タグ: ノンフィクション

『草原が大好きダリアちゃん』表紙

草原が大好き ダリアちゃん

『草原が大好き ダリアちゃん』をおすすめします。

世界のさまざまな地域の文化を、そこで生きる子どもを主人公にして紹介する写真絵本シリーズの一冊。今回の主人公は、味噌っ歯の5歳の少女ダリアちゃん。冬はマイナス40度にもなるロシアのシベリアで、家族とトナカイたちに囲まれて暮らす。自然の中にあってほとんどが手づくりという日常の衣食住を伝える写真からは、8か月も雪におおわれている厳しさも、広い草原を走り回ったりベリーやキノコを摘んだりする楽しさも、そしてダリアちゃんの「ここが大好き」という思いも、伝わってくる。小学校低学年から(さくま)

(朝日新聞「子どもの本棚」2023年2月25日掲載)

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『チャンス』表紙

チャンス〜はてしない戦争をのがれて

『チャンス〜はてしない戦争をのがれて』をおすすめします。

ポーランドに生まれアメリカで絵本作家になったシュルヴィッツは、幼い頃ワルシャワにあった家をドイツ軍の爆撃で失い、家族とともに旧ソ連国内、後にはヨーロッパを転々とさまよう。文章と絵からは、その旅が戦争、飢え、病、寒さ、迫害の連続で、死と隣り合わせだったことが伝わってくる。「おとうさんのちず」に描かれていた家族関係も詳細に語られているし、様々な困難を乗りこえてきたからこそ「よあけ」のようなさわやかで美しい絵本を描けるようになったことも、うかがい知れる。
思えば、ガアグ、センダック、レイ夫妻、八島太郎、そして彼のような海外にルーツをもつ画家が、アメリカの絵本の豊かな多様性を生み出してきたのだ。小学校高学年から(さくま)

(朝日新聞「子どもの本棚」2022年10月29日掲載)

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『わたしは反対!』表紙

わたしは反対〜社会をかえたアメリカ最高裁判事RBG(ルース・ベイダー・ギンズバーグ)

アメリカの絵本。かなり強いタイトルですが、長いものに巻かれたり、上の方々の言いなりになるのではなく、考えが違う場合は、はっきりそう言いましょう、という思いでつけています。

幼いころ、「犬とユダヤ人はおことわり」という立て札を見て、そのときの嫌な気持ちを忘れずにいました。そして、時代遅れの考え方や、不公平や、不平等や、弱者が虐げられたのを見ると、反対したり、意義を唱えたりしました。それは、最高裁の判事になっても変わりませんでした。

「ルース・ベイダー・ギンズバーグをもっと知るために」という後書きには、その生涯がもう少し詳しく書かれています。また編集の方で用意してくださった「RGBの生きた時代とアメリカの女性に関する主なできごと」という年表もついています。

原書には書き文字がついていて、それが日本語でうまく表現できるかどうか心配だったのですが、デザインの方がうまく処理してくださいました。

(編集:二宮直子さん デザイン:藤本孝明さん、藤本有香さん)

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デミ作『マリー・キュリー』表紙

マリー・キュリー

アメリカの絵本。二度もノーベル賞を受賞した女性科学者の伝記です。ポーランドのワルシャワに生まれ、フランスのソルボンヌ大学に学び、フランス人科学者のピエールと結婚し、二人の娘を育てながら研究に邁進したマリーですが、最近のアメリカの伝記絵本は、人間を偉人というよりひとりの人間として描こうとしているように思います。夫のピエールは放射性物質への被曝のせいで体が弱っていたせいもあり、通りを渡ろうとして馬車にひかれて亡くなります。マリーも、被曝障害で亡くなります。

「ラジウムから出る放射線は、病気の治療に役立つこともあれば、人を殺すこともあるのです。科学者たちは放射性物質をつかうときは体を保護するようになりました。しかし、長年のあいだ被曝しつづけていたマリーは、すでに健康をそこなっていました」と本書は述べています。また時計の文字盤などにラジウム入りの夜光塗料を塗る仕事をして健康をそこねた「ラジウム・ガールズ」についても言及しています。

こういうのを訳すときは、一応テキストを訳してしまってから、一般書の伝記を何冊か読みます。そして疑問のある部分を書き出して、さらに調べるようにしています。異論がいくつかあるときは、原書の文章を活かしますが、原書が大きく間違っていることもあるので、要注意です。

彼女についての最近の伝記は「マリ・キュリー」と書いてあるのが多いかもしれません。フランス風の現地音主義をとればマリになります。でも、現地音主義にこだわると、「マリ・キュリ」になります。それはちょっとおかしいかも、と編集の方と相談して、このようなタイトルになりました。

(編集:鈴木真紀さん 装丁:森枝雄司さん)

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『ダーシェンカ』表紙

ダーシェンカ 愛蔵版

『ダーシェンカ 愛蔵版』(NF)をおすすめします。

フォックステリアのダーシェンカが、「片手にひょいと載せられるほどの、白い小さなかたまりだった」時から、歩けるようになっても「足を一本見失ってしまい、四本であることをすわりなおして確認しなくてはならな」かったり、なんでもかんでも手当たり次第にかんでしまったり、おしっこの水たまりをあっちこっちに作ったりしながら成長していく過程を、味のある文章と、愛情あふれる写真と、ゆかいなイラストで描写した本。ヒトラーとナチスを痛烈に批判した作家の、日常生活や人となりを知るうえでもおもしろい。

原作:チェコ/13歳から/犬、ペット

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『ネコとなかよくなろうよ』表紙

ネコとなかよくなろうよ

『ネコとなかよくなろうよ』(NF絵本)をおすすめします。

ネコが飼いたいパトリックは、ネコのことならおまかせ、というキララおばさんのところへやってくる。そしてさまざまなネコの種類についての説明を聞き、古代エジプトから現代に至るまでの人びとの、ネコとのつき合い方の変遷を知り、ネコが登場する絵やお話について教えてもらい、ペットとして飼うための秘訣を話してもらう。自分もネコを飼っていた作者が、キララおばさんの姿を借りて、子どもに知っておいてほしいネコについての知識のあれこれを、楽しい絵とともにわかりやすく伝えている絵本。

原作:アメリカ/7歳から/ネコ、古代エジプト

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『戦場の秘密図書館』表紙

戦場の秘密図書館〜シリアに残された希望

『戦場の秘密図書館』(NF)をおすすめします。

内戦下のシリア南部にあるダラヤは、政府軍に完全封鎖されて激しい空爆を受け、食料や物資が不足していた。そのなかで、若者たちは破壊された家や瓦礫のなかから本を集めて地下に秘密図書館を作り、人びとの心に希望の灯を点していく。英国人ジャーナリストによるドキュメンタリーを、毎日新聞の記者が子ども向けに編集し訳している。内戦下にあるシリアの状況がリアルに伝わるだけでなく、本や図書館の本質的な役割とはなにかを考えさせてくれる。「頭や心にだって栄養が必要」という言葉がひびく。

原作:イギリス/8歳から/シリア 図書館 内戦 本

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『ミイラ学』表紙

ミイラ学〜エジプトのミイラ職人の秘密

『ミイラ学』(NF絵本)をおすすめします。

王室御用達のミイラ職人の一家を主人公にして、王妃の父イウヤの遺体をミイラにしていく様を、絵と文章で表現した絵本。どんな材料や器具が使われ、どのような手順でミイラに加工されていったか、葬儀はどのように行われたのか、などがとても具体的に紹介されている。後書きには、ミイラ学の歴史や、イウヤとその妻チュウヤのミイラ(写真もある)が発見されたときの様子などが記されていて、興味深い。発掘調査にかかわる技術画を専門にしていた著者の、古代エジプト風の絵も趣をそえている。

原作:アメリカ/8歳から/古代エジプト ミイラ 葬儀

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『プラスチック プラネット』表紙

プラスチックプラネット〜今、プラチックが地球をおおっている

『プラスチックプラネット』(NF絵本)をおすすめします。

身の回りに氾濫するプラスチック製品について考えてみようと呼びかける絵本。プラスチックとはなにか、プラスチックの利点と問題点、暮らしのなかでどう使われているか、どんなふうに普及してきたか、マイクロプラスチックやマイクロビーズについて、プラスチックゴミの野生生物や人体への影響などを、イラストや写真を交えてさまざまな観点から解説し、プラスチックごみがあふれる今、私たちになにができるかという具体的な案も提示している。見開きごとに1トピックになっていて、わかりやすい。

原作:イギリス/8歳から/プラスチック ごみ 地球

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

 

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『映画ってどうやってるくるの?』表紙

映画ってどうやってつくるの?

『映画ってどうやってつくるの?』(NF絵本)をおすすめします。

映画はどうやって制作されているのかを、子どもにもわかるように概説した絵本。まずモーション・キャプチャーという技法の紹介で読者を引きつけておいて、19世紀に写真が発明されると、今度はその写真を動かす方法が考案された歴史を伝えていく。撮影前から撮影後までの過程でどのような仕事をどのような人たちが担っているのか、アニメーション映画はどう作るのかなどについても述べられている。音作りやソーマトロープなどを体験してみるページや、考えてみることを促すページもあり、楽しみながら学べる。

原作:オランダ/8歳から/映画 撮影 アニメーション

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『アンネのこと、すべて』表紙

アンネのこと、すべて

『アンネのこと、すべて』(NF)をおすすめします。

アンネは、ドイツに生まれたが、ヒトラーの脅威にさらされてオランダに移住する。そのオランダにもナチスの影が迫ってきて、隠れ家に身を潜める。しかし、2年後に見つかって強制収容所に連行され、命を落とす。そうした生涯を、写真とイラストをふんだんに使って紹介している。随所にはさまれたカラーのハーフページには、歴史的な事実や、隠れ家の見取り図や、オランダのナチについての解説など付随する情報が載っている。アンネの生涯は、世界じゅうで迫害されている子どもの象徴として記憶にとどめておきたい。

原作:オランダ/10歳から/アンネ・フランク ホロコースト 隠れ家

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『私はどこで生きていけばいいの?』表紙

私はどこで生きていけばいいの?

『私はどこで生きていけばいいの?』(NF写真絵本)をおすすめします。

世界の難民や避難民の子どもたちの望みや不安を、写真と簡潔な文章で紹介する絵本。写真は、国連難民高等弁務官事務所が提供するもので、クロアチア、ハンガリー、ルワンダ、レバノン、イラク、南スーダン、ヨルダン、ギリシャ、ミャンマー、ニジェールなどで撮影されている。「『こんにちは。ここで安心して暮らしてね』と、笑顔でむかえてくれる人がいますように。あなたもそのひとりでありますように。」という、最後の場面に添えられた言葉に、本書の意図が集約されている。

原作:カナダ/8歳から/難民 子ども 旅

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『しぜんのかたちせかいのかたち』表紙

しぜんのかたち せかいのかたち〜建築家フランク・ロイド・ライトのお話

『しぜんのかたち せかいのかたち』(NF絵本)をおすすめします。

ライトは、幼年時代に積み木で遊ぶことによって「形」の秘密に気づき、自然の中で過ごすことによって「形」の不思議に魅せられた。そして建築家となって、自然を切り離すのではなく自然に溶け込む建物をつくりだした。後年スキャンダルにも見舞われるが、この絵本では幼年時代・少年時代を描くことによってポジティブな面に光を当て、彼がどのような建築をめざしたかを、味わいの深い絵とともに提示している。作中に描かれた建築物が何かを説明するページもある。

原作:アメリカ/8歳から/建築 自然 形 伝記

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『マララのまほうのえんぴつ』表紙

マララのまほうのえんぴつ

『マララのまほうのえんぴつ』(NF絵本)をおすすめします。

誰かが声を上げないと、と感じたとき、パキスタンの少女マララは、「まって……、だれかじゃなくて、わたし?」と、ネットでの発信を始める。その後銃撃されて瀕死の重傷を負ったマララは、回復するとさらに歩みを進める。そして、小さいころ夢見ていた魔法の鉛筆は、自分の言葉と行動のなかにあるのだと確信する。ノーベル平和賞を受けたマララの本はたくさん出ているが、この絵本は彼女が自分の言葉で文章をつづっている。流れもスムーズでわかりやすい。

原作:アメリカ/6歳から/マララ、魔法、言葉、学ぶ権利

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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『すごいね!みんなの通学路』表紙

すごいね! みんなの通学路

『すごいね! みんなの通学路』(NF写真絵本)をおすすめします。

他の国の子どもたちは、どんな道を通って学校に行くのかな? スクールバスに乗る子もいるけど、ボートや犬ぞりや、ロバとか牛に乗って通っている子もいるよ。ちゃんとした道や、ちゃんとした橋がないところを通っていく子もいるね。水を入れたたらいや机をかついで行く子もいる。国際慈善団体で働いてきた著者が、日本、フィリピン、カンボジア、中国、ミャンマー、ガーナ、ウガンダ、ハイチ、コロンビアなど、世界各地の通学する子どもたちを写真で紹介する絵本。

原作:カナダ/6歳から/学校 通学路 子ども 写真絵本

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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『ゴードン・パークス』表紙

ゴードン・パークス

『ゴードン・パークス』(NF絵本)をおすすめします。

『ヴォーグ』や『ライフ』で活躍した黒人カメラマンを紹介する絵本。貧困や差別によって何度も希望を打ち砕かれそうになったゴードンは、逆境の中で貯めたお金で中古カメラを買い、人生を変えていく。カメラマンとしてだんだんに仕事が増えてきたある時、何を撮ってもいいと言われたゴードンは、差別を受けている側の人たちを次々に撮る。ビル清掃員のエラ・ワトソンが、アメリカの国旗とモップを背にほうきを持って立っている写真は、ゴードンの代表作のひとつだ。セピアを基調にした絵がいい。

原作:アメリカ/6歳から/カメラ、アメリカ、人種差別

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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『ダイエット幻想』表紙

ダイエット幻想~やせること、愛されること

『ダイエット幻想』(NF)をおすすめします。

やせるためのダイエット法はさまざまなものが喧伝されているが、本書は、それを非難したり批判したりするものではない。文化人類学者である著者は、女性が「やせた」とか「かわいい」とか思われたくてダイエットに励むという状況の裏側に何があるのかをさぐっていく。そこからは、女性に子どもっぽさを求める日本の社会、「選ばれる性」「愛される側」にとどまる女性、頭にためこんだ知識にとらわれて生きる力を失ってしまう現代人など、さまざまな問題点が浮き彫りになってくる。例も豊富でわかりやすい。

13歳から/ダイエット 愛 かわいさ 摂食障害

 

Diet Fantasies: Lose Weight, Be Loved

The world is full of diet methods that come and go. This book does not negate or critique them; rather, the author, a cultural anthropologist, considers why Japanese women are encouraged to diet, thinking that they want to “slim down” or “be cute.” What is behind this? Japanese society’s fixation on childlike women; the tendency to see women as passive, “chosen” (or not) or “loved” (or not); the loss of power to live when eating based on facts accumulated in one’s head. Many issues come up with plentiful examples, all presented in understandable text. (Sakuma)

  • text: Isono, Maho | illus. Harada, Arisa
  • Chikuma Shobo
  • 2019
  • 224 pages
  • 18×11
  • ISBN 9784480683618
  • Age 13 +

Diet, Love, Cuteness, Eating disorders

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『オランウータンに会いたい』表紙

オランウータンに会いたい

『オランウータンに会いたい』(NF)をおすすめします。

著者は、野生のオランウータンを調査・研究している学者。本書は、オランウータン研究者になった動機、ボルネオでの調査のやり方、オランウータンの生態、チンパンジーとは違う群れない生き方、絶滅の危機と私たちにできること、親子関係に見る人間やほかのサルとの違いといったことを、わかりやすい文章で伝えている。オランウータンについていろいろと知ることができるだけでなく、私たち日本人の暮らしとオランウータンが暮らす東南アジアの森が密接につながっていることにも目を向けさせてくれる。

11歳から/オランウータン ボルネオ ジャングル 絶滅危惧

 

