月: 2010年10月

2010年10月 テーマ:怖いお話

日付 2010年10月15日
参加者 ひいらぎ、レン、ゆーご、シア、優李、メリーさん、ハマグリ、プルメリア、三酉、サンシャイン
テーマ 怖いお話

読んだ本:

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金原瑞人編訳『八月の暑さのなかで』

八月の暑さのなかで〜ホラー短編集

メリーさん:新刊として出たときに読みました。どの短編もけっこうおもしろかったです。ただどちらかというと、玄人好みというか、大人向けかなと。これは、今の大人としての自分の感覚なのですが、「後ろから声が」と「十三階」「お願い」「ハリー」なんかがとくに印象に残っています。ホラーでロアルド・ダール(「お願い」)が入っているなんてびっくりしましたけれど、路上の白線を踏んで家まで帰るっていう絵本がありましたよね。(「ぼくのかえりみち」ひがしちから/作・絵 BL出版)それよりずっと前に同じことをダールが書いてたんだなと思いました。「ハリー」などもそうですが、日常の延長線上に怖さがあって、どれも語り口がうまい。どこにでもあるような設定ですが、読者をひきこむ力がありますよね。

レン:私はあまりぴんときませんでした。ホラーというテーマになれていないからかもしれませんけど、子どもの本というよりは大人の話だなと思いました。怪奇小説や、複雑な語りといった、大人の本への入口にはなるかな。私自身は、久しぶりにこういう世界に入ったので、迷子になった感じでした。ときどき引っかかる表現がありました。160ページ「顔は細かい部分まで彫りが深く」はどういう意味?

ひいらぎ:金原さん名前の訳は金原印のブランドになっている観がありますが、これはご自分で訳してるのかしら?

優李:私はこの本が一番好きでした。高校生の頃サキが好きだったのを思い出しました。だけど「こまっちゃった」はこんなにしていいのかな? もとのものをずっと昔読んだと思うけど、全く違う雰囲気で、翻案といってもここまでやるか、という感じ。最初にこれを持ってきたことで、子どもたちに、とっつきやすい、と思ってもらおうとしたのかもしれないけど……。この本は「岩波少年文庫」じゃなくて、大人向けの本にすればよかったのでは? と思いました。そうすれば、「こまっちゃった」の、あの無理な若者語モドキみたいな言い回しを使わなくてもよかったのに。それにしても「八月の暑さの中で」は、かなりドキドキしてこわかった。ダールは好きなんですが、「お願い」は、子どもたちが好きな「ピータイルねこ」(『ふしぎの時間割』岡田淳/作・絵 偕成社所収)に設定が似ているところがあって、これは本好きの高学年にすすめてみようかな、と思いました。でもやっぱり小学校では少し無理があるかなあ。

ゆーご:児童書としての善し悪しはさておき、今の私が読んでおもしろかったです。各短編の最初に作家情報が載っているので、「こういう作家だからこういう作品なのか」みたいな読み方ができました。また作家情報を見比べるとかなりバラエティーがあり、編集者の意図が感じられます。得体の知れない怖さが残る作品が多い所も私好み。短編はずっと怖いのでなく、最後が大事で、「ポドロ島」の不気味さとか、「こまっちゃった」とか、「八月の暑さの中で」のように、語られていないこの先はどうなっちゃうんだろう……って想像するのがおもしろい。映画のように突然わっと驚かされるのではなく、よりじんわりとしみこんでくるのが小説の怖さ。それが存分に出ている作品ばかりでした。

シア:3冊の中で一番最初に読みました。金原さんの訳で短編集だというので期待して読んだんです。たしかに大人が読むとおもしろいんだろうけど、子どもが読んだらどうなんでしょう? いかんせんすべてにおいて古いんですよね。これを読んだ子は、八月は暑いまま終わってしまうんじゃないかと。全然ホラーという感じがしない。「ホラー短編集」っていう副題よりは、「恐怖幻想短編集」になったかもしれないってあとがきにありましたけど、そうしたらよかったのに。作家の解説があるので、子どもにとっての文学の導入としてはとてもいいと思いますが。それに、金原さんの訳にしては、気持ちが悪いんですよ。一編ごとに訳の雰囲気が全然違っていて、ぎこちなさを感じました。とくに、「こまっちゃった」の、「ア・ブ・ナ・イ」なんて表現、やめてほしい。子どもたちも嫌だと思うんじゃないかな。

ひいらぎ:今の子はこう言うだろうと思ったおじさんが書いてるって感じですか?

