月: 2006年7月

2006年07月 テーマ:小学校低学年・中学年が読む本

日付 2006年7月28日
参加者 むう、ウグイス、愁童、ミラボー、うさこ、たんぽぽ、アカシア、もぷしー、ドサンコ、げた
テーマ 小学校低学年・中学年が読む本

読んだ本:

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ディック・キング=スミス『ソフィーとカタツムリ』

ソフィーとカタツムリ

ドサンコ:全体として楽しく読めました。たいていの女の子は虫が苦手ですが、そうじゃないところがいい。クラシックなストーリーの部類に入るでしょうか。リンドグレーンの話も通じるかな。

ミラボー:双子のお兄さんは個性がありませんね。妹のソフィーは個性的。ドーンという女の子、おばあちゃんの登場など、お話の対比的な構成がはっきりしています。カタツムリが生きて帰ってきてよかった!

うさこ:ソフィーという4歳の女の子が生き物が大好きなのはありだし、その生き物好きの描き方が上手だと思いました。でも、絵がどうしても受け入れがたかったですね。オーソドックスというか古いというか。今の日本の低学年の子が親しみをもったり好んだりするような絵ではないと思うのですが。4歳のソフィーがふけてみえるのは、私だけかな? 絵がお話を台無しにしている印象、というのは言い過ぎでしょうか。

たんぽぽ:短いお話が集まっていて、小さい子には読みやすい本です。カタツムリが流れていくところでアッと思いますが、最後にまた会えるところもいいですね。

むう:とにかく、主人公の描き方がいい。女の子が持っていたポニーの人形を壊しちゃったり、ちょっと乱暴になりかねないけれど、自分なりの筋を通しているというか、そのあたりがとても魅力的。牧場貯金の話も、ええ、そんな途方もない、という感じだし、お兄ちゃん二人がつっこんでいる通り、かなりへんてこ話なんだけれど、子どもはそういうことを考えそうだし。両親がそれなりにフォローして、さらにおばあさんがもっとソフィーに近い気持ちで協力するというあたりも、よく書けています。楽しくてユーモアがあって。作者が、大人にとって都合のいい子どもを書いていないのがいい。それに絵も、ぶすっとしたソフィーの姿なんかは、私はぴったりだと思ったな。

ウグイス:好きなお話でした。ソフィーが個性的て魅力的。「一度決めたらやりぬく子」という訳し方も印象的です。名前の「キラキラあんよ」「はしかのブタ」とかの訳し方にも工夫があっておもしろい。「エイプリル」と「メイ」がどっちがすてきな季節か、という部分がありますが、子どもの読者には、これが四月と五月ということがわかるでしょうか。括弧で意味を付記したほうがおもしろさが増したのでは?

愁童:登場人物が簡潔な表現で実に良く描かれていて楽しいし、子どもの読者にイメージしやすいような配慮も感じられて、うまいと思いました。新しく越してきた近所の女の子ドーンとの葛藤なども秀逸で、冒頭からソフィーの人物像を読者の中に鮮明に定着させてしまうところなど、さすがだと思います。

アカシア:訳に工夫がいっぱいありますね。小さな子どもの英語のちょっとした間違いなんかも、同じように感じられる日本語になっています。あとクラシックなストーリーというと、子どもを守ってくれる親が登場してきますが、この作品は明らかに現代の特徴を持っていて、ソフィーは親に期待していないんですね。大事に育てていたダンゴムシをドーンに踏みつぶされた仕返しに、ソフィーはドーンのおもちゃを壊してしまう。そのいきさつを親に話したのか、ときく兄たちに対してソフィーは、「どうせ『わざとやったわけじゃない』とか、『ただのダンゴムシだろう』とか言われるだけだからさ」(p81)と諦めています。そして実際にその通りだったということを作者はp83に出しています。それから挿絵は、もう少しなんとかしてほしかったです。全部が変な絵というわけではないのですが、表紙にも魅力がないし、p103のお医者さんの絵などホラーみたいです。どの絵も1ページ大にしているのがよくないのかも。