I Want to Meet an Orangutan

Written by a Japanese scientist who studies wild orangutan, the text is very easy to follow. Readers learn what motivated the author to study orangutan, how she conducts fieldwork in Borneo, the ecology of orangutan, the fact that they are an endangered species, and what we can do to help them. The author also explores the differences between orangutan and chimpanzees, which live in groups, and differences in the parent-child relationships of orangutan as compared to humans and other ape species. Not only do we gain a deeper knowledge of orangutan, but we also learn how our own lifestyle is intricately connected to their habitat, the forests of southeast Asia. The author urges us to not only buy products that are good for us, but ones that are good for the environment of the whole planet. (Sakuma)

  • text: Kuze, Noko | illus. Akikusa, Ai
  • Akane Shobo
  • 2020
  • 188 pages
  • 22×16
  • ISBN 9784251073105
  • Age 11 +

Orangutan, Borneo, Jungle, Endangered species

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『わたしたちのカメムシずかん』表紙

わたしたちのカメムシずかん~やっかいものが宝ものになった話

『わたしたちのカメむしずかん』(NF絵本)をおすすめします。

カメムシは触ると臭いから嫌いという人も多い。ところが、この嫌われ者の虫に夢中になり、もっともっと知りたくなり、1年間に35種類も集めて自分たちでカメムシ図鑑まで作り、やがてカメムシは宝だと言うようになった子どもたちがいる。この絵本は、岩手県の山あいにある小さな小学校での実話に基づき、どうしてそんなことになったのかを楽しい絵とわかりやすい文章で紹介している。カメムシにはさまざまな種類があることもわかるし、カメムシはどうして臭いのか、どうして集まるのかについても、説明されている。

9歳から/カメムシ 図鑑 観察

 

Our Stink Bug Book

Stink bugs (shield bugs) are often seen as smelly pests, but in the town of Kuzumaki in northern Iwate prefecture, children got excited about them and wanted to know more. They gathered specimens of some 35 types over a year’s time, and they created an encyclopedia. Now they think the stink bugs are great! This picture book uses enjoyable illustrations and easy-to-understand text to tell us how the students’ project came about. The book also offers basic information about stink bugs, why they give off odors, and why they form groups. The backmatter offers space for readers to begin their own encyclopedias. (Sakuma)

  • text: Suzuki, Kaika | illus. Hata, Koshiro
  • Fukuinkan Shoten
  • 2020
  • 44 pages
  • 26×20
  • ISBN 9784834085525
  • Age 9 +

Stink bug, Encyclopedia, Observation

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『やとのいえ』表紙

やとのいえ

『やとのいえ』(NF絵本)をおすすめします。

石の十六羅漢さんが語るという体裁で、谷戸に建てられた一軒の農家と、それを取り巻く環境の、150年にわたる変化を伝えている絵本。水田や麦畑や林に囲まれていたかやぶき屋根の家は、今やモノレールやデパートやマンションやアパートに囲まれた瓦屋根の家に変わっている。農作業、子どもの遊び、お祭り、嫁入り、葬儀、開発の様子など人間の暮らしばかりでなく、ある時期までは野鳥や野生の動物も羅漢さんをしばしば訪れていたことも、ていねいな絵が伝えている。巻末には詳しい解説があって、モデルになった多摩丘陵の変遷もわかる。

9歳から/家 開発 都市化 十六羅漢

 

Yato Home

This picture book portrays 150 years in the life of a farmhouse in a yato area, with gently sloping hills and valleys. The book is narrated by stone statues of the sixteen arhats (disciples of the historical Buddha) that stand nearby. The farmhouse with thatched roof is first surrounded by rice paddies, fields, and forests; later, it becomes enclosed by a monorail, department store, and condominiums and apartment buildings. It is given a tiled roof. Planting and threshing processes, children’s play, festivals, weddings, funerals, and development are all depicted in detail. Until a certain period, wild birds and animals also visit the stone statues. The backmatter contains detailed explanations, including about the Tama Hills in southwest Tokyo/northeast Kanagawa, which served as the model for this book. (Sakuma)

  • text/illus. Yatsuo, Keiji | spv. Senni, Kei
  • Kaiseisha
  • 2020
  • 40 pages
  • 22×31
  • ISBN 9784034379004
  • Age 9 +

Home, Development, Urbanization, Sixteen arhats

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『虫のしわざ図鑑』表紙

虫のしわざ図鑑

『虫のしわざ図鑑』(NF)をおすすめします。

植物の葉や枝や実に、虫がかじった跡がないだろうか? 虫が生きるための活動の痕跡を本書では「虫のしわざ」と呼び、見た目から、あみあみ、かじかじ、すけすけ、てんてん、まきまきなど16種類に分類し、写真と文章で紹介している。たとえば葉に「あみあみ」模様を見つけたら、本書の写真と見くらべれば、何の虫が何をした跡かがわかる仕組み。また「しわざコレクション」として、卵や糞、脱け殻やクモの網などについてコラム風にまとめている。昆虫写真家ならではの、おもしろい切り口の図鑑。

9歳から/虫 葉 卵 糞

 

Enclopedia of Insect Signs and Works

Have insects left any chew marks on leaves, branches, or fruit near you? Have you seen eggs, nests, or galls? This book divides common signs of insect activity into sixteen fun types, such as “chew-through,” “see-through,” “wrap-wrap,” “tent,” and more, and presents the activity in photos and text. The book is made so that, for example, if children find a leaf with one of the designs shown, they can compare it to the book and find out which insect was at work. Objects such as eggs, dung, husks, spiderwebs, and cocoons are also introduced in column-like format. An encylopedia-picture book with a fresh approach, created by a specialist in insect photography. (Sakuma)

  • text/photos: Shinkai, Takashi
  • Shonen Shashin Shimbunsha
  • 2020
  • 160 pages
  • 21×19
  • ISBN 9784879816924
  • Age 9 +

Insects, Leaves, Eggs, Dung

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『タコとイカはどうちがう?』表紙

タコとイカはどうちがう?

『タコとイカはどうちがう?』(NF)をおすすめします。

食卓でもおなじみのタコとイカ。どちらも頭足類だけど、どこが似ていてどこが違うのだろう? この絵本では、両者がさまざまな角度から比較されている。足の数など見た目の違いから、獲物のとらえ方、スミの吐き方、すんでいる場所や活動の場所、敵から身を守る方法、体の色の変え方、子育ての仕方、赤ちゃんたちのサバイバル方法に至るまで、いろいろ比べて写真とイラストと文章で楽しく伝えている。長い腕をポケットにしまうイカがいるとか、タコは道をおぼえていて迷子にならないなど、びっくり知識も豊富。

9歳から/タコ イカ 海

 

What’s the Difference between Octopus and Squid?

Octopus and squid appear often on Japanese tables. Both are cephalopods (like heads on legs!) with soft bodies, but how are they different? This picture book compares them from several angles. From differences that we can see with our eyes (number of legs) to differences in how they catch prey and release ink, where they live, how they protect themselves from their enemies, how they change color, how they parent, and even how their babies survive, we get the full story in photos, illustrations, and text. Did you know that some squid can put their long arms in pockets? Or that an octopus can memorize routes and not get lost? Did you know that the squid and the octopus both have multiple hearts, big and small? Many surprising facts fill this book. (Sakuma)

  • text: Ikeda, Natsumi | photos: Minemizu, Ryo | spv. Sugimoto, Chikatoshi
  • Poplar
  • 2020
  • 32 pages
  • 22×29
  • ISBN 9784591163504
  • Age 9 +

Octopus, Squid, Ocean

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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長倉洋海『さがす』表紙

さがす

『さがす』(NF写真絵本)をおすすめします。

作者は、世界各地の子どもたちの写真を撮りながら、「人はなんのために生まれてきたのか」「自分の居場所はどこなのだろう」「生きる意味とは何なのだろう」と考え続けてきた。その答えを探して弾丸の飛び交うアフガニスタンやコソボ、極寒のグリーンランド、灼熱のアラビア半島など、さまざまな環境のなかでさまざまな生き方をしている人びとに出会ってきた。その旅路の果てに、「さがしていたものは、いま、自分の手の中にある」と語る。心にひびく写真と言葉を味わいながら、読者も一緒に考えることができる写真絵本。

9歳から/世界 幸せ 生きる意味

 

Search

Photojournalist Nagakura has taken photos of children the world over while asking, “Why were humans born?” “Where do we belong?” “What is the meaning in living?” He has asked these questions in places where bullets fly, such as Afghanistan and Kosovo; in a refugee camp in El Salvador; in Greenland with its extreme cold; and on the Arabian Peninsula with its scorching heat. He has met all kinds of people living in different ways in contrasting environments. Now, Nagakura says, what he was searching for is in his own hands. This picture book invites us to experience touching photos and text and to think together with the author. (Sakuma)

  • text/photos: Nagakura, Hiromi
  • Alice-kan
  • 2020
  • 40 pages
  • 26×20
  • ISBN 9784752009375
  • Age 9 +

World, Happiness, Meaning in life

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

 

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『恐竜学』表紙

恐竜学

『恐竜学』(NF)をおすすめします。

最新の情報に基づいて、恐竜のことを子どもたちにわかりやすく解説した本。まず地球の歴史と恐竜の関係について述べ、子どもたちに人気のティラノサウルスはどんな恐竜だったのかを描写し、化石からわかる恐竜同士の対決について語り、最新の恐竜研究でわかったことを説明し、鳥類と恐竜の関係や比較、恐竜が大量絶滅した原因などをさぐっていく。講演会の時などによく出る質問に真鍋博士が答える章も設けられている。絵や写真がふんだんにあって興味をひくし、子ども目線で本づくりされているのがいい。

9歳から/恐竜 化石 絶滅 地球

 

Science of Dinosaurs

Based on the latest information, the author, a paleontologist explains dinosaurs to children in an accessible way. The book begins with the history of the planet Earth and dinosaurs, then describes what Tyrannosaurus, a dinosaur popular with children, were like, what fossils can tell us about confrontations between Tyrannosaurus and other dinosaurs such as Triceratops, and what has been discovered through the most recent paleontological research. The author explores the relationship between birds and dinosaurs, comparing them, and also the reasons for the extinction of dinosaurs. One chapter is devoted to Dr. Manabe’s answers to questions he is frequently asked at events and lectures, such as how paleontology can be useful. The book is well-designed for children with illustrations and photos on every page to draw the eye and excite curiosity. (Sakuma)

  • text: Manabe, Makoto
  • Gakken Plus
  • 2020
  • 200 pages
  • 19×13
  • ISBN 9784052051852
  • Age 9 +

Dinosaurs, Fossils, Extinction, Earth

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『りんごだんだん』表紙

りんごだんだん

『りんごだんだん』(NF写真絵本)をおすすめします。

最初は、ぴかぴかでつやつやの赤いリンゴの写真に、「りんご つるつる」という言葉がついている。その同じリンゴが、少しずつ変わっていき、しわしわになり、ぱんぱんになり、しなしなになり、ぐんにゃりとなり、やがて哀れな姿に。作者が1年近くの間リンゴを観察して記録した写真絵本。それぞれの写真には、ごく短い言葉がついているだけだが、生きているものは時間とともに否応なく変化していくこと、そして、それを糧にしてまた次の命が育っていくことなどが、リアルな写真から伝わってくる。

3歳から/リンゴ 腐敗 変化 命

 

Apple, Bit by Bit

A photo of a bright red apple appears with the text “Smooth Apple.” The same apple changes little by little over time, becoming wrinkly, swollen, soft, limp, and then bug-eaten. But is that the end? The author observed and photographed the same apple for about a year to create this picture book. Each photo has only brief words with no explanations, but the idea that all living things change, ultimately becoming nourishment for future life, comes across in the realistic photos. (Sakuma)

  • text/photos: Ogawa, Tadahiro
  • Asunaro Shobo
  • 2020
  • 36 pages
  • 20×21
  • ISBN 9784751529614
  • Age 3 +

Apple, Decay, Change, Life

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『虫ぎらいはなおるかな?』表紙

虫ぎらいは なおるかな?〜昆虫の達人に教えを乞う

『虫ぎらいは なおるかな?』(NF)をおすすめします。

チョウやセミにさえさわれないほど虫嫌いの著者が、それをなんとか克服しようと7 人の専門家に会いに行った記録。会ったのは、虫と子どもの関係を調査している教育学者、昆虫館の館長、生きもの観察や野遊びの達人、虫オブジェを制作しているアーティスト、害虫研究家、「こわい」の心理を研究する認知科学者、多摩動物公園の昆虫飼育員。著者の奮闘ぶりはほほえましいが、虫好きの人が熱く語れば語るほど引いてしまう場面などがユーモラスで、おもしろく読める。イラストも楽しい。

13歳から/昆虫 好き嫌い インタビュー

 

Learning to Love Bugs from the Experts

The author hates bugs, even butterflies and cicadas. In this book, she records her encounters with seven bug experts she visits in an attempt to overcome her aversion. She meets an expert in the field of education who is studying the relationship between children and bugs, the director of a bug museum, an expert on wildlife observation and outdoor play, an artist who makes clay bug objects, a scientist researching harmful insects, a cognitive scientist studying the psychology of fear, and a bug keeper at the Tama Zoo. With a humorous touch, the author describes how the experts’ enthusiasm sometimes has the opposite effect, turning her off bugs even further. Her persistent efforts to like bugs are endearing, and the illustrations make this a fun read. (Sakuma)

  • Text/Illus. Kanai, Maki
  • Rironsha
  • 2019
  • 160 pages
  • 19×13
  • ISBN 9784652203095
  • Age 13 +

Bugs, Likes and dislikes

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『ギヴ・ミー・ア・チャンス』表紙

ギヴ・ミー・ア・チャンス〜犬と少年の 再出発

『ギヴ・ミー・ア・チャンス』(NF)をおすすめします。

2014 年、千葉県の八街少年院で、少年たちに保護犬を訓練してもらうプログラムが始まった。第1 期に参加する少年は3 名。捨てられたり手放されたりして保護された犬が3 匹。犬と少年は1 対1のペアになって3 か月の間授業を受け、一般家庭に犬を引き渡すための訓練を行う。本書は、その訓練の日々に密着し、犬と少年の間に信頼感が芽生え、心が通い合い、両者ともに変わっていく様子をいきいきと伝えている。犬の表情をうまくとらえた写真と、抑制のきいた文章が心にひびく。

13歳から/少年院 犬 訓練

 

Give Me a Chance

ーA Fresh Start for Dogs and Boys

In 2014, a program was started at Yachimata Reformatory in Chiba prefecture to have young inmates train rescued dogs. Three boys joined the program in the first phase, and were paired up with three abandoned dogs from a shelter. The program lasted for three months during which time the dogs were trained in order to be rehomed with ordinary families. This book closely documents the day to day process, vividly demonstrating how a sense of trust developed between the neglected or abused dogs and the delinquent juveniles as they began to understand each other, and together they began to change. Readers will be deeply moved by the photos capturing the dogs’ facial expressions and the neutral written account. (Sakuma)

  • Otsuka, Atsuko
  • Kodansha
  • 2018
  • 208 pages
  • 20×14
  • ISBN 9784065130001
  • Age 13 +

Juvenile reformatory, Dogs, Training

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『ヒロシマ消えた家族』表紙

ヒロシマ 消えたかぞく

『ヒロシマ 消えたかぞく』(NF写真絵本)をおすすめします。

広島に暮らしていたある一家の記録を、一家の父親が撮りためていた写真をもとに構成し、日本語と英語の文章をつけている。理髪師の鈴木六郎は、妻の笑顔、子どもたちが元気で遊ぶようす、飼っていたネコや犬の何気ないしぐさなど、日常生活のひとこまひとこまを愛情たっぷりに撮影していた。しかし1945 年8月6日、原爆が広島を襲うと、一家全員の命がぷつっと絶たれる。作者は広島平和記念資料館でこれらの写真に出会って、一家をよみがえらせる一冊の作品にしあげた。いのちや平和について考えるきっかけになる写真絵本。

9歳から/広島 原爆 写真 家族

 