シア:それにしても感覚が違いすぎていますよ。訳も(短編の)選択も、なんかちょっとなあって。子どもがこの本を読んでも、「ふーん」ってなるでしょうね。ロアルド・ダールなら、もっと怖いのがあると思います。あとがきにもあったブラッドベリを入れたらよかったのに。これを喜んで読むような子は、優等生的な子だと思いますね。「八月の暑さの中で」と、「だれかが呼んだ」はおもしろかったけど。でも、オチがついているっていう意味では3冊の中で一番よかったです。今は時代が不安定だからホラーは人気があるけれど、読者が受け入れられる怖さというのを、出版する側が模索している部分があるんじゃないかと感じます。教室で安心して薦められるホラーっていうのが、あまりないですね。むしろ、クリスティーなんかの方が薦めやすいかも。ホラーっていうものの定義について考えさせられる作品でした。

プルメリア:私がこの作品の中でおもしろかったのは「八月の暑さの中で」「開け放たれた窓」「十三階」。先ほどもお話に出ていたように、扉に佐竹さんの絵があり、題名があり、作家の紹介がある本のつくりが目を引き、気に入りました。学級の子どもたちに「どの話が心に残ったか」と聞くと、「最初の『こまっちゃった』がおもしろかった」という声が多く「どこがおもしろかったの」と聞き返すと「目玉がとびだしたり、首をもってかえるところがおもしろかった」。子どもたちが日常生活で読んでいるマンガやゲームの世界の影響か、怖いというよりおもしろいととらえる子どもたちの心情を考えさせられました。

ひいらぎ:私はどの短篇も怖くなかった。ホラーというより幻想短編集。そういう味わいはあると思いましたが、読むのは大人なんじゃないかな。編集者の目で見ると、訳で気になるところがいくつかありました。24ページで「その表情から伝わってくるのは恐怖で、いまにも気を失って倒れそう」なのに、「呆然としている」のはよくわからない。26ページの「イングリッシュ・イタリアン・マーブルズで働く」もわからない。原文を見てないから何とも言えないですが、ひょっとするとイギリス産とイタリア産の大理石を使ってますってことなのかな、といろいろ考えてしまいました。「開け放たれた窓」の窓は「床まである大きな窓」とあってフランス窓でしょうが、日本語ではこういうのは窓じゃなくてガラス戸というのでは? 41ページには「赤の他人や、たまたま出会った人は、相手の病気や体の不調や、その原因や治療法の話をすれば喜んで耳をかたむけると思っていた」とありますが、ここでは相手ではなく自分の体の不調のことしか話していないので、変です。「ブライトンへいく途中で」では、49ページの「それも、はずれ」もしっくりこないし、52ページの「大釘でなぐった」も、普通は釘でなぐったりしないので、別の訳語がなかったのかな、と。

三酉:この「大釘」というのは、かつて鉄道を枕木に打ち付けていた「犬釘」のことじゃないかな。あれなら頭が大きいから凶器になりうる。

ひいらぎ:120ページの「そうしたら、ふり返ることができる」も、その後でトレーラーカーのドアの所まで行くのだから、「ふり返る」のは位置的におかしい気がします。そんなふうに、どうも私にはしっくりこないところがあちこちにあって、読み心地が悪かったですね。

三酉:翻訳のこととか、ご指摘を受けると「そういえばそうか!」と思いますが、読んでいる最中は、ちょっと気になりながらもおもしろく読みました。みなさんからあがった以外では「もどってきたソフィ・メイソン」。そうそう、最初の「こまっちゃった」のは、落語で同じ話があるんですよ。居合抜きで首を切られた男が、自分の首をとって提灯がわりにして「はい、ごめんなさい」って。

ひいらぎ:落語だけじゃなくて、イギリスにも落ちた頭を抱えて出てくる幽霊や妖怪がいますよ。

三酉:全体として、このセレクトは大人向けでしょう。少年文庫に入ってしまってはもったいない。大人が読むチャンスが減ってしまう。

ハマグリ:少年文庫は小学校中学年向きから中学生以上向きまであり、昔からの少年文庫らしい作品だけでなく、新しい企画を入れて進化発展しているので、こういうものが入ってきてもいいと思います。

三酉:今の子どもは、古い作品だとだめですか?