げた:表紙の絵はおとなしくて、クラシックですね。でも、本文の挿絵はソフィーの野性的なキャラクターを的確に表現していると思います。ドーンの人形を踏んづけているところはリアルに表現されていますよね。このシリーズ、うちの区の図書館では全館においています。ものすごく貸し出しが多い本ではないけど、夏・冬・春のおすすめ本にも指定して、たくさんの子どもたちに手にとってもらおうと思っています。

もぷしー:勢いとユーモアがあって、引き込まれました。とても読みやすい日本語だったので、翻訳にはすごくいろんな工夫があるのでは? 幼年童話の翻訳物を出すのは、表現や文化の違いなどで難しいことが多いけれど、これは比較的ストレートでシンプルな文で読みやすい。お話の内容としても、キャラの立ったアリスおばさんがまず魅力的。それに、ソフィーが常に頭をつかって、「やりたいことを実現するにはどうしたらいいか」を具体的に考えている姿も好感がもてました。でも、表紙は日本人受けしないと思う……。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年7月の記録)


アン・ピートリ『ちびねこグルのぼうけん』

ちびねこグルのぼうけん

ミラボー:さあっと読んでしまって、特にこれといった感想がありません。

ドサンコ:これは、安心して読める本、こう言ってしまうと悲しいですが、印象が薄い本でした。ひとりで本を読める子ども向き、でしょうか。表紙の猫の目が、動物を描くときによくあるような愛らしさがなくて、むしろやや怖いのが印象的でした。かわいいばかりがいい、ということでもないのですが。お話は大きな事件はなく、小さな出来事が全体をとおしていくつか描かれている…という印象ですよね。あえて言うなら、どろぼうが来るエピソードが最大の山でしょうか。グルがドラッグストアにおいてもらえることになる決定打はここにあると思うので…。でもこのエピソードは後半なので、前半にもう少し動きがあると、あきずに読める子どもが増えるのかなと思いました。

もぷしー:私は楽しめなかった。一話一話のどこが悪いというわけではないけれど、これだけの長さの物語を読ませるには、ドラマが足りないのかなと思ってしまいました。猫に共感して読もうとしても、出会う相手が一期一会でどんどん変わったりするので、気持ちがついて行けなかった。この本は、長さからして、中学年くらいの子向けに作られているのかと思いますが、そうだとしたら、おじいさん、おばあさんの話ばかりでこの長さはきびしいかな。猫の言葉が通じる相手が、努力とかコミュニケーションの末に増えていくわけではなく、年齢条件で当てはまる人のみというのも、私にはしっくり来ませんでした。

アカシア:これは課題図書になった本なんで、私もどうかなと思って読んだんですが、意外におもしろかったんです。もぶしーさんが、猫の言葉がわかる相手が年齢で限定されているのがどうか、と言いましたが、老人と子どもだけがわかるというのはむしろ自然なんですね。夢の中に生きている部分が大きい人たちなわけですから。猫の描写もリアルです。予定調和的にお話が収束するところはクラシックですが。もっとすごい事件が次々に起こらないと飽きてしまうと感じる人もいるでしょうが、子どもって、ささいな出来事でも大きな印象を受けますから、このくらいでもドラマを感じるんじゃないでしょうか? 今風のお話と比べるとテンポがゆっくりですが、お話を味わいながら読むのにはいいんじゃないかな。

ミラボー:アメリカの一,二時代前の文化を描いているという感じですね。

愁童:ぼくは『いぬうえくんがやってきた』と同じ雰囲気が感じられて、あまりおもしろくは読めなかった。猫の擬人化が過ぎていて、猫らしさが失われてしまっている。何か猫の着ぐるみの芝居を見るようで、むしろ人間の子どもにした方が理解しやすいのでは?

