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『ジークメーア』表紙

ジークメーア〜小箱の銀の狼

まめじか:子どものとき、斉藤さんの『ジーク 月のしずく日のしずく』(偕成社)がとても好きだったので、この本が出たときはわくわくして読みはじめました。斉藤さんはアーサー王伝説を子ども向けに書き直していらっしゃいますよね。この本では、アーサー王の要素を上手に入れていて、すらすら読み進めたのですが、作家の中にすでにあるものをパッチワークのようにつなげているというか。オリジナルの世界が立ちあがってこないように感じました。

ハル:これはシリーズものの1巻目ですよね? 最後まで読んで「やっぱり、1巻じゃ終わらないよね」と、がくっときたのですが、それでもやっぱり開幕感がありましたし、今月のもう1冊(『キケンな修学旅行』ほるぷ出版)と読み比べても、物語が豊かだなぁと思いました。セリフが少しかたく感じるところもありましたが、ジークメーアも少年とはいえ冷静で賢く、そもそも特異な存在ですし、読者とはやや距離のあるキャラクターなので、それはそれでいいのかもしれません。挿絵も独特の雰囲気がありますが、入れる位置は、あと少し後ろにしてー! と思う箇所もありました。たとえばp183の元海賊の男が再登場する場面。ハラハラしてページをめくって、先に挿絵が目に入って「あの海賊がいる」と思ったし(顔はちゃんと描き分けられているのです)、p229も箱を開ける前に狼の挿絵が目に入ってしまった。素直に文字だけを追っていればぴったりの場所に入っているので決して間違ってはいないのですが、できればちょっとずらしていただければありがたいです。しかし、つづくにしても、ラストはすごいですね。ショックとともに、続編を渇望させる、これも作戦でしょうか?

アンヌ:魔術と魔物がいる世界にマーリンとかが絡んでくる。そんな、よくあるファンタジー世界を新たに書きだすのに、相変わらず女性は魔女というか賢い女の占い師で、それ以外は宿屋のおかみさんしかいないんだなと、あまり期待せずに読み始めました。フランク王国とか、キリスト教の進行とか、歴史で習う前の小学生にはわからないことが多いのが気になりました。まあ、私自身、ローズマリー・サトクリフの物語で、イギリスにおけるローマ軍の侵略を知ったので、物語さえおもしろければ、そこらへんは理解できなくとも読めるとは思いますが。挿絵は独特で、例えばp15のイグナークの顔など、昔読んだ『ほらふき男爵の冒険』(ビュルガー編 新井皓士訳 岩波文庫)のギュスターヴ・ドレの絵のようなグロテスクさがあって、怖いもの見たさの興味がわきました。物語全体は何か盛り上がりに欠けるような気がするんですよね。続き物だとしても、第1巻を1つの世界として楽しめないといけないと思うのですが、もう少し読者が主人公に感情移入できるような場面がほしい気がします。最後の冒険場面でも、例えば魔物はあまり怖くないし、閉じ込められていた場所の謎解きとか、もっと書き込めないのかとも思いました。手に入った小箱の狼とかについての記述もあまりなくて終わってしまうし、ラストを盛り上げてこそ、次回に繰り広げられる世界への期待がわくのじゃないかと思いました。

エーデルワイス:斉藤洋はさすがうまいストーリーテラーだと思いました。おもしろく読みました。斉藤洋氏が20年ほど前に盛岡にいらしたことがあります。講演会場の小学校の体育館の舞台に立たれると、舞台の端から端ヘと左右何度も移動されながらお話している姿が思い出されました。ストーリーの中では、村に11歳以上の子どもがいない。この解明に続編を期待しています。キリスト教にも触れていますが、多神教の方が柔軟という印象を受けました。

雪割草:書き方や表現、トーンはどちらかといえば好きかなと思います。世界観があるし、小箱の中に狼などエンディングが不思議で、続きがあるなら読んでみたくなりました。ただ、世界観は少々ベタな感じで、登場するのが男性ばかりなので、続きでは女の人にも光を当てて描いてほしいです。人のあたたかさもちゃんと描かれていると思いました。