シア:タイトルと、ホラーっていうのと、佐竹さんの表紙絵で手に取るでしょうけど。「こまっちゃった」はまあ読んでも、「八月の暑さの中で」で挫折しますね。

ハマグリ:私は企画としておもしろいと思うんですね。YA読者に人気のある金原さんが、自分の好きな話の中から一体どれを選んだのか、って読者にとってとても興味があるし、金原さんも読者の期待をよくわかった上で、「こんなのどうよ」っていうのもとりまぜて、読者に投げかけてるように思うんですね。この中でどれが好きかを挙げると、人それぞれ好みが違うと思います。そういうこともわかっていて、いろんなタイプの話を選んだのかなと思うので、そういう意味でおもしろいなと。私自身は、「八月の暑さの中で」みたいに、どうなったかわからない、最後にすとんと落としてくれないで、読者の想像に任せるようなのは、好みではありません。「開けはなたれた窓」は、中学の授業で英語で読んで、すごくおもしろかったのをよく覚えています。その後愛読したサキの短編集でも「開いた窓」はとても好きな一編でした。でも今回読んだらそんなにおもしろくなかった。少女の語り口調が、今の子に合うようにくだいて書かれているんですが、それが逆に作用して軽く感じられたのかもしれません。

シア:私も教科書的なものを感じていて、「八月の暑さの中で」は、そのまま教科書に載りそうですよね。「さあ、この後はどうなったでしょう? 続きを書いてみましょう」みたいな。

サン シャイン:サキの「開いた窓」は高校の時に読みました。最後の一文は今でも覚えています。「即座に話を作り出すのは、彼女の得意とするところであった」というんです。どうしても古い訳のほうがよかったと思ってしまいます。金原さんのお名前で広く読んでもらいたいと思ったのでしょうか?「こまっちゃった」の文体も、気軽に読んでもらおうと思ってこういう調子のものを最初に持ってきたのでしょうか? こんな作家がいるんだよという紹介の意図もあるんでしょうね。それはいいことだと思います。ただもう少しこなれた訳になっていると、読者層が広がるかなと正直思いました。

(「子どもの本で言いたい放題」2010年10月の記録)


たからしげる『さとるくんの怪物』

さとるくんの怪物

シア:今日の3冊の中で一番最後に読みました。やっぱり新しい本なので人気があるせいか、図書館で手に入りにくかったですね。公衆電話を使って儀式を行うんですが、昔は普通にあった公衆電話が、すでにこっくりさんレベルのアイテムに使われてしまうところに寂しさを感じてしまいました。設定にいろいろなものを盛り込みすぎな気もします。自分の携帯番号に電話するとどこかにつながるという話もどこかで聞いたし、ちょっと「学校の怪談」の「メリーさん」っぽい展開になったり、お父さんがさとりって妖怪だったり、いろんなものがチャンポンになりすぎてないかなと。ごっちゃになりそう。さとりだけで面白い妖怪なのでもったいないですね。ホラーというテーマなので、これも先入観を持って読んでしまったせいもあるけど、話が平板だなと。主人公がさとるくんに電話をしなきゃいけないラストシーンも、盛り上がりに欠けるし、最後もありがちなところにおさまってしまった。今の時代に出版されたわりには、古いものが継ぎ合わされて出てくるみたいで、古臭さを感じました。いつまでもいつまでも教室にいたり、一つの場面が長いんですよね。肩すかしをくらったような作品でした。私自身が小学生の時くらいに読んだような本ですね。今この本を出版する意味がよくわからないです。

ゆーご:映画「学校の怪談2」に出てくるメリーさんの話がトラウマになってるんです。だから、よく似ているこの出だしはとても怖かったです。でも怖かったのは最初だけで、ホラーっていうより未知の生物と友情を深めていく……ETみたいな印象の話でした。ほっとした反面、少し拍子ぬけ。ホラーを読みたいと思って読まない方がいいかも。でも子どもなのに大人、みたいなさとる君のアンバランスさは好きです。

メリーさん:とりたててっておもしろいという本ではありませんでした。さとるくんというのが、妖怪の「サトリ」からきているというのが途中からわかって、人の心を読む能力を持つ子の物語なんだなと思いながら読んだのですが、新しい点がなかなかなくて。文中の言葉遣いも古い感じがしてしまいました。物語の前半で、主人公と、もうひとりの子が携帯を壊してしまい、妖怪におそわれるのはどちらかとドキドキしたのですが、すぐあとにその仕掛けの説明がきてしまい、拍子抜けでした。目をぱちぱちしていたら嘘などと、細かい設定におもしろくなる要素がけっこうあるとは思うのですが……。