ウグイス:ていねいに描いてありますが、全体に平坦に進むので、途中でちょっと退屈してしまいました。グルもそこまでひきつけるキャラではないし、たいしたことも起こらない。最初におじさんの家にもらわれたとき、おばさんがちょっと冷たい人という設定に思えて、この人とは何かあるぞ、と思わせるのに、あとですぐにひざにのせてくれて、「えっ、そうなの?」と思ったり。子どももとまどうのではないかな。表紙の絵も魅力に欠けますね。

むう:なんというか、のんびりしているなあという印象でした。今時のテンポとはまったく違う。それが良さでもあるように思うけど、必然性があまり感じられずに、ふわふわと動いていく印象で、最後にお約束という感じでちょっとした冒険があって、無事暮らすことができたという筋もクラシック。ただ、老人と子どもだけとはネコと話をできるというあたりは、そうだろうなあという感じで、それほど違和感は持たなかったし、読者である子どもたちもまた、すっと受け入れるんだろうと思いました。

たんぽぽ:この本は子どもによく読まれています。これくらいの長さのもので、安心して薦められるものが出た、という感じです。これを読んで、長いものへと進む子がいます。

うさこ:グルの様々なかっこうの絵がなんともいえずいいですね。しっぽが短いところ、缶詰に前脚をはさまれたところ。話は大事件がおこるわけでもなく、わりと平和な展開。ドラッグストアにどろぼうが入って、グルが活躍…といった展開にはあまり新鮮さを感じませんでした。ピーターとおじいさんだけに、グルの声が聞こえる。ドラッグストアのおじさんが、おじさんからおじいさんへかわるから動物の声も聞こえるように…というくだりはふんふんとうなずいて読みました。そんなにおもしろいと思った作品ではなかったので、この本が子どもに多く読まれているということを聞いて、ちょっとびっくり。おもしろいという定義に、大人と子どもの体温差を感じてしまいました。

ウグイス:本の体裁は、子どもの読者に程よいかと思います。挿絵がたくさんあり、字面の感じも読みやすい。1冊読み通せたという満足感を子どもに与えてくれると思います。

アカシア:著者はアフリカ系アメリカ人の女性です。時代背景からすると、不満や矛盾に直面しているアフリカ系の子どもたちに、「もう少し忍耐強くやってみようよ」と呼びかける意図もあったのかもしれませんね。愁童さんは、猫が擬人化されすぎて自然じゃないとおっしゃってましたが、私はそうは思わなかった。子猫の自然な姿がよく描かれていると思いました。

げた:訳文がとても読みやすかったですね。冒頭、グルがどういう猫で、これからどんな話が展開するのかわかりやすく書かれていて、お話の中に入りやすかった。読み手の子どもたちもきっとグルに同化して、グルと一緒にいろんな冒険ができると思いますよ。何も起こらないと言っている人もいますが、小さく見えるかもしれないけどグルにとっては大きな事件、というか冒険がありますよ。グルの成長も頼もしく思いました。本文の挿絵は内容を的確に表現していると思いましたが、表紙がいまひとつ、かな。刺激的な内容ではないですが、ゆったりした気持ちで楽しめる本でした。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年7月の記録)


たかどのほうこ『おともださにナリマ小』

おともださにナリマ小

うさこ:たかどのさんの作品はどれも好きです。たかどのさんのファンタジーは、素材は普通でも物語がどっちの方へいって最終的にどこにたどりつくのか、話の途中では全くわからないところが魅力的。この作品もとてもおもしろいし、好きなお話でした。キツネの真剣な姿、でも誤りも多かったり、手紙の間違いなどもクスクスっと笑ってしまう。特に好きだったのが、最後に人間の子どもたちがキツネの学校へ遊びにいくところ。どんなに楽しかったかというのは、1枚の見開きの絵になっています。そこを一つづつ丁寧に見ていくと、人間の子どもに化けたキツネの子とほんものの人間の子がうまく楽しそうに描いてある。キツネの子の「よれよれ」ぶりもいいですね。楽しかったことをことばで綴るより、この見せ方のほうが読者にお話をあずけ、想像力を引き出してくれますね。最終ページのその後の両方の学校の交流ぶりもいい余韻で終わっていると思います。