ルパン:急いで読んだからかもしれないんですけど、全然お話の世界に入っていかれないまま終わりました。長編の1巻だとは知らずに読んだので、ページが終わりかけていても全然クライマックスが来なくて、「え? だいじょうぶ?」と心配になりながら読み、最後は「あれ、これで終わり?」というキツネにつままれたような感じでした。おとなだから読み終わってから、「まあ、斉藤洋だし、『西遊記』みたいにこれから続くんだろう」と思いましたが、子どもはわからないんじゃないですか? いろいろ伏線みたいなことも散りばめられていますが(11歳以上の子どもがいない、とか)、そういったことの理由も明かされないままで、不完全燃焼でした。せめて「続く」とか書いてあげてほしい。

ハリネズミ:私はエンタメだと思って読みました。斉藤さんは、子どもがおもしろいと思う本はどんな本か、ということを調査し、研究してそのセオリーに則って書いている部分もあるように思います。1巻目なので山場はまだこの先にあるのでしょうね。一神教と自然神の対立などが描かれているのも、私はおもしろいと思いますが、今後その辺ももっと描かれてくるのでしょう。斉藤さんがどのように考えているのか、続編が楽しみです。

ニンマリ:佇まいがとても魅力的な小説ですね。イラストも素敵で、世界名作全集を想起させます。1巻はまだ序章で、これから物語が大きく展開していきそうですね。今のところジークメーアは母とランスの言うとおりに動き、受け身なので、主人公への感情移入はまだ薄いです。いつか、ジークメーアが自分の意思で羽ばたいたときに、魅力が高まるのでしょう。個人的には2巻は気になるけれど、とても待ち遠しいというほどではないです。その理由はやはりジークメーアの心情がわかりづらいところにあるかと思います。とても静かな物語なんですよね。ジークメーアに相棒のリスでもインコでも犬でも、何かいて、話しかけることで気持ちがわかったりとか、お茶目な一面が見えたりとかするとぐっと引き込まれるかと思うのですが……。そうするとエンタメになってしまって、この佇まいが台無しになるのかもしれませんね。

西山:斉藤洋って、こういう文章だったっけと驚きました。雑すぎやしないかと……。例えば、p100、半弓が手元にすでに城にあるというのは、ある種のギャグかと思ったくらいです。ふつう、そういうアイテムを1つ1つ手に入れていく冒険が展開されるのではないかと思ったのですが、あれもこれも「実は家にありましてん」という漫才台本になりそうと勝手に笑ってしまいました。ていねいに書かれた本を読みたいなぁというのが読了後一番に感じたことでした。

コアラ:装丁が、ヨーロッパの中世のファンタジーという感じでとてもいいと思います。挿絵も、ヨーロッパの昔話やファンタジーの挿絵っぽくて、よく見ると、左下にドイツ語で挿絵タイトルが書かれていて、右下には画家のイニシャルが入っているんですよね。凝っているなと思いました。ザクセンが舞台だから、ドイツ語で書かれているとそれっぽくていい感じだと思いました。中世のドイツを舞台に、アーサー王伝説を組み合わせたファンタジーで、その設定だけでもワクワクするし、途中まではおもしろく読みました。ただ、最後のほうで、なんだか煙に巻かれたような、すっきりしない、腑に落ちないような形になって、それが残念でした。「洞窟」というのが、大ムカデの口、あるいは腹の中、というのは、ちょっと納得できないし、それより何より、ランスはずっと、「小箱の銀の狼」というのは馬だと言っていたんですよね。p99の最終行からp100の1行目にかけて、「『小箱の銀の狼』という名の、たぶん馬が、どこかにいる」と言っています。ところが、p232の後ろから3行目「小箱を見た瞬間、わたしは、この中に狼がいると直感した。だから、さほどおどろきはしなかった」などと言っているんです。「馬」と言っていたのはどうなったんだと、すっきりしない感じが残りました。それ以外は、おもしろかったです。シリーズ物のようなので、続きが楽しみです。