ハマグリ:表紙はおもしろそうで期待したんですけど、最初のところが何度も何度も読んでもわからなくって。ナレーターが語る部分なんですけど、誰かが語っているみたいで混乱してしまいました。留守電の声が聞こえてくるので、だれかが電話を持っているのだと思ったけど、それが誰かわからない。「人間そっくりの顔にあてはまる目となった」って、意味もわからなかった。9ページの最後でさとるくんが歩きはじめ、「儀式をやって、自分のことを呼び出した少年のもとに向かっているのだ」って書いてあるので、さとるくんが儀式をするのかと読めてしまいました。あとからわかるけれど、この冒頭部分は本当に情景がすっと頭に思い描けず、混乱しました。全体的に納得できないところが多々ありましたが、一番説得力がないと思ったのは、航大と七海が、さとるくんが異界の人間だとわかったらすごくびっくりするはずなのに、全然怖がらなくて、その理由が「けど、こわいって気はしないよ、友達だから」っていうところです。今まで友達だった子が急に異界に入ったのなら「友達だから」というのもわかるけど、これでは友達って言葉を安易に使いすぎていると思います。そんなところが嘘っぽくて、中に入れませんでした。言葉づかいが古いという意見ですが、私もそう思います。「びっくり仰天ね」とか、「アホな冗談おとといとばしてきやがれ」とか、「おいしすぎてほっぺたが落ちても知らないよ」なんて、子どもが言うでしょうか。あまりにも新鮮味のない表現です。30ページ、「憎々しさをめいっぱい袋づめにしたような声でどなった」という表現も、どういうことかよくわかりませんでした。とにかく、つっかえてしまうところが多かったです。挿絵はこの本にあっていてよかったです。

ひいらぎ:物語世界の中のリアリティが、ぐずぐずですね。36〜37ページでさとると航大が初めて言葉をかわす場面ですけど、年上の少年が年下の少年にこんな話し方するんでしょうか? それに、さとるはあたりに散らばっている記憶粒子を集めてこれだけうまく人間に変身しているんだけど、それだったら航大がケータイを壊してしまった本人だということくらい、すぐにわかるはずなんじゃないかな。またお父さんのさとりが人間の魂を吸い取りたくなって息子を送ってきたんだけど、途中で姿を現すくらいなら自分で犠牲者をあの世に連れていけばいいのに。あとは、50ページのお母さんの台詞とか、79ページの「お互いに〜」からの台詞など、一息では言えないくらい長い台詞で状況を説明しているのも気になりました。

プルメリア:この作者の作品はほとんど読んでいます。この作品は2回、3回と読んだら、すごく間延びした印象になりました。携帯電話は、メリーさんの電話の雰囲気で迫ってきて怖かったのですが、お父さんの場面は怖いというよりも不思議な出現。携帯電話を図書館のトイレに流しちゃうことも、ありえないですね。さとるくんの出現もすごくあいまい。とってつけたようなものがたくさん入っている感じです。航太くんの嘘がばれて迫ってくる場面はドキドキしますが、実はさとるくんはみな知っていたのも、おもしろさに欠けるかな。読んだ子どもに聞いたところ、さとるくんのことを「幽霊」だっていうんですね、「なぜなの?」と聞き返すと、「遠いところからくるから」。とってつけたように出てくる「猫のすずってなあに?」と聞くと、「いったん死んだのが戻ってきたのかな」って。携帯電話を持っている子どもたちは、携帯電話で遊ぶと怖いと思うかも。表紙のさとるくんと航太くん、似てませんか?

サンシャイン:厳しく言うと、一つ一つの場面場面がご都合主義で書かれているという気がします。結局自分が電話をかけた本人なのに、そしてそれがばれたら向こうの世界に連れていかれるというのは相当な恐怖だと思うんですが、例えば教室にお父さんが出てきてもあまり動揺していないこととか。最後の方で、電話したのはぼくなんだと告白するところが作品のクライマックスなのかと思ったら、それも違ったようで、最後は猫に化けて終わっちゃいました。こういうのを子どもたちは喜んで読むんでしょうか?