たんぽぽ:たかどのさんは、おもしろいですね。ただ、最初の部分がちょっと、こみいっているかな。

むう:なんか、なつかしい感じがしました。昔から日本にある、キツネが人間を化かすという枠を使って、うまく書いてあるなあと思います。読んでいて、宮沢賢治の『雪わたり』を連想しました。キツネの子の学校に人間の子がぽんと一人入っていくという設定も、その子がかえってほめられて戻ってくるのもおもしろい。お手紙のへんてこさも楽しかった。

ウグイス:すごく好き。たかどのさんは、幼年もののほうが断然うまいわね。まずタイトルにやられた。何だろうと思わせる、うまいつけ方。最初書店で見つけてその場で全部読んでしまったんですけど、手元に置いておきたくて買って帰りました。キツネたちの正体が途中でばれるんだけど、ばれるところが子どもには楽しい。キツネの子が字を間違えますが、字を習っている最中の読者も同じような間違いを経験してるはずなので、ほほえましく思えるでしょう。ただ、たんぽぽさんも言ってたように冒頭の部分は、状況がすっと飲み込めないのではないでしょうか。いきなり3人の名前が出てくるし、しっかり読んでおかないと次に進めません。小さい子どもが読む本は、『ケイゾウさんは四月がきらいです』みたいに、端的に状況が把握できて、もっとぱっぱっぱっと進んでいかないと。あと、こんなに薄い本なのに、この本にはちゃんと目次があるところがうれしいですね。今まで絵本ばかり読んできた子どもたちにとって、「目次がある本」を読むというのは、いっぱしの大人の本を読んだという満足を与えてくれますから。だから、内容的には絵本とほとんど変わらないものでも、きちんと目次がある本は、ひとり読みを始めたばかりの子どもにはとても大切だと思うの。最初の1章をを大人が読んであげて、あとは子どもが自分で読むようにしむけることもできますね。

アカシア:私もとってもおもしろかった。まず書名を見て、いったい何だろうと惹かれます。キツネの学校に行くと、山本さんに化けた子が鉛筆を耳にさしているなんていう一つ一つのディテールも、それぞれおもしろい。キツネの子どもたちの言葉の間違いも、ほほえましくもとっても愉快。校長先生まで間違ってる! 最後の見開きのイラストも本当にいいですね。よく見ると、キツネの子には尻尾がついていたり、ひげがついていたり……。たっぷり楽しみました。ただ、確かに言われてみると、冒頭の部分はすっと入ってこないわね。一文が長いのかな?

もぷしー:あまり湿度を感じず、とても晴れ晴れした読後感でした。校長先生の文やキツネたちの化け方など、すべてちょっとずつ間違っていて、でも登場人物たちは精一杯頑張っていて、そののびのびとした姿が、読んでいて気持ちよかったです。子どもたちに、ぜひ読んでほしい。もう一つこの本で良いなと思ったのは、読み聞かせがしにくい本だということ。読み聞かせてもらうのは私も大好きだし、とても楽しいけれど、自分で読む力も育まなければいけないと思うので、まちがった字などを見つけながら、楽しく自分読みをして、ワクワク感を味わってほしいなと思いました。

ドサンコ:宮沢賢治の作品を、より軽快に描いた印象です。たぶん賢治の作風をそのままにすると、物語は「それからキツネの校長先生から手紙がきました。そこでクラス全員で、赤い鳥居をくぐってキツネの学校を訪ねていきますと、そこにはただ、草が風にゆれているだけでした」というような終わり方になっていたと思います。このさし絵は、ゆかいなまちがいもふくめてですが、文章のていねいさと呼吸がとても合っているなと思いました。本文の書体や、キツネの校長先生からの手紙のページ全体がキツネ色だったこと、その手紙の文字も、作品を味わい深くしているなと思います。

ミラボー:かわいい本という印象です。どきどきする場面と、大丈夫だなと安心できる場面が交互に出てくる。最後のイラストと、後日談もとてもユニーク。人間があまりきちんとしすぎない方がいい、という作者の価値観が出ていると思いました。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年7月の記録)


市川宣子『ケイゾウさんは四月がきらいです。』

ケイゾウさんは四月がきらいです

たんぽぽ:これも、小学校1、2年生では無理かな。読んでて、大人が小さい子どもの心を知るための本のような気がしました。小さい子が、これを読んでおもしろいと思うのかな?