A Family in Hiroshima

ーTheir Vanished Dreams

Rokuro Suzuki, a barber who lived in Hiroshima, recorded the life of his family in photos near the end of World War II. Each photo captured their daily life with a loving touch: the smiling face of Suzuki’s wife, the laughter on his children’s faces as they played, and the innocent antics of their pet cats and dogs. On August 6, 1945, the entire family was wiped out by the atom bomb that fell on Hiroshima. When author Kazu Sashida first saw their photos in the Hiroshima Peace Museum, she was intrigued. Based on the photos and interviews with Suzuki’s relatives who saved the photos, Sashida brings the Suzuki family back to life. Suzuki’s photos and Sashida’s text, which is written in both Japanese and English, inspires readers to ponder such themes as life and peace. (Sakuma)

  • Text: Sashida, Kazu | Photos: Suzuki, Rokuro
  • Poplar
  • 2019
  • 40 pages
  • 23×23
  • ISBN 9784591163139
  • Age 9 +

Hiroshima, Atomic bomb

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『つらら』表紙

つらら〜みずと さむさと ちきゅうの ちから

『つらら』(NF写真絵本)をおすすめします。

つららの不思議に迫る写真絵本。寒い冬に見られるつららは、どんな場所にどうやってできるのか、どうして長くなるのか、どんなふうに姿を変えていくのかを、美しい写真を使ってわかりやすく説明している。春になっても探せばつららが見られることや、一年じゅうつららが見られる洞窟の存在や、地面から生えたタケノコのような氷があることも伝えている。巻末には、冷蔵庫でつららを作る実験を紹介し、タルヒ、スガなど日本各地からつららを指す言葉を集めて地図とともに掲載している。

6歳から/つらら 冬 方言

 

Icicles

ーWater, Cold, and the Power of the Earth

This picture book introduces the icicles we often see in a cold winter through stunning photographs. How are they formed? Why do they grow so long? Their changes in appearance are explained in simple terms using beautiful photographs. Readers are informed that there are places where we can still see icicles in spring, caves where they can be seen all year round, and sometimes ice sprouts up from the ground like bamboo shoots. There are several appendices, including instructions on how to conduct an experiment to grow icicles in the refrigerator using familiar items such as cup noodle containers, and a map showing the various names for icicles in different dialects around Japan. (Sakuma)

  • Text: Ijichi, Eishin | Photos: Hosojima, Masayo
  • Poplar
  • 2019
  • 36 pages
  • 21×26
  • ISBN 9784591161074
  • Age 6 +

Icicles, Winter

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

 

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『お正月がやってくる』表紙

お正月がやってくる

『お正月がやってくる』(NF絵本)をおすすめします。

都会に住むなおこさん一家三世代の、歳末から新年までのさまざまな習慣をわかりやすく描いている。年の瀬になると、なおこさんたちは酉の市に出かけて熊手を買う。浅草のガサ市で買った材料を使って玉飾りや招福飾りを作り、門松やしめ縄と一緒に近所の人に売る。それが終わると大掃除をして、おせち料理を作り、大晦日には年越しそばを食べて新年を迎える。家族の仕事は工務店だが、お正月には獅子舞もしながら近所を回る。都会での年越しや正月の伝統が楽しくわかる作品。

6歳から/正月 年越し 獅子舞

 

It’s New Year!

This picture book portrays traditional Japanese New Year customs. The protagonist is Naoko, who lives in a modern city where her husband manages a construction firm. As the year draws to a close, they buy a special lucky rake from a shrine fair, and then some materials for New Year decorations at Asakusa’s Gasa-ichi fair. They use these materials to make traditional decorations, which they sell to local people. When they’ve finished that, their family thoroughly cleans their house from top to bottom, she prepares the special New Year’s food, and on New Year’s Eve they eat buckwheat noodles as they see in the New Year. And once the New Year has started, in order to chase out bad luck, Naoko’s husband and others put on the Lion Mask and dance to the accompaniment of drums and flutes as they go around the neighbourhood wishing everyone a Happy New Year. (Sakuma)

  • Text/Illus. Akiyama, Tomoko
  • Poplar
  • 2018
  • 32 pages
  • 24×27
  • ISBN 9784591160657
  • Age 6 +

New Year, New Year’s Eve, Lion dance

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『世界を救うパンの缶詰』表紙

世界を救うパンの缶詰

『世界を救うパンの缶詰』(NF)をおすすめします。

パン職人の秋元義彦さんは、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、固い乾パンではなく、幼い子どもや老人でも食べられるパンの缶詰を作ろうと考え、さまざまな工夫や改良を重ね、試行錯誤をくり返したのちにとうとう完成させる。次に秋元さんは、賞味期限が近づいたパン缶を回収して、海外の被災地や飢餓地帯に送ることを思いつく。アイデアをひとつひとつ具体的に実現させてきたひとりの職人の考え方や、やり方を伝える感動的な読み物。

11歳から/パン 缶詰 職人 夢の実現

 

Saving the World With Canned Bread

This book is about a baker called Yoshihiko Akimoto. When the Kobe earthquake happened in 1995 and there was a need for nonperishable food, Mr. Akimoto hit upon the idea of canning bread that so that it would be soft enough for children and the elderly to eat. After trying many techniques and improvements, and much trial and error, he finally succeeded. Next Mr. Akimoto decided to recall unused canned bread that was approaching its expiry date, and send it to disaster and famine areas around the world through NGOs. This is a moving book about how one artisan dreamed of building a business that would benefit not just his local area but the world at large, and took the necessary steps to make his dream come true. (Sakuma)

  • Text: Suga, Seiko | Illus. Yamashita, Kohei
  • Holp Shuppan
  • 2017
  • 156 pages
  • 20×15
  • ISBN 978-4-593-53523-1
  • Age 11 +

Bread, Canned food, Artisans, Dreams

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『しあわせの牛乳』表紙

しあわせの牛乳〜牛もしあわせ!おれもしあわせ!

『しあわせの牛乳』(NF)をおすすめします。

岩手県の「なかほら牧場」では、115-19年中放牧されている牛が無農薬の野シバを食べ、自然に子どもを産み、山林と共生している。人間は子牛の飲み残した牛乳をもらう。牛の健康を犠牲にして効率を重視する「近代酪農」がほとんどのなか、経営者の中洞さんは、「しあわせに暮らす牛から、すこやかでおいしい牛乳を分けてもらうほうが、みんなうれしい」と信じ、困難を乗り越えて山地酪農の道を切りひらいた。信念を貫くすがすがしい生き方が感動的。

11歳から/牧場 牛乳 アニマル・ウェルフェア

 

Milk of Happiness

Japan’s first dairy farm to be animal welfare-certified is Nakahora Farm in Iwate Prefecture. This book tells of Mr. Nakahora’s struggles to reach this point. In his dairy operation, cows are let out to pasture year-round. They eat pesticide-free wild grasses, birth their calves naturally, and live in harmony with the mountains and the woods. People receive the milk left over from nursing their calves. In an age when “modern” methods call for sacrificing cows’ health to raise efficiency, Mr. Nakahora believes that “even if we cannot drink milk every day, it is better to receive rich, tasty milk from cows living happy lives. That makes everyone happy!” The way he lives out his ideals is very moving. (Sakuma)

  • Text: Sato,Kei | Photos: Yasuda, Natsuki
  • Poplar
  • 2018
  • 175 pages
  • 20×14
  • ISBN 978-4-591-15813-5
  • Age 11 +

Ranching, Milk, Animal welfare

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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谷山彩子『文様えほん』

文様えほん

『文様えほん』(NF絵本)をおすすめします。

文様とは、「着るものや日用品、建物などを飾りつけるために描かれた模様」とのこと。文様は、縄文時代から土器や人形に描かれていたし、現代でもラーメン鉢や衣服に描かれている。文様のモチーフは、植物、動物、天体や自然などさまざまだし、線や図形を組みあわせた幾何学文様もある。本書は、こうした多種多様な文様を紹介するだけでなく、地図で世界各地の文様の違いや伝播を見せてくれる。文様について楽しく学べる絵本。巻末に文様用語集や豆知識もついている。

10歳から/模様 パターン 日本の伝統

 

The Pattern Picture Book

Patterns are the designs created to decorate clothes, articles in daily use, buildings, and so forth. In Japan, spatulas, bamboo sticks, shells, and nails have all been used to pattern pots and figurines since the Jomon period, and these days ramen bowls and clothes too. This book not only introduces Japanese patterns using various motifs of plants, animals, celestial bodies and nature, and geometrical patterns combining lines and figures, but it also includes a map to show differences with other patterns around the world and how some patterns of one region have spread to others. Along with illustrations, the book also includes a glossary of terms and useful information for readers to enjoy learning about the patterns. (Sakuma)

  • Text/Illus. Taniyama, Ayako
  • Asunaro Shobo
  • 2017
  • 48 pages
  • 21×22
  • ISBN 978-4-7515-2828-0
  • Age 10 +

Patterns, Motifs, Japanese tradition

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『デニムさん』表紙

デニムさん〜気仙沼・オイカワデニムが作る 復興のジーンズ

『デニムさん』(NF)をおすすめします。

東日本大震災からの復興を、縫製会社の社長・及川秀子さんの姿を通して描いた読み物。今は、高い技術で世界的に知られる「オイカワデニム」だが、夫の死や経済不況を乗り越えてようやく軌道に乗せたと思ったら、倉庫や自宅が大津波にさらわれてしまう。及川さんは高台にあった工場を臨時の避難所にし、その後も新たなアイデアを生かして復興の先頭に立ってきた。どんな時にも明るさを失わない及川さんに心を寄せながら震災を振り返ることができる。

10歳から/震災からの復興 女性 衣服

 

Ms. Denim

ーThe Jeans Produced by Oikawa Denim as a Symbol of Recovery

The city of Kesennuma, Miyagi Prefecture, sus- tained devastating loss in the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami, as well as the terrible fire that followed. This book depicts the disaster and recovery through the eyes of a woman, Hideko Oikawa. Just when she had managed to get her jeans manufacturing business on course after losing her husband and going through a recession, the quake struck. She lost her warehouse and her house in the subsequent tsunami. Oikawa turned her factory into an evacuation site and became a leader in the recovery effort. Her new ideas and the resilience of Tohoku people have made Oikawa Denim an internationally respected brand. (Sakuma)

  • Text: Imazeki, Nobuko
  • Kosei Shuppansha
  • 2018
  • 128 pages
  • 22×16
  • ISBN 978-4-333-02780-4
  • Age 10 +

Earthquake recovery, Women, Apparel

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『まなぶ』表紙

まなぶ

『まなぶ』(NF 写真絵本)をおすすめします。

キューバ、アフガニスタン、ミクロネシア、アンゴラ、ウズベキスタン、スリランカ、そして日本など、世界各地の子どもや若者たちが、学校や家や高原や旅先で学んでいる姿をすばらしい写真で紹介し、「学ぶ」ことにはどんな意味があり、「学ぶ」ことでどんなふうに世界が開け、「学ぶ」ことで何が受け継がれ、「学ぶ」ことがいかに平和につながっていくかを伝えている。子どもたちの真剣な表情と、未来を見つめている笑顔が印象的。同じシリーズに『はたらく』と『いのる』がある。

6歳から/学習 学校 文化

 

Learning

This photo picture book includes striking photos of children and young adults from Japan, Cuba, Afghanistan, Micronesia, Angora, Uzbekistan, Sri Lanka, Cambodia and other places around the world as they learn, both at school and at home, on the high plains and while travelling. Through them we can see what it means to learn, how the world opens up when we learn, what we inherit when we learn, and how learning is linked to peace. It is hard to forget the serious faces of the children, and their smiling faces as they look to the future. The same photo book series includes the titles Working and Praying (published 2017). (Sakuma)

  • Text/Photos: Nagakura, Hiromi
  • Alice-kan
  • 2018
  • 40 pages
  • 26×20
  • ISBN 978-4-7520-0843-9
  • Age 6 +

Study, School, Culture

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『犬が来る病院』表紙

犬が来る病院〜命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと

『犬が来る病院』(NF)をおすすめします。

聖路加国際病院の小児病棟の子どもたちを3年半にわたって取材したドキュメンタリー。日本で初めて小児病棟にセラピー犬を受け入れたこの病院で、犬の訪問活動はどうやって始まったのか、子どもたちの反応はどうだったのか、子どもたちが豊かな時間を過ごすための配慮がどう行われていたか、多くのスタッフがどう連携してトータルケアをめざしたのかなどについて述べられている。4人の子どもたちとその家族が、それぞれ病に直面して歩んだ軌跡も感動的。

12歳から/犬 セラピー 病院

 

The Hospital Where Dogs Visit

ーWhat the Children in Touch with Life Taught Us

A documentary book following children in the pediatric unit at Saint Luke’s International Hospital in Tokyo. Saint Luke’s is the first hospital in Japan to admit therapy dogs into the pediatric unit. The book looks at topics like how the visits by dogs started, how the children reacted, how care was taken to make the children’s time in hospital rich, and how many staff cooperated in the aim for total care. The book gives a moving account of four children (two passed away; two left hospital to find their own paths in life) and their families, whose progress they tracked as they dealt with their illnesses. (Sakuma)

  • Text: Otsuka, Atsuko
  • KADOKAWA
  • 2016
  • 224 pages
  • 19×13
  • ISBN 9784041035085
  • Age 12 +

Therapy dogs, Hospital, Children

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『金さえあればいい?』表紙

お金さえあればいい?〜大人は知らない子どもは知りたい! 子どもと考える経済のはなし

『お金さえあればいい?』(NF)をおすすめします。

とてもわかりやすい文章とユーモアたっぷりのイラストで、お金や経済について学ぶ本。お金はなんのためにあるの? 経済とは本来どんなものなの? 今の日本経済に警鐘を鳴らす著者は、本当の経済は人と人が出会う場をつくるもので、そこからは幸せが生まれてこなくてはいけないという。利益ばかりを追い求めるような偽の経済活動を賢く見ぬいて、お金にふりまわされないで幸せになるためにはどうしたらいいか。それを本書は伝えている。

11歳から/経済 社会 お金 幸せ

 

All We Need Is Money?

ーA Tale of Economics to Think about with Young People

In easily understood language supported by humorous illustrations, this book teaches us about money and economics. What is the purpose of money? What is economics? The author, Noriko Hama, is a famous economist. She explains that true economics should be about creating spaces in which people can come together and that generate happiness. Unfortunately, economic activity today is increasingly focused on the pursuit of profit. She teaches how to discern such “false” economics and live a life that is not controlled by money and that will bring us happiness. (Sakuma)

  • Text: Hama, Noriko | Illus. Takabatake, Jun
  • Crayon House
  • 2017
  • 64 pages
  • 21×15
  • ISBN 9784861013195
  • Age 11 +

Money, Happiness, Economics

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『円周率の謎を追う』表紙

円周率の謎を追う〜江戸の天才数学者・関孝和の挑戦

『円周率の謎を追う〜江戸の天才数学者・関孝和の挑戦』(NF)をおすすめします。

関孝和の一生を、円周率を探る研究を核にして描いている。私たちが約3.14と学校で習う円周率も、関が学び始めた頃は3.16とされていた。それに疑問を感じて追求しようとする過程や、漢文から思いついて数式を表す方法を編み出すところなどがスリルに富んだ推理小説のように描かれている。同時に、この数学者が何かを一途に追求し消えない炎を持ち続けていたひとりの人間として浮かび上がってくるので、読み物としてもおもしろい。さまざまな文献を研究して書いた労作。

11歳から/数学 歴史 江戸時代 円周率 関孝和

 

Solving the Mystery of Pi

ーThe Genius Mathematician of Edo, Seki Takakazu

Portrays the life of Seki Takakazu, the master of Japanese mathematics known as wasan, with particular focus on his research on pi. We learn at school that pi is about 3.14, but when Seki started his studies it was thought to be 3.16. The process of working through the doubts he felt about this until he was convinced, and the way he devised a method to express numerical formulae based on Chinese kanbun writing is as thrilling as a mystery novel. This mathematician emerges as one human being who single-mindedly pursued something with unextinguished passion. Based on thorough research. (Sakuma)

  • Text: Narumi, Fu | Illus. Ino, Takayuki
  • Kumon Shuppan
  • 2016
  • 208 pages
  • 19×14
  • ISBN 9784774325521
  • Age 11 +

Mathematics, Edo period (1603-1868), Pi

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『世界中からいただきます!』表紙

世界中からいただきます!

