月: 2009年3月

2009年03月 テーマ:おひな様と人形たちの本(中学年向き)

日付 2009年3月26日
参加者 ショコラ、ハリネズミ、カワセミ、セシ
テーマ おひな様と人形たちの本(中学年向き)

読んだ本:

(さらに…)

Read More

なかがわちひろ『かりんちゃんと十五人のおひなさま』

かりんちゃんと十五人のおひなさま

ショコラ:先日ある町の図書館で、小学生対象の「おひな様」のブックトークをしたときに、この本を紹介しました。集まったのが男の子8人で大変だったんだけど。『りかさん』(梨木香歩著 新潮文庫)よりも中学年向けなのでこの本を選んだんです。ブックトークでは、七段飾りの紹介の後にこの本を紹介しました。15人の人形の性格がそれぞれ出ているし、「ことわざ」もいいなと思いました。でも、1年生に「ことわざ」を紹介したところ、どれもわからないものばかりでした。物語を読んでいけば理解できるのかな。

カワセミ:ことわざは学校では教えないの?

ショコラ:自分で調べてみようというスタンスの教科書が多いですね。5年生の学級で聞いても、知らないものが多くて、ちょっとむずかしいようでした。かりんちゃんが持っているおひな様をはじめ、いろいろなおひな様の種類などが紹介されているのは、とてもわかりやすかったです。友だち3人の人間関係なども最近よくある話だなと思いました。かりんちゃんのお母さんが手作りのおかしを作る場面はあたたかく、五人ばやしの絵もすごくかわいかったです。子どもが読んで楽しい本だなと思いました。

カワセミ:3人の女の子が、今の読者と同じような子なので、親しみがもてるのがいいですね。おひな様っていうのは、日本の伝統的な行事の中でもなじみのあるものだと思うんですね。自分の家になくても、保育園や学校で大きな段飾りは見ることが多いし、子どもたちは、人形の着物や道具にも興味を持っているので、そういうものをとりあげているのがとてもいい。おひな様を飾る意味、子どもの成長を願うとか、身代わりになって守ってくれるということとか、自分のお母さんやおばあさんからの願いが受け継がれていくものだというのも示していますね。ただ3月だから飾るというのではなくて、行事の深い意味を伝えようとしているところがいいなと思いました。子どもだから、おひな様を比べて、大きいほうがいいとか、豪華なほうがいいとか、あれちょっとぼろいねとか言ってしまうんだけど、おひな様のファンタジーの世界とかかわることで、受け継がれている思いを感じられるようになっていくのが自然に書いてあって、よかったと思います。これも挿絵がいっぱいあって、おひな様ようすがよくわかった。
私も子どものころ、おひな様を箱から出して飾ったり、しまったりするのが楽しかった思い出があるし、一人一人性格が違うような感じはよくわかるので、おもしろかった。おひな様は昔の人だから、難しいことわざを言うのもうなずけます。読者の子どもには難しくて意味がわからないものもあると思うけど、どんどん出てくるから、「また言った」みたいな楽しさもあると思うんですね。その時はわからなくても、興味を持つ子がいるでしょうね。ユーモラスに言うので、楽しめると思う。こういう身近な話は、子どもたちに薦めやすいですね。男の子の反応はいかがでしたか?

ショコラ:ブックトークでは、笛がなくなることを話題にしたり、「15人とはだれでしょう?」をクイズのようにしました。ことわざが、雛人形の言葉として文の中に入ってくるのもいいなと思いました。5年生のクラスの子に紹介したところ、女の子がすぐに読んで、「女の子の関係が自分たちに似てる」と言ってました。

カワセミ:おひな様の出てくる話としては、『菜緒のふしぎ物語』(竹内もと代著 アリス館)っていうのもあります。主人公の女の子が、ひいおばあちゃんの住む古い家で不思議なものたちに出会うというファンタジーで、おひな様は一部にしか出てこないんだけど、この季節に紹介できますね。

ハリネズミ:『三月ひなのつき』(石井桃子著 福音館書店)っていうのもあるわよね。私はすーっと読んだんですけど、3冊比べてみると、この本は、おひな様のいわれとか、ことわざの説明など目配りがしてあるし、貧しいおひな様でも心がこもっていればいい、悪口を言うと気分が悪くなる、など、教育的にも配慮されてる。ただ、感受性の強い子は、作者が子どもたちに教えようとする意識を感じて、うっとうしくなるかもしれませんね。冒頭と最後にグレイのページがあり、それぞれ「はじまりのまえに」と「おしまいのあとで」となっていて、まだ箱の中にいるおひな様の様子が描かれている。これも、うまい。ただ、「はじまりのまえに」っていうところに、「かりんちゃんも、ずいぶんむつかしいご本が読めるようになったのねえ……と、小桜は、ぼんやりつぶやきました」って書いてあります。これ、いいのかな。まだ、ひいおばあさんのものだったことしかおひな様は知らないわけでしょ? 夢だからいいのかな。

