事故にあったふたりを助けてくれるおばさん……みんなどこか風変りですが、実に魅力的です。麦畑を車で走り、ミステリーサークルのような跡をつける場面をはじめ、ドイツの景色も鮮やかに描かれています。『シフト』(ジェニファー・ブラッドベリ著 小梨直訳 福音館書店)を思い出す設定です。『シフト』はすらすら読めて、映画を思わせる場面展開でしたが、『14歳、ぼくらの疾走』はもっとていねいに、時間をかけて書いている印象を受けました。書き急いでいない小説ですよね。もとの文体がくだけた表現なのかもしれませんが、p6の「僕のいってること、わかりにくい? ですよね、スミマセン。あとでまたトライする」といった言葉づかいには、慣れるのに時間がかかりました。

パピルス:児童文学を読むのが久しぶりだからか、序盤は文章が全く頭に入らず、何度か一から読み直しました。文章が頭に入ってくるようになると、終盤までおもしろく一気に読めました。二人が旅に出た理由がよくわからなかったのですが、通して読むと理解できました。最初は自他共にさえないと思われていた主人公でしたが、だんだんと魅力があることがわかってきました。私は主人公に気持ちを入れて読んでいたので、そのところでとても爽快な気持ちになりました。一部、ジャンク的な表現があり、10代の子が理解できるかな?という部分がありました。また、冗談を言い合う場面で、「ユダヤ系ジプシー」など、日本人には分かりづらい表現があったのが気になりました。

アンヌ:出だしの部分が入りづらかったのですが、病院に入院して、看護婦さんと話し出すあたりから読みやすくなりました。読み出すと、勢いづいてどんどん読み進めました。読み終えてから、この物語を思い出すたびに、尾崎豊の『15の夜』の曲が頭の中に流れ出すような疾走感を感じました。主人公とチックとの二人の旅は、いかにもバカンス中のドイツらしく、男の子二人でうろうろしていても、誰も変だとは思わない。どきどきするけれど、実は、悪いことがあまり起きない。会う人も、皆いい人ばかりで、その中で、東ドイツのソ連との戦闘の物語を知ったりする。この作者がうまいと思うのは、例えば偶然出会ったイザという女の子について余計な身の上話などさせずに別れさせるのだけれど、でも、その後、手紙が届くところ。冒険が終わった後も、続いていく未来を感じさせる気がします。

アカシア:確かにおもしろい。スピードもある。変わった人も出てくる。ドイツには珍しいのかもしれませんが、ドイツ以外なら、この手の作品は結構あるかな、と思いました。この作品は、たぶん今の若者のスラングでリズムよく書かれているんでしょうし、話の仕方でその人の人となりを表している部分もあるんでしょうから、訳が難しいですよね。子どもたちのやりとりは、とてもじょうずでおもしろく読めましたが、たとえばヴァーゲンバッハ先生のp287あたりの嫌みな話し方は、そのいやらしさが今一つ伝わってこない。難しいところですよね。日本語でこんな話し方をする人はいませんから、どういうニュアンスでこの先生はこんな話し方をしているのかが、伝わらない。
 それから原題は『チック』ですね。『チック』とつけたかった著者の気持ちはよくわかります。この作品で書きたかったのはチックなんですよね。だとすると、とんでもなくイカレテるけど、とっても魅力的、でも、自分はゲイじゃないから越えられない一線もあってとまどう、というマイクの気持ちがもう少しぐいぐい迫ってくるとよかったのにな、と思いました。それは翻訳では難しくて、ないものねだりになるのかもしれませんけど。

ルパン:今回の3冊のなかではこれがいちばん読みごたえがありました。最初は主人公の自己否定が極端で、ちょっと読みづらかったのですが、話が進むにつれ登場人物がどんどん生き生きとしてきて、結局一気読みしてしまいました。リアリティもありますし読ませる作品です。ただ、あとがきに「これを読まなくては、ドイツの児童文学は語れない」とあったのですが、そこまで言うほどのものかなあ…?

アカシア:ドイツは比較的理詰めの本が多いので、こういうスピーディーなロードムービー的な作品は珍しいのかもしれませんね。そういう意味では、ドイツの中ではこれを読まないとYA文学を語れないという位置づけになるのかも。

ルパン:出だしはほんとにつまんなかったんです。ただ、チックが出てきて女の子に絵を届けに行くあたりから、ぐいぐいひきつけられました。一番よかったのは、チックに「(君は)つまらないやつじゃない」と言われる場面でした。人生って悪くないと思うようになるプロセスがとてもうまく描けていて、楽しんで読めました。それだけに、チックが同性愛者じゃなくてもよかったのに、と、残念に思いました。

アカシア:私も、なんだかその部分はとってつけたような気がしました。でも、考えてみると日本と違ってドイツなら14歳だと普通は女の子と旅をしたいのかもしれないから、チックが近づいて来る自然な理由になっているのかもしれません。

ルパン:純粋に友達として好きになってもらった方がよかった。同性愛者の目で恋愛対象として見るのではないところで、魅力を見つけてもらいたかったです。

アンヌ:特に物語の中で、チックが同性愛者だとは気付かなかった気がします。普通に友達という感じで。

ルパン:18歳ならまだよかったんですけどね。14歳の同性愛者っていうのがどうも…。

アカシア:性的な関係を持つのが目的ではなく、マイクが魅力的だから最初はそこに惹かれたというだけのことかもしれませんよ。日本なら18歳が妥当かもしれませんが、ドイツは14歳なんじゃないかしら。

ルパン:全体的にスケールの大きな話ですよね。次どうなるんだろう、というわくわく感で最後まで引っ張られました。あと、好きな箇所は、山の上で昔の人の落書きを見つける場面です。自分だけの閉鎖的な世界から大きな世界の一部としての自分に目覚めていく瞬間が印象的でした。

(「子どもの本で言いたい放題」2014年11月の記録)


2014年11月 テーマ:他者との関わりの中で

 

日付 2014年11月20日
参加者 プルメリア、レジーナ、パピルス、アンヌ、ルパン、アカシア
テーマ 他者との関わりの中で

読んだ本:

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