メリーさん:この本って、もともと毎日小学生新聞の連載と書いてありますよね。1冊にまとめるときに、物語をつなぐために、けっこう加筆して説明的になったのかも知れないですね。

三酉:携帯の留守電で始まって、おもしろいところでスタートしたんだけれど、あとの展開がどうも。恐縮ながらまったく評価できませんでした。もう少し気を入れて考え、書いてほしい。

(「子どもの本で言いたい放題」2010年10月の記録)


斉藤洋『まよわずいらっしゃい』

まよわずいらっしゃい〜七つの怪談

ハマグリ:これは怪談シリーズ3冊目で、前の2冊と同じく、主人公が西戸先生の研究室に招かれ、順番に披露される怪談を聞くという形になっています。ただの短編集じゃなくて、こういう枠にしたのは読みやすいんじゃないかと思いました。たかしくんっていうのが進行役になっているのも、子どもにとっては読みやすいと思います。怪談自体はそんなに怖いわけではなく、まあまあの話が多いです。各巻で怪談のテーマが変わり、今回は乗り物で統一されているのがおもしろいですね。一つ怪談を聞いたあとで、いろいろ疑問点があると思うんですが、聞き終わった大学生たちが、みんなでああだこうだ言う場面があるので、読者もそこで納得がいったりいかなかったりする。そういうシチュエーションをつくっているのも、子どもにとって読みやすい工夫だと思います。文章が読みやすく、すらすらと読めました。

メリーさん:すらすら読めました。この著者は本当にページをめくらせるのがうまい。ただ、話の内容に関しては、とりたてて目新しいものはなく、どこかで聞いたようなものが多い気がしました。斉藤洋さんに書いてもらうなら、もうちょっと別の切り口の話が読みたいなと思いました。それでも、子どもたちは怖い話が大好きなので、この本は手にとられるのではないでしょうか。

レン:さらさらと読めました。ハマグリさんと同じように、構成が上手だなと思いました。小学生は怖い話がとても好きですよね。「怪談レストラン」シリーズ(松谷みよ子/責任編集 たかいよしかず/絵 童心社)や「学校の怪談」(常光徹/著 楢喜八/絵 講談社)など、怪談は読書の入口として間口が広い。ただ、それよりももうちょっと書き方が練られているというところで、この本は図書館の先生が手渡しやすいものだと思いました。うちの市の図書館でも、よく借りられていて、人気があるようでした。やはり斉藤さんは文章がうまいですね。すぐに読者がこの世界に入っていける。短い言葉でさっと、それぞれの場面がたちあがってくるのがすごいと思いました。

ゆーご:このくらいの怖さなら、怖がりだった子どもの頃の自分でも読めたかな。怪談クラブのような秘密結社的なものも子どもの頃って好きですよね。単に肝試しという形をとるのではないところがおもしろいと思いました。最後にクラブ自体が最大の怖い話、というふうに終わるのもうまい。ただ、“ポマード”のような、子どもの知らない単語は入れなくてもよかった気がします。大学生の描写もけっこうあるけどイメージできるのかな。語る人によって話のテイストが工夫されているのが面白いけれど、彼女との遊園地の話がほとんどホラーでなくなっちゃったのは、少し残念。ひとつの話に対するやりとりをもう少し広げて書いてみてほしい。シリーズの他の作品も気になります。

ひいらぎ:この作品は、入れ子になっているっていうのか、構造がまずおもしろかったですね。外側に西戸先生の研究室のできごとがあって、それ自体が不思議で、先生からの手紙も回数券も、いつのまにか消えてしまったりする。そしてその枠の中にまた参加者が語る一つ一つの怪談があるんですね。やっぱり斉藤さんはうまい。怖さから言っても、私はいろいろ想像するとこの作品がいちばん怖かった。この手の作品をたくさん読んでれば新味はないかもしれないけれど、知っているものやなじみのシチュエーションが出てくるので、子どもには読みやすいんじゃないかな。“ポマード”ですけど、今の子は存在そのものを知らないでしょうから、何だろうと逆に興味を持つかもしれませんね。

レン:わざと時々、難しい言葉を使っているのかなと思いました。「肥後の守」なんて、今の子はぜったいに知らなさそうなものを出してきているから。

ひいらぎ:わざとかもしれませんね。全体が読みやすいから、あっても気にならないし、ほかの二作と比べると文章もプロの作家の文章ですよね。

サンシャイン:『さとるくんの怪物』を読んでからこちらに行ったので、読んでいてぞーっとする所もあって、古典的な話ではありますが、読ませる力がある作品だと思いました。遊園地で写真を撮ったら、1人だけ写っていたっていうのも、話としてはおもしろいです。それからトンネルの中での幽霊話は、私の子どもの時によく聞かされた話です。鎌倉と逗子の間にトンネルがあって山の上には焼き場があるので、トンネルの中に幽霊が出るという話です。久しぶりに聞く話だと、変に懐かしく思いましたが、文章はうまく表現されていると思います。主人公の男の子は年下なのに、大学生からいろいろと期待されちゃっていて、ちょっと出来すぎという感じもしましたが、語り手役・話の進行役としては子どもの方がいいのかもしれません。