『世界中からいただきます!』(NF)をおすすめします。

世界各地の普通の家に居候して、家族の素顔や、いつもの暮らしを見せてもらい、普通の食事を食べさせてもらう。そういうふうにして集めたモンゴル、カンボジア、タイ、ハンガリー、イエメン、モロッコなど14カ国の17家族の生き方が、食を中心に写真とともに紹介されている。楽しいレイアウトのおかげで、日本の読者にも親しみやすく読みやすくなっている。コラムでは、世界の主食や屋台やトイレ、日本から持っていって喜ばれたお土産なども紹介されている。

9歳から/ごはん 台所 料理 異文化理解

 

Eating the Globe!

A writer and photographer travel all over the world, staying in ordinary homes and observing families going about their daily lives, and eating the same food as their hosts. They introduce us to the food and lifestyles of seventeen families in fourteen countries, from Mongolia, Cambodia, and Thailand, to Hungary, Yemen, and Morocco. The fun layout features many photos of children preparing and eating food, making it approachable for young readers everywhere. We also learn about staple foods around the world, street stalls, and toilets, as well as what kind of Japanese souvenirs are most appreciated by the host families. (Sakuma)

  • Text: Nakayama, Shigeo | Photos: Sakaguchi, Katsumi
  • Kaiseisha
  • 2016
  • 128 pages
  • 21×18
  • ISBN 9784036450602
  • Age 9 +

Food, Kitchens, Cooking

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『干したから・・・』表紙

干したから・・・

『干したから・・・』(NF絵本)をおすすめします。

食を追求してきたカメラマンがつくった写真絵本。世界各地で見つけた乾燥食品を写真で示しながら、干すことによる食品の変化や、干すことの意味や目的を、わかりやすく説いている。野菜や果物や魚や肉や乳製品は、干すと水分がぬけて腐りにくくなり保存がきくようになるのだが、そこに子どもが興味をもてるよう構成や表現が工夫されている。めざし、梅干しなど乾燥食品を使った日本の典型的な食事や、野菜の簡単な干し方も紹介されている。

7歳から/食べ物 干物 自然 知恵

 

See What Happens When You Dry It Up

This is a picture book by a photographer on the theme of food. The author uses photos of dried foods found in many parts of the world to explain the changes that occur when foods are dried and the meaning and purpose of drying food. Drying removes the liquid from vegetables, fruits, fish, meat and milk products, preserving them so that they don’t go rotten, and the author use photos and text in ingenious ways to excite the reader’s curiosity and make this process easier to understand. The short appendix introduces examples of dried foods used in traditional Japanese cuisine and methods for drying vegetables and other foods that can be done at home. (Sakuma)

  • Text/Photos: Morieda, Takashi
  • Froebel-kan
  • 2016
  • 34 pages
  • 22×27
  • ISBN 9784577043714
  • Age 7 +

Food, Dried fish, Practical wisdom

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『わたり鳥』表紙

わたり鳥

『わたり鳥』(NF絵本)をおすすめします。

世界のわたり鳥113種の旅を描いたノンフィクション絵本。なぜ長距離を移動するのか、どんなルートがあるのか、どんなところにどんな巣をつくるのか、渡りの途中でどんな危険に遭遇するのか、何をたよりに移動するのかなどを、子どもにもわかる文章と興味深い絵で説明している。巻末には、本書に登場するわたり鳥44種それぞれの大きさや姿、巣の大きさ、卵の色や形、渡りのルート、繁殖地と冬期滞在地などを紹介する一覧と、「世界のわたり鳥地図」も掲載している。

5歳から/渡り鳥、環境

 

Migratory Birds

This non-fiction picture book describes the journey of migratory birds from around the world. An astounding number of birds travel long distances every year in search of food and a safe place to lay their eggs and raise their young. What routes do they travel? What kind of nests do they build and where? What dangers do they face on their journey? How do they find their way? The author, who is an expert on birds answers such questions as these in words and illustrations that children can easily grasp. (Sakuma)

  • Text/Illus. Suzuki, Mamoru
  • Doshinsha
  • 2017
  • 40 pages
  • 26×26
  • ISBN 9784494010004
  • Age 5 +

Migratory birds, Environment

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『ニッキーとヴィエラ』表紙

ニッキーとヴィエラ〜ホロコーストの静かな英雄と救われた少女

『ニッキーとヴィエラ』をおすすめします。

第2次世界大戦直前、迫り来るナチスの魔手から子どもを救おうとした人たちがいた。イギリス人のニッキーもそのひとり。旧チェコスロバキアにいたユダヤ人の子どもを列車でイギリスへ逃がすために奔走した。10歳の少女ヴィエラは、家族と別れて列車に乗った669人のひとり。終戦後ニッキーは、自らの功績を語ることなく静かに暮らしていたが、2人は後に再会する。チェコで生まれ、自由を求めてアメリカに移住した作者は、これまでダーウィン、ガリレオなど勇気ある偉人について描いてきたが、今回は、良心に従って行動したほぼ無名の人物を取り上げてノンフィクション絵本に仕上げた。絵が語るものをじっくり見ていく楽しさもあるし、今の時代にも重なる。
小学校中学年から

(朝日新聞「子どもの本棚」2022年03月26日掲載)

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やさいをそだてよう

無農薬で生態系を大事にしながら野菜を作る,子供のための園芸書。生命をいつくしみ,身の回りの環境に目を向ける力を養います。 (日本児童図書出版協会)

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おいしいものつくろう

料理は初めてという小さなお子さまにもかんたんに作れます。火も包丁も使わないおやつやジュースまで。 (日本児童図書出版協会)

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ウィルソン文 市川里美絵『メリークリスマス』さくまゆみこ訳 冨山房

メリークリスマス 〜 世界の子どものクリスマス

子どもたちが心待ちにしているクリスマスって一体何なのでしょう? 他の国では,どんなお祝いをしているのでしょう? (日本児童図書出版協会)

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『スティーブン・ホーキング』(化学同人)表紙

スティーブン・ホーキング〜ブラックホールの謎に挑んだ科学者の物語

好奇心をもつことに焦点を当てた伝記絵本。体の自由が失われていっても、「どうして?」「なぜ?」と問いつづけた宇宙物理学者の誕生から死までを、すてきな絵と簡潔な文章で描いています。絵がとてもおもしろいです。

先日JBBYの「ノンフィクションの子どもの本を考える会」では、最近出版されている伝記について話し合いました。

かつては子どものための偉人伝がたくさん出て、よく売れていました。そのほとんどは偉さや、人並みはずれた頑張りや、克己心などを描いたものでした。なので、私はどうしても「わざとらしい」と思ってしまっていました。最近の伝記は少し違ってきているように思います(日本では旧態然とした偉人伝がまだたくさん出ていますが)。いわゆる「偉人」ではない人にも焦点を当てた伝記が出るようになりました。それに、偉さではなく弱点ももった人間として描こうとするようになってきたと思います。

ホーキングは「偉人」ではありますが、この絵本では、好奇心を中心にすえ、ホーキングのユーモアやお茶目な側面も描いています。そういう意味では「新しい伝記」の一冊かもしれません。

同名の伝記絵本を私はもう一冊約していて、それはこちらです。

(編集:浅井歩さん 装丁:吉田考宏さん)

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『スティーブン・ホーキング』(ほるぷ)表紙

スティーブン・ホーキング

小学校低学年から読めるようにと工夫された伝記絵本で、車椅子の宇宙物理学者として有名なホーキング博士の子ども時代から、難病にかかって絶望の縁においつめられたこと、そこから気を取り直して好奇心旺盛に何にでも挑戦するようになっていったこと、そして現代で最もすぐれた宇宙物理学者になったところまでを、親しみやすい絵で描いています。

このシリーズのコンセプトは、幼い頃に抱いた夢がどんなふうに将来につながっていったかを絵本で表現するということ。ほかには、マザー・テレサ(なかがわちひろ訳)、オードリー・ヘップバーン(三辺律子訳)、ココ・シャネル(実川元子訳)、キング牧師(原田勝訳)、マリー・キュリー(河野万里子訳)、ガンディー(竹中千春訳)、リンドグレーン(菱木晃子訳)、エメリン・パンクハースト(上野千鶴子訳)、マリア・モンテッソーリ(清水玲奈訳)があり、小学校の図書館に入れたらよさそうです。

本の翻訳は、つながっていることがあって、「ホーキング博士のスペースアドベンチャー」シリーズ(岩崎書店)を翻訳したことから、ホーキングの伝記絵本の翻訳依頼をいただいたのですが、ホーキングさんの伝記はもう1冊(『スティーブン・ホーキング〜ブラックホールの謎に挑んだ科学者の物語』キャスリーン・クラル&ポール・ブルワー文 ボリス・クリコフ絵 化学同人 2021.06)を訳しています。
(編集:細江幸世さん 装丁:森枝雄司さん)
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『やとのいえ』表紙

やとのいえ

『やとのいえ』をおすすめします。

多摩丘陵の谷戸に建てられた一軒のかやぶき屋根の農家と、その周辺の環境の変化を見つめた絵本。1868年から約150年間の変遷を、ていねいな絵とわかりやすい文章で表現している。最初は、この農家の周辺は雑木林や畑や田んぼで、人々は農業や炭焼き、養蚕やカゴ作りなどをして暮らしている。子どもたちは空き地や川で遊び、家畜ばかりでなく野生の生き物とも触れあっている。ところが、1970年代に入ると開発の波が押し寄せ、あっという間に森林が伐採され、舗装道路や団地や分譲住宅ができ、鉄道やモノレールが通る。やがて古くなったこの農家も壊されて、瓦屋根の住宅に建て替えられる。

環境の変化の歴史と同時に、季節ごとの農作業、婚礼や葬儀、お祭りなども描かれ、その時々の人々の暮らしぶりもわかる。変化していくものとは対照的に、この家の庭の隅にはずっと変わらず石造りの十六羅漢さんが置かれているのもおもしろい。

巻末にはそれぞれの場面に描かれているものについての詳細な説明があり、絵と対比しながら読むとまた新たな発見がある。

(産経新聞「産経児童出版文化賞:大賞講評」2021年5月5日掲載)

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『この世界からサイがいなくなってしまう』表紙

この世界からサイがいなくなってしまう〜アフリカでサイを守る人たち

『この世界からサイがいなくなってしまう〜アフリカでサイを守る人たち』をおすすめします。

私はケニアの自然公園で、銃を持ったレンジャーがサイのグループから少し距離を保ってついて回っているのを見たことがある。密猟で角がねらわれるサイは、あと20年で絶滅してしまうかもしれないという。だから守る方も必死なのだ。本書は、南アフリカの人々がどんなふうにサイを保護しようとしているか、孤児になったサイの子どもたちをどう育てているか、なぜ密猟者がはびこるのか、女性だけのレンジャー隊の活躍ぶりなどを、生き生きとした文章でわかりやすく伝え、地球は人間だけのものではないこと、さまざまな種が支え合って生きていることに目を向けさせてくれる。アフリカを知るうえでも、おもしろく読めるノンフィクション。
小学4年生から。

(朝日新聞「子どもの本棚」2021年8月28日掲載)

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ホーキング『宇宙への扉をあけよう』(さくま訳)の表紙

宇宙への扉をあけよう(ホーキング博士の宇宙ノンフィクション)

この本は、これまでに出ていたシリーズ6巻分の科学コラムやエッセイを集めて加筆し、新たなエッセイも加えて作られたものです。このシリーズの本当の最終刊、だと思います。ブラックホールなど最新の画像も入っています。

オビに言葉を寄せてくれた村木風海さんは、小学校4年生のときにおじいさんに『宇宙への秘密の鍵』をもらい、それをきっかけにサイエンティストになったのだそうです。そうか、もうそんなに長いことこのシリーズは続いているのか、と感慨深いものがあります。

原著の細かいところにいろいろ間違いがあり、佐藤先生にうかがいながらチェックしていきました。製本は、本の開きがとてもいいコデックス装になっています。

(編集:松岡由紀さん 装丁:坂川事務所)

 

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『わたしたちのカメムシずかん』表紙

わたしたちのカメムシずかん

『わたしたちのカメムシずかん』をおすすめします。

カメムシは触ると臭い、だから嫌いという人も多い。この嫌われ者の虫に夢中になり、もっと知りたくなり、自分たちでカメムシ図鑑まで作り、やがてカメムシは宝だと言うようになった子どもたちがいる。どうしてそんなことになったのかを楽しく描いたのが、このノンフィクション絵本。カメムシはどうして臭いのか、どうして集まるのかについても、わかるよ。(小学校中学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2020年7月25日掲載)

キーワード:ノンフィクション、虫、学校

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『虫ぎらいはなおるかな?』表紙

虫ぎらいはなおるかな?〜昆虫の達人に教えを乞う

『虫ぎらいはなおるかな?〜昆虫の達人に教えを乞う』をおすすめします。

私は、虫はオーケーなほうだ。ダンゴムシだって青虫だってさわれる。ゴキブリの卵を見つけて、子どもたちに見せるために飼っていたこともある。もっともうちの子どもたちは興味を示さなかったのだが。

だから以前ならこの手の本には関心が向かなかったのだが、短大教授をしていたときに、「虫嫌いでも、幼児とうまくつきあえるかな」と心配している幼児教育志望の学生が何人もいることにびっくりしてからは、こうした本には大きな意味があるだろうと考えるようになった。

本書は、そのしつらえがまずおもしろい。著者は、どんな虫にもさわれないほどの虫嫌い。チョウにもセミにも近寄れない。それなのに、なんとか虫嫌いを克服しようと、7人の専門家に会いにいくのだ。会ったのは、子どもと虫について研究している発達心理学者の藤崎亜由子さん、NHKラジオの「子ども科学電話相談」で昆虫の質問に答えている久留飛克明さん、「日本野生生物研究所」代表の奥山英治さん、精巧な虫オブジェを作っているアーティストの奥村巴菜さん、『害虫の誕生〜虫からみた日本史』(ちくま新書)の著者である瀬戸口明久さん、「こわい」という気持ちを分析する認知科学専門家の川合伸幸さん。そして、最後に多摩動物公園昆虫園を思い切って訪れたあと、飼育員の古川紗織さんにも話を聞いている。

著者は、「虫は命の大切さを教えてくれる」とか、「ゴキブリは病原菌を持っていない。殺虫剤のほうが体に悪い」とか、「虫が嫌いなのは観察が足りないからだ」とか、「害虫という言葉は、明治後半になってからの概念だ」などと聞くと、なるほどなるほどとうなずきながらも、なにせ虫嫌いなので、ドロバチの巣作りのおもしろさだの、ツノゼミの不思議な形だの、ツダナナフシの肉球のような脚の先だのについて熱く語られても、ついつい引いてしまう。そして、いつまでも虫に触れられるようにはならず、自分のことを「ヘタレ中のヘタレ」と思ったりもする。虫好き対虫嫌いの落差がユーモラスに伝わってくるし、著者によるイラストも楽しい。

(トーハン週報「Monthly YA」2019年8月12.19日号掲載)

キーワード:ノンフィクション、虫

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『カモのきょうだいクリとゴマ』表紙

カモのきょうだい クリとゴマ

『カモのきょうだい クリとゴマ』をおすすめします。

わたしが犬の散歩に行く近くの公園には、カモがいます。夏にいるカモは1種類。カルガモです。冬は他のカモもいっぱいいますが、くちばしの先が黄色いのでカルガモは見分けがつきます。春にはポンポン玉くらいの大きさのひなが、母ガモの後について泳いだり、少し大きくなって池の周りの地面をつっついている姿も見ることができます。

この本の主人公は、そのカルガモ。ある日、著者のお子さんが、カルガモの卵を持ち帰りました。激しい雨で水浸しになった巣を母ガモが放棄し、残った卵をカラスがつついているのを見るに見かねて、拾ってきたのです。その6つの卵から無事に孵化したのが、クリとゴマです。著者の家族は、野鳥を育てていいものかと迷いながら、でも一人前のカルガモに育て上げることを目標にして、べたべたせずにクリとゴマに愛情を注いでいきます。

卵からひながかえる様子、2羽が初めてミミズを見た時の驚き、だんだん水になじんでいく様子、雷雨を経験した時の慌てぶり、2羽の性格の差など、細かい観察による描写にはユーモアがあり、読ませる力があります。絵も文も著者がかき、それに著者の家族の手になる写真がついているので、リアリティも半端ではありません。