ハリネズミ:このタイトルとサブタイトルは、続きがあることを想定させていますよね。

シア:オビに「新しい冒険の物語がはじまる」とありますし、偕成社のWebサイトにも「ジークメーア1」と題名の上に書いてあります。だから続くと思いたいのですが、この著者の『ルーディーボール エピソード1 シュタードの伯爵』(斉藤洋著 講談社)が2007年のエピソード1以降音沙汰なしなので、売れ行き次第なところがあるのでしょうか。この本を初めて見たときに、『ジーク 月のしずく日のしずく』の続きだと思いまして、『ジークⅡ ゴルドニア戦記』の2001年からの超ロングパスで続編を書くなんて、児童書界のアイザック・アシモフか! と喜んだのですが、全く違いました。しかし、挿絵も描いている人は違いますが『ジーク』に似ている感じがしますし、『テーオバルトの騎士道入門』(斉藤洋著 理論社)に「ランス」という名の従者が出てくるので、最近流行りのクロスオーバー作品かなと混乱しながら読みました。そのため、この本自体にはあまり大きな感動はありませんでした。最後の川の辺りの描写が読みにくいというか、いまいち想像しにくく、しかも肝心のラストも別にそこまで盛り上がらず、往年の輝きがなくなってきてしまっているようにも感じました。久しぶりに会った方がお爺さんになっていたような感覚です。個人的に大好きだった2シリーズと勘違いしたので、期待値が大きすぎました。とはいえ、最近はアーサー王伝説を知らない子どもが多いので、その辺りを知るのに良い本ではないかと思います。この方の本はどれもおもしろいですし、とくにファンタジーは最高にクールなので、中高生にも薦めやすい本です。p21、p22に「さほど」という言葉が集中的に3か所も出てくるのでここは訂正してほしいと思いました。

さららん:たとえば、洞窟の中に住む主人公は、満潮のときは泳いでいかないと外には出られません。そんなときのために、乾いた服を別の場所に用意しておく、といった描写などに、手触りのある世界を感じました。物語の構成はクラシックですが、マンネリとは思わなかったです。キリスト教、アーサー王伝説についての知識がちりばめられ、その中で登場人物たちもしっかり動いているように思えました。例えば新しい弓をもらった主人公は、古い弓をどう処理するのか。作者はそこまできちんと書いています。母親に対する深い信頼、ランスへの不信感などが、言葉というより、むしろ主人公の行動で表されているため臨場感があります。なお文章は、少し時代劇っぽい感じがありました。例えばp198「ジークメーアはそう思った」までで、心の変化を数行かけて説明したあと、「川で魚がはねた」と、突然短い風景描写を入れて、章を締めくくるあたりなどです。テレビドラマでもよく場面転換に使われる手ですが、作者はそこで、間を取りたいのかもしれませんね。

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しじみ71個分(メール参加):日本人作家による、ヨーロッパを舞台にした時代劇という点におもしろさを感じました。未読ですが、アーサー王物語シリーズを先に書いておられるので、そのスピンオフというところなのでしょうか。ジークメーアの暮らしぶりや能力を描き、続いて冒険物語がサクサクと展開していくので、するすると読めました。ですが、時代物の典型のような話運びなので、斬新さや深い感情移入などはなかったという印象です。まだシリーズ第1巻のせいもあるかとおもいます。何より一番気になったのは、話の終わりどころでした。えー、狼見つけただけで終わっちゃうの?という感じで、もう一つ狼との関わりを語る逸話が欲しかったなぁと思ってしまいました。振り返ると、そこまでにあまり盛り上がりが足りなかったということなのかな…すんごい大冒険をして、苦労して狼を得たという感じがあまりしなかったのでした。でも、とにかく第2巻以降に期待というところです。挿絵はとてもいいと思いました。ヨーロッパの古い銅版画をおもわせるようなイメージは好もしかったです。

(2022年02年18日の「子どもの本で言いたい放題」の記録)

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『こんぴら狗』表紙

こんぴら狗

『こんぴら狗』(読み物)をおすすめします。

江戸時代、商店の娘・弥生に拾われて大きくなった犬のムツキは、ある日、江戸から讃岐(今の香川県)にある金比羅神社までお参りに出される。弥生の病気の治癒を祈願する家族の代理で参拝することになったのだ。ムツキは途中で、托鉢僧、にせ薬の行商人、芸者見習い、大工、盲目の少年など、さまざまな職業や年齢の人々に出会い、ひとときの間道連れになって旅をする。そして、川に落ちたり、雷鳴に驚いてやみくもに逃げ出して迷子になったり、姿のいい雌犬と出会って仲良くなったり、追いはぎに襲われた道連れを助けたり、といろいろな体験をしながら、金比羅神社までの往復をなしとげる。ムツキをかわいがっていた盲目の少年が、やがてムツキの子どもをもらうという終わり方にもホッとできる。たくさんの資料や文献にあたったうえで紡がれた、愛らしいリアルな物語。多くの賞を受賞している。

12歳から/犬 参拝 旅

 