ハマグリ:そんなに怖くはないけど、ちょっとぞっとする話っていうのは、子どもたちが楽しめるんじゃないかしら。

ひいらぎ:『さとるくんの怪物』は、説明しすぎていて怖くないんだけど、こっちは、そういう現象があったという記述にとどめているので、いくらでもその先を想像できる。だから逆に怖い。

シア:斎藤洋さんの大ファンなので、今回とても楽しみにしていたんですけど、この著者は、作品によって作風がガラリと変わってきますね。この作品は、私としてはあんまりピンとこなかった。話の一つ一つは興味深いんですけど、それぞれに明確なオチがないっていうのがすっきりしなくって。都市伝説的なものはこんなのが多かったと思うんですけど。エピローグがいちばんおもしろかったんですが、他は頑張って読むような感じで。今回テーマがホラーとなっていたので、かまえて読んでしまったのもいけなかったのかもしれません。というのも、ホラーというと最近どぎつくなってきてしまっているので。「ニック・シャドウの真夜中の図書館」シリーズ(ニック・シャドウ/著 野村有美子/訳 ゴマブックス)とか、「怪談レストラン」シリーズなどですね。でも、今回のようなホラー本も、味があっていいし、センセーショナルすぎる内容というのはよくないんだなというのがわかりました。「真夜中の図書館」は教訓的な部分も多いんですけど、これはさらっと事実のみを描いていますね。斉藤洋ファンとして言えば、いい意味でまわりくどい言い回しなんかもないし、章ごとの題名も短いし、いかにも斉藤洋節、炸裂じゃなかったのが残念です。

レン:中高校生の女子もホラーは読みますか?

シア:好きですね。山田悠介とか、ダレン・シャン。少し上になると、小泉八雲、「雨月物語」も。血が出たり、ビジュアル的にきついほうが人気がありますね。困りものですが。

メリーさん:『トワイライト』(ステファニー・メイヤー/作 小原亜美/訳 ヴィレッジブックス)はどうですか?

シア:好きな人は好きだけど、あんまり騒がれていないですね。外国のものはそんなに好まれないかな。名前が覚えられないと言っているのをよく聞きます。文化の違いにも違和感を感じるようです。それよりも、日本の都市伝説系の方が断然好きですね。それから、映画からだと入っていきやすいのか、『リング』(鈴木光司/著 角川書店)とか、『着信アリ』(秋元康/著 角川書店)なんかも好きですね。

メリーさん:女の子のほうがホラー好きなのかな。男の子は大きくなると読まなくなる気がします。

プルメリア:私は斉藤洋さんの作品は大好きで、最初から全部読んでいるんですけど、この作品は都市伝説っぽい感じがします。表紙に、ここに書かれている7つの話の挿絵が全部出ていますね。クラス(小学生4年生)の子どもに紹介したところ、子どもたちは、「エレベータが怖い」っていうんです。「どうして怖いの」と聞くと「幽霊が出てくるから」。みんなが知っている「口裂け女」の話は、クラスで読み聞かせをしました。ここに出てくる人物6人(教授と学生)はどこか謎めいており、また不思議なことに、大学でみんなと話をし、話が終わり、家に帰っても時間がたっていない。「怪談レストラン」より1つ上の段階の読書として紹介しています。冷やし中華が毎回出てくるんですよね(笑)。私がこの作品でいちばん怖かったのは、位牌を売りにくる話でした。このシリーズの最初に出てくる紫ばばあは「怪談レストラン」にもあります。

優李:これは、シリーズ3作目ですが、どれも、「怪談レストラン」よりはもう少し上の年齢の子どもたちによく読まれてます。斉藤洋さんは本当に上手で、どの話もレベルが変わらず怖いし、読ませますが、話の「オチ」がなくて並んでいるのが、どうしても物足りない。そのせいで、突き抜けて良いという感じにならないのではないかなあ。「ホラー」というと、この頃「血みどろ」「どぎつさ」度が高いのが人気ですが、私はそれが苦手なので、このシリーズは好きです。

(「子どもの本で言いたい放題」2010年10月の記録)