クリとゴマは、写真を見ても本当にかわいいのですが、この本は、そのかわいさを「売り」にしてはいません。世話が大変なこと、糞がとてつもなく臭いことなどもきちんと描写されているので、読んでいるうちに命とつきあうことのおもしろさ、楽しさ、そして難しさがおのずとわかってくるのがすごいところ。そう、世の中、かわいいだけのものなんてつまらないですもの。

やがてクリとゴマが成長すると、著者は2羽を自然に帰します。しかも簡単には戻ってこられないようなところへ。でも、それで一件落着したわけではなく、まだまだ「親」の苦労は続くのですが。

楽しく読める、優れた科学読み物です。

(「子とともにゆう&ゆう」2013年2月号掲載)

キーワード:鳥(カモ)、ノンフィクション、自然

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『なっちゃんのなつ』表紙

なっちゃんのなつ

『なっちゃんのなつ』をおすすめします。

なっちゃんという女の子が、河原や野原を歩いて、クズのつる、ひまわり、アオサギ、セイタカアワダチソウ、サルビア、オシロイバナ、雷雨、ガマの穂、ハンミョウなどの自然の生きものや現象に触れあいながら、夏を感じていく絵本。

夏独特の旺盛なエネルギーを感じさせる要素も多いが、セミの死骸、お盆のお墓参り、お供え流しなど、死や、あの世とのつながりを思わせる要素も入っている。

写実的ではないが、動植物の特徴をよく観察して活かしている絵がいい。会えなかった友だちと最後に会って一緒に遊ぶという流れも納得できる。

おもて表紙と裏表紙のつながりにも読者の想像力がふくらむ。

(産経新聞「産経児童出版文化賞・美術賞選評」2020年5月5日掲載)

キーワード:夏、自然、生と死

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『りんごだんだん』表紙

りんご だんだん

『りんご だんだん』をおすすめします。

最初は、ぴかぴかでつやつやの赤いリンゴの写真。「りんご つるつる」という言葉がついています。かぶりついたら、おいしそうなリンゴです。そのリンゴが、少しずつ少しずつ変わっていきます。しわしわになり、ぱんぱんになり、ぐんにゃりしたかと思うと、くしゃくしゃしたり、ねばねばしたり、だんだんに無残とも言える姿に。そのうちに、あら、虫もわいてくる。

写真家が1年近くの間リンゴを粘り強く観察して記録した絵本。言葉はごく簡潔で、詳しい説明はないのですが、生きているものは、時間とともに否応なく変化していくこと、そして、それを糧にしてまた次の命が育っていくことなどが、リアルな写真から伝わってきます。(幼児から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2020年5月30日掲載)

キーワード:果物(リンゴ)、腐敗、虫、絵本

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『故郷の味は海をこえて』表紙

故郷の味は海をこえて〜『難民』として日本に生きる

『故郷の味は海をこえて〜「難民」として日本に生きる』をおすすめします。

日本は難民受け入れ数がとても少ない。それでも、戦争や人権侵害によって命が危うくなり、日本に逃げて来る人はいる。その人たちを、同じ人間として迎えるにはどうすればいい? 著者は、シリア、ミャンマー、バングラデシュ、ネパール、カメルーンなどから逃げて来た人に会い、彼らの故郷の味をふるまってもらいながら、どうして日本にやって来たのか、どんな苦労があるのかなどを聞き出していく。子どもにも親しめる料理や飲み物を入り口にして、難民について考えることのできるノンフィクション。(小学校高学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2020年1月25日掲載)

キーワード:難民、多様性、食べ物、ノンフィクション

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『ふゆめがっしょうだん』表紙

ふゆめがっしょうだん

『ふゆめがっしょうだん』をおすすめします。

冬の木の芽を、よく見てごらん。だれかの顔に似ているよ。笑っているみたいな顔もあるし、ちょっと怖い顔もあるけど、みんなで歌いながら春を待っているのかな? 自然ってゆかいで不思議。冬の散歩が楽しくなる写真絵本=幼児から

(朝日新聞「子どもの本棚」2018年11月24日掲載)

キーワード:冬、植物(樹木)、自然、ノンフィクション、絵本

 

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リ・ソンジュ『ソンジュの見た星』表紙

ソンジュの見た星〜路上で生きぬいた少年

カピバラ:あまりにも過酷な状況に目を背けたくなるところがこれでもか、これでもかと続いていくんだけど、目を背けてはいけないという思いで読み進みました。実体験だとわかっているのでよけいにつらいけれど、主人公は、今は脱北してこの本を書けるようになったんだ、という事実を希望にして読みました。北朝鮮の状況を書いたものを読む機会は少ないので、関心もあったし、日本にも責任があるところがつらくもありました。政府によって洗脳されるおそろしさや、子どもたちがまず犠牲になるのは多くの国が経験していることだけれど、これがついこの間のことだということ、現在もどこまで状況が改善されているかわからないことに胸をつかれました。つらい中でも、おもしろいと思った点は、子どもたちが、子どもなりの知恵を働かせ、団結して1つの小さい社会を形作っていくところ。〇〇はぼくらの目だ、〇〇はぼくらの声だ、というように、それぞれの長所を生かした役割でお互いに認め合っていく。そしてそれが実の家族よりも強い絆になっていくところです。

西山:何が衝撃的と言って、つい最近のことという事実です。読みだしたら止まりませんでした。p190の、子どものころの夢を語り合っている部分は、軍の指揮官という夢は、社会背景を映したその時のそこだからこその内容ですが、それを、「そんな夢を持ってたなんて、別の人生っていうか、ぼくじゃないだれかの人生みたいな気がするよ」というところがすごく切なかったです。(追記:エルサルバドルの内戦下を舞台とした映画「イノセント・ボイス 12歳の戦場」で屋根の上に逃れて星空を見ているシーンを不意に思い出しました。この映画、ものすごくつらい内容ですが、一見の価値あります。作者の境遇と言い『ソンジュ』と共通する部分が多いと今気づきました。)p261の「人間が別の人間に対してする最悪のこと」を「尊いものや、いいものや、純粋なものを信じられないようにすることじゃないかな」と語り合っているところも本当に胸にしみました。普遍性のある作品だと思いました。

ネズミ:ノンフィクションみたいなフィクション、と思って読んだのですが、ノンフィクションだったんですね。事実のすさまじさに圧倒されました。文学的な企みではなく、そこにある事実の重さが迫ってきて。主人公がどうなるか知りたくて、最後まで読まずにいられなかったけれど、凄惨な場面もあるので、子どもだと、怖くて途中で投げ出してしまう読者もいるかも。父親から教わった、小石を3つ使った戦術が主人公を何度も危機から救うというのが印象的で、映画「ライフ・イズ・ビューティフル」のかくれんぼを思い出しました。

まめじか: キム・イルソン主席の伝説や国の偉大さを信じこんでいた主人公は、しだいに自分の頭で考えるようになります。なんの疑問ももたずに命じられたとおりにするのが、権力者にとって都合のいい人間だという文章にハッとしました。一番ひどい仕打ちは、家や仕事や親を取りあげることではなくて、善なるものや希望を信じられないようにすることだというせりふは、人は何をよりどころにして生きるのか、何をもって最悪の時を乗りきるのかを考えさせます。北朝鮮には、メディアから得たイメージしかなかったのですが、p291の景色の描写はほんとうに美しいですね。主人公の移動した経路がわかりにくいので、地図があったらよかったです。

木の葉:今回、選書係だったのですが、翻訳ものは欧米、特に英語圏のものが圧倒的に多いので、できるだけアジアの作品をと、思いました。とはいえ、これは原書が英語ですが。北朝鮮の脱北者の体験を描いたもので、体制糾弾目的のものだったら、やめようと思っていましたが、読了後に取りあげることにしました。すでに意見として出ていますが、脱北が成功していることがわかっているので、ある意味では安心して読むことはできたのですが、それにしても、前半はきつかったです。ただ、読み進めるにつれて、子どもたちのギャングぶりにたくましさを感じて、ワルといってしまえばワルなのですが、生き抜く知恵と力を感じました。野沢さんが訳者あとがきで「朝鮮半島はアメリカとソ連によって南北に分断され、七十年以上たった今もふたつの国に分かれたままです。歴史は「現在」につながっています。もし、朝鮮半島が日本の植民地ではなく、ひとつの独立国だったならば、こんなことは起こらず、社会のしくみや人々の暮らしも今とはちがっていたかもしれないのです」(p372)と書いてます。読者にはここもしっかり読んでほしいと思いました。朝鮮半島が分断国家になったことに、日本が深く関与していることをちゃんと理解してほしいと思います。

アンヌ:以前に、北朝鮮を渡った在日の女の子が出てくる小説を読んだことがあったので、悲惨な状況を覚悟して読みました。主人公が頭を使ってたくましく生きていく場面は格好がいいけれど、前にパンを恵んでくれたおばあさんからパンを盗む場面は読んでいてつらいし、収容所でも看守に乱暴される女の子たちとは違う。だから、生き抜くたくましさに感動するというより悲惨さを感じながら読み続けました。おじいさんとの再会と、その後の場面は天国のようにのどかで、ほっとしました。でも、おじいさんはこの後も生活が続けていけたのか心配です。韓国での扱いを見ると父親はかなりの機密を知っていた軍人だと思うので。身元がわからないようにするために、原文から削ったりした場面は多いのだろうとも思いました。例えばp308「その老人の横の貼り紙」といきなり出てきますが、何の貼り紙か全然状況がわからない。あとの方でどうもガラス瓶が置いてあったり自転車もあったりしたようなことがわかるけれど、情景描写の部分が変に抜けているように思ったのでそう感じました。

さららん:テレビのニュースに映る平壌の都会の人は幸せそうですよね。けれども農村は疲弊しているはずで、その関係がどうなっているのか想像できなかった。この本を読んでその空白部分が埋まりました。形はあっても稼働していない工場。山のリスまで捕まえて食べる生活。生活は限界を越えていても、父親が、次に母親が家を出て消えてしまっても、この主人公は自分を投げ出さない。盗みは日常茶飯事だし、ときには麻薬に手を出し、自暴自棄になって危ういところまでいきます。それでも仲間には公平で、強い正義感を持っています。ぎりぎりの生活の中でこそ、人としての品格が問われるのだと思いました。その点で、ホロコーストをテーマにした作品と共通するものを感じました。国外への脱出劇が、また実にリアルで印象深かったです。父さんの友だちと称する人を信じられるのかどうか。著者は最初は国境を越えて中国に行き、それから韓国に行き、そして今は脱北者の救済活動をしているということです。少年の日々を、長いスパンで克明に描いたものだからこそ、具体性があって読み応えがありましたが、このとき、あなたは本当はどう感じたの?と聞きたい部分はありました。人物の心の奥深くまで入りたかったです。

コアラ:これが最近の出来事というのがショックでした。1997年頃、北朝鮮が飢饉でひどい状態だというのはニュースで聞いた記憶がありますが、ここまでひどい状態だとは知りませんでした。一番印象に残ったのは、p103からの第9章の、母親がおばさんのところに食料をもらいに行くと行って、ソンジュが起きたら母親がいなくなっていたところ。父親がいなくなり、母親までいなくなって、どんなに悲しく心細かっただろうと思うと、本当に読んでいてつらくなりました。鍋におかゆがつくってあったというのも、もしかすると父親が帰ってきた時のために残しておいた食料だったかもしれず、最後に母親がそれを使い切って、ソンジュの食べるものを作ってあげたのかもしれないと思うと、子どもを残して行く母親の思いはどうだっただろうとか、読み終わってからもいろいろ考えてしまいました。少年たちがコッチェビ団を結成して生き延びていく様子も、胸が痛かったのですが、語弊がある言い方かもしれませんが、フィクションだったらおもしろく読めた部分かもしれません。それでもやはりノンフィクションだからこその凄みを感じました。途中で、少年たちは、強くなるために体を鍛えたりします。これは、日本の子どもたちにも通ずるというか、想像を絶する状況にあって、意外と健康的な普通の子どもたちのように思えて、ちょっとほっとした部分でもありました。北朝鮮のことを知る機会はほとんどないので、貴重な本だと思います。子どもに読んでほしい本だと思いました。

ハル:衝撃的でした。ああ、こういうことだったのか、と、長年の疑問や誤解がとけていく、本当に衝撃的な1冊でした。北朝鮮のこととなると、でたらめで、どこかおもしろおかしくなってしまっているニュースも多いように感じますが、その向こうにはこんなに苦しんでいる人々がいる。中盤は読み進めるのに勇気がいるような、つらい場面もありました。そして、こんなに過酷な環境なのに、ヨンボムのおばあさんは、日本の植民地時代に比べれば「まだまだ」(p141)だと言っています。私たちは日本人として、世界の中の一人として、一体何ができるんだろうと考えさせられます。

ルパン:まさに衝撃でした。「路上で生きぬいた少年」というサブタイトルがついていますが、生き抜けなかった少年や少女、そしておとなもいたと思うとたまらない気持ちです。現実にはもっと悲惨な状況もあると思うし、政治によってこうも人生が変わってしまうかと思うと、それだけで戦慄をおぼえてしまいます。平壌にいれば資源が豊富でいいかというと、ソンジュの父のようにある日突然追放される恐怖と向き合って生きなければならない辛さもあるでしょうし。『九時の月』(デボラ・エリス著、もりうちすみこ訳、さ・え・ら書房)を読んだ時にも思いましたが、ある国に生まれただけで不幸になる、というようなことが21世紀になってもまだなくならないことが悲しいです。

サークルK:北朝鮮の文学ははじめて読みました。話題の映画「パラサイト 半地下の住人」(2019)を見たばかりなので、過酷な暮らしをしている人々の物語に入り込みやすかったです。映画では現代の貧困家庭と上級家族の対比が視覚化されていました。

マリンゴ: 知らなかったことが多すぎて、圧倒されました。物語の展開がシビアで凄まじくて、波乱万丈すぎますよね。もう終盤かしらとページ数を確認してみたとき、まだ全体の1/3までしか進んでいなくて、これからどうなるのー!と怯えました(笑)。北朝鮮の地方都市の普通の生活を描いたものを読んだことがなかったので、こんな大変な状況なのか、と、重い現実を感じました。敢えて言えば、序盤がやや読みづらいでしょうか。夢の話と現実が交差するせいかもしれません。あと、主人公はリーダーシップがあるのだということが途中、急にわかって驚きました。それまでは塩をなめ続けて体がふくれあがってしまうなど、トラブルの多くて、助けてもらう側の子かと思っていたので。そのあたりは、自分がリーダーシップがある、と早いうちから書き込むことに遠慮があったのかもしれませんね。ノンフィクションだけに。

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エーデルワイス(メール参加):実話なのですが、まさに生き抜くサバイバル。忘れないように付箋を付けながら読み勧めたら付箋だらけになりました。食べ物を探しに、父、母といなくなり、妹もさらわれ一人ぼっちになるところで宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』を思い出しました。それにしても子どもを大事にしない国家は滅びると思います。11歳で信じていたものが崩れ、何を信じて生きるのか自問していく苦悩が伝わってきました。韓国での差別を体験し、北朝鮮は韓国より劣っているという偏見を覆し、平和な南北統一を目指したいとの作者。その日が来るといいのですが。

サンザシ(メール参加):ノンフィクションだと思いますが、疑問点もありました。著者が、韓国や大韓民国を中国の一部だと思い込んでいたというのがわかりません。脚色なのでしょうか? また父も母も出ていったあと、著者は自分の家で寝泊まりせず野宿をしているうちに、ピンチプパリ(仲介業者)に家を売られてしまいますが、なぜ自分の家で寝泊まりしなかったのかがわかりませんでした。コッチェビのことは日本でも報道されて知っていましたが、これほどたくさんいたのは知りませんでした。サバイバルのための壮絶な苦労話が中心で、p216やp261後半のような洞察がもっとあるといいのに、と思いました。拉致被害者については日本人も知っていて憤慨していますが、プロローグにあるような朝鮮半島の歴史はほとんどの人が知らないのではないでしょうか。そういう意味では、この部分について書かれた文学がもっとあるといいですね。『1945 鉄原(チョロン)』や『あの夏のソウル』(イ ヒョン/著 影書房)は1945年からの時代を描いていると思いますが、もっといい翻訳で出さないと文学として読めないので残念です。