Konpira Dog

This is an entertaining adventure novel with a dog as the protagonist, and is also historical fiction introducing the customs and lifestyle of Japanese people in the Edo period (1603-1868). The dog, Mutsuki, had been abandoned, but was rescued by Yayoi, the daughter of a wealthy merchant, and is now grown up. In this story he is sent on a pilgrimage from Edo (Tokyo) to a shrine in Sanuki (today’s Kagawa Prefecture in western Japan) dedicated to Konpira, the guardian deity of seafarers. He is being sent as the family’s representative to pray that Yayoi will recover from illness. He sets out carrying a bag around his neck containing a wooden slab engraved with his owner’s name and address, a monetary offering for the shrine, and enough money for buying food to last him the journey. He comes to be known as “Konpira Dog” and is looked after by travelers and other people he crosses paths with, so eventually he completes his mission and returns home safely.
On his travels, Mutsuki keeps the company of many people of different trades and ages, including a mendicant, a snake oil peddler, an apprentice geisha, and a carpenter. He also has many experiences on his pilgrimage, such as falling into the river, making friends with an attractive female dog, and saving a traveling companion from bandits. His last companion on the road is a woman who runs a kerosene wholesale business and whose young son Muneo is blind. The boy is later given Mutsuki’s puppy, providing a satisfying conclusion to the story. The author researched the subject thoroughly to make it into a creative yet realistic story. The book won the Sankei Children’s Publishing Award, the Association of Japanese Children’s Authors Award, and the Shogakukan Children’s Book Award. (Sakuma)

  • Text: Imai, Kyoko | Illus. Inunko
  • Kumon Shuppan
  • 2017
  • 344 pages
  • 20×14
  • ISBN 978-4-7743-2707-5
  • Age 12 +

Dogs, Pilgrimage, Travel

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『こうさぎとほしのどうくつ』表紙

こうさぎとほしのどうくつ

『こうさぎとほしのどうくつ』(絵本)をおすすめします。

4匹の子ウサギのきょうだいが、嵐を逃れるために洞窟に入りこみ、となりの子ウサギたちとも出会って、洞窟の中を探検する。そのうち、ランタンを落とし、真っ暗な中を子ウサギたちは洞窟の中の大広間にすべり落ちてしまう。ところがその大広間の天井には、星のような光がまたたいていて、子ウサギたちを洞窟の出口へと案内してくれた。最後は家にもどって一安心。子ウサギたちの驚き、不安、安堵、幸福感など心のうちを、顔の表情や変化に富む背景の色でうまく表現している。

5歳から/ウサギ 友だち 冒険

 

The Little Bunnies and the Star Cave

Four little bunnies run into a cave to escape a storm. There they meet their bunny neighbors and begin exploring the cave together. But one of them drops the lantern and in the darkness, they slide into a big cavern within the cave. The ceiling twinkles as though with stars. By this light, the bunnies find their way out of the cave and return home safely. The emotions they experience, such as surprise, anxiety, relief and happiness, are beautifully conveyed through their facial expressions as well as the richly varied background colors. (Sakuma)

  • Text: Watari, Mutsuko | Illus. Dekune, Iku
  • Nora Shoten
  • 2016
  • 40 pages
  • 26×21
  • ISBN 9784905015277
  • Age 5 +

Rabbits, Caves, Exploring, Friends

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『あめがふるふる』表紙

あめがふるふる

『あめがふるふる』をおすすめします。

雨の日に、ふたりだけで留守番をしている兄のネノと妹のキフが、窓の外をながめていると、フキの葉の傘をさしたカエル、たくさんのオタマジャクシ、くるくる回るカタツムリ、踊っている木や草や野菜などが次々にあらわれる。そして魚に誘われて向こうの世界にとびこんだ兄妹は、困っている小さな動物たちを笹舟をたくさん作ってのせていく。やがてお母さんが帰ってきて、子どもたちは現実に戻る。「あめがふるふるふるふる・・・」という言葉が効果的に使われ、力強い絵がファンタジー世界を楽しむ子どもをうまく表現した絵本。

5歳から/雨の日 冒険 思いやり

 

It Rains and It Pours

Neno and his younger sister Kifu are home alone on a rainy day. As they gaze out the window, they slip into a fantasy world. One by one strange things come into view: a frog with a butterbur leaf umbrella, a horde of tadpoles, snails spinning round and round, huge trees and vegetables. Dancing joyfully, Neno and Kifu weave boats from blades of bamboo grass to help little animals get through the rain. When their mother comes home, they return to reality. The playful wording and strong illustrations capture the children’s delight in the strange world they encounter. (Sakuma)