カワセミ:おひな様が長い長い夢を見ていたのは、かりんちゃんの夢を見てたってことなんでしょうね。

ハリネズミ:おばあちゃんが、かりんちゃんにあげようと思ってたから、かりんちゃんの夢を見てたってこと? それから、おひめ様に「けれど、ここでおこることの半分は、かりんちゃんの夢。あとの半分は、わたくしたち、ひなの夢」って言わせてますけど、そこもうまいですね。

ショコラ:感想文が書きやすい作品ですね。
ハリネズミ:よい子はすぐに感想を書けますよね。欲を言えば、まとまりすぎて突き抜けるところがない。私は大人として読んでおもしろかったんですけど、そんなに教育的な配慮ばかりしなくてもいいんじゃないかな。その方が、もっとスケールの大きい話になるのかも。

カワセミ:6年生くらいになると、教育的な意図を感じるかも。

ハリネズミ:かりんちゃんたちは何年生なのかな。書いてありませんよね。

ショコラ:絵を見ると中学年っぽく見えませんか。

カワセミ:何年生って限定しないのもいいのかもね。

ハリネズミ:お人形って、そんなに動けないじゃないですか。前に読んだ『帰ってきた船乗り人形』(ルーマー・ゴッデン著 徳間書店)は、自分では動けないってなってたけど、これはどんどん動いちゃうから、おもむきが違うわよね。ユーモアっていう意味では、『ふしぎなロシア人形バーバ』の最初の物語がいちばんおもしろいですね。

(「子どもの本で言いたい放題」2009年3月の記録)


サリー・ガードナー『気むずかしやの伯爵夫人』

気むずかしやの伯爵夫人

セシ:この本はちょっと苦手でした。お話はわかるんだけど……。途中で苦手と思ってしまったのがいけないのか……。お話はわかるんだけど、だからどうなのって気がして、自分がひかれるところが見つけられなかったんです。こういうお話も、中学年にありだなと思って読んだんだけど、心をひかれませんでした。

ハリネズミ:私はおもしろく読みました。伯爵夫人が心を入れ替えるところは、人形作りの親方がハート形の心臓を物理的にも入れ替えてくれるのよね。そこを読んで、ああそうか、と思いました。最初のほうは、みんながいっしょうけんめい仲間に入れてあげようと努力しているのに、伯爵夫人があまりにもとんでもないことを言ったりしたりするんで、反感をもってたんですけどね。絵も、顔の描き方が違って、雑多な人形が集まってる感じがよく出てますよね。写真と合わせたコラージュもよかった。絵がたくさん入っているので、3、4年生でも読みやすいんじゃないかな。

ショコラ:最初本を手にとったとき、絵と写真が合成になっていたりして、おもしろいつくりだなと思いました。いろんな国のお人形が登場し、性格もそれぞれ違っています。ねずみ夫婦がお互いを気遣う場面もよかったです。チンタンには「ハンドメイド」、伯爵夫人には「デリケート」の洗濯表示のタグがありますよね。「ハンドメイド」と「デリケート」の表示で伯爵夫人が格をあげているこだわりがおもしろかったです。伯爵夫人の中身がごわごわしたおがくずだったのが、こわれたため中身を直すときに綿とハートをいれてもらって性格が変わったところも、おもしろいなと思いました。伯爵夫人は性格が悪くてわがままなんだけど、汚れてみずぼらしくなった挿絵を見て、私はいたいたしさを感じて同情してしまいました。ミスター・ウルフはこわそうですが、いろいろな悩みごとを解決してくれる神様みたいな存在なんですね。最後の場面で、体がやわらかくなり性格も変わった伯爵夫人が戻ってきたので、幸せな終わり方でほっとしました。

カワセミ:私も、最初に登場人物の紹介があることや、各見開きに挿絵が入っているなど、子どもが読みやすいつくりになっていることに、まず好感を持ちました。お話も、1つの小さなお人形の家の中の出来事というんじゃなくて、広い公園に置き去りにされるっていうのが変わっているし、いろいろ危険な目にあうけど、最後はきっとうまくいくんだろうなって安心して読める1冊。お人形たちだけじゃなくて、ねずみ夫婦がとてもユーモラスに描かれているのも楽しかったですね。セシさんは、どういうところが好きになれなかったの?