(2020年01月の「子どもの本で言いたい放題」より)

 

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リン・フルトン文 フェリシタ・サラ絵『怪物があらわれた夜〜『フランケンシュタイン』が生まれるまで』さくまゆみこ訳 光村教育図書

怪物があらわれた夜〜『フランケンシュタイン』が生まれるまで

メアリー・シェリーという若い女性が、どうして『フランケンシュタイン』という物語を書いたのか、その背景がとてもわかりやすく描かれた絵本です。ちなみにフランケンシュタインというのは怪物の名前ではなく、実験を重ねて怪物を作り出してしまった男の苗字です。

この絵本を訳すにあたり、『フランケンシュタイン』をもう一度読んでみました。ずっと前に読んだことがあったのですが、それほど印象に残っていなかったので、絵本を手もとに置きながらもう一度読み返してみたのです。

そうしたら、やっぱりおどろおどろしいだけの物語ではないということが、よくわかりました。物語は今のSFと比べるとまだるっこしいところもあるのですが、だからよけいに怪物の悲しみや恨みが切々と伝わってきます。

この絵本には、女性が評価されない時代にあって、メアリーはどうしたかったのか、ということも描かれています。

(編集:相馬徹さん 装丁:城所潤さん+岡本三恵さん)

*「ニューヨーク・タイムズ」/ニューヨーク公共図書館ベスト絵本

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<作者あとがき>

メアリー・シェリーは、1818年、20歳のときに『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』を書きましたが、最初は500部しか印刷されませんでした。しかし、まもなく死体から怪物をつくりだした男のおそろしい物語はイギリス中で話題になりました。しかも、それを書いたのが、わかい女性だったなんて! 女の人たちはあきれ、男の人たちはあざわらいましたが、だれもがこの作品を読んだのです。そして1823年には早くも劇になって上演されました。「なんとなんと、わたしは有名になっていたのです」と、劇を見たあとで、メアリーは書いています。1910年には、最初の「フランケンシュタイン」の映画が作られました。それ以来、いくつもの映画や、舞台や、ラジオ番組やテレビ番組が制作されてきました。

1831年版『フランケンシュタイン』の序文でメアリーは、ヴィクター・フランケンシュタインと怪物の物語がどのようにして生まれたかを書いています。そこには、1816年の夏をレマン湖のほとりで過ごしていたころには悪天候がつづいたこと、バイロン卿がそれぞれ怪談を書いて比べてみようとみんなに提案したこと、そして、青白い顔の学生が邪悪な技術で作り上げたもののかたわらにひざいまずいている姿が白昼夢のように浮かんだことなどが述べられています。

1831年版のこの序文には、母親のメアリー・ウルストンクラフトのことは出てきませんが、きっとメアリーの潜在意識の中で『フランケンシュタイン』が形を取り始めたいたとき、この有名だった母親も大事な役割を果たしていたのではないかと思います。この絵本では、怪談を読みくらべるための締切があったことにしました。それから、集まった人たちがバイロンの別荘ディオダティで寝泊まりしていたように描いていますが、じっさいはメアリーとパーシーとメアリーの異母妹は、近くのもっと小さな別荘を借りていました。

メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』は、たいていの人が映画から思い描くものとはちがいます。ハリウッドの映画には、首にボルトのついた四角い頭の、ひたすら凶暴な怪物が登場しますが、メアリーが書いた本に登場する怪物はそれとはちがい、話すことも読むこともできました。メアリーが作り出した怪物は、ひとりぼっちで、じぶんの家族がほしいと願っていました。しかし、見た目が恐ろしいので、だれからもきらわれ、受け入れてもらえなかったのです。作り主であるヴィクターからも拒否されていました。フランケンシュタインが作り出した怪物を、舞台や映画に登場する、単に口がきけずに暴れ回る怪物と見るならば、原作者メアリーが伝えたかったことが見えなくなってしまいます。原作からは、無邪気な存在でも憎悪と偏見によって凶悪な存在に変わるかもしれない、というメッセージが読み取れるからです。

みんなで怪談を書いてみようじゃないか、というよびかけがあったとはいえ、『フランケンシュタイン』は、お化けや幽霊が出てくるお話ではありません。メアリー・シェリーは、それまでにはなかった新しい種類の物語を生み出していたのです。いまなら、サイエンスフィクションとよばれることでしょう。研究に没頭するあまり制御のきかない危険なものを発明してしまう科学者は、いろいろな本や映画に登場しています。そういう作品の源に、『フランケンシュタイン』はあるのです。メアリーが作り出した怪物は、200年前の嵐の夜に生まれたときと同じように、いまでもさまざまな想像のなかに息づいているのです。

◆◆◆

<紹介記事>

・2019年4月14日「京都新聞」の「絵本からの招待状」で、ひこ・田中さんがていねいにご紹介くださいました。ありがとうございます。

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「フランケンシュタイン」誕生にまつわるノンフィクション絵本です。時は1816年5月。詩人バイロンがスイスのレマン湖畔に借りていた別荘に集った男女5人は長雨にうんざりして、怖い物語を互いに読み合っていました。そのときバイロンが、自分たちも怪談を書いて1週間後に読み比べてみようと提案します。

明日がその日ですが、メアリーにはまだ何も思いつきません。怪談を作り終えた男たちが階下で、化学実験で電気を使うと死んだカエルの足がピクリと動いたという話をしています。それでメアリーは、小さな頃に聞いた電気を使って死体を動かした実験の話を思い出します。

メアリーの母親は、1792年に出版した「女性の権利の擁護」において、男も女も等しく教育を受ける権利があり、男女の間に差異はないと主張した先駆的なフェミニストのメアリー・ウルストンクラフトですが、娘を産んですぐに亡くなりました。この花親を尊敬していた彼女は、女が書くものが男の書くものに負けるわけではないと思っているのです。

階下ではまだ話が盛り上がっています。「いのちのないものに、いのちを与えることができれば、自然を打ち負かしたことになるぞ!」「人間が勝利を勝ち取るんだ!」。勝つことに夢中な男たち。しかしメアリーが気にかけるのは別のことです。「いのちをあたえられたものは、そのあとどうなるの?」

「フランケンシュタイン」は、恐ろしい怪物の話だと誤解されがちですが、自分を作り出したフランケンシュタイン博士から愛情を得られなかった彼が憎しみを募らせていく悲しい物語です。それは200年の時を超えた今も私たちの心を打ちます。未読の方は、メアリーが書いた原作も開いてみてください。

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市川里美画 ウィルソン文『メリークリスマス〜世界の子どものクリスマス』さくまゆみこ訳 BL出版

メリークリスマス〜世界の子どものクリスマス(改訂版)

世界の子どもたちが、それぞれにクリスマスを楽しんでいる様子を紹介した絵本です。以前、冨山房から出ていたもの(1983)に、加筆・訂正して復刊されました。市川さんの絵も少し追加されています。

冨山房版が出たとき、私は冨山房の編集者でした。この絵本はもともと矢川澄子さんに翻訳を依頼しようと予定していたのです。当時は、印刷は4色のフィルムを取り寄せ、日本の印刷所で版を作り直して行っていました。クリスマスの絵本は、少なくとも11月初旬にはできていないと店頭に並ばないのですが、この絵本のフィルムはなかなか来ませんでした。夏を過ぎたころようやく届いたので矢川さんにご連絡すると、「今はほかにも仕事がいろいろあって、すぐには取りかかれない」とおっしゃるのです。社内の会議でそれを伝えると、「せっかくフィルムが来てるんだ。それなら、さくまが訳せ」と副社長のツルの一声。

私は他の本の編集もしながら、この絵本を訳し、この絵本の編集も自分でするという羽目に陥りました。

それで、ようやくなんとか間に合って、その年のクリスマスに並ぶことになったのですが、できあがった絵本を開いてみて「ひやあああ」。ものすごい誤植があったのです。それは、「はじめに」というクリスマスの由来を説明するページでした。「今からおよそ200年前ほど前に、ベツレヘムというところでイエスさまがお生まれになった」と印刷されているではありませんか!! もちろん私の責任です。結局そのページを切って別に印刷したページを貼り付けるという作業をしなくてはなりませんでした。

それ以来、私は、翻訳と編集の一人二役は絶対にやらない、と心に決めています。やっぱりその本を愛してできるだけいい形で出そうと思う人が、最低二人はいないといい本はできないのだと思います。

この絵本には、イギリス、アメリカ合衆国、ドイツ、オランダ、ポーランド、チェコ、スロバキア、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、ロシア、フランス、イタリア、ギリシア、メキシコ、インド、日本、オーストラリアの、クリスマスの様子が描かれています。クリスマスのお菓子や飾りの作り方も出てくるし、私たちがよく知っている賛美歌も5つ、楽譜とともにのっています。

(編集:江口和子さん デザイン:細川佳さん)

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◆「日本児童文学」2023年11・12月号に「クリスマスをよむ」という特集があり、編集長の奥山恵さんの依頼で、こんな文章を書きました。

「クリスマスあれこれ」

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ジョナ&ジャネット・ウィンター作 さくまゆみこ訳 『この計画はひみつです』

この計画はひみつです

本の袖にはこう書いてあります。

ニューメキシコの砂漠の名もない町に科学者たちがやってきました。
ひみつの計画のために、政府にやとわれた科学者たちです。計画は極秘とされ、だれひとり情報をもらしません。
思いもよらないものが作られているにちがいありません。もうすぐ完成しそうです。
時計の針がチクタクと時を刻み・・・・・・

ちょっと怖い絵本です。子どもにどうなの? という方もいらっしゃいますが、今は、妖怪よりもお化けよりもバンパイアよりも怖いものが、子どものすぐ近くに存在しているように思います。あまり小さい子どもには何が何だかわからないかもしれませんが、小学校高学年くらいから大人まで、読んでもらえるとうれしいです。文章を書いたジョナ・ウィンターはジャネットの息子さんで、伝記絵本なども手掛けています。
(編集:高瀬めぐみさん 装丁:鳥井和昌さん)

*厚生労働省:社会保障審議会推薦 児童福祉文化財(子どもたちに読んでほしい本)選定
*全国学校図書館評議会 「えほん50」2019選定

「えほん50』2019選定記事

 

 

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<紹介記事>
・「東京新聞」2018年8月3日

世界中の優秀は科学者たちが集められ、極秘のうちに進められた『ひみつの計画』。最初の原子爆弾が作り出された。
世界で初めて、広島に原爆が投下される3週間前、米ニューメキシコ州南部の砂漠で、最初の核実験が行われた。爆発地点近くの土や植物から、危険なほど高いレベルの放射線を発するプルトニウムが見つかっている。
2016年時点で、世界には核兵器が1万5700発存在する。その数がゼロになることを願って、「原爆の日」を前に読んでほしい。

・「MORGEN モルゲン」2018年7月6日

この時期になると思うのは、戦争についてだ。今の平和な日本に巡ってくる夏は、爽やかで美しい。日本に原爆が落ちたことなんてはるか昔のことのように。
この絵本の舞台はアメリカ。世界中から集められた科学者たちが秘密の爆発物を作っている。淡々と簡潔に語られる文章からは、登場人物の心情や具体的な描写といった情報が少ないため、登場している人物が機械的に感じられた。しかし、それだけに実験の様子が描かれたページの爆発のイラストはリアルで痛々しく、その爆発物の悲惨さを大いに物語っていた。
この爆発物が落とされ、唯一の被爆国となった日本に住む私たちは、この痛ましい過去をどう捉え、どう考えていくべきだろうか。無情に作られた核爆弾は、この本にあるように大きな破壊力を持つものだ。それが、希望も、命も、国の機能も、すべて奪ってしまった。今日本に住んでいる私たちは、数多くの犠牲の上で今の生活が成り立っているということを忘れてはならない。そしてこの平和が続くよう、平和を世界に訴え続け、当時の悲惨な戦争を忘れないでいることが、今の日本に生きる私たちの責任である。過去のことだと自分の世界から切り離し目を背けることは逃げだ。この平和が続く保証なんてどこにもないから、私たちが、戦争の恐ろしさを世界に発信し、平和への理解者を増やして行かなければならない。
そのためにも多くの人にこの絵本を手に取ってもらいたい。戦争や原爆の記憶が消え去らないように。
(評・旭川藤女子高等学校2年 我妻未彩)

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<作者あとがき>より

1943年3月、アメリカ合衆国政府は、科学者(原子物理学者や化学者や研究者)をニューメキシコ州のへんぴな砂漠地帯に集めて、ひみつの計画にとりかかりました。〈ガジェット〉とよばれるものをつくるためです。このへんぴな場所には、ちゃんとした地名がなく、アメリカ政府には「サイトY」という暗号でよばれていました(もともとは、ロスアラモス・ランチ校という私立のエリート男子校があったところです)。それは、サンタフェから車で45分の場所にあり、場所を示すものは、郵便を受けるための「私書箱1663」という数字だけでした。この計画のリーダーは、J・ロバート・オッペンハイマーという名高い科学者で、アメリカばかりでなく世界中から優秀な科学者を集めていました。その中には、ナチスドイツから亡命した科学者も、ノーベル賞受賞者もいました。その科学者たちのチームがつくりだしたのが、最初の「原子爆弾」です。完成すると、1945年の7月16日に、ニューメキシコ州南部の砂漠で、最初の核実験がおこなわれました。実験の場は「トリニティ・サイト」と名づけられ、ホワイトサンズ性能試験場(現在のホワイトサンズ・ミサイル実験場)の一角にありました。

実験で起こった爆発は、太陽の1万倍もの熱を放出し、250キロくらい離れたところでもその熱が感じられたといいます。また、200キロ近く離れている建物の窓が爆風で割れました。キノコ雲は、1万メートル以上の上空まで立ち上りました。火球におおわれた場所の砂は灰緑色のガラス状のつぶに変わり、放射線量が非常に高い「トリニタイト」という人工鉱物ができました。爆発地点から半径160キロの範囲では、植物にも動物にも土にも、危険なほど高いレベルの放射線を発するプルトニウムが見つかりました。ここの放射能は、2万4100年後まで消えないと科学者たちは推測しています。アメリカ政府は、ようやく2014年になって、核実験の時ニューメキシコ州に住んでいて高濃度の放射線をあびた人々が、ガンを発症したかどうかの調査を始めました。こうした調査は数十年早く行うべきだったと、多くの人が考えています。

「サイトY」で働くコックさんや事務の人たちの多くは、科学者たちが何を作ろうとしているのかをまったく知りませんでした。極秘にすることを誓った科学者たちの多くは、ニューメキシコにやってくる前に名前まで変えていました。うっかり〈ガジェット〉の情報がもれてしまわないように、またスパイがもぐりこまないように、郵便は政府機関がチェックしていました。

なぜ、そんなにひみつにしていたのでしょう? ここでの研究や発明の目的は、なんだったのでしょう? アメリカ合衆国は、ナチスドイツと日本を敵として、第二次世界大戦を戦っていました。ナチスが原子爆弾の開発にやっきになっているといううわさがあり、アメリカ政府は、アメリカ人を守り、戦争に勝つために、ナチスより先に原子爆弾を開発してしまおうと、いそいでいたのです。

トリニティ実験の3週間後、アメリカは二つの原子爆弾を日本に落としました。1945年の8月6日に最初の爆弾を広島に、1945年8月9日に次の爆弾を長崎に落としたのです。第二次世界大戦が終わったのは、その後です。この二つの原子爆弾の被害を受けて亡くなった人は、16万4千人から21万4千人だと言われています。そのほとんどが市民で、子どももたくさんいました。

広島と長崎以来、原子爆弾が人を殺すために使われたことはありません。今は、多くの国が、地上での核実験を禁止しています。自然環境や人間の健康に、大きな悪影響をあたえることがわかっているからです。また多くの国が、もっている核兵器を減らそうとがんばっています。それでも、2016年の時点で、世界には核兵器がまだ1万5700発も存在しています。