Text/Illus. Tashima, Seizo Froebell-kan 2017 32 pages 25×23 ISBN 9784577045190 Age 5 +
Rain; Staying home alone; Reality and fantasy

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本 2018」より)

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『火曜日のごちそうはヒキガエル』表紙

火曜日のごちそうはヒキガエル

『火曜日のごちそうはヒキガエル』をおすすめします。

冬は地面の下で過ごしているはずのヒキガエルのウォートンは、どうしてもおばさんにお菓子を届けようと外へ出てしまう。するとミミズクにつかまり、火曜日に誕生日を迎えるミミズクのごちそうにされることに。逃げ出せずにとうとうその日が来て万事休すとなったとき、不思議なことが次々に起こる。
小学校中学年から

(朝日新聞「子どもの本棚」2021年11月27日掲載)

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『こうさぎとおちばおくりのうた』表紙

こうさぎとおちばおくりのうた

『こうさぎとおちばおくりのうた』をおすすめします。

4ひきの子うさぎきょうだいが、祭りの花火の音に誘われて、落ち葉行列に参加したり、森に入って歌ったりはねたりするうちに、道に迷ってしまう。一面落ち葉に覆われた森は、様子が変わっていたからだ。助けてくれたのは、ブナの大木「ぶなじい」。冬になる前の美しくかがやく自然の中に入り込んで、子うさぎたちと一緒にささやかな冒険を楽しめる絵本。
5歳から

(朝日新聞「子どもの本棚」2021年11月27日掲載)

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トンケ・ドラフト作 西村由実訳『青い月の石』岩波少年文庫

青い月の石

『青い月の石』をおすすめします。

伝承遊び歌から始まる冒険物語。

少年ヨーストは、青い月の石を手に入れようと、いじめっ子のヤンと一緒に地下世界の王を追っていく。その途中で出会うイアン王子は、父王が地下世界の王と交わした約束を果たしにいくところだ。

3人は、地下世界の王の末娘ヒヤシンタに助けてもらい、それぞれの任務を遂行して無事に戻ってくるのだが、タブーをおかしたイアン王子は、最愛のヒヤシンタのことを忘れてしまう。そこで今度は少女フリーチェも加わり、王子に記憶を取り戻させるための次の冒険が始まる。

オランダ屈指のストーリーテラーが伝承物語のモチーフをふんだんに使い、豊かなイメージで現実とファンタジーの間に橋を架けた作品。

(朝日新聞「子どもの本棚」2018年5月26日掲載)


伝承遊び歌で始まり、ぐんぐんひっぱっていく冒険物語。祖母と暮らすいじめられっ子のヨーストは、青い月の石を手に入れようと、地下世界の王マホッヘルチェを追っていく。途中で出会ったイアン王子とたどりついた地底の国で難問をつきつけられるが、マホッヘルチェの娘ヒヤシンタが助けてくれる。ようやく地上に戻ると、タブーを侵したせいで愛するヒヤシンタのことを忘れたイアン王子に記憶を取り戻させるため、次の冒険が始まる。昔話のモチーフを使い、現実とファンタジーの間に橋をかけた作品。2020 年JBBY 賞受賞作。

原作:オランダ/10歳から/石 冒険 地下世界 タブー

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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ワンダ・ガアグ『スニッピーとスナッピー』さくまゆみこ訳

スニッピーとスナッピー

アメリカの絵本。2匹の子ネズミ(スニッピーとスナッピー)が毛糸玉で遊んでいると、その玉が転がってしまい、2匹は追いかけていきます。その先には、大冒険が。この絵本は、以前渡辺茂男さんの訳で他の出版社から出ていました。私は編集者として翻訳者である渡辺茂男さんと出会い、渡辺さんに誘われて、ミネソタ大学のカーラン・コレクション(絵本原画のコレクション)や、ガアグの暮らしていた家を見に行ったことがあります。福本友美子さん、広松由希子さん、竹迫祐子さん、白井澄子さん、谷口由美子さんたちと一緒の、とても楽しい旅でした。そんな渡辺さんが訳されたものを新たに訳すことになり、とても緊張しました。既訳を見たら左右されてしまうと思って、敢えてまったく見ないで訳しました。
(装丁:田辺卓さん 編集:山浦真一さん)