セシ:この伯爵夫人のキャラクターに、ついていこうという気になれなかったからかな。いやな性格だし、この絵の顔も好きになれなかったし。

カワセミ:でも、この本は文字組もゆったりしていて(みんなで『かりんちゃん』と比べてみると、字の大きさは同じようだが、ページあたりの行数があちらは14行、こちらは12行だとわかって納得)、この年齢の子には読みやすいわよね。

ショコラ:私も、ぜひうちの小学校の図書室に入れたいと思いました。

(「子どもの本で言いたい放題」2009年3月の記録)


ルース・エインズワース『ふしぎなロシア人形バーバ』

ふしぎなロシア人形バーバ

ハリネズミ:人形の本ってあんまり読んだことがなかったんですけど、今回のは読んでみたら3冊ともおもしろかったです。この本には2編入ってるけど、「バラやしきにようこそ」のほうが私はおもしろかったな。バーバはマトリョーシカ人形なんだけど、日本の子どもも知ってるから、楽しめると思います。夜中に盗み食いするところなんか、いつ見つかるか、いつ見つかるかと、どきどきして読み進むことができるし、つきぬけたユーモアみたいなのがあって、いいですね。2編目のほうは、1編目ほどはおもしろくなくて、続きを書かなくちゃって書いた感じがしました。この本の中のお人形は食べたり飲んだりするのに、おなかがパカッと割れて中から別の人形が出てくるわけだから、おなかの中はどうなってるのかなって不思議でした。変だな、と思う子どもの読者もいるかもしれないな。

カワセミ:食べたり飲んだりしない人形の話っていうのもありますよね。でもこれは、食べるところがおもしろいのよね。お人形っていうのは、顔かたちや着ているものが一定なので、いろいろな人形が出てきても、把握しやすいと思います。だから、中学年くらいの子でも読みやすいんじゃないかな。性格が誇張してあっても、人形だからあまり不思議じゃないし、生身の人間だったらもっと複雑な要素があるけど、性格付けがわかりやすいと思う。人形っていうのが子どもに身近な存在だし、人形が話をするのも、子どもにとっては自然に受け入れられますよね。お話は3,4年生向きだと思うけれど、3年生が読むには字が細かいですね。2編入れないで、最初の1編だけをもっと大きな字にして1冊にしたほうがよかったのかなと思いました。文章はていねいに書かれていて、挿絵もおもしろかった。

ショコラ:2つに分かれていましたが、一気に読んでしまいました。マトリョーシカの態度がおもしろくて謎めいているし、47ページのフルーツケーキの場面、67ページの山のような洗濯をほしてる場面、ロシアの魔女についての話など、どれも楽しめました。私も次から次に出てくる人形が食べ物を食べるのが不思議な感じがして、お話だけど無理っぽいなと思いました。兄弟(姉妹)の名前が変わっていて、食べ物の名前がついてるのも、おもしろいですね。ただ、子どもたちには字が小さいので読みにくいと思います。低学年向きに字を大きくしてほしいな。最初のお話だけでも十分読み応えがあるし、楽しめると思います。装丁が違うと、もっと手に取る子がふえるかなとも思いました。

セシ:私もこれはすごくおもしろかった。12ページに、この家の「だんろの日は、チカチカッとも、ポッとも、もえません。それは火が、しわくちゃの赤い紙でできていたからです。それにおふろにはいっても、じゃぐちからは、お湯もお水もでてきません」と書いてあるのに、あとでお料理してるから、ちょっとあれっと思うけれども、キャラクターがなんとも楽しいし、おもしろく読めました。一方で、バーバがやってきたところで、「わたしは、とにかくよく食べるんです。六にん分くらい、いただくかもしれませんわ」と、ちゃんと伏線があるんですね。みなさんと同じで1編目のほうがおもしろくて、2編目は、ハチミツが帰ってからあとは蛇足っぽくなっているので、どうなんでしょう。内容的には2、3年生から楽しい本だと思うので、1編目だけ大きな字で1冊にしたほうが手にとりやすいですよね。1編目は、男の子の人形のウィリーも中心になって動くので、こんなにピンクの装丁にしなければ男の子も手にとりやすいだろうに、もったいない。

ハリネズミ:2つ目の話はこれが芯だっていう要素がはっきりしないのよね。あちこちに話が広がってしまっている。

セシ:この絵もおもしろいんだけど、フレデリックって、おじいさんの人形のはずなのにあまりにも若々しいから、間違えたかと思って何度も見直してしまいました。65ページのイチゴをとっているところの絵なんか若者みたい。

ハリネズミ:最初からおじいさんの人形ってあんまりいないし、人形だから成長もしないわけでしょ。ここでおじいさんの人形って言ってるのは、古くなった人形っていう意味なんじゃない?

ショコラ:バーバという名前がかわいいですね。

ハリネズミ:ロシアの昔話のバーバヤガーからきているんでしょうね。

ショコラ:海に行ったあとに歌をうたっているけれど、終わりがちょっと中途半端かなと思いました。

ハリネズミ:海に行く途中なのよね。なんとなく楽しい雰囲気で、みんなで海に行きましょうってことなんでしょう。

(「子どもの本で言いたい放題」2009年3月の記録)