いつかその数がゼロになることをねがっています。

ジョナ・ウィンター

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<訳者あとがき>

アメリカの多くの子どもたちは、「広島と長崎への核爆弾投下は、戦争を終わらせるために仕方がなかった」と学校で習います。しかし最近は「原爆を落とさなくても戦争は終わっていたはずだ」「原爆ができたからには落としてみたいと思ったのではないか」という声が上がるようになりました。そのアメリカに住む絵本作家ジャネット・ウィンターが息子さんのジョナと一緒につくったのがこの絵本です。

日本の統計では、1945年8月6日に広島に落とされたウラン原爆(リトルボーイ)による直接の死者は約14万人、8月9日に長崎に落とされたプルトニウム原爆(ファットマン)よる直接の死者は約7万4千人とされています。負傷者は広島が約8万人、長崎が約7万5千人。しかし、核爆弾はもちろん投下された時だけではなく、その後も放射線による被害者を出し続けました。広島にも長崎にも核爆弾とそれに伴う被害を受けて亡くなった方たちの名簿があります。原爆死没者名簿といいます。毎年書き加えられ、2017年の名簿には、広島は30万3195人、長崎は17万5743人の方が載っています。

2017年度のノーベル平和賞を受賞したのは「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」という国際NGOでした。この団体は、スイスのジュネーブに本部があり、100か国以上から多くのNGOが参加して、各国の政府に対して核兵器を持つのはやめようと呼びかけています。ノーベル賞授賞式には日本の被爆者の方たちも出席しました。

さくまゆみこ

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ガルブレイス文 ハルバリン絵『わたしたちのたねまき』

わたしたちのたねまき〜たねをめぐるいのちたちのおはなし

『わたしたちのたねまき〜たねをめぐるいのちたちのおはなし』をおすすめします。

春になったら芽を出す種。その種をまくのが人間だけじゃないって、知ってた? 風も小鳥も太陽も雨も川もウサギもキツネもリスも種まきをしてるんだって。どうやって? この絵本を見ると、わかってくるよ。見返しに様々な種の絵が描いてあるのも、おもしろいね。[小学校中学年から]

(朝日新聞「子どもの本棚」2017年12月23日掲載 *テーマ「冬休みの本」)


人間は植物を育てようとして畑や庭に種をまくが、人間以外にも種をまいているものがいる。それは、風、小鳥、太陽、雨、川。そしてウサギやキツネやリスなどの動物たちも。でも、いったいどうやって? それがわかってくるのがこの絵本。見ているうちに、自然の中に存在するものは、みんなお互いに利用し合い、助け合いながら、命をつないでいることもわかってくる。絵が親しみやすく、訳もリズミカル。見返しに描いてあるさまざまな種子の絵もおもしろい。

原作:アメリカ/6歳から/種、自然、動物、命のつながり

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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モリー・バング&ペニー・チザム『海のひかり』さくまゆみこ訳

海のひかり

アメリカのノンフィクション絵本。モリー・バングの『わたしのひかり』『いきているひかり』に続く「ひかり」シリーズの3作目です。今度は水の中にいる植物プランクトンがテーマです。海の生物も、陸の生物と同じように、太陽光のエネルギーが大事なのだということがよくわかります。光の届かない深海にまでその影響は及んでいるのです。

私たちが吸う酸素の半分は、水の中をただよう植物プランクトンがはき出したものだって、知ってました? そうだとすると、福島の汚染だって、空気や土のことしか考えていないのでは、まずいんじゃないのかな? 海の食物連鎖も心配だな・・・などと、いろいろなことを考えながら訳しました。

バングはこの絵本シリーズによほど力を入れているのだと思います。科学の絵本にしては珍しく、図鑑風ではない美しい絵がついています。2巻目からはMITでエコロジーを教えるチザムと組んでの仕事なので、科学的にもより正確になりました。

こういう絵本や、ホーキング博士のシリーズなどは、翻訳するときに丹念に調べなくてはなりません。でも、調べるのは嫌いじゃありません。知らなかったことが、いろいろわかってきますからね。
(編集:岡本稚歩美さん)

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サラ・M・ウォーカー文 ジョナサン・D・ヴォス絵『ウィニー:「プーさん」になったクマ」さくまゆみこ訳

ウィニー〜「プーさん」になったクマ

ノンフィクション絵本。表紙が「原作」となっているのはちょっと解せないので問い合わせたところ、単なる間違いでした。リライトなどは一切せず、原文に忠実に訳しています。

『クマのプーさん』のぬいぐるみは、ウィニー・ザ・プーという名前ですが、ウィニーという名前がついたいきさつを、この絵本では子どもにわかるように語っています。クリストファー・ロビンは、ロンドン動物園でウィニーという名前のクマに出会い、それが印象に強く残っていたのですね。そしてウィニーは赤ちゃんの時に、鉄道の駅で、カナダ陸軍の獣医だったハリー・コルボーンに引き取られたクマだったのです。どうしてそのクマがカナダからロンドン動物園までたどりついたのか、ウィニーはどんなクマだったのか、という実話に基づいた絵本です。

同じ実話に基づいて、評論社からも『プーさんと であった日』というのが出ています。評論社の絵本の文を書いたのは、コルボーンのひ孫のリンジー・マティックさんで、そちらはコルデコット賞をとっています。

こちらの『ウィニー』は、動物園に来た後のことまで描かれているので、両方見比べてみると、おもしろいかも。
(装丁:稲垣結子さん 編集:仙波敦子さん+堀江悠子さん)

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デミ『フローレンス・ナイチンゲール』さくまゆみこ訳

フローレンス・ナイチンゲール

ノンフィクション絵本。ナイチンゲールの本は日本でもたくさん出ていますが、この作品は、なによりデミが描いている絵を見ていただきたい。

私は、ナイチンゲールという人はずっと現場で看護の仕事をしていたのかと思っていましたが、じつは違いました。35歳の時に熱病にかかり、その後は主にベッドで研究したり執筆したりしていたのですね。ナイチンゲールが状況を改善するまでは、当時の病院は、排泄物があちこちにあったり、ネズミがかけずり回っていたりして、相当不衛生だったようです。デミも、そういう場面を描いているのですが、彼女の絵は汚くならないのですね。

原書は金色が使ってあるのですが、日本語版は金が使えなかったので、森枝さんが、題字に細工をして、かがやいているようにデザインしてくださいました。森枝さんは、いつもすてきな工夫をしてくださいます。こういう科学・知識の絵本は、文章をただ訳すだけでなく、原書の記述が正しいかどうかも私は調べて確かめます。そうでないと、安心して日本語にすることができないので。
(装丁:森枝雄司さん 編集:鈴木真紀さん)

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『フローレンス・ナイチンゲール』紹介文
「本の花束」2020年11月3回号掲載
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さくまゆみこ文 沢田としき絵『エンザロ村のかまど』

エンザロ村のかまど

「たくさんのふしぎ」2004年2月号のノンフィクション絵本が、ハードカバーになりました。「アフリカ子どもの本プロジェクト」が生まれたきっかけになった本です。アフリカというと、野生動物、飢餓、内戦なんていうイメージが強いですが、沢田さんが丹念に描いた絵は、普通の人たちの暮らしをきちんと伝えています。お金とハコモノだけでは人と人がつながる国際協力はできません。この本が、その辺を考えるきっかけになれば、うれしいです。
(編集:福井恵樹さん)

*厚生労働省:社会保障審議会推薦 児童福祉文化財(子どもたちに読んでほしい本)選定
*SLA夏休みの本(緑陰図書)選定

この本には英語版とスワヒリ語版もあって、「アフリカ子どもの本プロジェクト」で取り扱っています。

 

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ユッタ・クルツ『小さなコックさんのための大きな本』さくまゆみこ訳

小さなコックさんのための大きな本

子どものためのお料理の本。卵、肉、ソーセージ、じゃがいもとスパゲッティ、トースト、サラダ、お菓子に別れていて、楽しい絵がついています。どれも作ってみましたが、おいしかったですよ。


ウィルソン文 市川里美絵『メリークリスマス』さくまゆみこ訳 冨山房

メリークリスマス〜世界の子どものクリスマス

イギリスの絵本。市川里美さんの絵がとっても楽しいクリスマス絵本です。最初にクリスマスとはどういうものか、という由来のお話があり、続いて、イギリス、アメリカ、ドイツ、オランダ、ポーランド、チェコ、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、ソ連、フランス、イタリア、ギリシア、メキシコ、インド、日本、オーストラリアでは、どんなふうにクリスマスのお祝いが行われているかを紹介しています。「きよしこのよる」「ひいらぎかざろう」などのクリスマスキャロルや、クリスマス飾りやショウガクッキーなどの作り方も載っています。
この絵本は、よんどころない事情があって、ひとりで編集と翻訳をおこないました。これ以降、やっぱりひとり二役はしないほうがいいと考え、どちらかに徹することにしています。
(編集:作間由美子)


アンティエ・フォーゲル『小さな庭師のための大きな本』さくまゆみこ訳

小さな庭師のための大きな本

ドイツの実用的な絵本。アボカド、ラディッシュ、ミニトマト、ハーブ、パイナップル、桃などおいしいものや、お誕生日の木など記念になるもの、そして四つ葉のクローバーなどプレゼントにできるものを、鉢植えや地植えで楽しむための実用的な絵本です。食べた後の残りの部分で楽しもうというページもあります。


人間

環境について考えるイギリスのノンフィクション絵本。著者は動物園や大英博物館に勤務したあと、BBCで科学番組の制作をしていた人です。世界のあちこちで生きている人間が、環境破壊や環境汚染のせいで、危機に瀕していることを伝えています。私たちに今何ができるか、という情報も入っています。


野生生物

環境について考えるイギリスのノンフィクション絵本。著者は動物園や大英博物館に勤務したあと、BBCで科学番組の制作をしていた人です。環境破壊、環境汚染などで絶滅してしまう生物やについて述べたあと、それを食い止めようとする試みも紹介しています。


ちきゅうのえほん『土』さくまゆみこ訳

環境について考えるイギリスのノンフィクション絵本。著者は動物園や大英博物館に勤務したあと、BBCで科学番組の制作をしていた人です。土はどんなふうにつくられているのか、ダムの害、農薬や化学肥料の害、土地の砂漠化を防ぐ方法などについて述べられています。巻末に用語解説がついています。


ちきゅうのえほん『水』さくまゆみこ訳

環境について考えるイギリスのノンフィクション絵本。著者は動物園や大英博物館に勤務したあと、BBCで科学番組の制作をしていた人です。水道の水はどんなふうにできているのか、水はどんなふうに循環しているのか、なぜ水が汚染されてしまうのか、海が汚染されてしまうのか、魚の乱獲の問題、水をじょうずに使うためにはどうすればいいのか、私たちには何ができるのか、などを伝えています。


ちきゅうのえほん『森林』さくまゆみこ訳

森林

環境について考えるイギリスのノンフィクション絵本。著者は動物園や大英博物館に勤務したあと、BBCで科学番組の制作をしていた人です。森林の構造、木のいのち、木はどんなふうに役立っているのか、破壊される熱帯林、森林を破壊するとどうなるのか、森林を守るためにはどうすればいいのか、私たちにできること、などを伝えています。


ちきゅうのえほん『空気』さくまゆみこ訳

空気

イギリスの環境について考えるノンフィクション絵本。著者は動物園や大英博物館に勤務したあと、BBCで科学番組の制作をしていた人です。空気とは何か、大気汚染はいるから始まったのか、排気ガスによる汚染、地球温暖化について、破壊されるオゾン層、酸性雨、原発の危険性、大気汚染をはかる方法などについて伝えています。


イフェオマ・オニェフル『おばあちゃんにおみやげを:アフリカの数のお話』さくまゆみこ訳

おばあちゃんにおみやげを〜アフリカの数のお話

ナイジェリアの文化を伝える写真絵本。数の絵本にもなっています。著者はナイジェリアで生まれ育った女性フォトグラファー。アフリカというと「動物がたくさんいる」とか「貧しい」とか「内戦でたいへん」というイメージばかりが伝わっていますが、広いアフリカ大陸には元気な子どももたくさんいます。これは、そんな元気な男の子がおばあちゃんの家に遊びにいきます。西アフリカ・ナイジェリアの人々の日常生活を生き生きと伝える数の絵本です。
(編集:西野谷敬子さん)


いのり〜聖なる場所

ノンフィクション絵本。イスタンブールのブルーモスク、ガンジス川の水あび場、フランスのシャルトル大聖堂・・・世界各地にある28箇所の「聖なる場所」を精巧なペーパークラフトで再現した美しい絵本です。キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教について、そして祈りについて、宗教にまつわるさまざまなことを考えさせてくれます。
(装丁:桂川潤さん 編集:鈴木真紀さん)


イフェオマ・オニェフル『AはアフリカのA:アルファベットでたどるアフリカのくらし』さくまゆみこ訳

AはアフリカのA〜アルファベットでたどるアフリカのくらし

「AはアフリカのA アフリカ大陸には、たくさんの国があって、おおぜいの人がくらしています。着ているものや、話すことばはちがっても、アフリカ大陸は、みんなのふるさとです」「BはビーズのB 女の子は、頭や耳や首をビーズでかざります。・・・」「CはカヌーのC カヌーは、魚をとったり、売るものを市場にはこんだりするのに、つかわれます・・・」AからZまでの文字の一つ一つと共に、アフリカの文化のさまざまな側面が紹介されていきます。作者は、西アフリカのナイジェリア生まれの女性フォトグラファーです。
(編集:西野谷敬子さん)

*産経児童出版文化賞推薦


ミリアム・モス文 エイドリアン・ケナウェイ絵『アフリカの大きな木バオバブ』さくまゆみこ訳

アフリカの大きな木 バオバブ

ノンフィクション絵本。アフリカの大地にどっしりと根をおろし、空に向かって枝をひろげ、何千年も生きつづけるバオバブ。バオバブという木のふしぎと、サバンナに生きる動物たちの生き生きとした表情が楽しめる科学絵本です。アートンのアフリカの絵本第2弾!
(装丁:長友啓典さん+徐仁珠さん 編集:細江幸世さん+佐川祥子さん+船渡川由夏さん)

◆◆◆

<訳者あとがき>

私が最初にバオバブという木があることを知ったのは、サン=テグジュペリの『星の王子さま』を読んだときでした。バオバブという言葉のひびきがとてもおもしろくて記憶に残ったのですが、同時にこの物語には、バオバブはとても悪い木だと書かれていました。毒気を発してはびこり、しまいには星を破裂させるというのです。だから芽が出ているのを見つけしだいひっこ抜かなければいけないのだ、と。

その後私は、ナイジェリアの北部でバオバブの木を実際に見る機会にめぐまれました。そのときは乾季だったので、バオバブはすっかり葉を落としていました。ちょっと見ただけでは枯れているように見えるのですが、近づいて見ると太い幹からはしっかりとした生命力が感じられ、ふしぎな思いに打たれたものです。

東アフリカに行ったときには、バオバブの繊維でつくったバッグを手に入れ、もっといろいろ知りたくなって調べてみると、バオバブは悪い木であるどころか、とても役に立つすばらあしい木だということがわかってきました。バオバブには年輪がないので樹齢を調べるのはむずかしいのですが、2000年以上生きていると信じられている木もあるようです。この絵本を見ていただけばわかりますが、どっしりと立って、まわりの人間や動物に憩いの場や、子育ての場や、住まいを提供し、食べ物や生活の道具をもたらしてくれる木、それがバオバブだったのです。とくにバオバブの巨樹は、神聖な木とみなされたり、村人たちの集会の場となったりしています。西アフリカのセネガルのように、バオバブを国の木と制定して大事にしている国もあります。

バオバブは世界に10種類以上あって、アフリカ大陸のほかにマダガスカル島やオーストラリアにも自生していますが、この絵本に描かれているのはアフリカ大陸に育つバオバブ(学名でいうとアダンソニア・ディギタータ)です。