ライオンと歩いた少年

イギリスで暮らす少年クリスは、父親の仕事の都合で突然アフリカのタンザニアへ行くことになります。ところが目的地に向かう途中、軽飛行機が墜落して、パイロットと父親は重傷を負ってしまいます。軽傷ですんだ少年はひとりで助けを呼びに行こうとするのですが、そこは様々な野生動物が暮らすサバンナ。飛行機という現代文明を象徴するものが失われたことで大自然の中に放り出された少年は、年老いたライオンと出会います。死期を迎えて群れを去った老ライオンと、生きようとするクリスが、ふしぎなことに魂を通わせるようすが描かれています。

著者のキャンベルは、野生の動物と人間のかかわりをテーマに書いている作家です。翻訳は、原文では名詞につく形容詞がたくさんあるので、それをどう訳すかという点で苦労しました。

(編集:米田佳代子さん 装丁:鈴木裕美さん)


E.B.ホワイト『スチュアートの大ぼうけん』さくまゆみこ訳

スチュアートの大ぼうけん

アメリカのフィクション。映画「スチュアート・リトル」の原作です。人間の一家にネズミの子が生まれるという不思議な設定ですが、映画ではあまりにも奇妙だと思ったのか、スチュアートは最初からペットという設定になっています。2000年夏に映画が日本にもやってきて私も見ました。
(編集:山浦真一さん)


ルーシー&スティーヴン・ホーキング『宇宙に秘められた謎』さくまゆみこ訳

宇宙に秘められた謎

人気の宇宙冒険物語の2巻目です。物語もよくできていて、読んでいるうちに宇宙への関心がおのずと高まってきます。物語のほうは、主人公のジョージが、アメリカに引っ越したアニーを訪ねていき、NASAを見学したりしているのですが、スーパーコンピュータの「コスモス」に届いた謎のメッセージに呼び出されて、ふたたび宇宙へと出ていく、という流れ。
物語の間に、世界の宇宙物理学や天文学など第一線の科学者たちが、「エイリアン(異星人)とのつき合い方」「宇宙にはだれかいますか?」「ゴルディロックス・ゾーンってなに?」など最先端の知識を子どもにわかりやすく伝えるコラムを書いています。
今回のテーマは、宇宙人はいるのか、地球以外に人間の住める場所はあるのか、といったところでしょうか。博士が子どもたちに向けて書いたコラムも掲載されています。
私もこの本の翻訳に取り組む課程で、宇宙のことがいろいろわかってきました。
(装画・挿画:牧野千穂さん 装丁:坂川栄治さん+田中久子さん 編集:津久井恵さん+松岡由紀さん+板谷ひさ子さん)


ルーシー&スティーヴン・ホーキング『宇宙への秘密の鍵』さくまゆみこ訳

宇宙への秘密の鍵

科学的な知識とおもしろい物語を融合させた、めずらしい作品だと私は思っています。エコ活動家を親に持つジョージは、ふとしたことから隣に住む科学者のエリック(ホーキング博士がモデルですね)、その娘アニーと友だちになります。そしてエリックが持つスーパーコンピュータ「コスモス」が用意した不思議なドアから宇宙に飛び出し、彗星に乗って太陽系をめぐる旅に。ブラックホールをめぐるホーキング博士の研究の成果も説明されているし、星雲や天体の最新の美しい写真も載っています。物語を書いているのは、ホーキング博士の娘さんです。
(装画・挿画:牧野千穂さん 装丁:坂川栄治さん+田中久子さん 編集:津久井恵さん+松岡由紀さん+板谷ひさ子さん)

*厚生労働省:社会保障審議会推薦 児童福祉文化財(子どもたちに読んでほしい本)選定
*SLA夏休みの本(緑陰図書)選定

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<紹介記事>

・「おもしろ読書事典小学生版」(岡山県教育委員会)2014年3月号


宇宙の誕生 ビッグバンへの旅

3巻目で扱われているのは量子力学。最初はよくわからなくて、量子力学についての入門書を何冊か読みました。ホーキング博士の分身であるエリックのかつての敵、リーパーがまた登場してきます。リーパーやブラックホールをめぐる謎で読者を引っ張りつつ、「ヒッグス粒子」など最先端の科学知識についても披露しているというすごい本です。(装画・挿画:牧野千穂さん 装丁:坂川栄治さん+永井亜矢子さん 編集:板谷ひさ子さん)