うさこ:私はとてもおもしろく読みました。久々に痛快な幼年ものを読んだなと思いました。「ケイゾウさん」というのがニワトリの名前だったというところで、まず「おおーっ」と思い、話にひきこまれてしまいました。ニワトリのぼやき、ぼそっと思う(言う)コメントがずばっと気持ちにはまり、おかしくておかしくて。ウサギのみみことの対比がさらにおもしろさをひきたてていました。人間側と生き物側の見解のギャップにユーモアがあり、目新しい視点で書かれていたと思います。ただ、ここに描かれている幼稚園児は主に年長さんだと思うのですが、そのものの言い方や動きなど幼児と感じられないところがいくつありました。

ミラボー:ニワトリの目を通して幼稚園の1年間が書いてある、お母さん用の本だと思いました。幼稚園の様子がいきいきと書かれています。

アカシア:おもしろく読みました。書名だけでなく章タイトルがすべて「ケイゾウさんは遠足がきらいです」「ケイゾウさんはサーフィンがきらいです」と、すべて「ケイゾウさんは〜がきらいです」になっているのにも、ひきつけられます。『いぬうえくん〜』と同じように、この本でもケイゾウさんとウサギのみみこは最初から仲がいいわけではない。でもいっしょにいろいろな出来事を経験するうちに結びつきができていく。物語はケイゾウさんの視点で進みますが、子どもたちの成長もちゃんとわかるようにできている。うまいですね。著者は幼稚園の先生なんでしょうか? ただこれは幼児が読む本ではなく、裏表紙にも「じぶんで読むなら小学校中級〜おとなまで」と書いてあります。幼稚園のことが書いてある本を、たとえば3、4年生の子が喜んで読むの?

ウグイス:今は『いやいやえん』(中川李枝子文 大村百合子絵 福音館書店)を小学校5、6年生が読むというから、高学年でも普段あまり読まない子にはすすめられるのではないかしら。

愁童:おもしろく読みました。こういう作品って好きですね。これだけ「きらい」なことを並べて、ユーモラスにその理由を語ってくれているので、子どもたちは爽快感をもって話に引き込まれるんじゃないかな。

ウグイス:私もおもしろく読みました。ケイゾウとみみこのキャラづくりがおもしろい。なおかつ、動物と人間のギャップが出ていて、ちょっとずれてるところがなんともユーモラスでよかった。子どもは冒頭からすぐにケイゾウさんの立場になって読むと思います。こいつ、おもしろいやつらしいぞ、と思わせ、すぐに何か事が起こりそうな気配。次のページをめくってみようと思わせる。本をひとりで読めるようになったばかりの子どもには、とにかく次のページをめくらせなければいけないので、その点でこの本は成功しているわね。タイトルもおもしろいし、エピソードを一つづつ読んでいけるのもいい。楽しい絵がフルカラーでたくさんはいっているのも、子どもには読みやすい。

愁童:ニワトリやウサギの生態をきちんと押さえて書かれているので、ケイゾウさんの「きらい」な理由に子どもたちも素直に納得できて共感するんじゃないかな。ウサギのみみこの描き方も秀逸で、こんな女の子に悩まされる男の子って結構いるから、そんな点でも子供達に素直に受け入れられる作品だと思いました。男の子はこの作品好きだと思うな。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年7月の記録)