さくまゆみこ


イフェオマ・オニェフル『たのしいおまつり:ナイジェリアのクリスマス』さくまゆみこ訳

たのしいおまつり〜ナイジェリアのクリスマス

写真絵本。西アフリカのナイジェリアに住むアファムは、クリスマスを楽しみにしています。でも、ナイジェリアのクリスマスは、日本のクリスマスとはちょっと違います。「モー」という精霊があらわれて、おどりながらあたりを練り歩くし、珍しいごちそうが出てきます。表紙は精一杯クリスマスのおしゃれをした子どもたち。
作者はナイジェリアで生まれ育った女性フォトグラファーです。ナイジェリア人の知人パトリックが、この絵本に出て来るジョロフライスを作ってくれたことがありますが、とてもおいsかったですよ。
(編集:和田知子さん)


ニッキ・ジョヴァンニ文 ブライアン・コリアー絵『ローザ』さくまゆみこ訳

ローザ

アメリカのノンフィクション絵本。ローザとは、公民権運動の母とも言われるローザ・パークスのこと。ある日、ローザはバスの中で「白人に席をゆずりなさい」と言われて「ノー」と答えました。それをきっかけに多くの人があきらめるのをやめて立ち上がり、キング牧師たちの公民権運動につながっていきました。文章を書いたニッキ・ジョヴァンニは、ラングストン・ヒューズ賞も受けた女性詩人で、大学教授でもあります。絵を描いたブライアン・コリアーは、現在第一線で活躍するアフリカ系の男性。絵本の中のローザの後ろには金色の光がかがやいていますが、それはコリアーのローザ・パークスへのオマージュです。
いつも日本の子どもにあまりなじみのないテーマの作品を訳すときは、日本の子どもとどこでつながるかを考えます。この絵本は、それまでだまって我慢をしてきたローザが「ノー」と声をあげるところだと思いました。訳もそこに焦点があたるようにしました。
(装丁:則武弥さん 編集:相馬徹さん)

*コレッタ・スコット・キング賞(アメリカ)受賞
*コルデコット賞(アメリカ)銀賞受賞
*SLA「よい絵本」選定


ジュリアス・レスター文 カレン・バーバー絵『ぼくのものがたり あなたのものがたり』さくまゆみこ訳

ぼくのものがたり あなたのものがたり〜人種についてかんがえよう

アメリカのノンフィクション絵本。肌の色だけを見て人を判断しないようにしよう。人種で人を差別しないようにしよう。だれにでも、たくさんの物語を持っているのだから、その物語に耳を傾けよう。そう語りかけるのは、アフリカ系アメリカ人のジュリアス・レスター。ジュリアス・レスターは子どもの頃、まだ差別が色濃く残っていた時代に少年時代を過ごしたので、「こことは別の世界があるということを本をとおして知らなかったら、生きていくことができなかっただろう」と語っている人です。色あざやかな力強い絵がついています。
(編集:檀上聖子さん、板谷ひさ子さん)

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<紹介記事>

・「西日本新聞」2009年8月28日


モリー・バング『わたしのひかり』さくまゆみこ訳

わたしのひかり

モリー・バングの『ソフィーはとってもおこったの!』は、女の子の日常を描いた絵本でしたが、これは詩的に描かれた科学絵本です。「わたし」と言っているのは太陽です。ソーラー・パワーについて、エネルギーや電気のことを考えるのにちょうどいい絵本だと思います。とっても絵がいいんです。これまでの科学絵本や知識の絵本の多くは、説明的な絵がついていましたが、これは違います。絵だけ見ていても楽しいんです。モリー・バングは絵本の視覚的効果についての理論書(”Picture This: How Picture Work”)も書いていますよ。
カバーには窓があいていて、そこから表紙の絵がのぞいています。
(編集:吉村弘幸さん)

第58回青少年読書感想文全国コンクール課題図書選定
*SLA「よい絵本」選定

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<モリー・バングの後書きより>

長いあいだ、わたしは、電気にあまり興味をもっていませんでした。電気というものが電線を流れ、モーターを動かし、光をともすことは知っていましたが、そこでとどまっていました。
でも、わが家にソーラーパネルをつけると、がぜん興味がわいてきたのです。ソーラーパネルのガラスにうめこまれた小さな太陽電池は、いったいどうやって日光をとらえ、それをわが家のレンジや、温水器や、せんたく機や、コンピュータや、テレビや、照明で使われるエネルギーに変えているのでしょうか? この絵本にかかれているのは、わたしがさぐりだしたことの一部です。


風をつかまえたウィリアム

舞台はアフリカのマラウィ。飢饉になり授業料が払えないので学校へ行けなくなったウィリアムは、近くの図書館にあった本で風車をつくる方法を研究し、ゴミ捨て場で材料を集めて自分の家に電灯を灯すことに成功します。文藝春秋社で出た『風をつかまえた少年』の絵本版。コートジボワール生まれの画家が絵をつけています。カムクワンバ君の物語は、ずいぶん前にアメリカ人の友人から教えてもらってTEDの講演記録(今は日本語もあります)を見て以来、ずっと気になっていました。第46回夏休みの本に選定。(装丁:桂川潤さん)

*SLA夏休みの本(緑陰図書)選定


つぼつくりのデイヴ

奴隷には読み書きが許されていなかった時代に、自分がこしらえたすばらしい壺に詩や名前を書いていた奴隷がいました。それがデイヴです。巻末には壺の写真も載っているので、ぜひ見てください。職人としての誇りを持っていたデイヴの焼き物は、実用的でしっかりしていて、しかも美しいのです。
(装丁:則武弥さん 編集:相馬徹さん)

コルデコット賞銀賞、コレッタ・スコット・キング賞受賞

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<紹介記事>

・「2012年に出た子どもの本」(教文館)

 


モリー・バング&ペニー・チザム『いきているひかり』さくまゆみこ訳

いきているひかり

太陽の光や植物の役割と、私たちが生きていることの関係を、ときあかしてくれる絵本です。『わたしのひかり』の姉妹編ですが、こちらもすてきな楽しい絵がついています。ほんとにいい絵なので、ながめているだけでも楽しい。普通の科学絵本や知識絵本とは、そこが違います。ペニー・チザムさんは、長年エコロジーについて教えてきたマサチューセッツ工科大学の教授です。
(編集:岡本稚歩美さん)


マーティン・ルーサー・キング・ジュニア文 カディール・ネルソン絵『わたしには夢がある』さくまゆみこ訳

わたしには夢がある

アメリカの絵本。キング牧師が「ワシントン大行進」で集まった人びとに向かって、リンカーン記念堂の前から有名な演説を行ったのは、1963年8月。半世紀前のことです。もちろんこの演説のことは私も知っていましたが、訳すにあたってもう一度考えながら読み直してみました。演説の映像も見てみました。キング牧師は最初のうち草稿を見ながら演説をしていますが、I have a dreamのあたりから、草稿を見ず、思うままに語り始めます。その後、1968年にキング牧師は暗殺され、犯人が逮捕されますが、ケネディの時と同じように、国家の上層部(CIAやFBIなど)がかかわる陰謀だという説が根強くあるようです。この絵本の巻末には、その日の演説の全文が載っています。格調の高い、勢いのある演説をなるべくわかりやすい言葉で訳すのに苦労しました。
(装丁:森枝雄司さん 編集:相馬徹さん)


アリソン・レスリー・ゴールド『もうひとつの『アンネの日記』」さくまゆみこ訳

もうひとつの「アンネの日記」

ノンフィクション文学。アンネ・フランクの同級生で親友だったハンナ・ホスラーが、ナチス占領下でのつらい体験や、アンネの思い出などを語っています。著者はハンナの回想を聞き書きしています。隠れ家にいたアンネはナチスに見つかって逮捕されたため「アンネの日記」は途中で終わっていますが、ハンナは、ホロコーストを奇跡的に生きのびてイスラエルに暮らし、子どもや孫にも恵まれました。アンネのケースが特殊ではなかったことがよくわかります。
(装丁:森枝雄司さん 編集:中田雄一さん)

*産経児童出版文化賞大賞受賞、厚生省中央児童福祉審議会特別推薦


ジョゼフ・レマソライ・レクトン『ぼくはマサイ:ライオンの大地で育つ』さくまゆみこ訳

ぼくはマサイ〜ライオンの大地で育つ

原マサイの著者が書いたノンフィクション。ケニア北部の遊牧民の子として生まれ、キリスト教の学校に入り、伝統文化と西欧文化の間で悩みながら成長した著者の半生記。ライオン狩りの恐怖、初めて学校に入ったときのとまどい、伝統的な遊牧民の暮らし、サッカーで大統領の応援を受けたこと、アメリカに渡るときの不安などが、素朴で真摯な語り口で語られていきます。渇きで死にそうになったとき牛の鼻をなめて生き延びたという話など、びっくりするようなエピソードも。
著者のレクトンさんは、その後1年の半分はアメリカで教え、もう半分はケニアの遊牧民の福祉のために活動していましたが、今はケニアの政治家になっておいでのようです。
(編集:服部義治さん)


ニコラ・デイビス文 エミリー・サットン絵『いろいろいっぱい』

いろいろいっぱい〜ちきゅうのさまざまないきもの

『いろいろいっぱい〜ちきゅうのさまざまないきもの』をおすすめします

都会に暮らしていると、この地球は人間が治めているという錯覚に陥ってしまう。でも、実際は違う。この惑星には数え切れないほど多様な生き物が暮らしていて、それぞれがたがいにつながって一つの美しい模様をつくっているのだ。

だから、ある生き物が絶滅するということは、そこにつながっている生物にとっても問題だということ。人間もその美しい模様の一部なのだから、壊さないで大事にしていかないとね。

シンプルな絵本だが、読み進むうちにそんなことが伝わってくる。なにより絵がすばらしいし、文字が大小二種類あるので、小さい子になら、大きい文字だけ読んであげてもいい。

(朝日新聞「子どもの本棚」2017年4月29日掲載)


この地球には数え切れないほど多様な生き物が暮らし、互いにつながってひとつの美しい模様を織りあげている。だから、ある生き物が絶滅すると、そこにつながっている生物にとっても問題が起こる。人間もその美しい模様の一部だから、みんなが生きていかれる環境を守る必要がある。こうしたことを子どもにもわかるように、シンプルな文章とすばらしい絵で表現した絵本。文字が大小2種類あるので、小さい子には大きい文字だけ読んであげてもいい。

原作:イギリス/6歳から/生物多様性、環境破壊、絶滅

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)


カディール・ネルソン作 さくまゆみこ訳 『ネルソン・マンデラ』

ネルソン・マンデラ

アメリカのノンフィクション絵本。作者は、アフリカ系アメリカ人のカディール・ネルソンで、私が大好きな画家さんなのですが、文章を読んでみると、小アパルトヘイトの側面しか描かれていない(白人専用だった海岸に黒人も入れるようになったから解決したというような)ように思い、政治・経済の巧妙なシステムの一環だったという点も、できたらちゃんと示唆しておきたいと思いました。そこで、原著出版社に許可をもらって、後書きにその部分にも触れさせてもらいました。絵本を読むような子ども向けにアパルトヘイトについて語るのは、なかなか難しいことでした。

マンデラさんのもともとの名前はRolihlahla。ネルソンは、学校の先生につけられた呼び名です。もともとの名前はコーサ語なのでクリック音が入っているのでしょう。これをどう表記すればいいか、悩みました。自伝の『自由への長い道』には、ロリシュラシュラと書いてあるのですが、ウィキペディアなどではホリシャシャ。お葬式の時に孫息子が話しているのを聞くと、ホリシャシャのほうが近い。それで、私は最初ホリシャシャにしていたのですが、途中で南ア大使館にきいてみることを思いつきました。大使館からの返事は、ロリシュラシュラ。音で聞くとそうは聞こえないのですが、大使館の言うとおりに表記することになりました。また自伝の中に書いてあることと、マンデラ・ファウンデーションが述べている事実にも違いがあり、何が本当なのかつきとめるのは大変でした。

もちろん、アパルトヘイトでさんざんに歪められた南アフリカは、ひとりの英雄が簡単にひっくり返せるようなものではありません。2004年に私が訪れたときも、改善された部分より変わっていない部分のほうがまだまだ多いと思ったものです。それでも、マンデラさんが怨みではなく赦しを掲げて様々な肌の色の人たちが強調して生きていける国を目指したこと、自分の政治的な立場にこだわることなく、民衆の側に立って正しいと思えることは言おうとしていたこと(女性の問題、エイズの問題を含め)は、多くの人々に力をあたえました。マンデラさんのバトンを受けて、その先へと歩き続ける人たちが、これからも世界中に現れるはずです。
(編集:波賀稔さん)

*コレッタ・スコット・キング賞銀賞受賞

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<紹介記事>

・「読売新聞」2014年4月7日夕刊

 

・「月刊児童文学翻訳」No.157(2014年6月号)

 

●注目の本(邦訳絵本)●人種の融和を成し遂げた南アフリカの父
『ネルソン・マンデラ』 カディール・ネルソン文・絵/さくまゆみこ訳
鈴木出版 定価1,900円(本体) 2014.02 38ページ ISBN 978-4790252771
"Nelson Mandela" by Kadir Nelson
HarperCollins Children’s Books, 2013

南アフリカの黒人が入植者に奪われたものは土地と自由。本書は、すべての国民に自由を取り戻す闘いを続けたネルソン・マンデラの伝記絵本だ。
ネルソン・マンデラはクヌ村で幸せな子ども時代を過ごした。9歳で父が亡くなり、預けられた遠方の親戚のもとで、黒人が背負ってきた悲しい歴史を知る。そして、不当な扱いを受ける黒人を守るために、より一層勉学に励み弁護士となるも、法律だけではかなわぬことから、アパルトヘイト撤廃の活動へ身を投じる。抗議デモや集会を組織する彼を政府は逮捕した。獄中生活は長く厳しいものだった。しかし、政府は国際世論の非難を受けてアパルトヘイト撤廃へと方針を変え、投獄から27年を経てようやく彼を釈放した。そして彼は、全人種選挙で大統領に選ばれた。
不屈の精神で非凡な人生を送ったネルソン・マンデラを、作者は平易な言葉と力強い絵で描き出す。人物や背景に、太い線と艶を消した色を使うことで、絵はより本質に迫り、時代色まで描写する。私が特に心を引かれたのは、冒頭の場面だ。クヌ村の丘陵を、逆光と影の黒色を用いて描き、幸せな子ども時代が長く続かないことを予感させる。次のページでは、父の死を語る文章と、厳しい表情で見つめ合う母子の絵で、身を切るほどの悲しみを表す。父から受け継いだ民族の誇りと、「ゆうきを出すんだよ」と別れを告げた母の言葉が、彼の原点だと感じた。類いまれなる統率力と高潔な人格をもって信念を貫き、彼は、「アマンドラ(力を)」の合言葉で民衆の心を1つにまとめ、大統領に選ばれた。人種差別のない社会への幕開けだ。作者は晴れ渡る空を背にした彼を描き、天にいる先祖も国民も世界も南アフリカを祝福したと語る。その青天には、この日を待たずに命を落とした多くの仲間やその家族も、先祖として描かれているように思えた。
読み終えて、表紙いっぱいに描かれたネルソン・マンデラの肖像画に見入った。その背後にある彼の歴史。そして彼の視線の先に広がる未来。見つめられている私たちは彼にとっての未来だ。その瞳が読者に真っすぐに問いかけてくる。人間は平等だ、君は、差別を許さない勇気を持っているかと。長く読み継がれてほしい作品だ。(三好美香)
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キャロル・ボストン・ウェザフォード文 カディール・ネルソン絵『ハリエットの道』さくまゆみこ訳

ハリエットの道

アメリカのノンフィクション絵本。女奴隷だったハリエット・タブマンは、ある日、売りとばされそうになったため、フィラデルフィアまで一人で逃げて自由の身に。でも、それだけでハリエットは満足しません。こんどは逃亡奴隷を助ける「自由への地下鉄道」(本当の鉄道ではなく、人間のネットワーク)の「車掌」となって、大勢の奴隷を自由の地へと案内します。当時のアメリカは、奴隷制を認める南部と認めない北部に分かれていて、北部に逃げ込めば、あるいはもっと北のカナダまで行けば、自由の身分を勝ち取ることができたのです。

ハリエットを力強く勇気ある女性として描いたカディール・ネルソンの絵がすてきです。
(装丁:桂川潤さん 編集:加藤愛美さん)

*コルデコット賞銀賞、コレッタ・スコット・キング賞画家部門受賞