きたやまようこ『いぬうえくんがやってきた』

いぬうえくんがやってきた

むう:今日は、低学年ものの本について勉強しようと思ってここに来ました。YAのように読者対象の年齢が上の場合は、大人の想像力である程度何とかなるけど、幼年ものはまったく大人と違う気がします。その意味で、いぬうえくんはちょっと不思議だった。すらすらさくさくと読んでいったら、いぬうえくんはなんとなくくまざわ君の家に住み着いて、それからちょっとぶつかったら勝手に出て行って、それでまた、何となく戻ってきてっていう感じで、「変なの」という気がしました。それでも、まあそういうこともあるかと思ったんですけど、最後のp78で、くまざわくんが、またいぬうえくんと一緒に住むんだよなあ、というふうな感じで捉えているのが腑に落ちなくて。いい年した私にとっては、いぬうえくんというのはとんでもなくわがままで自分勝手にしか映らないんだけど、そういう相手を、こういうふうにまたすんなりと受け入れるのかなあ、それが子どもなのかなあ、とよくわからなかったんです。

ウグイス:p78は大人の感覚。いぬうえくんのキャラはおもしろいんだけど、一人になってさみしいだけじゃ、説得力が弱い。何かしようとしたら、いなくて困ったというならわかるのですが。この作家は、言葉遣いはおもしろいけど、大人が喜ぶ感じがあって、ほんとに子どもが喜ぶのだろうかと、疑問に思う部分があります。

愁童:ぼくはつまらなかった。子どもの目線というより、しつけ副読本的で、何もお話がない。こんなに気を使わなければならない友達なんて、もういいよーという感じにもなるのでは? 読んで楽しくないですね。

ウグイス:なぜ二人が一つのところで暮らすのか、なぜ、一緒にいるのかというところに、説得力がないんですね。

ミラボー:カルチャーの違う男女が夫婦になって初めてわかるカルチャーショック、でもそれを乗り越えて…という寓意かと思って読みました。子どもはどう受け取るのか、わかりません。

うさこ:絵はいいですね。なんともとぼけた表情やかわいい場面が見ていてホッとします。低学年ものはやはり絵が大事。でも話は、気のいいクマと一方的な犬という図式ですね。いぬうえくんというキャラクター性が読者にしっかりアピールできてないうちに、「〜がいい」「〜がいい」といって、くまざわくんの家におしかけてくるいぬうえくんに、最初の章はとても唐突な印象を受けました。家に来たあとも「〜がいい」「〜がいい」とくまざわくんの住まいなのに、いぬうえくんの価値観を押しつけすぎ。くまざわくんの気持ちを思いやって、「〜がいい」といっているわけではない。いぬうえくんって、ちょっと図々しくて自分本位なんじゃないかと思いました。二人が暮らす必然性がどこにあるのか、見えてきませんでした。p78の最後の一文は、作者の大人感覚の遊びで、きっと子どもの読者はぽかんとしているのではないかな。

たんぽぽ:小学校1、2年生では、このおもしろさはわからないかな。5、6年くらいだと、よくわかるのではないかと思います。

アカシア:いぬうえくんは、図々しいキャラなんですが、それはそれで嫌みにならずに笑っちゃえるんじゃないかな。しつけを押しつけている本だとは、私はまったく思いませんでした。図々しいと思える友だちでも、やっぱりいなくなったら寂しい。いてくれたほうがいいな、っていうことをクマの方は感じる。それが素直に表現されていると思います。

愁童:クマと犬という設定自体が、この作品のテーマを支えるキャラとしてはかなりしんどいんじゃないかな。大自然の中では本能的に敵対関係になる両者がどうして一緒に住むようになったのか、そこをきちんと書いてくれないと、動物好きの子どもたちは、お話の中の絵空事としてしか受け取ってくれないのでは。

アカシア:くまざわくんといぬうえくんは、自然の中のクマと犬じゃなくて、「まったく違うタイプの人」を動物の姿を借りてあらわしているんでしょう。絵もそうだし。だから、読んでる子どもは、実際のクマやイヌをイメージしないと思うけど。

ウグイス:でも、なぜくまざわくんが、一人じゃいけないのか? これでは読みとれない。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年7月の記録)